緊急逮捕とは?要件・手続きの流れ・家族ができることを弁護士が解説

緊急逮捕とは?要件・手続きの流れ・家族ができることを弁護士が解説
弁護士 若林翔
2025年09月16日更新

「緊急逮捕とはどのような逮捕手続なの?」

「緊急逮捕と他の逮捕手続との違いは何?」

「緊急逮捕されてしまったときに家族ができることを知りたい」

ある日突然、家族や知人が警察に「緊急逮捕された」と聞かされたら、多くの方は強い不安と混乱に陥るでしょう。逮捕という事態そのものに驚きますが、特に「緊急逮捕」という言葉を初めて耳にした方にとっては、その意味や今後の流れがわからず、どう行動すべきか判断できないことが少なくありません。

緊急逮捕とは、裁判官が発する逮捕状を請求する時間的な余裕がない場合に、警察が例外的に行う逮捕のことをいいます。対象となるのは重大な犯罪に限られ、さらに一定の要件を満たしていなければなりません。もし要件を欠いていた場合には、違法な逮捕と判断される可能性もあるため、制度の理解は非常に重要です。

しかし、逮捕が適法であるかどうかを家族が判断することは難しく、また逮捕後は短い時間の中で取り調べや検察への送致、勾留請求といった手続きが進んでいきます。そのため、早急に弁護士へ相談し、適切な対応を取ることが本人と家族の権利を守るために不可欠です。

本記事では、

・緊急逮捕の定義や要件
・通常逮捕や現行犯逮捕との違い
・逮捕後に進む手続きの流れ

などをわかりやすく解説します。

もし身近な人が緊急逮捕されてしまったときに冷静に行動できるように、ぜひ参考にしてください。

目次

緊急逮捕とは?

緊急逮捕とは、刑事訴訟法210条に規定された逮捕の一形態で、裁判官の逮捕状を請求する余裕がない場合に、警察官が例外的に行う逮捕をいいます。通常、逮捕には必ず逮捕状が必要ですが、重大な犯罪であり、逃亡や証拠隠滅の危険が高いと判断されるときには、緊急的に逮捕状なしで身柄を拘束できる仕組みです。

もっとも、緊急逮捕は強力な人身拘束手続きであるため、法律で定められた厳格な要件を満たさなければなりません。対象となるのは一定の重大犯罪に限られ、かつ「罪を犯したと疑うに足りる十分な理由があること」「逮捕状を待つ時間的余裕がないこと」などの条件が必要です。

さらに、警察は逮捕後ただちに裁判官へ逮捕状を請求しなければならず、認められなければ釈放されます。

つまり緊急逮捕は例外的制度であり、適法性が厳しくチェックされる点に特徴があります。

緊急逮捕をするために必要な4つの要件

緊急逮捕をするために必要な4つの要件

緊急逮捕は例外的に認められる逮捕手続きであるため、刑事訴訟法210条に定められた4つの要件をすべて満たす必要があります。これらの条件を欠く場合、不当逮捕と判断される可能性もあるため、制度理解のうえでは特に重要なポイントとなります。

一定の重大犯罪であること

緊急逮捕の対象となるのは、死刑または無期懲役(拘禁刑)・長期3年以上の懲役または禁錮(拘禁刑)に当たる罪に限定されます。たとえば、殺人・強盗・強制性交・薬物犯罪など、社会的に重大な事件に該当する犯罪が対象です。

軽微な犯罪では適用できないため、対象犯罪の範囲が限定されている点が大きな特徴です。

罪を犯したと疑うに足りる充分な理由があること

警察官が「被疑者が罪を犯した可能性が高い」と合理的に判断できるだけの証拠や状況が必要です。単なる推測や噂では足りず、目撃証言、防犯カメラ映像、供述内容など、客観的な裏付けが求められます。

通常逮捕では「罪を犯したと疑うに足りる相当な理由」が要件とされていることと比較すると、通常逮捕よりも厳しい基準といえるでしょう。

急速を要し逮捕状を求める余裕がないこと

逮捕状を請求している間に被疑者が逃亡したり証拠を隠滅したりする恐れが高い場合に限り、緊急逮捕は認められます。

裁判所が通常通り逮捕状を発付できる時間的余裕があるなら、緊急逮捕は許されません。警察が「時間的切迫性」を正しく判断しているかどうかは後に裁判所でも厳しくチェックされます。

