「緊急逮捕をするにはどのような要件を満たす必要がある?」
「緊急逮捕と通常逮捕・現行犯逮捕との要件の違いとは?」
「緊急逮捕の要件を満たさない違法な逮捕をされたときはどうすればいい?」
逮捕には「通常逮捕」「現行犯逮捕」「緊急逮捕」の3種類があります。その中でも緊急逮捕は、裁判官による逮捕状がない段階でも警察官が被疑者を拘束できる手続きであり、通常逮捕と比べて強い人権制約を伴います。通常は逮捕状がなければ逮捕できないのに、緊急逮捕が認められるのは「時間的に余裕がなく、逮捕状を取る前に身柄を確保する必要がある」といった特別な事情がある場合に限られます。そのため、法律上も厳格な要件が設けられており、要件を満たさない緊急逮捕は違法と判断されることもあります。
実際に、裁判例でも「逮捕状の請求が遅れたため違法とされた事例」や「嫌疑が不十分で無効とされた事例」が存在します。万が一、ご自身やご家族がこうした要件を満たさない緊急逮捕を受けてしまった場合、適切な対応をとらなければ不当な身柄拘束が続く可能性もありますので注意が必要です。
本記事では、
・緊急逮捕の4つの要件 ・緊急逮捕と通常逮捕・現行犯逮捕との違い ・不当逮捕を受けた際の具体的な対処法 |
などをわかりやすく解説します。
緊急逮捕という手続きがどのような場面で認められるのかを正しく理解し、万が一の事態に備えていただければ幸いです。
目次
緊急逮捕の4つの要件

緊急逮捕は、裁判官の逮捕状をあらかじめ得ずに行うことができる例外的な逮捕手続きです。そのため、法律に基づき、厳格に定められた要件をすべて満たさなければなりません。以下では、緊急逮捕が認められる4つの要件を説明します。
一定の重大犯罪であること
緊急逮捕が認められるのは、死刑・無期懲役(拘禁刑)・長期3年以上の懲役または禁錮(拘禁刑)にあたる重大な犯罪に限られます。
たとえば、殺人罪・強盗罪・強制性交等罪・薬物犯罪などが典型例です。これらは社会的影響が大きく、被疑者の逃亡や証拠隠滅のリスクが高いため、緊急的に身柄を確保する必要があると考えられています。
罪を犯したと疑うに足りる充分な理由があること
警察が緊急逮捕を行うには、単なる「怪しい」というレベルでは足りません。
証拠や状況からみて、被疑者が犯罪を行ったと合理的に判断できるだけの充分な嫌疑が必要です。たとえば、現場に居合わせた証言、防犯カメラ映像、物的証拠など、客観的な根拠が伴わなければなりません。
急速を要し逮捕状を求める余裕がないこと
本来、逮捕には裁判官が発する逮捕状が不可欠です。しかし、証拠隠滅や逃亡のおそれが差し迫っており、裁判官に逮捕状を請求している間に逮捕の機会を失う危険がある場合には、例外的に緊急逮捕が認められます。
したがって、時間的余裕があるにもかかわらず緊急逮捕を行った場合、それは違法と判断される可能性が高くなります。
逮捕後直ちに逮捕状を請求すること
緊急逮捕が行われた場合でも、警察は被疑者を拘束した後、直ちに裁判官に逮捕状を請求しなければなりません。
これは、逮捕状による司法審査を後から受けることで、手続きの適法性を確保するためです。もし逮捕状の請求が遅れたり、そもそも逮捕状が発付されなければ、緊急逮捕は違法となり、被疑者は釈放されることになります。
緊急逮捕と他の逮捕との要件の違い
逮捕には「通常逮捕」「現行犯逮捕」「緊急逮捕」の3種類があります。いずれも被疑者の身体の自由を制約する重大な手続きですが、その要件や手続きには大きな違いがあります。以下では、緊急逮捕と他の逮捕との違いを整理してみましょう。
緊急逮捕と通常逮捕との違い
通常逮捕は、裁判官が発する逮捕状に基づいて行う逮捕です。被疑者を逮捕するには、被疑「罪を犯したと疑うに足りる相当な理由」を示し、あらかじめ裁判官の審査を経て逮捕状を得る必要があります。司法のチェックを受けるため、被疑者の権利が一定程度守られる仕組みになっています。
一方、緊急逮捕は、逮捕状が発付される前に被疑者を拘束できる例外的手続きです。要件を満たせば警察官が直ちに逮捕できる反面、逮捕後には必ず速やかに逮捕状を請求しなければなりません。もし逮捕状の発付が認められなければ、その時点で釈放されることになります。
