「執行猶予が付けば刑務所に行かなくて済むし、前科も付かない…」
このように思っている方は、実は少なくありません。
結論からお伝えすると、たとえ執行猶予付きの判決であっても「前科」は付きます。「刑務所に行かない=前科も付かない」というわけではないのです。
ただし、「前科による法的効果」は執行猶予の期間を満了すれば消滅します。
さらに、事件後すぐに適切に対応すれば、そもそも前科が付くこと自体を回避できる可能性もあります。
この記事では、執行猶予と前科の関係や日常への影響、そして前科を回避するための対処法について紹介するほか、「執行猶予期間を満了すれば前科は消えるのか」といった疑問についても、分かりやすくお答えしていきます。
執行猶予と前科の関係をきちんと理解したい、あるいは前科を回避したいとお考えの方は、ぜひ最後までお読みください。
目次
執行猶予付き判決でも前科は付く

たとえ執行猶予付きの判決であっても「前科」は付きます。「刑務所に行かずに済んだのだから前科は付かない」と考えるのは誤りです。
そもそも前科とは?
「前科」とは、一般に「刑事裁判で有罪判決が確定した経歴」を指すと言われています。
これには、刑務所に収監される実刑判決だけでなく、執行猶予付き判決や罰金刑、科料なども含まれます。
先ほど「一般に〜」とお伝えしたのは、実は「前科」という言葉には法律上のはっきりとした定義がないからです。そのため、「前科がある状態」というのも、話の文脈によって、さまざまな意味で用いられています。
たとえば、資格が制限されるなど「前科による法的効果がある期間」を指して「前科がある」と言う場合もありますし、単に「過去に有罪判決を受けた」という事実だけを指して使う場合もあります。
よく、依頼主の方から「前科はいつか消えますか?」という質問を受けるのですが、どちらの文脈で考えるかによって、答えが変わってきます。
「法的効果」という意味では「前科は消える」と言えますし、前科によって生じる「事実上の不利益」という意味では「前科は消えない」とも言えるからです。
この点については3章で詳しく解説します。
執行猶予付き判決とは?
執行猶予付き判決とは、裁判で有罪判決が下されたものの、その刑の執行を一定期間だけ猶予する制度です。そして、その猶予期間が無事に満了すると、刑の言い渡しの効力が失われます。
たとえば、「拘禁3年、執行猶予5年」という判決で考えてみましょう。
この場合、5年間、別の罪を犯さなければ、判決で言い渡された「拘禁3年」という刑罰を受ける必要がなくなります。
なお、ここでいう「刑の言い渡しは、効力を失う」とは、「刑罰によって生じていた法的効果が将来に向かって消滅する」ということです。
拘禁刑(懲役や禁錮)を言い渡されていれば、「刑務所に入る必要がなくなる」、罰金刑を言い渡されていれば、「罰金を支払う必要がなくなる」という意味になります。
執行猶予付き判決で前科が付くとどうなる?
