緊急逮捕できない罪とは?対象外の罪と他の逮捕手続きとの違いを解説

緊急逮捕できない罪とは?対象外の罪と他の逮捕手続きとの違いを解説
弁護士 若林翔
2025年09月16日更新

「緊急逮捕の対象となる犯罪には何がある?」

「緊急逮捕できない罪とは?」

「緊急逮捕と他の逮捕手続との違いを知りたい」

逮捕には「通常逮捕」「現行犯逮捕」「緊急逮捕」の3種類がありますが、このうち緊急逮捕は誰にでも適用されるわけではありません。法律上、緊急逮捕が認められるのは死刑・無期、または長期3年以上の懲役・禁錮(拘禁刑)に当たる重大な犯罪に限られており、それ以外の比較的軽い犯罪では緊急逮捕はできないとされています。

では、どのような罪が「緊急逮捕できない罪」にあたるのでしょうか。また、緊急逮捕ができない場合には、どのような逮捕手続きがとられるのでしょうか。

本記事では、

・緊急逮捕できない罪の具体例
・緊急逮捕できる罪の具体例
・現行犯逮捕や通常逮捕など他の逮捕手続きとの違い

などを詳しく解説します。

緊急逮捕が行われる場面を正しく理解するためにもぜひ最後までお読みください。

緊急逮捕は一定の重大な犯罪に限って認められている逮捕手続き

緊急逮捕とは、裁判官の逮捕状を請求する時間的余裕がない場合に、例外的に逮捕状なしで行える逮捕手続きのことです。通常、逮捕を行うには裁判官が発する逮捕状が必要ですが、捜査の緊急性が極めて高い場合には、この手続きが利用されることがあります。

ただし、緊急逮捕が認められるのはごく限られた場合にとどまります。刑事訴訟法210条では、「死刑、無期、または長期3年以上の懲役・禁錮(拘禁刑)にあたる犯罪」についてのみ緊急逮捕を可能と定めています。これは、緊急逮捕が令状主義の例外にあたるため、対象を重大な犯罪に限定することで、人権侵害の危険を最小限に抑える趣旨によるものです。

たとえば、殺人罪や強盗罪、傷害致死罪などは重大性が高いため緊急逮捕の対象に含まれます。一方で、暴行罪や脅迫罪、公然わいせつ罪のように法定刑が比較的軽い犯罪は、緊急逮捕の対象外とされます。

緊急逮捕できない罪一覧

緊急逮捕は死刑・無期、または長期3年以上の懲役・禁錮(拘禁刑)にあたる犯罪に限って認められます。したがって、法定刑が軽い犯罪については、どれほど捜査の必要性があっても緊急逮捕を行うことはできません。以下では、代表的な「緊急逮捕できない罪」の例を紹介します。

罪名法定刑
脅迫罪2年以下の懲役(拘禁刑)または
30万円以下の罰金
暴行罪2年以下の懲役(拘禁刑)または
30万円以下の罰金や拘留、科料
公然わいせつ罪6月以下の懲役(拘禁刑)または
30万円以下の罰金や拘留、科料
軽犯罪法違反拘留または科料

脅迫罪

脅迫罪は、人に対して生命・身体・自由・名誉または財産に対し害を加える旨を告知して脅す行為を処罰するものです。

法定刑は、2年以下の懲役(拘禁刑)または30万円以下の罰金であり、長期3年以上には該当しません。したがって緊急逮捕はできません。

暴行罪

暴行罪は、人に対して有形力を行使する行為を処罰するもので、傷害に至らない程度の暴力が対象となります。

法定刑は、2年以下の懲役(拘禁刑)または30万円以下の罰金、拘留または科料と軽いため、緊急逮捕はできません。

公然わいせつ罪(6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金や拘留、科料)

公然わいせつ罪は、公然とわいせつな行為をすることで処罰されます。公共の場での露出行為などが典型例です。

法定刑は、6月以下の懲役(拘禁刑)または30万円以下の罰金、拘留または科料にとどまるため、緊急逮捕はできません。

軽犯罪法違反

軽犯罪法は、社会的な秩序を乱すような比較的軽微な行為(例:正当な理由なく他人の住居付近をうろつく、公共の場での迷惑行為など)を処罰する法律です。

軽犯罪法違反の法定刑は、拘留または科料と非常に軽いため、当然ながら緊急逮捕はできません。

このように、緊急逮捕ができない罪は「法定刑が軽い」という特徴があります。もっとも、これらの罪であっても現行犯逮捕や通常逮捕は可能であるため、犯罪行為をしたからといって「逮捕されない」というわけではありません。

