任意同行後の取り調べ時間はどのくらい?長時間取調べの違法性を解説

任意同行後の取り調べ時間はどのくらい?長時間取調べの違法性を解説

「任意同行後の取り調べはどのくらいの時間がかかるの?」

「長時間の取り調べを受けたけど、違法ではないのか?」

「任意同行後に違法な長時間の取り調べを受けたときはどうすればいい?」

警察から「任意同行をお願いしたい」と言われると、多くの方が「どのくらい取り調べが続くのか」「長時間拘束されるのではないか」と不安を感じるでしょう。

任意同行は、あくまでも「任意」であり、拒否することも可能ですが、実際には数時間にわたる取り調べが行われるケースも少なくありません。特に、否認事件や重大事件では、想定以上に長時間の取調べになることもあります。

もっとも、犯罪捜査規範では、1日8時間を超える取り調べや深夜の取り調べには上司の承認が必要とされており、必要以上に長時間の取調べは違法と判断されることもあります。過去には、任意同行後の過酷な取調べが裁判所で違法と認定された事例も存在します。

本記事では、

・任意同行後の取り調べ時間の目安や流れ
・違法と判断された判例
・長時間の取調べを受けたときの対応策

などについて詳しく解説します。

違法な取調べから身を守るためにも、ぜひ最後までお読みください。

任意同行後の取り調べにかかる時間の目安|1日8時間以内

任意同行を受けたあとに行われる取り調べは、通常であれば2〜3時間程度で終わることが多いです。事件の内容を確認し、本人の供述を調書にまとめるだけであれば、半日もかからずに終了するのが一般的です。

ただし、事件の性質や本人の態度によっては、取り調べが長時間に及ぶこともあります。とくに以下のような場合は、数時間を超えて取り調べが続く傾向があります。

・本人が容疑を否認している事件
・重大事件(傷害致死・強盗・薬物事件など)
・関連する事実関係が複雑な事件

このようなケースでは、取り調べが5時間以上に及ぶことも珍しくなく、1日かけて事情聴取が行われることもあります。

もっとも、警察が任意同行した人を無制限に取り調べできるわけではありません。犯罪捜査規範168条3項では、以下ののいずれかに当たる場合には、警察署長または警察本部長の承認が必要です。

・午後10時から午前5時までの深夜に取り調べを行う場合

・1日8時間を超えて取り調べを行う場合

つまり、取り調べは原則として1日8時間以内にとどめなければならないのです。

このルールは、心身に過度な負担を与える長時間の取り調べを防ぐために設けられています。仮にこれを超えて取り調べが行われた場合、適法性が争われ、裁判で「違法な取調べ」と判断される可能性があります。

任意同行から取り調べまでの流れ

任意同行から取り調べまでの流れ

任意同行は、「任意」とはいえ、警察署に同行すると本格的な取り調べが始まります。以下では、任意同行から取り調べまでの一般的な流れを紹介します。

任意同行の要請

何らかの犯罪の嫌疑が生じると警察官が「お話を伺いたいので署まで来ていただけませんか」と対象者に対して要請します。任意同行は、強制ではなく、拒否も可能です。

しかし、拒否すれば不審に思われ、逮捕に踏み切られるケースもあるため、実際には多くの人が任意同行に応じているのが実情です。

黙秘権の告知

警察署に到着すると、取り調べの前に黙秘権が告げられます。これは憲法で保障された権利であり、「話さない自由」も認められていることを意味します。

黙秘権を行使したとしても不利になることはありませんので、取り調べでの対応に困るときは、弁護士と相談するまでは黙秘権を行使するというのも有効な対策です。

事情聴取

警察官が事件に関する経緯を質問し、本人から事情を聞き取ります。ここでの供述内容は、その後の処分方針に大きく影響するため、不用意な発言は避けるべきです。

取り調べの方法は、逮捕された被疑者に対するものとほとんど変わりませんので、時には強い追及を受けることもあります。

供述調書の作成

聴取内容をもとに警察官が供述調書を作成します。調書は警、察側がまとめるため、実際の発言とニュアンスが異なる形で記載されることも少なくありません。

そのため、供述調書の内容は、慎重に確認する必要があります。

供述調書への署名押印

最後に、作成された供述調書を読み上げたり目を通したりしたうえで、署名・押印を求められます。署名押印をすると「その内容を認めた」と扱われるため、納得できない場合は署名を拒否することも可能です。