つまり、通常逮捕は「事前に司法審査を受けて逮捕する」のに対し、緊急逮捕は「まず逮捕してから事後的に審査を受ける」という大きな違いがあります。
緊急逮捕と現行犯逮捕との違い
現行犯逮捕は、犯罪が行われている最中や直後に行う逮捕で、逮捕状は不要です。誰でも現行犯人を逮捕できるため、警察官に限らず一般市民にも認められています。
これに対して、緊急逮捕は「現行犯」ではなく、あくまで一定の重大犯罪に限定して認められる逮捕です。また、現行犯逮捕は逮捕状が不要なのに対し、緊急逮捕では逮捕後に必ず逮捕状を請求する必要があります。
つまり、現行犯逮捕は「誰でもできる即時の逮捕」であるのに対し、緊急逮捕は「警察が重大犯罪に限って行える特例の逮捕」という点で大きく異なります。
逮捕の種類ごとの要件の違いまとめ
通常逮捕 | 現行犯逮捕 | 緊急逮捕 | |
---|---|---|---|
要件 | ①罪を犯したと疑うに足りる相当な理由 ②逃亡または証拠隠滅のおそれがあること | 犯罪が行われている最中または直後 | ①重大犯罪であること ②充分な嫌疑があること ③逮捕状請求の余裕がないこと ④逮捕後直ちに逮捕状請求すること |
逮捕状の有無 | 必要 (事前に裁判官が発付) | 不要 | 不要(ただし逮捕後に直ちに請求) |
誰が逮捕できるか | 捜査機関 | 誰でも可能 | 捜査機関 |
対象となる犯罪 | 制限なし | 制限なし | 死刑・無期・長期3年以上の懲役/禁錮(拘禁刑) |
特徴 | もっとも原則的な逮捕方法 | 犯行が明白なため即時に身柄を確保できる | 例外的な制度であり、厳格な要件を満たさなければ違法とされる |
緊急逮捕の要件を満たさず違法と判断された裁判例の紹介
緊急逮捕は、被疑者の自由を強く制約するため、厳格な要件が課されています。そのため、要件を欠いた逮捕は裁判所によって違法と判断されることがあります。以下では、違法と判断された代表的な2つの裁判例を紹介します。
逮捕状の請求が遅れた事案|京都地裁昭和45年10月2日決定
被疑者は、傷害事件の被疑事実で緊急逮捕されましたが、逮捕状の請求が実際に行われたのは約12時間30分後でした。刑事訴訟法210条は「直ちに裁判官の逮捕状を求める手続をしなければならない」と定めており、この「直ちに」の解釈が問題となりました。
裁判所は、「直ちに」とは単に時間の長短だけでなく、事件の性質、被疑者の状況、裁判所との距離、夜間かどうかといった事情も総合的に考慮すべきであると指摘しました。その上で、本件では深夜に裁判所が「翌朝でよい」と指示した経緯があり、手続の遅延は不適切ではあるものの、勾留請求を却下するほどの重大な違法ではないと判断しました。
この決定は、「緊急逮捕後の逮捕状請求はできる限り速やかに行う必要がある」とする厳格な基準を示しつつも、現実的な運用上やむを得ない事情がある場合には、勾留請求を却下するほどの重大な違法とまではいえないことを示したものです。
充分な嫌疑が認められなかった事案|神戸地裁昭和46年9月25日決定
この事件では、警察官が被疑者宅を捜索中に「数字などが書かれたメモ用紙」を発見し、これを根拠に被疑者を競馬法違反(勝馬投票類似行為)の容疑で緊急逮捕しました。
しかし裁判所は、
・メモが被疑者自身の作成によるものと認められなかったこと
・「11」という記載は競馬以外(たとえば競艇)でも存在し得ること
・メモ一枚だけでは被疑者が「胴元」であることを断定できず、むしろ「客」としての関与の可能性もあること、
などを理由に、逮捕当時に「罪を犯したと疑うに足りる充分な理由」が存在したとはいえないと判断しました。
さらに、緊急逮捕に際しては「急速を要して令状を求められない理由」を告知すべきところ、それも行われていなかったと認定しています。
その結果、裁判所は、緊急逮捕は刑事訴訟法210条1項に違反する違法なものと認定し、これを前提とした勾留は許されないとして、勾留請求を却下しました。
