店舗でのクレームや爆破予告などが「威力業務妨害罪」にあたることをご存知でしょうか?
威力業務妨害罪は、暴力や脅迫などの「威力」を用いて他人の業務を妨害する犯罪で、3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が科される可能性があります。
SNSへの書き込みや執拗な電話など、日常的なトラブルから発展するケースも多く、逮捕率は43%と比較的高い水準です。
本記事では、威力業務妨害罪の成立要件から具体的な事例、逮捕事例、そして万が一の場合の対処法まで分かりやすく解説します。
ぜひ、この記事を読んで「威力業務妨害罪」の正しい知識を身につけてください。。
※令和7年6月1日より、従来の「懲役・禁錮」が「拘禁刑」に1本化されました。
目次
威力業務妨害罪とは?
威力業務妨害罪とは、暴力や脅迫などの「威力」を使って、他人の業務を妨害すると成立する犯罪です。
「信用及び業務に対する罪」として定められており、「偽計業務妨害罪」とあわせて「業務妨害罪」と呼ばれています。
(信用毀損及び業務妨害)
第二百三十三条 虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、三年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
(威力業務妨害)
第二百三十四条 威力を用いて人の業務を妨害した者も、前条の例による。
威力業務妨害罪が成立するケースの例
威力業務妨害罪が成立するのは、「目に見える形」で業務を妨害した場合です。具体的には次のようなケースが該当します。
■威力業務妨害罪が成立する行為(例)
・会社に脅迫的な電話を繰り返しかける
・SNSで「爆破する」と予告して施設を閉鎖に追い込む
・デパートの食堂でヘビを撒き散らす など
威力業務妨害罪の法定刑
威力業務妨害罪の法定刑は、3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金です。
起訴後に「罰金刑」となる事件は約10%、拘禁刑(懲役)が科される事件が約82%です。執行猶予付き判決となる可能性が高いですが、実刑で刑務所に収監されるケースもあります。
■令和6年に有罪判決となった事件の終局区分
合計 | 罰金 | 懲役 (実刑) | 懲役 (執行猶予) | 無罪 | 移送その他 | |
---|---|---|---|---|---|---|
信用及び業務に対する罪 | 119件 | 12件 | 26件 | 71件 | 6件 | 4件 |
(割合) | 100% | 10% | 22% | 60% | 5% | 3% |
(出典:裁判所|令和6年 司法統計年報(刑事編)を加工して作成)
威力業務妨害罪の構成要件(成立要件)
威力業務妨害罪が成立するためには、以下3つの要件をすべて満たす必要があります。1つでも欠けていれば、威力業務妨害罪は成立しません。
①「威力を用いた」こと
「威力」とは、人の意思を抑圧するに足りる勢力のことです。
暴力や脅迫などの物理的な力だけではなく、社会的・心理的な圧力も含まれます。
イメージとしては、「目に見える形で相手にプレッシャーをかける」と考えると分かりやすいかもしれません。
■「威力」となりうる行為の例
・線路に大量の空き缶を置く
・神社に「火事で全焼するぞ」とメールする
・車を8か月も有料駐車場に放置する
・サッカーの試合を妨害するためのバイトを募集する
・公園で加工したロケット花火を爆発させる
・警察署近くに爆竹を投げる
・会社の前で大声で叫ぶ など
なお、虚偽の口コミや噂を流すなど、目に見えない形で業務を妨害した場合は偽計業務妨害罪になります。
②「人の業務」があること
「業務」とは、人が社会的な地位に基づき、反復・継続している行為全般を指します。営利目的の活動だけでなく、NPO活動や宗教活動なども含まれます。
違法な業務も保護の対象です。たとえば、風営法に違反して営業しているパチンコ店や、無許可で営業している飲食店の業務を妨害した場合でも、威力業務妨害罪は成立します。
