「警察の捜索差押ではどのようなものが押収されるの?」
「警察に押収された品はいつ戻って来る?」
「警察に押収された品が戻ってこないときはどうすればいい?」
警察に押収された品物が「いつ返ってくるのか」「どのくらい保管されるのか」と不安に思う方は少なくありません。スマホやパソコン、車、現金など、生活や仕事に直結する物が押収されると大きな支障が生じます。
しかし、押収品の返還時期や保管期間は事件の進行状況によって異なり、場合によっては返還が認められないケースもあります。また、返還を受けるためには「還付請求」や「仮還付」といった手続きを踏む必要がある場合もあります。
本記事では、
| ・警察に押収される「押収品」の意味や例 ・押収品が返還されるタイミング ・押収品が返ってこないときの対処法 |
などを詳しく解説します。
押収品の返還に関する判例や、弁護士に依頼するメリットについても紹介しますので、押収品に関してお困りの方はぜひ参考にしてください。
目次
警察に押収される「押収品」とは?

事件の捜査の中で、警察が証拠になりそうな物や犯罪に使われた物を持っていくことがあります。これを「押収」といいます。以下では、押収の意味と目的、押収品の具体例などを説明します。
押収の意味と目的
押収は、証拠を確実に保全するための強制処分です。
事件に関係する物をそのまま所有者や関係者に持たせておくと、隠されたり、改ざん・破棄されたりする可能性があります。そのため、警察は必要に応じて裁判所の令状を得て押収を行い、事件の立証や裁判での証拠提出に備えます。
また、犯罪によって得た金銭や物品、あるいは違法薬物や凶器など、社会にとって危険な物を押さえるという目的もあります。
押収品の例
警察が押収する「押収品」には、さまざまな種類があります。具体的には以下のようなものです。
| ・被害品窃盗事件で盗まれた現金や物品など。事件終了後は被害者に返還されることが多いです。 ・車両ひき逃げ事件や飲酒運転事件に使われた車など。証拠価値がある場合や没収対象となる場合があります。 ・スマホ、パソコンメールやSNSのやりとり、写真、位置情報など、事件との関連が疑われるデータが含まれていることがあります。 ・書類や帳簿詐欺事件や脱税事件では、金銭の流れを裏付けるために押収されます。 ・その他の物凶器(包丁、刃物、銃)、覚醒剤や大麻などの薬物、犯行に使われた道具など。 |
このように、押収品は日常生活や仕事に欠かせない物から危険物まで多岐にわたります。
したがって、「押収品が返還されるのはいつか」「どれくらいの期間保管されるのか」といった点は、所有者にとって大きな関心事となるのです。
押収品が警察から返還されるタイミング

警察に押収された品物は、事件が終わるまでずっと保管されるわけではありません。事件の進行状況や、押収品の必要性に応じて返還される場合があります。以下では、押収品の主な返還のタイミングについて説明します。
事件が終結したタイミング
もっとも一般的なのは、事件がすべて終結した時点での返還です。
| ・不起訴になった場合:捜査が終わり、検察が起訴しないと判断した時点で返還されます。 ・略式命令による罰金の場合:罰金が確定した時点で返還されるのが通常です。 ・起訴された場合:裁判が終了し、判決が確定した後に返還が可能となります。 |
つまり、事件の処理が一区切りついた時点で「もう証拠として使わない」と判断されれば返還されます。
事件が終結していなくても留置の必要がなくなったタイミング
必ずしも事件が完全に終わるまで待つ必要はありません。捜査に必要な調べが済み、押収品を手元に置いておく理由がなくなった場合には、その時点で返還されることもあります。
たとえば、スマホやパソコンの中身のデータをコピーし終わった後は、本体を持っておく必要がなくなるため、返還が認められるケースがあります。
一時返還しても捜査に支障がないと認められるタイミング
事件の捜査が続いていても、持ち主の生活や仕事に大きな支障が出る場合があります。そのような場合には、「仮還付」という仕組みを利用できる可能性があります。
仮還付とは、捜査に支障が出ない範囲で、押収品を一時的に持ち主に返す制度です。たとえば、仕事でどうしても必要なパソコンや車、生活に必要なキャッシュカードや通帳などは、申請により仮還付が認められることがあります。
警察による押収品の保管期間の目安

