刑の執行停止とは?要件・申立て方法・弁護士に依頼すべき理由を解説

刑の執行停止とは?要件・申立て方法・弁護士に依頼すべき理由を解説
弁護士 若林翔
2025年11月17日更新

「刑の執行停止とはどのような制度なの?」

「刑の執行停止を受けるための手続きを知りたい」

「刑の執行停止を弁護士に依頼するとどのようなメリットがあるの?」

刑事裁判で有罪判決を受け、刑の言い渡しが確定すると、原則として速やかに刑が執行されます。しかし、本人の健康状態や家庭環境など、特別な事情がある場合には、一定期間刑の執行を猶予してもらえる制度が存在します。それが「刑の執行停止」です。

刑の執行停止は、病気や高齢、妊娠・出産といった事情のほか、家庭に特別な事情がある場合にも認められることがあります。ただし、すべてのケースで認められるわけではなく、法律で定められた要件を満たし、適切に申立てを行う必要があります。

本記事では、

・刑の執行停止の概要や種類と要件
・刑の執行停止の申立ての流れ
・刑の執行停止の申立てを弁護士に依頼すべき理由

などについてわかりやすく解説します。

刑の執行に不安を抱えている方やご家族の方はぜひ参考にしてください。

刑の執行停止とは?

刑の執行停止とは、有罪判決が確定して刑の言い渡しを受けた人について、一定の事情がある場合に刑の執行を一時的に停止する制度をいいます。刑事訴訟法480条以下に規定されており、本人の健康状態や家庭の事情など、社会生活を営む上で特別な配慮が必要なときに利用される制度です。

通常、有罪判決が確定するとすぐに刑務所に収容されるなどして刑の執行が開始されます。しかし、病気や高齢、妊娠・出産などにより、直ちに刑を執行すると本人の生命や健康に重大な支障を及ぼすおそれがあるケースもあります。このような場合に、刑の執行停止が認められるのです。

刑の執行停止は、判決そのものを取り消すものではありません。あくまで刑の執行を一時的に見合わせる措置にすぎませんので、停止期間が終了すれば再び刑が執行されるのが原則です。

したがって、刑の執行停止は「刑務所に入らなくてもよくなる制度」とは異なる点に注意が必要です。

刑の執行停止の種類と要件

刑の執行停止には、大きく分けて「必要的刑の執行停止」と「任意的刑の執行停止」の2種類があります。前者は要件に該当すれば必ず執行停止が認められるのに対し、後者は検察官の裁量によって判断される制度です。以下では、それぞれの要件を説明します。

必要的刑の執行停止

必要的刑の執行停止とは、法律で定められた事情に当てはまった場合、必ず刑の執行を停止しなければならない制度です。刑事訴訟法480条では、以下のケースが規定されています。

・自由刑の言い渡しを受けた者が心神喪失の状態にあるとき

心神喪失とは、自分の行動の意味や結果を理解できない精神状態を指します。この状態で刑を執行することは、本人にとっても社会にとっても妥当とはいえないため、刑の執行を一時的に停止することが義務付けられているのです。

この場合、本人の心神喪失状態が回復するまで刑の執行は行われません。つまり、心神喪失の状態が続いている限り、刑務所に収容されることはありません。

任意的刑の執行停止

任意的刑の執行停止は、検察官が事情を考慮して必要と認めるときに刑の執行を停止できる制度です。刑事訴訟法482条では、以下のような具体的要件が列挙されています。

・刑の執行によって、著しく健康を害するおそれがあるとき、又は生命を保つことができないおそれがあるとき
・年齢が70歳以上であるとき
・受胎後150日以上であるとき(妊娠の後期)
・出産後60日を経過しないとき・刑の執行によって回復できない不利益を生ずるおそれがあるとき
・祖父母または父母が70歳以上
・重病・不具であり、他に保護できる親族がいないとき
・子や孫が幼年であり、他に保護できる親族がいないとき
・その他、重大な事由があるとき

任意的執行停止は、要件に当てはまるからといって必ず認められるわけではなく、検察官が個別の事情を判断して決定します。そのため、医学的証拠や生活状況を示す資料などをしっかり整えることが重要です。