執行猶予付きの判決を受けると、刑の執行が一定期間猶予されます。そのため、すぐに刑務所に入ったり、罰金を支払ったりする必要はありません。
ただ、執行猶予の期間中は、社会生活を送る上で一定の制限が課されることになります。

就職活動で履歴書の賞罰欄への記載が必要になる
就職活動をする場合、履歴書に「賞罰欄」があれば、前科を記載する必要があります。
賞罰の「罰」とは、「確定した有罪判決」だとされているところ、執行猶予付き判決も「確定した有罪判決」に含まれるからです。
仮に、執行猶予中であることを隠して就職し、後からその事実が会社に知られた場合、「経歴詐称」と判断されて懲戒処分を受けるおそれがあります。正直に伝えることで選考が不利になる可能性はありますが、嘘をつくリスクはそれ以上に大きいです。
ただし、執行猶予の期間を無事に満了すれば、「刑の言い渡しの効力」が失われます。そのため、それ以降は賞罰欄に前科を記載する義務はなくなります。
一部の資格が制限される
前科がつくと、一部の職業や資格において、法律で定められた「欠格事由」に該当してしまいます。これにより、執行猶予期間中は、それらの職業に就くことができなくなります。
制限の内容は資格によって異なり、主な例は以下の通りです。
■拘禁刑以上の前科で、必ず制限される仕事の例
・国家公務員、地方公務員
・学校の教員
・弁護士、司法書士、行政書士 など
■罰金刑以上の前科で、免許が取り消される可能性がある仕事の例
・医師、歯科医師
・薬剤師
・看護師、准看護師 など
執行猶予期間が満了すれば、「刑の言い渡しの効力」がなくなるため、欠格事由には当たらなくなり、資格制限は解除されます。たとえば、私たちのような弁護士なら、執行猶予期間の満了によって、「弁護士となる資格」が復活し得ることになります。
ただし、公務員の場合、執行猶予付きであっても有罪判決が確定した時点で失職します。
「公務員試験の受験資格」という意味では制限が解除されますが、元の職場に戻れるわけではありません。
海外旅行に行けなくなる場合がある
執行猶予期間中は、海外旅行も制限される可能性があります。
これは、禁錮以上の刑の執行猶予が付くと、旅券法13条に規定された「一般旅券(パスポート)の発給等の制限」の対象となる可能性があるからです。
第十三条 外務大臣又は領事官は、一般旅券の発給又は渡航先の追加を受けようとする者が次の各号のいずれかに該当する場合には、一般旅券の発給又は渡航先の追加をしないことができる。三 拘禁刑以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又は執行を受けることがなくなるまでの者
仮にパスポートの発給制限がかからなかったとしても、渡航先の国がビザを発給してくれず、入国を拒否されるケースもあります。
保護観察が付く可能性がある
事件によっては、執行猶予の期間中に「保護観察」が付されることがあります。
保護観察とは、罪を犯した人が社会の中で更生できるよう、保護司が指導や監督を行う制度です。保護観察中は、保護司との定期的な面談や、生活状況の報告が義務付けられます。
そのほか、転居や長期の旅行をするときも事前に届け出が必要になるなど、定められたルール「遵守事項」を守って生活しなければなりません。
再犯すると執行猶予が取り消される
執行猶予期間中に再び罪を犯してしまうと、与えられていた猶予が取り消され、刑務所に収監される可能性があります。
たとえば、執行猶予中にうっかり交通事故を起こして「罰金刑」になったとします。
そうすると、この「罰金刑」によって、以前に言い渡されていた拘禁刑の執行猶予が取り消される場合があるのです。
つまり、執行猶予期間中は「軽微な犯罪でも刑務所に入る可能性がある」というリスクが生じることになります。
なお、執行猶予の取り消しには、必ず取り消される「必要的取消し」と、裁判官の判断で取り消されることがある「裁量的取消し」の2種類があります。
■必要的取消し(必ず取り消されるケース)
・猶予期間中にさらに罪を犯し、拘禁刑以上の判決を言い渡されて、その刑の全部につき執行猶予の言い渡しがないとき
■裁量的取消し(取り消される可能性があるケース)
・猶予期間中に罰金刑に処せられた場合。
・保護観察の遵守事項に違反し、その情状が重い場合。
執行猶予の期間が満了すると前科は消える?