緊急逮捕できる罪一覧

緊急逮捕は、死刑・無期、または長期3年以上の懲役(拘禁刑)にあたる犯罪に限って認められています。したがって、殺人や強盗などの重大事件については、緊急逮捕が行われる可能性があります。以下では代表的な「緊急逮捕できる罪」とその法定刑を紹介します。

罪名法定刑
殺人罪死刑または無期、5年以上の拘禁刑
現住建造物等放火罪死刑または無期、5年以上の拘禁刑
不同意わいせつ罪6月以上10年以下の拘禁刑
不同意性交等罪5年以上の有期拘禁刑
傷害罪15年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金
傷害致死罪3年以上の有期拘禁刑
窃盗罪10年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金
強盗罪5年以上の有期拘禁刑
強盗致傷罪無期または6年以上の拘禁刑
強盗致死罪死刑または無期拘禁刑
詐欺罪10年以下の拘禁刑
器物損壊罪3年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金、科料

殺人罪・現住建造物等放火罪

生命を奪う殺人罪や、住居に放火して多数の死傷者を生じさせ得る放火罪は極めて重大で、死刑や無期刑も規定されており緊急逮捕の対象です。

不同意わいせつ罪・不同意性交等罪

相手の同意を得ずにわいせつ行為や性交をする犯罪で、被害者の心身に重大な影響を与えるため、強制捜査の必要性が高く緊急逮捕が可能です。

傷害罪・傷害致死罪

傷害罪は他人を負傷させる犯罪、傷害致死罪はその結果死亡させる犯罪で、いずれも人の身体や生命を侵害する重大な犯罪のため緊急逮捕の対象となります。

窃盗罪・詐欺罪

窃盗罪は財物を盗む行為、詐欺罪は人をだまして財産を得る犯罪で、いずれも法定刑が長期3年以上に及ぶため緊急逮捕が可能です。

強盗罪・強盗致傷罪・強盗致死罪

強盗は暴行や脅迫を伴う重大な財産犯で、負傷させれば強盗致傷、死亡させれば強盗致死となり、極めて重い刑罰が科され緊急逮捕の対象です。

器物損壊罪

他人の物を壊す行為を処罰する犯罪で、軽い印象があるものの「3年以下の懲役(拘禁刑)」が規定され、長期3年以上に該当するため緊急逮捕が可能です。

緊急逮捕できない罪でも現行犯逮捕や通常逮捕は可能|他の逮捕手続きとの違い

緊急逮捕できない罪でも現行犯逮捕や通常逮捕は可能|他の逮捕手続きとの違い

緊急逮捕が認められない罪であっても、逮捕が一切できないわけではありません。状況によっては現行犯逮捕や通常逮捕といった別の手続きにより身柄拘束される可能性があります。以下では、それぞれの逮捕方法と緊急逮捕との違いを詳しく説明します。

 通常逮捕現行犯逮捕緊急逮捕
要件①罪を犯したと疑うに足りる相当な理由②逃亡または証拠隠滅のおそれがあること犯罪が行われている最中または直後①重大犯罪であること②充分な嫌疑があること③逮捕状請求の余裕がないこと④逮捕後直ちに逮捕状請求すること
逮捕状の有無必要(事前に裁判官が発付)不要不要(ただし逮捕後に直ちに請求)
誰が逮捕できるか捜査機関誰でも可能捜査機関
対象となる犯罪制限なし制限なし死刑・無期・長期3年以上の懲役/禁錮(拘禁刑)
特徴もっとも原則的な逮捕方法犯行が明白なため即時に身柄を確保できる例外的な制度であり、厳格な要件を満たさなければ違法とされる

現行犯逮捕と緊急逮捕の違い

現行犯逮捕とは、犯罪が行われている最中や行為直後に、犯罪事実が明白な場合に行われる逮捕のことです。大きな特徴は、裁判官の逮捕状が不要である点です。現場で犯罪が発覚しているため、証拠が明白であり逃亡や証拠隠滅の危険も高いことから、迅速に逮捕できる制度が整えられています。また、現行犯逮捕は警察官だけでなく一般人でも行うことが可能であり、いわゆる「私人逮捕」もこの仕組みに基づきます。