刑の執行停止の申立て手続きの流れ

刑の執行停止の申立て手続きの流れ

刑の執行停止を希望する場合、所定の手続を踏んで申立てを行う必要があります。以下では、刑の執行停止の申立て手続きの流れについて説明します。

申立権者|本人・弁護士・家族など

刑の執行停止の申立ては、本人が行うのが原則です。しかし、刑事施設に収容されている場合や健康状態が悪い場合には、弁護士や家族が代理で申立てを行うことも可能です。特に、弁護士を通じて申立てを行うと、法的要件に即した形で書類を整備できるため、認められる可能性が高まります。

申立先|検察庁

申立ての窓口となるのは、刑の執行を担当する検察庁です。

有罪判決が確定すると、裁判所から検察庁に記録が送られ、検察庁が刑の執行に関する権限を持ちます。そのため、刑の執行停止を求める場合も、検察庁に申立てを行うことになります。

必要書類

申立ての際には、刑の執行停止の理由に応じて以下のような書類を準備する必要があります。

・申立書(刑の執行停止を求める理由を記載した書面)
・診断書(病気や妊娠・出産に関する事情がある場合)
・戸籍謄本や住民票(家族関係や年齢を証明する資料)
・陳述書や上申書(家族の生活状況や保護者不在の事情を説明するもの)
・その他参考資料(介護状況、家庭環境に関する証拠など)

これらの書類は、執行停止の必要性を客観的に裏付けるために極めて重要です。

申立ての流れ

刑の執行停止の申立ては、概ね以下の手順で進みます。

①事情の整理刑の執行を停止すべき事情(病状・家庭環境など)を確認します。
②証拠資料の収集医師の診断書や家庭の状況を示す資料を準備します。
③申立書の作成・提出必要事項を記載した申立書を作成し、証拠書類とともに検察庁へ提出します。
④検察官の審査検察官が書類を精査し、必要に応じて追加調査を行います。
⑤決定通知刑の執行停止が認められるかどうかの結果が通知されます。

任意的執行停止の場合は特に、資料の不備や理由付けの弱さによって却下されるケースも少なくありません。そのため、弁護士の助言を受けながら手続きを進めることが望ましいでしょう。

刑の執行停止が認められたときの期間

刑の執行停止は、あくまで「刑の執行を一時的に見合わせる制度」であり、永続的に刑務所に入らなくてよいというものではありません。認められた場合の期間は、必要的執行停止と任意的執行停止で異なります。

必要的執行停止の期間

必要的執行停止の場合、対象となるのは心神喪失の状態にあるときです。この場合、刑の執行は心神喪失状態が回復するまで停止されます。

つまり、医学的な診断や経過観察の結果、心神喪失が改善され刑の執行に耐えられると判断されるまでは、刑務所に収容されることはありません。停止期間には明確な期限が定められていないため、回復の有無が大きなポイントになります。

任意的執行停止の期間

任意的執行停止は、検察官の裁量によって認められる一時的な措置です。そのため、停止期間も事情に応じて柔軟に決められます。

一般的には、数日から数週間程度とされることが多いですが、以下のような事情がある場合には、それ以上の期間に及ぶこともあります。

・重い病気で長期の治療が必要な場合
・高齢や出産など、継続的な配慮が必要な場合
・家族の介護や子どもの養育といった社会的事情が重い場合

また、停止期間が終了した際に状況が改善していなければ、再度の申立てにより執行停止が延長される可能性もあります。

刑の執行停止と他の制度との違い

刑事手続の中には「刑の執行を免れる」または「身柄拘束を一時的に避けられる」制度が複数あります。そのため、刑の執行停止と他の制度を混同してしまう方も少なくありません。以下では代表的な制度との違いを整理します。

 適用のタイミング効力特徴
刑の執行停止有罪判決確定後刑務所への収容を一時的に停止病気・高齢・妊娠など特別な事情が前提
執行猶予有罪判決言い渡し時刑の執行を猶予初犯や軽微な犯罪などで言い渡される
仮釈放刑務所で刑期の一部を経過後残刑期を社会内で過ごせる更生の可能性・改悛の情が前提
保釈起訴後から判決確定まで起訴後の身柄拘束からの解放保釈保証金の納付が必要

執行猶予との違い

執行猶予とは、有罪判決が言い渡されたときに、一定の期間、刑の執行を猶予する制度です。期間中に再び罪を犯さなければ、刑の言渡しは効力を失い、実際に刑務所に入る必要はなくなります。

