「現行犯逮捕されるのはどのような要件を満たした場合?」
「現行犯逮捕された場合の流れを知りたい」
「現行犯逮捕された場合、どのように対処すればいい?」
現行犯逮捕は、警察官だけでなく一般人でも令状なしに行える逮捕方法であり、犯罪を行っている最中や直後の犯人を取り押さえる手段です。
ただし、現行犯逮捕が成立するためには法律上定められた要件を満たす必要があり、手続きにも一定のルールがあります。要件を誤解したまま私人逮捕を行うと、逆に不当逮捕として自らが刑事責任を問われるおそれもあります。
また、現行犯逮捕されてしまった場合には、取調べや勾留などの手続きが迅速に進むため、初動対応が極めて重要です。弁護士に早急に相談することで、勾留を阻止し、早期釈放や有利な弁護活動につなげられる可能性があります。
本記事では、
| ・現行犯逮捕の要件や判例 ・現行犯逮捕されたときの手続きの流れ ・現行犯逮捕されたときの適切な対処法 |
などをわかりやすく解説します。
もしご自身や身近な方が現行犯逮捕された場合は、迷わず弁護士に相談してください。
目次
現行犯逮捕の要件

現行犯逮捕は、逮捕状なしで行える特殊な逮捕方法ですが、誰でも自由に行えるわけではありません。刑事訴訟法では、現行犯逮捕の要件が定められており、この条件を満たさなければ違法な逮捕となります。以下では、現行犯逮捕をするための基本的な要件を説明します。
逮捕される人が犯罪を行っている最中または犯罪をした直後であること
現行犯逮捕が認められるための1つ目の要件は、「犯罪の最中」または「犯行直後」であることです。
刑事訴訟法212条1項では、「現に罪を行い、または現に罪を行い終わった者」を現行犯人としています。つまり、犯行中や直後であり、犯人であることが客観的に明らかな場合に限られます。
たとえば、窃盗犯が商品をポケットに入れてレジを通らずに店外へ出ようとした瞬間や、暴行事件で相手を殴った直後などが該当します。一方で、犯行から時間が経過してしまうと、現行犯逮捕ではなく通常逮捕の手続きが必要になります。
また、「直後」の判断は必ずしも時間だけでなく、犯行との一体性や現場状況によって決まります。犯人が逃走を試みてすぐに取り押さえられた場合などは、数分〜十数分経過していても現行犯逮捕が成立するケースがあります。
一定の軽微犯罪では住所・氏名不詳または逃亡のおそれがあること
法定刑が3年以下の懲役(拘禁刑)または罰金・拘留・科料しかない軽微犯罪について現行犯逮捕するには、以下のいずれかの要件を満たす必要があります。
| ・逮捕される人の住所や氏名が分からない |
| ・逃亡のおそれがある |
たとえば、軽微な器物損壊や軽犯罪法違反のケースでは、本人確認ができており逃亡の可能性がない場合には、その場で現行犯逮捕することはできません。警察による任意同行や後日の呼び出しで対応するのが通常です。
この要件は、不必要な身柄拘束を防ぎ、国民の自由を過度に制限しないための重要なルールといえます。
現行犯逮捕の要件に関する有名判例の紹介

