任意同行の根拠と限界|根拠別の具体例と違法性判断のポイントを解説

任意同行の根拠と限界|根拠別の具体例と違法性判断のポイントを解説
弁護士 若林翔
2025年10月27日更新

「任意同行を求められたけれど、法的根拠はあるの?」

「任意同行に応じた方がいい?」

「任意同行を求められる具体的なケースを知りたい」

警察から突然「任意同行をお願いしたい」と告げられたら、動揺してしまう方も多いでしょう。また、任意同行と聞くと「実質的に逮捕されるのではないか」「拒否すると不利になるのではないか」と不安を感じる方も少なくありません。しかし、任意同行はあくまで任意の協力に基づく手続きであり、強制力のある逮捕や勾留とは根本的に異なります。

もっとも、任意同行の根拠となる法律には刑事訴訟法198条と警察官職務執行法2条の2種類があり、どちらに基づくかによって対応の仕方や意味合いが変わってきます。場合によっては、任意同行が長時間に及んだり、事実上の拘束に近い扱いを受けたりすることがあり、判例ではそうしたケースを違法と判断した例もあります。

本記事では、

・任意同行の2つの法的根拠と具体的な場面
・任意同行を拒否できるのか、その場合のリスクや注意点
・任意同行が違法と判断された裁判例

などをわかりやすく解説します。

突然任意同行を求められて不安を抱える方や正しい知識を身につけたい方はぜひ最後までお読みください。

任意同行の法的根拠には2種類ある

任意同行の法的根拠には2種類ある

任意同行の根拠となる法律には大きく分けて2種類があります。1つは刑事訴訟法198条に基づくもの、もう1つは警察官職務執行法2条に基づくものです。どちらも「任意」であることに変わりはありませんが、対象となる人や状況、警察側が任意同行を求める目的が異なります。まずは両者の違いを整理しておきましょう。

刑事訴訟法198条|犯罪の疑いがある人に対する任意同行

刑事訴訟法198条は、捜査機関が犯罪の嫌疑がある人に対して任意で事情を聴取できることを定めています。いわゆる「任意捜査」の一環であり、捜査対象となっている人を警察署などに同行して取調べをするケースが典型例です。

この場合、任意同行の目的は、犯罪事実の解明や証拠収集にあります。そのため、取調べが長時間に及ぶこともあり、実質的に逮捕・勾留に近い拘束と評価されるリスクもあります。判例でも、任意同行の範囲を逸脱すれば違法とされる可能性が指摘されています。

警察官職務執行法2条|警察官による職務質問からの任意同行

警察官職務執行法2条に基づく任意同行は、犯罪の嫌疑が明確になっていない段階で用いられます。警察官が職務質問を行う中で、その場での職務質問が本人にとって不利、または交通妨害になると判断した場合に、「交番や警察署で詳しく話を聞きたい」として任意同行を求めるケースです。

この場合の目的は、犯罪の予防や軽微な違反の確認など、比較的広い範囲に及びます。必ずしも捜査の対象者に限られず、周囲の事情を知る可能性がある人に同行を求めることもあります。

刑事訴訟法198条を根拠に任意同行を求められる具体的なケース

刑事訴訟法198条を根拠に任意同行を求められる具体的なケース

刑事訴訟法198条を根拠にした任意同行は、すでに具体的な犯罪の嫌疑がある場合に行われるのが特徴です。逮捕には至らないものの、警察が「関与の可能性が高い」と考えるときに用いられることが多いです。

実際に任意同行を求められる具体的なケースには、次のようなものがあります。

①窃盗事件の容疑がかけられている場合

防犯カメラ映像や目撃証言などから、ある人物に窃盗の嫌いがあると警察が判断したとき、任意同行を求めて事情聴取を行うことがあります。

②暴行・傷害事件で現場にいた場合

事件現場にいた人物について、被害者や周囲の証言から加害の可能性が疑われると、任意同行を求められることがあります。

③詐欺や横領などの経済事件に関与していると疑われる場合

口座取引記録や関係者の証言から一定の関与が推認できると、警察が任意同行を求めて詳しく事情を聴くケースがあります。

このように、刑事訴訟法198条を根拠とした任意同行は、単なる確認や事情聴取ではなく、具体的な犯罪の立証を目的とする点に特徴があります。場合によってはそのまま逮捕へとつながることもあるため、慎重な対応が必要です。

警察官職務執行法2条を根拠に任意同行を求められる具体的なケース

警察官職務執行法2条を根拠に任意同行を求められる具体的なケース

警察官職務執行法2条を根拠にした任意同行は、その場で質問を続けることが

・本人にとって不利になる場合
・交通妨害となる場合

に付近の警察署や交番などに任意同行を求められると規定されています。

つまり、警察官職務執行法2条に基づく任意同行は「その場で質問を続けることが適切ではない」と警察官が判断した場合に限られるのが特徴です。必ずしも明確な犯罪の嫌疑があるわけではなく、事情確認の延長線上で行われます。