緊急逮捕の要件を満たさない不当逮捕をされたときの対処法

緊急逮捕はあくまで「例外的な手続き」です。そのため、要件を満たさないまま行われた逮捕は違法であり、憲法で保障される人身の自由を侵害する重大な問題となります。もし自分や家族が緊急逮捕された場合には、次のような対応を速やかにとることが重要です。
捜査機関に抗議して早期釈放を求める
まず考えられるのは、弁護士を通じて警察や検察に抗議を申し入れることです。
逮捕の根拠となる嫌疑が不十分であったり、令状を待てないほどの緊急性がなかったりする場合には「逮捕は違法である」と主張し、早期の釈放を求めることが可能です。
実務上、警察や検察は、批判を受けることを避けたいという心理もあり、弁護士からの強い抗議によって釈放が実現することも少なくありません。家族はできるだけ早く弁護士に連絡し、抗議の準備を進めることが大切です。
検察官や裁判官に意見書を提出して勾留を阻止する
緊急逮捕の直後には、検察官が裁判官に対して勾留を請求することがあります。勾留が認められると、最大で20日間身柄を拘束される可能性があるため、この段階での対応が非常に重要です。
弁護士は「緊急逮捕の要件を満たしていない」「逮捕状を待てない事情は存在しなかった」といった主張を整理した意見書を裁判官に提出します。裁判官がこれを認めれば、勾留請求は却下され、そのまま釈放されることになります。実際に裁判例でも、違法な緊急逮捕を前提にした勾留が否定された例は少なくありません。
つまり、この段階での法的対応は自由を取り戻すための重要な鍵となります。
勾留に対する準抗告の申立てをする
万が一、裁判所が勾留を認めてしまった場合でも、まだ手段は残されています。それが「準抗告」という不服申立てです。
これは、勾留決定の当否を改めて裁判所に判断させる手続きで、違法な緊急逮捕に基づく勾留であれば取り消される可能性があります。たとえば、神戸地裁の裁判例では、緊急逮捕時の嫌疑が不十分であったことや告知義務が守られていなかったことを理由に、勾留決定を取り消す判断が示されています。
準抗告は一見ハードルが高いように思えますが、弁護士が具体的な事実や手続き上の瑕疵を指摘すれば、実際に釈放に至るケースもあるのです。
緊急逮捕されてしまったときはすぐにグラディアトル法律事務所に相談を

緊急逮捕はある日突然行われます。本人はもちろん、家族もどう動いてよいか分からず大きな不安に陥ります。警察に身柄を拘束されると外部との連絡が制限され、状況を誤解されたまま捜査や手続きが進んでしまう危険があります。だからこそ、刑事事件に精通した弁護士に一刻も早く相談することが欠かせません。
グラディアトル法律事務所は刑事事件の対応実績が豊富で、逮捕・勾留に関する弁護活動も得意としています。24時間365日の相談体制を整え、全国どこでも迅速に駆けつけられる機動力があります。また、刑事事件に精通した複数の弁護士が在籍しており、裁判例や実務を踏まえた戦略的な対応を行うことが可能です。
さらに、逮捕された本人が連絡を取れない場合でも、家族からの依頼で弁護士に相談できます。弁護士は速やかに本人と接見し、事件の見通しを説明した上で必要な対応を開始します。「どうしたらよいか分からない」と悩むよりも、まずは専門家に任せることが最善の解決への第一歩です。
緊急逮捕は違法に行われるケースもあり、適切な弁護活動によって早期釈放や勾留阻止が実現する可能性も十分あります。突然の逮捕に直面した際は、迷わずグラディアトル法律事務所に相談してください。
まとめ
緊急逮捕は、裁判官の令状なしで身柄を拘束できる例外的な制度ですが、その分濫用の危険もあり、違法と判断されるケースも存在します。逮捕直後の対応次第で、その後の勾留や裁判の流れは大きく変わります。警察や検察と一人で向き合うのは極めて困難であり、専門知識をもつ弁護士の支援が不可欠です。
グラディアトル法律事務所は、刑事事件に豊富な経験を持つ弁護士が迅速に対応し、早期の釈放や不当な手続きの是正を目指します。もし突然の緊急逮捕に直面した場合は、迷わず当事務所までご相談ください。