他方、警察官の逮捕などの「権力的な公務」は業務にはあたりません。権力的な公務を妨害した場合は、威力業務妨害罪ではなく「公務執行妨害罪」となります。
③「妨害した」こと
「妨害」とは、業務の円滑な遂行を困難にすることです。
現実に妨害された必要はなく、業務を妨害するに足りる行為があれば、「妨害した」と認められます。
たとえば、ショッピングセンターに爆破予告をした場合、実際に休業していなくても、「爆破する」と告げた時点で威力業務妨害罪が成立する可能性があります。
公務執行妨害・偽計業務妨害罪との違い
ここまで威力業務妨害罪について説明してきましたが、実際の事件では「偽計業務妨害罪」や「公務執行妨害罪」との区別が問題となりやすいです。
それぞれの違いを、以下の表にまとめました。
項目 | 威力業務妨害罪 | 偽計業務妨害罪 | 公務執行妨害罪 |
---|---|---|---|
妨害の手段 | 目に見える妨害 ・暴行や脅迫 ・社会的、心理的な圧力 など | 目に見えない妨害 ・虚偽の風説を流布 ・嘘やウワサなど | 暴行・脅迫 (公務員に対する有形力の行使) |
妨害の対象 | 民間の業務+強制力のない公務 | 民間の業務+強制力のない公務 | 公務員が行うすべての業務 |
具体例 | ・店で大声で怒鳴る ・爆破予告をする ・会社の前で騒ぐなど | ・虚偽の口コミを投稿する ・虚偽の通報をするなど | ・逮捕を暴力で拒む ・市役所の職員を突き飛ばす など |
「威力業務妨害罪」と「偽計業務妨害罪」の違いは、妨害の手段です。
「嘘の口コミを投稿する」など、目に見えない形での妨害なら偽計業務妨害罪が、「店内で怒鳴りちらす」など、目に見える形での妨害なら「威力業務妨害」が成立します。
「公務執行妨害罪」との違いは、妨害の対象です。
民間企業の警備員を突き飛ばせば威力業務妨害罪が、警察官を突き飛ばせば公務執行妨害罪が成立します。
ただし、公務員が相手でも、市役所の窓口対応のように強制力を伴わない業務なら、威力業務妨害罪の対象にもなりえます。
威力業務妨害罪は逮捕される?
威力業務妨害罪に該当する行為をしてしまった場合、逮捕されるのか気になる方も多いでしょう。ここからは、逮捕率と実際の逮捕事例を説明します。
威力業務妨害罪(信用毀損・業務妨害)の逮捕率は43%
威力業務妨害罪を含む「信用毀損・業務妨害」の逮捕率は43%です。刑事事件全体の逮捕率37%なので、少し高めの水準といえるでしょう。
総数 | 逮捕された件数 | 逮捕率 | |
---|---|---|---|
信用毀損・業務妨害 | 947件 | 411件 | 43% |
(出典:検察庁|検察統計調査を加工して作成)
逮捕されるかどうかは、事件の悪質性、証拠隠滅や逃亡のおそれ、被害の程度などが総合的に判断されて決定します。
威力業務妨害罪の逮捕事例
威力業務妨害罪で逮捕される行為は多岐にわたります。
ストレスや一時的な感情が引き金となり、誰もがついやってしまいそうな行動で逮捕されるケースも多いです。
■威力業務妨害罪で逮捕されたケース
京都市右京区の神社に多数の脅迫メールを送りつけたとして、京都府警は3日、滋賀県野洲市の無職の男(38)を脅迫と威力業務妨害の疑いで逮捕し、発表した。「神社が生成AIを用いて公式アカウントのアイコン画像を制作したことに腹を立てた」と容疑を認めているという。(引用:朝日新聞)
・動機:生成AIでアイコンを作成したことに腹を立てた
・逮捕された行為:脅迫メールの送信
東京モノレールの高架下で新聞紙などに放火し、東京モノレール職員に点検などをさせたとして、警視庁は住居・職業不詳の◯◯容疑者(41)を威力業務妨害の疑いで逮捕し、12日発表した。「私生活がうまく行かず、ストレスを解消するためだった」と容疑を認めているという。(引用:朝日新聞)
・動機:私生活上のストレス発散
・逮捕された行為:高架下で新聞紙を燃やす
コインパーキングの料金未払いを繰り返したとして、京都府警捜査4課と中京署は9日、威力業務妨害の疑いで、京都市山科区、無職の男(22)を逮捕した。
