「任意同行を違法と認定した判例を知りたい」
「判例はどのような点から任意同行を違法としたのか知りたい」
「任意同行によるトラブルを回避するにはどうしたらいい?」
警察から「任意同行をお願いします」と言われると、多くの人は「任意だから自由に帰れるはず」と考えがちです。しかし実際には、長時間にわたる取り調べや宿泊を伴う拘束、弁護士との連絡制限など、事実上の強制に近い対応が行われることも少なくありません。このようなケースでは、任意同行と称しながらも実質的に逮捕や勾留と変わらない状況が生じてしまい、裁判所が違法と判断する場合があります。
過去の判例では、取り調べ時間の長さや移動・宿泊の制限、弁護士との接触妨害などを理由に任意同行の違法性が認定されてきました。これらの事例を知ることで、どのような場合に違法とされるのか、その判断基準を理解することができます。
本記事では、
・実際に任意同行を違法と認定した主な判例 ・違法な任意同行を受けた場合の救済手段 ・任意同行を求められた際にトラブルを避けるための注意点 |
などを詳しく解説します。
警察対応に不安を感じている方や、自分や家族の権利を守りたい方にとって有益な内容となっていますので、ぜひ最後までご覧ください。
目次
任意同行の違法性について判断した主な判例

任意同行はあくまで「任意」である以上、強制的な身柄拘束をしてはならないとされています。しかし実際には、警察の対応が長時間に及んだり、事実上の拘束状態となったりするケースがあり、裁判所が違法と判断した例も存在します。ここでは、任意同行の違法性に関する判断をした代表的な判例を紹介します。
任意同行後の長時間の取り調べを違法と判断した判例|富山地裁昭和54年7月26日決定
【事案の概要】
被疑者が出勤のため自宅を出たところ、警察官から「事情を聴取したい」と同行を求められました。自家用車での移動を希望しましたが、警察官の指示で警察車両に同乗し、そのまま警察署へ。取調べは午前8時から始まり、休憩を挟みつつも翌午前0時過ぎまで15時間以上に及びました。立会人が常に監視し、外部との連絡も禁止されるなど、被疑者は自由に行動できない状態に置かれていました。
【裁判所の判断】
裁判所は、任意同行に物理的強制の証拠はないものの、深夜までの取調べ、常時監視、退去の機会が与えられなかった点を指摘しました。これらは「実質的に逮捕状によらない違法な逮捕」に当たるとして、重大な違法を認定しました。
任意同行後の宿泊を伴う取り調べの違法性を否定した判例|最高裁昭和59年2月29日決定
【事案の概要】
殺人事件の容疑者が任意同行を求められ、5日間にわたり長時間の取調べを受けました。警察手配の宿泊施設に計4泊し、送迎や監視も行われていました。
【裁判所の判断】
最高裁は、宿泊・監視・長時間取調べなど問題はあるものの、被疑者が明確に拒否や退去を申し出た形跡がない点や、事案の重大性を考慮し「任意捜査の限界を超えた違法とはいえない」と判断。結果として、供述の任意性・証拠能力を認めました。
任意同行中に弁護士との電話連絡の制限が違法と判断した判例|札幌地裁令和4年4月27日判決
【事案の概要】
被告人は、覚醒剤取締法違反の容疑で任意同行を受け、捜査車両に同乗して警察署へ移動中でした。その際、被告人の携帯電話に依頼を検討していた弁護士から着信がありましたが、同乗していた警察官が「電話に出ないように」と制止しました。警察官らは「手続き説明の最中だったから」と説明しましたが、被告人は、結果的に電話に出られず、弁護士との連絡を断念させられる状況に置かれていました。
【裁判所の判断】
裁判所は、警察官らが捜査車両内において弁護士からの電話の着信に応答しないよう求めたことが適法かについて、以下のように判断しました。
・本件はあくまで任意捜査段階であり、令状の執行には着手していない状況だった |
・そのため「強制採尿手続が控えているから」という理由で電話連絡を制限することは正当化できない |
・弁護士との通話は、刑事訴訟法30条に基づき被疑者に保障される「弁護人依頼権」の一内容である |
・被告人は捜査の適法性や今後の対応について助言を受けるべき局面にあり、弁護士と通話する必要性が高かった |
・複数の警察官が「電話に出るな」と求め続けたことは、単なる一時的な制止ではなく、実質的に電話連絡を断念させる強い効果を持ち、任意性を損なう |
以上を踏まえ、裁判所は「弁護士との電話連絡を制限した行為は、任意捜査の範囲を逸脱し、弁護人依頼権を侵害する違法なものである」と結論づけました。
深夜5時間の任意聴取を違法と判断した判例|東京地裁令和4年3月10日判決
【事案の概要】
2019年2月4日夜、東京都内で停車中の車内にいた原告に警察官が職務質問を行い、車内からナイフ等の器具を発見しました。原告は警察署へ任意同行され、22時30分頃から翌3時30分頃まで約5時間にわたり取調べや鑑識資料(写真撮影・指掌紋採取等)を受けました。その後も午前5時頃まで警察官に同行され、自宅での写真撮影に立ち会わされました。
最終的に本件は嫌疑不十分で不起訴となりましたが、原告は「長時間の任意同行・深夜取調べは違法である」として国家賠償請求を提起しました。
【裁判所の判断】
裁判所は、以下の点を重視して本件任意同行後の取り調べの違法性を認めました。
・事件は比較的軽微であり、証拠も単純で主要証拠は原告が任意提出した器具に限られていた |
・取調べにおける原告の供述は一貫しており、長時間の深夜取調べによって供述を検証する必要性は乏しかった |
・原告は翌朝から仕事があることを伝えており、早期帰宅の希望も表明していた |
・それにもかかわらず、深夜にわたり約5時間の取調べを実施し、その後も自宅での捜査を連続して行い、徹夜を強いる結果となった |
裁判所は「任意捜査の許容範囲を超えており、社会通念上相当性を欠く」と判断。警察官の行為は国家賠償法1条1項に基づく違法と認定しました。
任意同行から10時間経過後の取り調べを違法と判断した判例|熊本地裁令和5年12月21日判決
【事案の概要】
被告人は、元雇用主の自宅に停められたトラックへ火のついたたばこを投げ入れ、車両を焼損させたとして放火罪に問われました。
警察は、令和4年5月25日朝、被告人を任意同行し、署到着後まもなくポリグラフ検査を実施。その後取調べを継続し、正午頃に被告人は犯行を自白しました。ところがその後も夜まで取調べを続行し、19時半に逮捕状を請求したものの、裁判官から「長時間取調べ」との指摘を受けて請求を撤回。それでも21時過ぎまで取調べを続け、自宅に送り届けた後も警察官が周辺で監視を続けました。
翌26日昼に再度任意同行・取調べを行い、夕方に逮捕、翌27日の検察官による弁解録取でも自白が維持されました。
【裁判所の判断】
裁判所は、任意同行自体は違法でないものの、自白後も退去の機会を与えずに10時間以上取調べを継続したことは任意捜査の限界を超える重大な違法と認定しました。
もっとも、自白調書は、違法な取り調べと一応切り離せるとして証拠能力は否定されませんでしたが、客観的裏付けが乏しく自白の信用性が認められないとして、被告人に無罪を言い渡しました。
判例を踏まえた任意同行の違法性判断のポイント