一方、刑の執行停止は、判決が確定して刑の執行が始まる段階で適用される制度です。停止期間が終了すれば、原則として刑務所に収容される点で大きく異なります。

仮釈放との違い

仮釈放は、刑務所に収容され刑期の一部を経過した受刑者に対し、改悛の情や更生の可能性があると判断された場合に、残りの刑期を社会内で過ごせるようにする制度です。

これに対して、刑の執行停止は、刑の執行を不適当とする一定の自由がある場合に一時的に刑の執行を停止する制度です。両者は、その目的が大きく異なります。

保釈との違い

保釈は、裁判が確定する前に身柄を拘束されている被告人について、一定の保釈保証金を納めることで釈放を受けられる制度です。あくまで「裁判が続いている段階」での制度です。

一方、刑の執行停止は、有罪判決が確定した後の段階で刑務所への収容を見送る制度です。つまり、手続のタイミングそのものが大きく異なります。

刑の執行停止を弁護士に依頼すべき理由

刑の執行停止を弁護士に依頼すべき理由

刑の執行停止は、本人や家族でも申立て自体は可能です。しかし、実際には法律上の要件に合致していることを適切に主張・立証しなければ認められません。そのため、刑事事件に精通した弁護士に依頼することが極めて重要です。以下では弁護士に依頼すべき主な理由を説明します。

要件該当性や刑の執行停止の見込みを判断できる

刑の執行停止には、必要的執行停止と任意的執行停止がありますが、いずれも法律に基づいた厳格な要件が存在します。

弁護士であれば、依頼者の状況が要件に当てはまるかどうかを的確に判断し、「執行停止が認められる見込みがあるかどうか」を早い段階で見極めることができます。

必要な証拠収集のアドバイスやサポートができる

任意的執行停止を求める場合、単なる申立てだけでは認められません。医師の診断書や家庭状況を示す資料など、客観的な証拠を揃えることが不可欠です。

弁護士は、

・どのような証拠を用意すべきか
・医師に診断書を依頼するときのポイント
・家族の陳述書をどのようにまとめるか

といった点について具体的にアドバイスし、必要な資料の収集をサポートしてくれます。

検察官への申立書の作成ができる

刑の執行停止の申立書は、検察官に対して「なぜ執行を停止する必要があるのか」を論理的かつ説得的に示す必要があります。形式や内容に不備があれば、審査段階で却下されてしまう可能性もあります。

弁護士は、過去の事例や法的根拠を踏まえて、説得力のある申立書を作成することができます。さらに、検察官とのやりとりや追加資料の提出にも対応できるため、申立てが成功する可能性が高くなります。

刑の執行停止を検討中の方はグラディアトル法律事務所に相談を

刑の執行停止を検討中の方はグラディアトル法律事務所に相談を

刑の執行停止は、本人や家族にとって切実な事情を救済するための重要な制度ですが、許可を得るのは決して容易ではありません。法律上の要件を満たしていることを客観的に示し、検察官を説得できるだけの資料や論理を整える必要があるからです。診断書や家族関係を示す書類の収集も不可欠であり、一般の方だけで進めるには大きな負担が伴います。

グラディアトル法律事務所は、これまで多数の刑事事件に携わり、刑の執行停止に関する申立ても取り扱ってきました。依頼者の状況を丁寧にお聞きし、要件に該当する可能性を的確に判断したうえで、必要な証拠の収集や申立書の作成を全面的にサポートいたします。

「病気や高齢で収監に耐えられないのではないか」「家族に介護や養育が必要で不安だ」など、どのような悩みでも一度ご相談ください。弁護士があなたやご家族にとって最善の解決策を一緒に探し、迅速かつ的確に対応いたします。

刑の執行停止を検討されている方は、ぜひ早めにグラディアトル法律事務所へご相談ください。

まとめ

刑の執行停止は、病気や高齢、妊娠・出産、家庭の事情などにより、刑の執行を一時的に猶予できる制度です。ただし、すべてのケースで認められるわけではなく、要件の確認や証拠書類の準備が不十分だと却下される可能性もあります。

確実に申立てを進めるには、刑事事件に精通した弁護士のサポートが不可欠です。刑の執行停止を検討されている方は、経験豊富なグラディアトル法律事務所へぜひご相談ください。

弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力。数多くの夜のトラブルを解決に導いてきた経験から初の著書「歌舞伎町弁護士」を小学館より出版。 youtubeやTiktokなどでもトラブルに関する解説動画を配信している。

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