現行犯逮捕が有効かどうかは、最終的には個別の事案に応じて判断されます。そのため、判例を知ることで、どのような場合に現行犯逮捕が成立するのか、また成立しないのかを具体的にイメージできます。以下では、現行犯逮捕の要件に関する有名な裁判例を紹介します。
犯人の明白性が問題になった判例|京都地裁昭和44年11月5日決定
【事案】
金物店で窃盗事件が発生。被害者が110番通報したが、犯人は逃走。警察官は現場で被害者から犯人の服装や特徴を聞き、近くを巡回中に類似した人物を発見。職務質問後、被害者を呼んで対面させ、犯人と断定した上で現行犯逮捕した。逮捕は犯行から約20分後、現場から20メートルほど離れた場所で行われた。
【裁判所の判断】
| ・逮捕時、警察官は犯行を直接目撃しておらず、犯行の証跡(凶器の所持や服に残った証拠等)もなかった。 ・被害者の供述を根拠に犯人と判断しており、それだけでは現行犯逮捕や準現行犯逮捕の要件を満たさない。 ・この場合は緊急逮捕の要件は満たしていたため、直ちに逮捕状の請求を行うべきであった。 ・逮捕状請求をせずに身柄拘束を続けたことは違法であり、その後の勾留請求は却下すべきと判断。 |
【ポイント】
| ・現行犯逮捕は、逮捕者自身が現場で犯行と犯人を直接明白に認識できる場合に限られる。 ・犯行から短時間・近距離であっても、目撃や明白な証跡がなければ現行犯逮捕は成立しない。 ・このケースでは「被害者の供述のみ」に頼った逮捕が違法とされた。 |
準現行犯逮捕と差押えの適法性が問題になった判例|最高裁平成8年1月29日決定
【事案】
内ゲバ事件の発生後、犯行現場から約4km離れた場所で警察官が逃走中の犯人を警戒中、泥で汚れた衣服・濡れた髪など不自然な様子の人物3名を発見。職務質問を求めたところ逃走したため追跡・確保し、犯行から約1時間〜1時間40分後に準現行犯として逮捕した。その後、現場では混乱や危険があったため、警察署に連行後、所持品(籠手やバッグなど)を差し押さえた。
【裁判所の判断】
| ・3名はいずれも刑訴法212条2項2〜4号(準現行犯)に該当し、犯行後間もないと明らかに認められる状況だったため逮捕は適法。 ・差押えについては、逮捕現場が危険・混乱を招く場所であり、その場での実施が適当でなかったため、速やかに最寄りの警察署に連行後に行った措置も刑訴法220条1項2号の「逮捕の現場」での差押えと同視でき、適法と判断。 |
【ポイント】
| ・準現行犯は、犯行現場から離れていても、「犯行後間がない」ことが外形的事情から明らかであれば成立する。 ・差押えは逮捕直後に現場で行うのが原則だが、危険や混乱が予想される場合には、速やかに適切な場所へ移動してから行っても適法とされる。 |
現行犯逮捕の要件を満たせば誰でも無令状で逮捕できる
現行犯逮捕は、警察官だけでなく一般市民(私人)でも行うことができます。これは刑事訴訟法213条に定められており、「現行犯人は、何人でも逮捕状なしに逮捕できる」と規定されています。ただし、実際には重大なリスクを伴い、要件や手続きを誤ると逮捕した側が逆に刑事責任や民事責任を問われる可能性があります。以下では、私人逮捕の仕組みと注意点を解説します。
私人逮捕の仕組み
私人逮捕は、現行犯逮捕の要件を満たす場合に限り、一般人でも犯人の身柄を拘束できる制度です。たとえば、万引き犯をその場で取り押さえる防犯員や暴行事件を目撃した通行人が加害者を抑えるケースが該当します。
私人逮捕の場合、以下の要件を満たす必要があります。
| ・逮捕できるのは「現行犯人」または「準現行犯人」 |
| ・軽微な犯罪の場合は217条の追加条件(住所氏名不詳または逃亡のおそれ)が必要 |
| ・逮捕後は直ちに警察官または検察官に引き渡す義務がある |
私人逮捕のリスク
私人逮捕は、現行犯逮捕の要件を正しく理解していなければ非常に危険です。
特に、以下のような場合には、不当逮捕や監禁罪に問われるおそれがあります。
| ・犯行現場や直後ではなく、後日や現場と無関係な場所で拘束した |
| ・犯人と断定できる証拠や状況がなく、誤認逮捕となった |
| ・身柄拘束後にすぐ警察へ引き渡さず、長時間拘束を続けた |
要件を欠いた私人逮捕は、結果的に加害者扱いされてしまう危険性がありますので注意が必要です。
私人逮捕は最終手段
法律上は可能でも、私人逮捕は推奨されません。犯人が反抗して暴行を加えたり、武器を使用する危険があり、逮捕者自身の安全も脅かされます。
また、後で「要件を満たしていなかった」と判断されれば、民事訴訟や刑事責任のリスクも負います。
現場では無理に取り押さえず、速やかに警察に通報し、到着を待つのが最も安全で確実な対応です。
現行犯逮捕の要件を満たした場合の逮捕手続きの流れ