警察に押収された品物がどのくらいの期間保管されるかは、一律には決まっていません。押収品の返還は基本的に「事件の終結」と結びついているため、事件の進行状況や内容によって保管期間は大きく変わります。
通常のケースでは捜査が終了した時点まで
一般的なケースでは、捜査が終了した段階で押収品は返還されます。たとえば、証拠として必要な調べがすべて終わった時点で、返すことが可能になります。
スマホやパソコンのデータをコピーし終わった場合などは、このタイミングで返還されやすいです。
不起訴や略式命令で処理された場合
事件が裁判に進まずに「不起訴」となった場合、または罰金を支払って手続が終了する「略式命令」の場合は、その決定が確定した段階で返還されます。
これらのケースでは比較的早く返還が認められることが多いです。
起訴され裁判になった場合
起訴されて裁判に進んだ場合は、裁判が終わり判決が確定するまで押収品が保管されることになります。特に、重大事件や証拠価値の高い物については、裁判中ずっと保管されるため、返還までに長い期間を要するケースもあります。
警察による押収品の返還が認められないケース

押収品の多くは事件が終結した段階で返還されますが、中には所有者に返されない物もあります。これは、犯罪に密接に関わる物や、被害者に返すべき物など、社会的にそのまま戻すことが適切ではない場合です。以下では、押収品の返還が認められない代表的なケースを紹介します。
犯罪行為に使用されたもの|凶器や犯行道具など
事件で実際に使われた凶器や犯行道具は、証拠価値が高いだけでなく、再び犯罪に利用されるおそれがあります。そのため、事件終了後も返還されず、没収の対象となります。
例:包丁、拳銃、バール、盗みに使った工具など
犯罪を組成するもの|覚醒剤や麻薬など
覚醒剤や大麻などの薬物は、それ自体が違法であり、所持することが犯罪となります。そのため、事件が終わったからといって持ち主に返すことはありません。これらは廃棄や処分の対象となります。
犯罪によって得たもの|犯罪行為の報酬など
犯罪によって得た金銭や財産は、いわゆる「犯罪収益」にあたります。これらは押収された後、所有者に返還されることはなく、没収や追徴の対象となります。
例:詐欺で得た現金、薬物売買の利益など
被害者に返還すべきもの|横領した金品や盗品
押収品が被害者の所有物である場合、所有者である被害者に返されます。加害者に戻ることはなく、被害回復のために被害者へ還付されるのが原則です。
例:盗まれた現金や宝石、横領された会社の財産など
警察から押収品が返ってこないときの対処法
押収品は、事件の進行状況に応じて返還されるのが原則ですが、必ずしもスムーズに返ってくるとは限りません。「もう必要ないはずなのに返してもらえない」と感じる場合には、法的な手段を通じて返還を求めることができます。以下では、押収品の返還を求めるための代表的な方法を紹介します。
押収品の還付・仮還付請求
まず検討すべきは、還付請求と仮還付請求です。
①還付請求
還付請求とは、事件が終わって押収品の必要がなくなった場合に、正式に返還を求める手続です。事件が検察官に送致される前の段階なら管轄警察署の署長に、送致後であれば担当検察官に対して請求を行います。
②仮還付請求
借り還付請求とは、事件がまだ終わっていなくても、捜査に支障がない範囲で一時的に返してほしいと申し出る手続です。生活や仕事に欠かせない物(通帳、キャッシュカード、パソコン、スマホ、車など)は仮還付が認められることがあります。
いずれの場合も、弁護士を通じて請求を行うことで、返還がスムーズに進む可能性が高まります。
準抗告
還付請求や仮還付請求をしても警察・検察が応じてくれない場合には、裁判所に「準抗告」を申し立てる方法があります。
準抗告とは、裁判所に対して「押収の必要がもうないのに返してもらえないのは不当だ」と主張し、判断を求める手続です。裁判所が返還の必要性を認めれば、警察や検察に押収物の返還が命じられます。
押収品還付についての判例|最高裁令和4年7月27日決定
押収品の返還をめぐっては、警察や検察が「まだ捜査や証拠維持に必要だ」と主張し、所有者との間で争いになることがあります。以下では、押収品の還付について争われた判例を紹介します。
【事件の概要】
この事件では、被疑者が経営するナンパ方法を指導する塾に関する捜査の過程で、スマートフォンやICレコーダーなどが押収されました。これらの機器には、被害者女性の同意なく撮影・録音された画像や音声データが保存されており、プライバシーや名誉を大きく侵害するおそれがある内容でした。
被疑者は「既に捜査に必要はない」として還付を請求しましたが、検察官は拒否。さらに準抗告も棄却されたため、最終的に最高裁まで争われました。
【裁判所の判断】
最高裁は、押収品に含まれるデータが流出すれば被害者の名誉や人格を著しく害する危険性がある点を重視しました。
そのうえで、
| ・還付請求によって所有者が得られる利益は大きくない |
| ・一方で被害者には回復困難な不利益が生じるおそれがある |
と判断し、還付請求は「権利の濫用」と評価されるべきだとしました。結果として、検察官が返還を拒否した判断を支持し、還付は認められませんでした。
【実務上のポイント】
この判例から学べるのは、押収品の返還は「所有者の利益」だけでなく、「被害者の保護」や「社会的影響」も考慮されるという点です。
| ・証拠としての必要性がなくても、返還が被害者に重大な不利益を及ぼす場合には返還されない |
| ・裁判所は、所有者の権利行使が正当か、それとも濫用かを厳格に審査する |
つまり、押収品の還付請求は必ずしも認められるものではなく、事件の性質や押収品の内容によっては拒否される可能性があるのです。
警察による押収品の還付請求はグラディアトル法律事務所にお任せください