長時間の取り調べは違法?任意同行後の取り調べの違法性に関する判例

長時間の取り調べは違法?任意同行後の取り調べの違法性に関する判例

任意同行はあくまで「任意」の手続きですが、実務上は長時間の事情聴取や宿泊を伴うような取扱いがされることもあり、任意の範囲を逸脱することがあります。このような場合、裁判所は「事実上の逮捕・勾留に当たる」として違法と判断することがあります。以下では代表的な判例を紹介します。

任意同行後の長時間の取り調べを違法と判断した判例|富山地裁昭和54年7月26日決定

【事案の概要】

この事件では、被疑者が出勤のため自宅を出たところ、警察官から「事情を聴取したい」と同行を求められました。被疑者は自家用車でついて行こうとしましたが、警察官の指示により警察車両に同乗し、警察署へ到着しました。

その後、取調べは午前8時頃から開始され、昼食・夕食時の各1時間程度の休憩をはさみつつ、翌日の午前0時過ぎまで実に15時間以上にわたって続けられました。しかも、取調室には立会人が常時配置され、被疑者は便所に行く際ですら監視がついており、外部との連絡も許されませんでした。

午後10時40分には逮捕状が請求・発布され、翌午前0時20分に執行されましたが、その時点まで被疑者は、事実上警察署内に拘束された状態に置かれていました。

【裁判所の判断】

裁判所は、任意同行後の取り調べについて以下のように判断しています。

・当初の同行には物理的強制の証拠はないものの、午後7時以降も深夜に及ぶ取調べが続き、被疑者の意思確認や退去の機会は与えられなかった

・立会人による常時看視などにより、被疑者は自由に退室できない状況にあった

・これは実質的に逮捕状によらない違法な逮捕である

そして、裁判所は、「令状主義の趣旨を没却する重大な違法であり、勾留請求も却下されるべき」と結論づけました。

【判例のポイント】

この判例から明らかなのは、任意同行と称しながら実際には退去の自由を奪い、長時間の取調べを行うことは違法な身体拘束に当たるという点です。警察が「任意」と説明していても、実質的に自由が制限されていれば違法とされ得ることを示す重要な例といえます。

任意同行後の宿泊を伴う取り調べの違法性を否定した判例|最高裁昭和59年2月29日決定

【事案の概要】

被疑者は、殺人事件の有力容疑者として任意同行を求められ、警察署で取調べを受けました。初日にはポリグラフ検査ののち自白趣旨の答申書を作成。その夜以降、警察手配の宿泊施設に計4泊し、署との往復は警察車両で送迎、初夜は同宿・近接監視、以降もホテル周辺で張り込みが行われました。

取調べは、午前から深夜までの長時間を連日5日間継続し、複数の供述調書・答申書が作成されています。その後いったん帰郷し、約2か月後に逮捕となりました。

【裁判所の判断】

任意捜査では強制手段は許されないが、本件では

①宿泊・送迎・監視

②長時間かつ連日の取調べ

といった問題点があるものの、被告人が明示に拒否・退去を申し出た形跡がないこと、初日の宿泊には被告人の申出趣旨の答申書があること、事案の重大性等を総合し、任意捜査の限界を越えた違法とまでは断じ難いとして、任意段階の供述の任意性・証拠能力を肯定しました。

【判例のポイント】

退去申出の有無だけでなく、宿泊先の手配、監視体制、送迎方法、長時間取調べといった外形的拘束の有無を総合的に評価して、任意同行後の取り調べの違法性が判断されています。

多数意見は、「違法とまでは断じ難い」とする一方、少数意見は、「任意の限界を超える違法」と強く批判していることから、裁判官によって評価が分かれる事案といえるでしょう。

任意同行後、長時間の取り調べを受けたときに弁護士へ相談すべき理由

任意同行後、長時間の取り調べを受けたときに弁護士へ相談すべき理由

任意同行後の取り調べが数時間に及ぶと、精神的にも肉体的にも疲弊し、冷静な判断を下すことが難しくなります。また、警察側は、事件の全容解明や供述調書の作成を目的としているため、長時間の聴取を通じて「自白」や「不利な供述」を引き出そうとする場合もあります。このような状況で自分の権利を守るためには、早期に弁護士へ相談することが欠かせません。