任意同行が違法と認定されるかどうかは、実際の捜査状況を踏まえて判断されます。以下では、判例を踏まえた任意同行の違法性判断のポインを整理します。
拘束時間が長時間に及んでいないか
任意同行後の取り調べの違法性判断において重視されるポイントの1つが、任意同行後の取調べ時間の長さです。
・富山地裁昭和54年決定では、15時間以上の取調べを違法と判断しました。 |
・熊本地裁令和5年判決でも、自白後も10時間以上取調べを続行した点が違法とされました。 |
「任意同行だから自由に帰れる」とされていても、実際に帰ることができない状況で何時間も取調べを受けると、事実上の逮捕に近づいてしまいます。長時間に及ぶ取り調べが行われている場合は「任意の限界を超えた」と認定されやすいといえます。
宿泊や移動制限など事実上の身柄拘束が行われていないか
任意同行は、原則として一時的・限定的な事情聴取のための制度です。しかし、
・警察の車両での移動を強制する |
・宿泊施設に滞在させる |
・常に監視下に置く |
といった行為は、本人の自由を奪い、逮捕や勾留と変わらない状況を作り出します。
もっとも、最高裁昭和59年決定のように「本人が明確に拒否を示さなかった」場合には違法とされないケースもあり、個別事情の評価が分かれる部分です。
弁護士との接見・連絡の自由が制限されていないか
刑事訴訟法30条は「弁護人依頼権」を保障しており、任意同行の段階でも弁護士に連絡する自由は認められています。
札幌地裁令和4年判決では、弁護士からの着信に応答することを警察官が制止した行為が違法とされました。
弁護士と早期に連絡できるかどうかは、本人の防御権行使に直結するため、それを制限することは違法と判断されやすいでしょう。
違法な任意同行を受けた場合の救済方法