一方、緊急逮捕は犯罪発生の瞬間に限られるものではなく、一定の重大犯罪であれば犯罪後であっても認められる制度です。ただし、対象となる犯罪は死刑や無期、または長期3年以上の懲役・禁錮(拘禁刑)に限られています。また、現行犯逮捕と異なり、緊急逮捕はあくまで警察や検察など捜査機関にしか認められていません。

つまり、現行犯逮捕は犯罪の現場性と明白性に基づくもので、対象犯罪に制限はほとんどありませんが、緊急逮捕は「重大犯罪」という制限の下でのみ利用できる点が大きな違いです。

通常逮捕と緊急逮捕の違い

通常逮捕とは、被疑者が罪を犯した「嫌疑」があり、かつ逃亡や証拠隠滅のおそれがある場合に、裁判官の逮捕状を得て行う逮捕です。日本の刑事手続きにおいてはこれが原則的な逮捕方法であり、憲法の令状主義を最も忠実に体現しています。逮捕状は裁判官が警察や検察の請求を審査して発付するため、手続きの公正さや人権保障が確保される仕組みになっています。

一方で、緊急逮捕は逮捕状を請求する時間的余裕がない場合に限り認められる例外的な制度です。裁判官の関与を経ずに捜査機関が逮捕を行うため、濫用防止の観点から対象となるのは重大犯罪に限られます。また、緊急逮捕をした場合でも、直ちに裁判官に逮捕状を請求し、令状審査を受けなければなりません。

つまり、通常逮捕と緊急逮捕の違いは、逮捕状を取得してから逮捕するか、それとも緊急性を理由に先に逮捕して後から令状を整えるかにあります。緊急逮捕はあくまで「例外」であり、通常は裁判所のチェックを受けたうえで逮捕が行われるという原則を理解しておくことが重要です。

緊急逮捕されたときはすぐにグラディアトル法律事務所に相談を

緊急逮捕されたときはすぐにグラディアトル法律事務所に相談を

緊急逮捕は、裁判官の逮捕状がなくても一時的に身柄を拘束されるという強力な制度です。適用されるのは重大犯罪に限られますが、実際に緊急逮捕されてしまった場合、ご本人やご家族にとって大きな精神的負担となります。また、突然の逮捕により、職場や学校に行けなくなる、家族に迷惑が及ぶ、社会的信用を失うといった深刻な影響が生じかねません。

さらに、一度逮捕されると身柄拘束が長期化する可能性があるため、初動対応を誤ると前科がつくリスクや、不利な証拠が固められる危険が高まります。

こうした状況で頼れるのが刑事事件に強い弁護士です。弁護士は、逮捕直後から接見を行い、被疑者の権利を守るために活動します。警察や検察の取り調べにおける適切なアドバイス、違法・不当な取り調べに対する抗議、逮捕の必要性がないことを主張する弁護活動などを通じて、早期釈放を目指すことができます。また、被害者との示談交渉を速やかに進めることで、不起訴処分や刑罰の軽減につながる場合もあります。

グラディアトル法律事務所は、刑事弁護に特化した経験豊富な弁護士が所属し、緊急逮捕に関する相談にも迅速に対応しています。ご本人だけでなく、ご家族からのご依頼にも対応可能で、突然の逮捕という緊急事態においても安心してサポートを受けられる体制を整えています。

もしご自身や大切な方が緊急逮捕されてしまった場合、時間との勝負となります。できる限り早く弁護士に相談し、適切な対応をとることが前科回避や早期の社会復帰につながります。

逮捕の不安を一人で抱え込まず、まずは刑事弁護に精通した弁護士へご相談ください。

まとめ

緊急逮捕は、令状主義の例外として重大犯罪に限って認められる逮捕手続きです。対象となるのは殺人や強盗、不同意性交等罪などであり、脅迫罪や暴行罪、公然わいせつ罪といった比較的軽い犯罪では緊急逮捕はできません。ただし、これらの罪でも現行犯逮捕や通常逮捕は可能であり、「緊急逮捕できない=逮捕されない」というわけではありません。

万が一、緊急逮捕された場合には、その後の手続きが勾留や起訴につながる危険があるため、初動対応が極めて重要です。ご本人やご家族が逮捕に直面した際には、一刻も早く刑事事件に強い弁護士へ相談し、適切な弁護を受けることが前科回避や早期釈放につながります。

グラディアトル法律事務所では、緊急逮捕に関するご相談を24時間体制で受け付け、迅速な接見と弁護活動を行っています。突然の逮捕で不安を抱える方は、迷わず当事務所にご相談ください。

弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。

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