逮捕後直ちに逮捕状を請求すること

緊急逮捕を行った場合でも、警察は逮捕後すぐに裁判官へ逮捕状を請求する義務があります。裁判官が逮捕の必要性を認めなければ被疑者は釈放されます。

この仕組みによって、緊急逮捕の濫用を防ぎ、被疑者の人権を守るバランスが確保されているのです。逮捕状請求が遅れれば違法逮捕と評価される可能性が高くなります。

緊急逮捕と通常逮捕・現行犯逮捕との違い

逮捕には「通常逮捕」「現行犯逮捕」「緊急逮捕」の3種類があります。以下では、それぞれの違いを整理します。

緊急逮捕と通常逮捕との違い

通常逮捕は、捜査機関が裁判官に逮捕状を請求し、発付を受けたうえで被疑者を逮捕する方法です。捜査機関は、事前に証拠を集め、逮捕状請求を行い、裁判官の審査を経て逮捕を行うため、被疑者の人権が比較的守られやすい仕組みになっています。

一方、緊急逮捕は「逮捕状を待つ時間的余裕がない場合」に行われるため、逮捕状がなくても警察が身柄を拘束できる点が最大の特徴です。ただし、例外的に認められる手続きであるため、対象は重大犯罪に限られ、逮捕後はすぐに逮捕状を請求しなければなりません。

つまり通常逮捕は「事前の裁判官チェック」が必須であるのに対し、緊急逮捕は「事後的な裁判官チェック」で適法性を担保している点が大きな違いといえます。

緊急逮捕と現行犯逮捕との違い

現行犯逮捕は、犯罪が行われている現場や直後に犯人を逮捕する手続きです。現行犯の場合、犯罪と犯人との関係が明白で誤認逮捕のおそれが低く、逮捕しなければ取り逃がしてしまうおそれが大きいため、例外的に逮捕状は不要とされています。また、警察官だけでなく、一般市民でも現行犯逮捕を行うことが可能です。

これに対して緊急逮捕は、犯行の瞬間を目撃した場合に限られるわけではなく、一定の重大犯罪で証拠や供述などから被疑者を強く疑える状況であれば認められるものです。ただし、逮捕状なしに行う点では現行犯逮捕と共通していますが、一般人ができるのは現行犯逮捕に限られ、緊急逮捕は警察などの捜査機関だけに認められています。

つまり現行犯逮捕は「犯行の明白性」が根拠であるのに対し、緊急逮捕は「重大犯罪かつ時間的切迫性」が根拠となっている点が大きな相違点です。

逮捕の種類ごとの要件の違いまとめ

 通常逮捕現行犯逮捕緊急逮捕
要件①罪を犯したと疑うに足りる相当な理由②逃亡または証拠隠滅のおそれがあること犯罪が行われている最中または直後①重大犯罪であること②充分な嫌疑があること③逮捕状請求の余裕がないこと④逮捕後直ちに逮捕状請求すること
逮捕状の有無必要(事前に裁判官が発付)不要不要(ただし逮捕後に直ちに請求)
誰が逮捕できるか捜査機関誰でも可能捜査機関
対象となる犯罪制限なし制限なし死刑・無期・長期3年以上の懲役/禁錮(拘禁刑)
特徴もっとも原則的な逮捕方法犯行が明白なため即時に身柄を確保できる例外的な制度であり、厳格な要件を満たさなければ違法とされる

緊急逮捕後の手続きと流れ

緊急逮捕後の手続きと流れ

緊急逮捕は例外的に逮捕状なしで行えますが、その後の捜査や手続きには厳格な期限が設けられています。以下では、身柄拘束が開始されてから起訴・不起訴の判断に至るまでのプロセスを時系列で説明します。

警察による取り調べ後、検察官に送致|逮捕から48時間以内

緊急逮捕された被疑者は、警察署に連行され取り調べを受けます。

警察は、被疑者を釈放しないのであれば、事件の概要や証拠関係を整理したうえで、逮捕から48時間以内に被疑者を検察官へ送致しなければなりません。この期限を超えて身柄を拘束することは許されず、期限を経過すると違法な逮捕と判断されます。