「執行猶予の期間を満了すると、前科は消えるのだろうか?」と気にされる方は多いです。
これに対する答えは、実は「はい」でもあり「いいえ」でもあります。
前科による「法的効果」は執行猶予の期間満了によって消滅しますが、有罪判決を受けたことによる「事実上の不利益」は残り続けるからです。
少し分かりにくいかもしれませんが、前科による「法律上の効果」と「事実としての記録」という2つの側面に分けてみていきます。
「刑の言い渡し(法律上の不利益)」は効力を失う
まず、法律上は、執行猶予の期間が満了すると「刑の言い渡しは効力を失う」と定められています。
この「刑の言渡しは、効力を失う」とは、「刑罰によって生じていた法的効果が将来に向かって消滅する」という意味です。
具体的には、次のような効果があります。
・刑の執行を受けることがなくなる
・前科による資格制限がなくなる
・履歴書への記載義務がなくなる
・パスポートの発給制限がなくなる
・再度、執行猶予がつく可能性が生まれる など
上記のように、刑の言い渡しによって生じていた法的効果は消滅するため、「法律上に不利益」という意味では、執行猶予の満了により「前科は消える(なかったものとして扱われる)」と考えてよいでしょう。
再犯時の量刑事情として考慮される
一方で、執行猶予期間が満了しても、「有罪判決を受けた」という事実そのものは消えません。
たとえば、検察庁が管理する「前科調書」には、犯歴としてあなたの前科が残り続けますし、裁判でも刑の重さを決めるときの判断材料として考慮されます。
判例でも、執行猶予の期間を満了した後、「前科がある」という事実によって刑を重くすることは違法ではないとされています。
執行猶予の言渡を取り消されることなく猶予の期間を経過し刑の言渡がその効力を失つても、その言渡を受けたいという既往の事実そのものを量刑の資料に参酌することは違法でない
したがって、本当の意味で前科がない人と比べると、執行猶予期間を満了しても、「事実上の不利益」が残り続けます。もし今後、何かの犯罪を犯してしまったとき、「初犯なら不起訴で終わったものが、拘禁の実刑判決になる」といったことにもなりかねないのです。
この意味では、「前科は、一生消えることがない」とも言えるでしょう。
前科があっても執行猶予付き判決になる可能性はある?
すでに前科がある場合でも、新たに犯してしまった罪について、再び執行猶予付き判決を受けられる可能性はあります。ただし、それは以前の前科の内容や、刑罰を終えてからの期間など、法律で定められた条件によって異なります。
まず、執行猶予が付くための基本的な要件を確認しておきましょう。
■刑の全部の執行猶予の要件
① 今回の判決が「3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金」であること
② 前に拘禁刑以上の刑に処せられたことがないこと
③ 前に拘禁刑以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に拘禁刑以上の刑に処せられたことがないこと
④ 執行猶予を相当とするに足りる情状があること
ここからは、あなたの前科の内容を3つのパターンに分けて、再度執行猶予が付く可能性があるのかどうかを見ていきます。
前科が罰金刑などの場合
前科が、罰金や科料、拘留などの場合、執行猶予が付く可能性は十分にあります。
なぜなら、刑法第25条1項1号は、執行猶予の対象者を「前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者」と定めているからです。
罰金刑はこれに当たらないため、法律上は「前科がない人」と同じ条件のもとで、執行猶予を付けるかどうかが判断されます。
もちろん量刑面で不利になる可能性はありますが、以下の2つの条件を満たせば、執行猶予が付く可能性は十分にあるでしょう。
① (今回の)判決が「3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金」であること
④ 執行猶予を相当とするに足りる情状があること
前科が拘禁刑以上(執行猶予付き)の場合
前科が「拘禁刑(執行猶予付き)」の場合は、執行猶予の期間を満了しているかどうかで異なります。
もし猶予期間を満了していれば、すでに刑の言い渡しの効力は失われています。
法律上は「拘禁刑以上の刑に処せられたことがない」ものとして扱われるため、「前科がない人」と同じように、以下の条件を満たせば執行猶予が付く可能性があるでしょう。
① (今回の)判決が「3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金」であること
④ 執行猶予を相当とするに足りる情状があること
ただし、前述のとおり、裁判官は「過去に執行猶予付きの判決を受けた」という事実を考慮して、執行猶予を付けるかを判断します。そのため、全く前科がない人と比べると、執行猶予が付きにくくなるという側面はあるでしょう。
なお、まだ執行猶予期間が終わっていない場合は、執行猶予猶予の要件を満たさないため、「再度の執行猶予(刑法25条2項)」を検討することになります。
非常に厳しい要件が求められますが、令和7年6月の改正によってかなり緩和されたため、(若干ですが)再度執行猶予も付きやすくなっています。
・今回の判決が「2年以下の拘禁刑」であること
・情状に特に酌量すべきものがあること
・(保護観察が付されている場合)初めての執行猶予期間中であること
前科が拘禁刑以上(執行猶予なし)の場合
以前に実刑判決を受けて、刑務所に服役していた場合は、出所してから5年が経過しているか、それとも5年以内かで異なります。
出所してから5年を超えていれば、執行猶予の要件である「その執行を終わった日から五年以内に拘禁刑以上の刑に処せられたことがない者」に該当します。
したがって、以下の条件を満たせば、執行猶予が付く可能性があります。
① (今回の)判決が「3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金」であること
④ 執行猶予を相当とするに足りる情状があること
他方、刑務所を出てからまだ5年以内である場合は、原則として執行猶予は付きません。
前科を防ぐにはどうすればいい?