逮捕容疑は、昨年10月10~24日、中京区木屋町通三条下ルのロックやゲートのないコインパーキングで、料金を支払う意思なく乗用車を6回駐車し、管理会社の業務を妨害した疑い。「お金を払うのが嫌だった」と容疑を認めているという。(引用:京都新聞)
・動機:お金を払うのが嫌だった
・行為:コインパーキングの料金未払いを繰り返す
脅迫メールから料金未払いまで、威力業務妨害罪となる行為は幅広く、日常的なトラブルから発展することもあります。
次章では、実際に逮捕された場合にどのような流れになるのかを説明します。
威力業務妨害罪で逮捕された場合の流れ
威力業務妨害罪で逮捕されると、その後は決められた手続きに沿って進んでいきます。
逮捕されると、まず警察署で取り調べを受けます。
その後、48時間以内に事件が検察官に送られ、さらに24時間以内に身柄拘束が続けられるか(勾留するか)、釈放されるかが決まります。
この72時間が、逮捕後すぐに釈放されるか、あるいは長期間拘束されるかのターニング・ポイントです。
勾留されなければ自宅に帰れますが、勾留が決定すると最大20日間の身柄拘束が続くことになります。この勾留期間中に検察官が捜査を進め、起訴するか不起訴にするかを決定するのです。
どのような行為をしたのか、業務にどの程度の支障が生じたのか、被害の状況はどの程度かなどが詳しく捜査されるでしょう。
刑事事件では、起訴後の有罪率が99%を超えているため、まずは起訴を回避するために全力を尽くすことが必要です。
■逮捕〜裁判までの流れのイメージ
段階 | タイミング | 内容 |
---|---|---|
① 逮捕〜取り調べ | 逮捕から48時間以内 | ・弁護士の接見 ・警察の取り調べ |
② 検察へ送られる (送致) | 逮捕から72時間以内 | ・検察による取り調べ |
③ 勾留請求 | 逮捕から72時間以内 | ・裁判官が勾留を許めると10日間身柄拘束 ・不許可なら釈放 |
④ 取調べ・証拠収集 | 10日間(最大20日間) | ・検察・警察による取調べが続く |
⑤ 起訴決定 | 逮捕から13日間以内 (延長されると23日間) | ・起訴されると、公判へ ・不起訴になると釈放 |
⑥ 公判(刑事裁判)〜判決 | 起訴〜数か月後 | |
⑦ 刑の執行 | ・実刑なら刑務所へ ・罰金、執行猶予付き判決なら自宅へ |
威力業務妨害罪が成立する行為をしてしまったらどうすればいい?
威力業務妨害罪に該当する行為をしてしまった場合、現在の状況によって取るべき対応が変わります。
「まだ事件化していない」「警察から連絡があった」「すでに逮捕されている」という3つの状況に分けて、どのように行動すべきかを説明します。
まだ事件化していない場合
この段階では、被害者への謝罪が最も重要になります。
誠意を持って謝罪し、被害弁償を申し出れば、被害届の提出を防げる可能性が高いからです。被害届の提出を防げれば、かなりの確率で刑事事件化を防げます。
ただし、謝罪の方法を間違えると、かえって事態を悪化させることもあります。被害者がお店なら責任者に連絡して謝罪の機会をもらう、SNSなら投稿を削除して謝罪文を掲載するなど、適切な方法を選ぶことが必要です。
今後どのようなリスクがあるのか、証拠となるものは何かなども整理しておきましょう。逮捕にいたる可能性が少しでもありそうなら、弁護士に相談しておくことを推奨します。
警察から連絡があった場合
警察から連絡があっている場合は、速やかに弁護士へ相談してください。
この段階で最も注意すべきは、警察に不利な供述をしないことです。
特に、事実関係を争う場合(犯罪を認めない場合)は、「相手を困らせてやろうと思った」など、威力業務妨害を認める発言は避けるべきです。
刑事事件に強い弁護士へ依頼して、法的な観点からアドバイスを受けましょう。
すでに逮捕されている場合
この記事を読んでいるのがご家族で、ご本人が逮捕されている場合は、すぐに弁護士への依頼が必要です。
逮捕後は時間との勝負になります。まず弁護士が本人のもとへ接見に向かい、72時間以内の釈放を目指しながら、早期釈放と不起訴処分獲得に向けて動きます。