押収品の返還は、単に「事件が終われば自動的に返ってくる」というものではありません。実際には、警察や検察が「まだ必要だ」と判断して返還を拒否することがあり、所有者が強く希望してもなかなか応じてもらえないケースが少なくありません。さらに、仮還付や準抗告といった制度を利用する際には、法律の知識や適切な手続が欠かせます。
特に、スマートフォンやパソコンなど日常生活や仕事に不可欠なものが押収された場合、返還が遅れると生活基盤が大きく揺らぎます。そのため、できる限り早期に返還を実現することが重要です。しかし、個人で警察や検察に働きかけても、専門的な根拠や法的な主張が不足していると、返還を認めてもらえないことが多いのが現実です。
グラディアトル法律事務所では、刑事事件に豊富な経験を持つ弁護士が、押収品の還付請求を全面的にサポートいたします。押収品の返還問題は、生活の立て直しや仕事の継続に直結する重大な問題です。警察や検察の対応に疑問を感じたり、返してもらえないまま時間だけが過ぎている場合は、早めに弁護士へご相談ください。
まとめ
警察に押収された品物は、事件の終結時や還付の手続によって返還されるのが一般的ですが、凶器や薬物、被害者の財産など返ってこないものもあります。また、返還請求をしても警察や検察が応じないケースは少なくありません。その場合、準抗告など専門的な法的手段を取る必要があります。
グラディアトル法律事務所では、刑事事件に精通した弁護士が押収品の還付請求を全面的にサポートし、迅速な返還の実現を目指します。押収品が返ってこず生活や仕事に支障が出ている方は、一人で悩まず、ぜひ当事務所へご相談ください。