現行犯逮捕は、犯行を目撃した直後に行われるため、現場対応からその後の手続きまでが短時間で進みます。ただし、逮捕を行う主体が警察官なのか、それとも一般市民(私人)なのかによって、必要となる措置や手順には違いがあります。以下では、現行犯逮捕が行われた場合の一連の流れを、警察官による場合と私人逮捕の場合に分けて説明します。
現行犯人の身柄を拘束(逮捕)
現行犯逮捕は、要件を満たしていることが前提です。
逮捕の際には、
・「あなたを○○の現行犯で逮捕します」と告げる(逮捕告知)
・必要に応じて逃走や暴行を防ぐための制止措置を行う
ことが求められます。
私人逮捕の場合でも、暴力は必要最小限にとどめ、相手に怪我をさせないよう注意が必要です。
私人逮捕の場合は直ちに警察官などに被疑者を引き渡す
刑事訴訟法214条は、私人逮捕を行った者は、直ちに警察官または検察官に引き渡す義務があると定めています。
引き渡しを遅らせて長時間拘束すると、監禁罪や不当逮捕に問われる可能性があります。現場の安全確保後は速やかに110番通報し、警察の到着を待ちましょう。
警察官による「現行犯人逮捕手続書」の作成
警察官が現行犯逮捕を行った場合、逮捕の日時や場所、現行犯人と認めた状況、逮捕者、逮捕時の様子、逮捕後の措置などを記載した「現行犯人逮捕手続書」を作成します。
これは逮捕の適法性を記録する重要書類であり、後の裁判や勾留請求の判断材料にもなります。
警察署に連行され取り調べ
逮捕後、被疑者は警察署に連行され、取調べが始まります。
現行犯逮捕は、逮捕状不要で行える反面、身柄拘束できるのは最大48時間までであり、その後は検察官送致や勾留請求の手続きに進みます。
現行犯逮捕されたときの対処法

現行犯逮捕は、犯行現場やその直後に行われるため、警察署への連行や取調べがすぐに始まります。逮捕後の対応を誤ると、不必要に長期間身柄を拘束されるリスクや不利な供述を取られてしまう危険があります。以下では、現行犯逮捕された場合に取るべき具体的な行動を紹介します。
すぐに弁護士を呼ぶ
逮捕後はできるだけ早く弁護士に連絡してください。弁護士は、勾留を防ぐための意見書の提出や、取調べに備えた助言、違法な手続きがないかの確認を行います。
家族が逮捕された場合も、速やかに刑事事件に強い弁護士へ依頼することが重要です。
弁護士と面会するまでは黙秘権を行使して供述を拒否する
警察の取調べでは、黙秘権を行使しても不利になることはありません。
弁護士に会う前に焦って供述してしまうと、後から撤回できない不利な記録が残るおそれがあります。弁護士の到着までは、事実関係や弁解を述べずに黙秘を貫くことが大切です。
供述調書への署名押印は内容を十分に確認してから行う
取調べの内容は供述調書としてまとめられ、署名押印を求められます。内容に事実と異なる点や不明確な点があれば、その場で訂正を求めるか署名を拒否することも可能です。
安易な署名は不利な証拠として利用されるリスクがありますので、内容を十分に確認してから慎重に行うようにしてください。
勾留を阻止して
現行犯逮捕後、最大48時間以内に検察官へ送致され、身柄拘束の継続が必要と判断されると検察官は、送致から24時間以内かつ逮捕から72時間以内に勾留請求を行います。
さらに勾留請求が認められると最長20日間身柄が拘束される可能性があります。
弁護士は勾留の必要性がないことを主張し、早期釈放を目指します。身柄拘束期間を最小限に抑えるには、早期に弁護士に依頼することが重要です。
現行犯逮捕されてしまったときはすぐにグラディアトル法律事務所に相談を

現行犯逮捕は、逮捕の瞬間から手続きが非常に早く進みます。逮捕から48時間以内に検察官へ送致され、その後すぐに勾留請求が行われる可能性があるため、時間との勝負となります。初動を誤ると、不必要に長期間身柄を拘束され、取り返しのつかない不利な状況に陥ることもありますので迅速な行動が重要です。
グラディアトル法律事務所では、刑事事件の経験豊富な弁護士が、現行犯逮捕直後から迅速に対応します。違法な逮捕や取調べが行われていないかを確認し、勾留阻止や早期釈放を目指した弁護活動を展開します。また、ご家族からのご依頼にも即時対応し、接見禁止の解除や示談交渉など、依頼者の利益を守るための最善策を講じます。
もしご自身やご家族が現行犯逮捕されてしまったら、一刻も早く当事務所へご連絡ください。
まとめ
現行犯逮捕は、犯行の最中または直後に犯人と断定できる場合に、逮捕状なしで行える手続きです。警察官だけでなく私人も行えますが、要件を誤ると不当逮捕となり、逮捕した側が責任を問われるおそれがあります。
もし現行犯逮捕された場合は、すぐに弁護士へ連絡し、黙秘権の行使や調書確認など適切な対応を取ることが重要です。初動対応の速さが、その後の結果を大きく左右しますので、一刻も早くグラディアトル法律事務所までご相談ください。