並行して、被害者との示談交渉も弁護士を通じて進めていきます。示談が成立すれば、早期釈放・不起訴の可能性が高くなるからです。
他にご家族ができることとして、身元引受人になる準備、勤務先への連絡なども必要です。
威力業務妨害罪にあたる行為をしてしまったら、グラディアトル法律事務所へご相談ください
威力業務妨害罪にあたる行為をしてしまった方、またはご家族が逮捕された方は、ぜひ弊所グラディアトル法律事務所にご相談ください。
威力業務妨害罪は、一時的な感情から発展することが多く、逮捕率も43%と高めの犯罪です。しかし、すぐに適切に対応すれば、事件化を防いだり、不起訴処分を獲得できる可能性は十分にあります。
私たちグラディアトル法律事務所は、これまで数多くの刑事事件を解決に導いてきた実績ある法律事務所です。
威力業務妨害事件に精通した弁護士が、依頼者の利益を「勝ち取る」ために、充実した刑事弁護を提供いたします。
■威力業務妨害罪で困っている方のために、グラディアトル法律事務所ができること
・被害者への謝罪や示談交渉を行い、逮捕を防ぐ
・警察からの呼び出しに備えて、供述方針をアドバイスをする
・逮捕後72時間以内の釈放を目指し、会社・学校バレを防ぐ
・被害の程度や動機などを適切に主張し、不起訴処分を目指す など
弁護士には、厳格な守秘義務が定められているため、ご相談によって事件のことが外部に漏れることは一切ありません。24時間365日相談受付をしていますので、まずはお気軽にご連絡ください。
【Q&A】威力業務妨害罪についてのよくある質問
威力業務妨害罪は親告罪ですか?
いいえ。威力業務妨害罪は親告罪ではありません。
被害者が告訴しなくても、検察官の判断で起訴される可能性があります。ただし、実際には被害者との示談が成立していれば、不起訴処分となるケースが多いです。
威力業務妨害罪に時効はありますか?
はい。威力業務妨害罪の公訴時効は3年です。
なお、民事上の損害賠償請求権の時効は「被害者が損害を知った時から3年」または「行為の時」から20年となっています。
SNSへの書き込みでも威力業務妨害罪になりますか?
はい。「○○店に火をつける」「会場に爆弾を仕掛けた」などの投稿で営業を妨害する行為は、典型的な威力業務妨害罪です。実際に、SNSがきっかけで逮捕されるケースも増えています。
まとめ
最後に、記事のポイントをQ&A形式でまとめました。
Q1. 威力業務妨害罪とはどのような犯罪ですか?
A. 威力業務妨害罪とは、暴力や脅迫などの「威力」を使って、他人の業務を妨害する犯罪です。「目に見える形」で業務を妨害した場合に成立します。
Q2. 法定刑はどれくらいですか?
A. 威力業務妨害罪の法定刑は「3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金」です。実際には約9割のケースで執行猶予付きの拘禁刑が科されています。
Q3. 威力業務妨害罪が成立するための要件は何ですか?
A. 以下3つの要件をすべて満たす必要があります。
・威力を用いたこと
・人の業務があること
・妨害したこと
Q4. 威力業務妨害罪で逮捕される確率はどれくらいですか?
A. 威力業務妨害罪を含む「信用毀損・業務妨害」の逮捕率は43%です。刑事事件全体の逮捕率37%と比べて、少し高めの水準です。
Q5. 逮捕された場合、どのような流れになりますか?
A. 逮捕後の流れは以下のとおりです。
① 警察の取り調べ(48時間以内)
② 検察官に送致されて勾留請求の判断(24時間以内)
③ 勾留された場合は最大20日間の身柄拘束
④ 起訴・不起訴の決定
Q6. 弁護士に相談するメリットは何ですか?
A. 弁護士に相談すると、以下のようなメリットがあります。
・被害者への謝罪や示談によって、逮捕の回避が期待できる
・逮捕後の早期釈放が期待できる
・不起訴処分となる可能性が高まる
以上です。
この記事が参考になったと感じましたら、ぜひグラディアトル法律事務所までご相談ください。経験豊富な弁護士が、最善の結果を目指して全力でサポートいたします。