これまで解説してきたように、前科が付くと日常生活にさまざまな影響が及びます。
前科を防ぐには、裁判が始まる前の「捜査段階」で事件を終結させることが、最も現実的かつ効果的な方法となります。
示談によって被害届の提出を防ぎ、刑事事件化を回避する
被害者がいる事件の場合、最も理想的なのは、そもそも刑事事件として処理される前に解決することです。具体的には、警察に被害届が提出される前に示談を成立させるか、あるいは示談によって、被害届を取り下げてもらうことを目指します。
もちろん、加害者本人やその家族が直接交渉するのは、感情的な対立を生むため困難です。
そのため、一般的には弁護士が間に入り、真摯に謝罪の意を伝えつつ、治療費や慰謝料などを含む示談金を支払うことで、穏便な解決を目指していきます。
被害届の提出を防げれば、通常は刑事事件として扱われないため、前科が付くことはありません。
弁護活動によって、不起訴処分を獲得する
もし被害届が提出されて捜査が始まってしまった場合は、検察官から「不起訴処分」を獲得することを目指します。
日本の刑事裁判では、一度起訴されると99%以上が有罪になると言われています。つまり、起訴されてしまえば、ほぼ確実に前科が付いてしまうのです。
そのため、前科を防ぐなら、ドラマのような無罪判決を目指すのではなく、起訴される前の「捜査段階」で、「起訴しない」という判断を検察官にしてもらうことが、最も現実的に取りうる手段となります。
不起訴処分にはいくつか種類がありますが、弁護活動によって目指すのは主に「起訴猶予」です。これは、「犯罪の疑いはあるものの、本人の反省度合いや示談の状況など、さまざまな事情を考慮して、今回は起訴を見送る」という検察官の判断です。
このために、被害者との示談はもちろん、本人の反省文、ご家族からの監督を誓約する書面など、情状面で有利な証拠を集めていきます。
集めた証拠をもとに、「起訴するまでの必要はない」と説得力をもって主張できれば、不起訴処分によって前科を防ぐことが期待できるでしょう。
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まとめ
最後に、この記事のポイントをまとめます。
◉ 執行猶予と前科の関係
・執行猶予付き判決も有罪判決の一種なので「前科」はつく。
・猶予されるのは、あくまでも「刑の執行」のみ
◉ 執行猶予付き判決で、前科が付くことの影響
・執行猶予期間中は、就職活動や一部の資格取得、海外旅行などが制限される。
・期間中に再犯すると執行猶予が取り消され、刑務所に収監されるリスクがある。
◉ 執行猶予期間が満了すると前科は消える?
・「刑の言渡しは効力を失う」ので、資格制限などの「法律上の不利益」は消える
・「有罪判決を受けた事実」は残るので、事実上の不利益(量刑面など)は残り続ける
◉ 前科があっても執行猶予はつく?
・前科の内容や、刑の執行が終わってからの期間によって、再び執行猶予が付く可能性はある。
・罰金以下の前科や、執行猶予を満了した場合は、比較的、執行猶予が付きやすい。
・実刑後5年以内の場合は、原則として執行猶予は付かない。
◉ 前科を回避するためにすべきこと
・示談によって被害届の提出を防ぎ、刑事事件化を回避する
・弁護活動によって、不起訴処分を獲得する
以上です。
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