任意同行が違法であった場合、そのまま泣き寝入りする必要はありません。違法な捜査によって得られた供述や証拠は排除される可能性があり、さらに国家賠償を求める道も開かれています。以下では、主な救済手段を3つ紹介します。
捜査機関に対する苦情申し立て
違法な任意同行や過度な取調べを受けたと感じた場合には、捜査機関に対して苦情を申し立てることができます。また、弁護士を通じて抗議や申立てを行うことで、捜査側に対して適法な手続を求める圧力となり、違法な取調べの長期化を防ぎ、早期に解放される可能性もあります。
この手続自体が必ずしも直ちに拘束の解消につながるとは限りませんが、捜査機関に適法手続の遵守を促す実効性のある方法の一つです。
違法に収集された証拠の排除|違法収集証拠排除の原則
違法な任意同行によって得られた供述や証拠は、そのまま刑事裁判で証拠として用いられるわけではありません。「違法収集証拠排除の原則」という刑事訴訟法の原則により、違法な手続によって収集された証拠は、証拠能力を否定される場合があります。特に、長時間の拘束や弁護士との連絡妨害など、適正手続を著しく侵害するような状況下で得られた供述は、証拠能力が否定されやすい傾向にあります。
違法な任意同行を受けた場合、弁護人を通じて証拠排除を主張することが、自身の権利を守る上で重要です。
国家賠償請求
違法な任意同行によって自由を制限され、精神的・肉体的な苦痛を受けた場合には、国家賠償法に基づき損害賠償を請求できる可能性があります。国家賠償請求は、違法行為を行った個々の警察官を直接訴えるのではなく、使用者である国や地方公共団体に対して責任を問う仕組みです。
請求が認められると、慰謝料などの金銭的な賠償を受けられるだけでなく、捜査機関に対して違法行為を行わないよう警鐘を鳴らす意味も持ちます。実際に請求を進めるには法的な専門知識が必要となるため、弁護士に相談しながら進めることが不可欠です。
違法な任意同行によるトラブルを避けるためのポイント

警察から任意同行を求められると、多くの人は緊張し、その場の雰囲気に流されてしまいがちです。しかし、自分や家族の権利を守るためには、冷静に対応し、適切な行動を取ることが大切です。以下では、違法な任意同行によるトラブルを避けるための具体的な注意点を説明します。
任意同行を求められたときの確認事項|理由・場所・所要時間
任意同行を求められた場合、まずは以下を確認しましょう。
・なぜ同行を求められているのか(具体的な理由) ・どこに連れて行かれるのか(移動先の場所) ・どれくらいの時間を要するのか(所要時間の目安) |
これらを確認することで、同行が「任意」であることを意識しやすくなり、不当な長時間拘束を防ぐきっかけになります。
同行の拒否権とその行使方法
任意同行はあくまで「任意」であり、法的には拒否することが可能です。「任意同行に応じる義務はない」と理解しておくことが、権利を守る第一歩です。
実際に拒否する場合には、落ち着いた態度で「今日は同行できません」と伝えることが望ましいでしょう。必要であれば弁護士を通じて対応することも考えられます。
早期に弁護士へ連絡する重要性
任意同行に応じるかどうか、あるいは取調べにどこまで協力するかは、法律知識がなければ判断が難しいことが多いです。そのため、できるだけ早い段階で弁護士に連絡し、助言を受けることが重要です。
弁護士が介入することで、警察側も適法手続の遵守を意識しやすくなり、不当な対応を防ぐ抑止力にもなります。
違法な任意同行の疑いがあるときはすぐにグラディアトル法律事務所に相談を

任意同行は、あくまで「任意」であり、拒否することも帰宅することも自由にできる手続です。しかし現実には、警察官の言動や雰囲気によって強制的に感じられ、長時間拘束されたり、弁護士との連絡を妨害されたりするケースが後を絶ちません。このような状況は「任意捜査の限界を超えている」と評価され、違法と判断される可能性があります。
とはいえ、一般の方が「これは違法な任意同行だ」とその場で判断することは極めて困難です。しかも、違法な取調べを受けた場合には、自分の供述や行動がその後の刑事手続に不利に働くリスクもあります。そのため、少しでも不安を感じたときには、できるだけ早く弁護士に相談することが重要です。
グラディアトル法律事務所では、任意同行や取調べの場面で起こりやすい違法対応に精通した弁護士が、依頼者の権利を守るために迅速に対応します。違法な取調べを受けた場合には、証拠能力の排除や国家賠償請求といった法的救済の可能性を検討し、最適な対応策を提案します。また、今後の取調べにどう向き合うべきか、具体的なアドバイスを得られる点も大きな安心材料となるでしょう。
違法な任意同行の疑いがあると感じたら、ひとりで悩まずに専門家へ相談してください。早期に弁護士が介入することで、警察の対応を適正化し、不当な不利益を防ぐことが可能になります。あなたや家族の大切な権利を守るために、グラディアトル法律事務所が全力でサポートします。
まとめ
任意同行は、「任意」である以上、強制的に拘束されるものではありません。しかし実際には、長時間の取調べや弁護士との連絡妨害など、違法な対応が行われることもあります。そのような場合には、証拠排除や国家賠償請求といった救済手段が用意されていますが、個人で判断し適切に対処するのは困難です。
グラディアトル法律事務所では、任意同行や取調べに関する豊富な知識と経験を持つ弁護士が、迅速にあなたの権利を守ります。不安や疑問を抱いたら、早めにご相談ください。専門家のサポートを受けることで、不当な不利益を回避し、安心して今後に備えることができます。