実際に任意同行を求められる具体的なケースには、次のようなものがあります。

①人通りの多い駅前で職務質問を受けた場合

多くの人が行き交う場所で長時間質問を続けると、周囲の交通や店舗の営業を妨げる可能性があります。そのため、警察官が「ここでは不適切」と判断すれば、交番へ任意同行を求めることがあります。

②質問内容がプライバシーに関わる場合

たとえば、財布の中身や交友関係など、他人に聞かれたくないような内容をその場で尋ねることは本人に不利益となり得ます。このようなとき、よりプライベートな空間で事情を聴く目的で任意同行を求められることがあります。

③軽微な違反や不審行動の確認が必要な場合

たとえば、自転車の登録番号が合わないなど、その場での確認だけでは十分でないと判断された場合、詳細を確認するために交番に同行を求められることがあります。

このように、警職法2条に基づく任意同行は、あくまで「職務質問を適切な場所で行うための手段」として位置づけられています。そのため容疑者扱いというわけではなく、事件の関係者や目撃者に対しても行われることがあります。

ただし、同行後の事情聴取で新たな嫌疑が浮上すれば、刑事訴訟法198条に基づく任意同行や逮捕に発展するリスクもあるため注意が必要です。

任意同行は拒否できる?任意同行の根拠を踏まえた対応方法

任意同行は拒否できる?任意同行の根拠を踏まえた対応方法

任意同行という言葉のとおり、法律上はあくまで「任意」であり、同行を強制されるものではありません。したがって、刑事訴訟法198条や警察官職務執行法2条のいずれを根拠とする場合でも、基本的には拒否することが可能です。もっとも、実際には拒否が容易ではなく、対応を誤るとリスクもありますので注意が必要です。

任意同行を拒否できるがリスクもある

任意同行の要請は法的には強制ではありません。そのため、「同行を望まない」とはっきり意思表示すれば、原則として従う義務はありません。

ただし、現実の場面では次のようなリスクがあります。

①不審者扱いされる可能性

特に、警察官職務執行法2条を根拠とする場合、職務質問に十分に応じないまま拒否すると、不審な人物と判断され、その後も執拗に追及されるおそれがあります。

②逮捕につながることがある

刑事訴訟法198条を根拠とする場合、すでに犯罪の嫌疑が強い状況です。拒否した結果、警察が「逃亡や証拠隠滅のおそれがある」と判断すれば、逮捕に踏み切られるリスクも否定できません。

③現場で口論やトラブルになる可能性

強い態度で拒否すると、公務執行妨害など別の問題に発展するおそれもあります。

基本的には任意同行に応じるべき

上記のようなリスクを踏まえると、基本的には任意同行に応じた方が無難といえます。同行を拒否する権利はあるものの、拒否によって不利益を被る可能性が高いからです。

ただし、任意同行に応じる場合でも以下のような点に注意すべきです。

①「任意である」ことを確認する

「同行は任意ですか?」と確認し、強制力のない手続きであることを明らかにしておくとよいでしょう。

②長時間の取調べに及ぶ場合は退去を申し出る

本来、任意同行は任意であるため、取調べが長時間化して負担が大きい場合には退去を求めることが可能です。

③弁護士に連絡する

同行を求められた時点で弁護士に連絡しておくことで、不当な取扱いを防ぎやすくなります。特に、刑事訴訟法198条に基づく場合は、後に逮捕へ発展するリスクがあるため早めの相談が重要です。

判例からみる任意同行の違法性判断のポイント

判例からみる任意同行の違法性判断のポイント

任意同行はあくまで「任意」の手続きですが、実務上は長時間の事情聴取や宿泊を伴うような取扱いがされることもあり、任意の範囲を逸脱することがあります。このような場合、裁判所は「事実上の逮捕・勾留に当たる」として違法と判断することがあります。以下では代表的な判例を紹介します。

任意同行後の長時間の取り調べを違法と判断した判例|富山地裁昭和54年7月26日決定

【事案の概要】

この事件では、被疑者が出勤のため自宅を出たところ、警察官から「事情を聴取したい」と同行を求められました。被疑者は自家用車でついて行こうとしましたが、警察官の指示により警察車両に同乗し、警察署へ到着しました。

その後、取調べは午前8時頃から開始され、昼食・夕食時の各1時間程度の休憩をはさみつつ、翌日の午前0時過ぎまで実に15時間以上にわたって続けられました。しかも、取調室には立会人が常時配置され、被疑者は便所に行く際ですら監視がついており、外部との連絡も許されませんでした。