検察官による勾留請求|逮捕から72時間・送致から24時間以内

警察から送致を受けた検察官は、被疑者を引き続き拘束する必要があるかを検討します。

引き続き身柄拘束する場合には、逮捕から72時間以内、かつ送致から24時間以内に裁判官へ勾留請求を行わなければなりません。

もし勾留請求を行わない、または裁判官が認めない場合、被疑者は釈放されることになります。

勾留・勾留延長の決定|原則と10日間・最長20日間

裁判官が勾留を認めた場合、被疑者は原則10日間身柄を拘束されます。この間、検察は捜査を継続し、起訴するかどうかを判断します。

また、やむを得ない事情がある場合には、さらに最大10日間の延長が認められることもあります。つまり勾留は最長で20日間に及ぶ可能性があるのです。

長期間の身体拘束は精神的にも肉体的にも大きな負担となるため、勾留の阻止や準抗告により早期釈放を求めることが重要です。

検察官による起訴または不起訴の決定

勾留期間が満了するまでの間に、検察官は収集した証拠を精査し、最終的に起訴するかどうかを判断します。起訴された場合には裁判に進むこととなり、不起訴の場合は釈放されます。

緊急逮捕の段階では有罪が確定しているわけではないため、この期間に弁護士がどのように弁護活動を行うかが、起訴・不起訴の判断に大きく影響します。

緊急逮捕された実際の事例を紹介

緊急逮捕された実際の事例を紹介

緊急逮捕は、日常的に頻繁に行われるものではなく、重大犯罪や切迫した事態で適用される例外的な制度です。ここでは、近年報道された緊急逮捕の事例を取り上げ、その特徴を確認してみましょう。

法律事務所の事務員が殺人未遂の疑いで緊急逮捕された事例

2025年、東京都内の弁護士事務所で勤務していた事務員が、同僚の弁護士を刃物で刺し、殺人未遂の疑いで緊急逮捕されました(出典:TBS NEWS DIG)。事件は業務中に突然発生し、被害者は重傷を負ったとされています。

このケースは「殺人未遂」という死刑や無期懲役も規定されている重大犯罪にあたり、緊急逮捕の要件に該当します。現場では犯行直後の状況が把握されており、逃亡や証拠隠滅の危険も高かったと推測されます。警察は逮捕状を取得している余裕がないと判断し、即座に身柄を拘束したものとみられます。法律的に見ても、典型的に緊急逮捕が適用され得る状況といえるでしょう。

母親の頭部を切断したとして長男が殺人の疑いで緊急逮捕された事例

同年、埼玉県では母親を殺害し、遺体を損壊した疑いで長男が緊急逮捕されました(出典:Yahoo!ニュース)。自宅で母親の遺体が発見され、切断された頭部が見つかったことから、事件性が強く疑われ、警察はただちに息子を確保しました。

殺人罪は死刑や無期懲役も規定される最も重大な犯罪のひとつであり、かつ発覚の状況から証拠隠滅の危険性も高いと判断されました。社会的な衝撃が大きく、事件の異常性も考慮され、緊急逮捕が選択されたとみられます。このように、重大犯罪で被疑者の関与が強く疑われる場合には、裁判官の逮捕状を待たずに警察が即応することがあるのです。

3人の高校生を車ではねて怪我をさせたとして過失運転致傷の疑いで緊急逮捕された事例

沖縄県では、40代の男性運転手が自動車を運転中、横断歩道付近で高校生3人をはね、怪我をさせたとして過失運転致傷の疑いで緊急逮捕されました(出典:沖縄タイムス)。事故現場は人通りの多いエリアで、多くの目撃者がいたため、被疑者の行為はすぐに特定されました。

過失運転致傷罪は「7年以下の懲役・禁錮(拘禁刑)」と規定されており、長期3年以上の刑にあたるため、緊急逮捕の対象となる重大犯罪に含まれます。事故直後は被疑者が逃走する危険があることから、警察は逮捕状を待たずに身柄を確保しました。交通事故は発生直後の捜査対応が重要であり、こうしたケースでも緊急逮捕が適用されることがあります。