違法な取り調べからの早期解放ができる

任意同行後の取り調べが長時間に及ぶ場合、適法かどうかが問題となります。

犯罪捜査規範では、1日8時間を超える取調べや深夜の聴取には署長などの承認が必要とされており、これを無視した取調べは違法と判断される可能性があります。しかし、一般の方が現場でこうした違法性を指摘することは難しいため、弁護士のサポートが重要になります。

弁護士は、依頼者の状況を確認し、必要に応じて警察に抗議することで、違法な取調べを中止させたり、早期解放を実現できる可能性があります。警察による不当な取り調べからご自身の身を守るためには早期に弁護士に相談することが重要です。

不利な供述調書の作成を避けるためのアドバイスができる

取り調べでは、供述内容が警察官によって調書にまとめられます。

しかし、この調書は必ずしも本人の発言が正確に反映されるとは限らず、警察に有利な形に編集されることもあります。一度署名・押印してしまうと、裁判で強力な証拠として扱われ、不利な立場に追い込まれる危険性があります。

弁護士に相談することで、署名押印を行う前に調書の内容をチェックする、納得できない部分には署名を拒否するといった正しい対応を知ることができます。弁護士は、不利な供述を残さないためのアドバイスを行い、依頼者が自分の権利を守りながら調書に対応できるようサポートします。

万が一逮捕されたとしても早期釈放を目指したサポートができる

任意同行は、本来「任意」であるため逮捕ではありませんが、取り調べの進展次第では逮捕に切り替わることもあります。逮捕されれば最大72時間身柄を拘束され、その後勾留が決定すればさらに最長20日間も拘束が続く可能性があります。この間、仕事や家庭生活に深刻な影響を及ぼすことは避けられません。

弁護士は、逮捕直後から接見を行い、依頼者の状況を把握したうえで釈放を求める活動を行います。身柄解放のための意見書提出や検察官・裁判所への働きかけなど、依頼者に代わって積極的な弁護活動を展開できる点が大きなメリットです。早期に相談することで、逮捕後のリスクを最小限に抑えることが可能になります。

任意同行後に長時間の取り調べを受けたときはすぐにグラディアトル法律事務所に相談を

任意同行後に長時間の取り調べを受けたときはすぐにグラディアトル法律事務所に相談を

任意同行後の取り調べは、形式上は「任意」であるものの、実際には数時間にわたり強い心理的圧力を受けるケースが少なくありません。特に、否認事件や重大事件では、警察側が自白を引き出そうとして長時間の取調べを行う傾向があり、時には違法と評価される場合もあります。このような状況に直面したとき、自分一人で警察に対抗するのは極めて困難です。そこで頼りになるのが刑事事件に精通した弁護士です。

グラディアトル法律事務所は、刑事弁護を数多く取り扱ってきた実績を有し、任意同行や取調べにおける依頼者の権利を守る活動に力を入れています。弁護士が介入することで、違法な長時間取調べからの早期解放を図ることができ、不利な供述調書の作成を防ぐための適切な助言も受けられます。さらに、万が一逮捕へと進展した場合でも、接見を通じて迅速に状況を把握し、身柄解放に向けて検察官や裁判所に働きかけるなど、スピーディーかつ効果的な弁護活動を行います。

また、依頼者やご家族が感じる不安を和らげることも弁護士の大切な役割です。突然の任意同行や長時間の取調べは、誰にとっても大きなストレスであり、今後の生活に影響する重大な局面となり得ます。そのようなときに、豊富な知識と経験を持つ弁護士に相談することで、安心して冷静な判断を下せるようになります。

もしも任意同行後に長時間の取り調べを受け、不安や疑問を感じた場合は、すぐにグラディアトル法律事務所にご相談ください。初動が早ければ早いほど、身柄解放や有利な解決につながる可能性が高まります。

まとめ

任意同行後の取り調べは、通常2〜3時間程度で終わるものの、否認事件や重大事件では長時間に及ぶことがあります。もっとも、犯罪捜査規範により1日8時間以内が原則とされており、これを超える取り調べや深夜の聴取は違法と判断される可能性があります。

任意同行や長時間取調べを受けて不安を感じたら、できるだけ早くグラディアトル法律事務所にご相談ください。刑事事件に精通した弁護士のサポートにより、違法な取り調べから身を守り、早期解放や有利な解決を目指すことができます。

弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力。数多くの夜のトラブルを解決に導いてきた経験から初の著書「歌舞伎町弁護士」を小学館より出版。 youtubeやTiktokなどでもトラブルに関する解説動画を配信している。

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