午後10時40分には逮捕状が請求・発布され、翌午前0時20分に執行されましたが、その時点まで被疑者は、事実上警察署内に拘束された状態に置かれていました。

【裁判所の判断】

裁判所は、任意同行後の取り調べについて以下のように判断しています。

・当初の同行には物理的強制の証拠はないものの、午後7時以降も深夜に及ぶ取調べが続き、被疑者の意思確認や退去の機会は与えられなかった

・立会人による常時看視などにより、被疑者は自由に退室できない状況にあった
・これは実質的に逮捕状によらない違法な逮捕である

そして、裁判所は、「令状主義の趣旨を没却する重大な違法であり、勾留請求も却下されるべき」と結論づけました。

【判例のポイント】

この判例から明らかなのは、任意同行と称しながら実際には退去の自由を奪い、長時間の取調べを行うことは違法な身体拘束に当たるという点です。警察が「任意」と説明していても、実質的に自由が制限されていれば違法とされ得ることを示す重要な例といえます。

任意同行後の宿泊を伴う取り調べの違法性を否定した判例|最高裁昭和59年2月29日決定

【事案の概要】

被疑者は、殺人事件の有力容疑者として任意同行を求められ、警察署で取調べを受けました。初日にはポリグラフ検査ののち自白趣旨の答申書を作成。その夜以降、警察手配の宿泊施設に計4泊し、署との往復は警察車両で送迎、初夜は同宿・近接監視、以降もホテル周辺で張り込みが行われました。

取調べは、午前から深夜までの長時間を連日5日間継続し、複数の供述調書・答申書が作成されています。その後いったん帰郷し、約2か月後に逮捕となりました。

【裁判所の判断】

任意捜査では強制手段は許されないが、本件では

①宿泊・送迎・監視

②長時間かつ連日の取調べ

といった問題点があるものの、被告人が明示に拒否・退去を申し出た形跡がないこと、初日の宿泊には被告人の申出趣旨の答申書があること、事案の重大性等を総合し、任意捜査の限界を越えた違法とまでは断じ難いとして、任意段階の供述の任意性・証拠能力を肯定しました。

【判例のポイント】

退去申出の有無だけでなく、宿泊先の手配、監視体制、送迎方法、長時間取調べといった外形的拘束の有無を総合的に評価して、任意同行後の取り調べの違法性が判断されています。

多数意見は、「違法とまでは断じ難い」とする一方、少数意見は、「任意の限界を超える違法」と強く批判していることから、裁判官によって評価が分かれる事案といえるでしょう。

違法な任意同行の疑いがあるときはすぐにグラディアトル法律事務所に相談を

違法な任意同行の疑いがあるときはすぐにグラディアトル法律事務所に相談を

任意同行はあくまで「任意」とされていますが、実際には長時間の取調べや外部連絡の制限など、事実上の拘束と変わらない状況に置かれることがあります。前章で紹介した判例のように、形式は任意でも実態が違法な逮捕にあたると判断されるケースは少なくありません。

しかし、一般の方がその場で「違法か適法か」を判断するのは非常に困難です。警察官から強い口調で求められれば、拒否するのは現実的に難しいでしょう。また、無理に抵抗してしまうと「逃亡のおそれがある」などと評価され、かえって逮捕につながるリスクも否定できません。だからこそ、早い段階で弁護士に相談し、自分の権利を守ることが何より重要です。

グラディアトル法律事務所は、刑事事件を数多く取り扱ってきた経験と実績を持ち、違法な任意同行や取調べへの対応にも精通しています。また、依頼者が不当に自由を奪われることがないよう迅速に動き、必要に応じて警察に対して毅然と意見を伝え、違法な手続きを是正するための法的措置を取ることができます。さらに、取調べ段階からサポートすることで、不利な供述を防ぎ、後の裁判や処分に大きな影響を与えるリスクを最小限に抑えることが可能です。

「これはおかしい」「任意同行に応じるべきか不安」と少しでも感じたら、迷わず当事務所にご連絡ください。早期の対応が、将来の大きな不利益を回避する第一歩となります。

まとめ

任意同行には、刑事訴訟法198条と警察官職務執行法2条という2つの根拠があります。いずれも「任意」である以上、応じるかどうかは本人の自由ですが、実際には長時間の取調べや宿泊を伴うケースなど、事実上の拘束が違法と判断された判例も存在します。警察の要請に安易に従ってしまうと、不利な供述を強いられたり、後に不当な処分につながる危険も否定できません。

任意同行を求められたときや、その対応に不安を感じたときは、すぐに刑事事件に強い弁護士へ相談することが大切です。グラディアトル法律事務所では、違法な取調べから依頼者を守り、適切な対応を徹底してサポートします。少しでも不安を抱えたら、一人で悩まず当事務所へご相談ください。

弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力。数多くの夜のトラブルを解決に導いてきた経験から初の著書「歌舞伎町弁護士」を小学館より出版。 youtubeやTiktokなどでもトラブルに関する解説動画を配信している。

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