緊急逮捕されてしまったときに家族ができること

緊急逮捕されてしまったときに家族ができること

緊急逮捕は突然行われることが多く、家族にとっても大きな衝撃となります。突然の身柄拘束によって「今後どうなるのか」「家族は何をすればよいのか」と不安になるのは当然です。以下では、緊急逮捕後に家族が取れる具体的な行動について整理しておきましょう。

早急に弁護士に相談して、本人の弁護を依頼する

最初にすべきことは、速やかに弁護士に相談し弁護を依頼することです。

逮捕された本人は警察の取調べを受けますが、この段階から不利な供述を避けるための助言や、違法な取調べを防ぐためのサポートが必要です。

弁護士は家族に代わって本人の状況を把握し、今後の見通しや可能な対応を伝えてくれるため、心理的な支えにもなります。家族が直接介入できることは限られているため、まずは刑事事件に強い弁護士を探し、早急に行動することが重要です。

勾留に切り替わった後は本人との面会や差し入れが可能

緊急逮捕から最長72時間以内に勾留へ切り替わることがあります。勾留が決定すると、家族は本人と面会(接見)できるほか、必要な物品を差し入れることも可能です。

ただし、事件によっては接見禁止が付くこともあり、その場合は弁護士以外会うことができませんので、弁護士を介して本人に伝えたいことを届けることが大切です。

面会や差し入れは本人の精神的支えになるため、家族の役割は大きいといえます。

身元引受人や情状証人になる

事件の進行に伴い、裁判所や検察は、本人が社会に戻った後の環境や再犯防止の可能性を重視します。そのため家族が身元引受人や情状証人になることは極めて重要です。

身元引受人は、本人を監督し更生を支える存在としての役割を持ち、情状証人は法廷で家族の支援体制や反省の状況を伝えます。これらは勾留の判断や保釈の可否、さらには量刑にも影響を与える可能性があります。

家族が積極的に関わることで、本人が再び社会生活を送れるよう後押しできるのです。

起訴後は保釈保証金の準備

勾留が続いた場合でも、起訴後は保釈を申請できる可能性があります。このとき家族が担う大きな役割が、保釈保証金の準備です。金額は事件の内容や本人の状況によって異なりますが、数十万〜数百万円に及ぶこともあり、本人だけで用意するのは難しいケースが大半です。

保証金を納めれば、裁判が続く間も自宅で過ごすことが可能となり、弁護士との十分な打ち合わせや社会復帰の準備ができます。家族が経済的に協力することは、本人の防御権確保や更生を助けるうえで欠かせない支援といえるでしょう。

緊急逮捕されたときはすぐにグラディアトル法律事務所に相談を

緊急逮捕されたときはすぐにグラディアトル法律事務所に相談を

緊急逮捕されると、まず警察による取調べを受け、検察官送致、勾留請求と続きます。勾留が決定すれば最長20日間も身柄を拘束される可能性があり、その間に不利な供述をしてしまうと、事件の行方に大きな影響を及ぼしかねません。したがって、早い段階から弁護士のサポートを受けることが極めて重要です。

グラディアトル法律事務所では、刑事事件を多く扱ってきた弁護士が多数在籍し、これまでに数多くの緊急逮捕や勾留案件に対応してきた実績があります。家族からのご相談を受けた段階で迅速に動き、本人への接見を行い、取調べに臨む姿勢や供述の注意点を伝えます。また、勾留請求への対応や保釈請求の準備など、事件の進行に応じて最適なサポートを提供します。

さらに、家族に対しても「今後の手続きの見通し」や「できること」を丁寧に説明するため、突然の逮捕で不安を抱える状況でも冷静に判断できるようサポートします。刑事事件は誰にとっても予期せぬ形で起こり得ますが、適切な法的支援を受けることで、本人や家族にとって最善の結果を目指すことが可能です。

もし大切なご家族が緊急逮捕されてしまった場合には、一刻も早くグラディアトル法律事務所にご相談ください。迅速な対応が、本人の権利を守り、将来を大きく左右する第一歩となります。

まとめ

緊急逮捕は誰にでも突然降りかかる可能性があり、適切に対応できるかどうかで結果は大きく変わります。だからこそ、刑事事件に精通した弁護士に早急に相談することが不可欠です。

グラディアトル法律事務所では、迅速かつ的確な対応でご家族とともに最善の結果を目指します。大切な人の未来を守るために、ためらわずご相談ください。

弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。

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