刑事事件において、自白は有力な証拠として扱われます。
しかし、どのような自白でも証拠能力が認められるわけではありません。
拷問・強迫や不当に長い身柄拘束によって得られた自白は証拠能力が否定され、裁判で使用できないことが法律で定められています。
刑事手続きを少しでも有利に進めるためには、自白の証拠能力に関する正しい知識を身に付けておくことが重要です。
そこで、本記事では、自白の証拠能力が否定されるケースや自白を強要されたときの対処法などを解説します。
これから取調べを受ける可能性がある方や、すでに自白を求められて対応に困っている方は、ぜひ本記事を参考にしてください。
目次
自白とは?自己に不利益な事実を承認すること
自白とは、被疑者や被告人が自己に不利益な事実を認める供述のことを指します。
「自己に不利益な事実」とは、犯罪の成立要件に該当する事実や刑罰を重くする事情などのことです。
たとえば、窃盗事件において「自分が盗んだ」と認める供述や、殺人事件で「故意に刺した」と認める供述が典型的な自白の例といえるでしょう。

ただし、自白が証拠として認められるには、供述者が自らの意思で述べたものである必要があります。
自白は極めて重要な概念だからこそ、証拠能力を認めるかどうかには厳格な基準が設けられているのです。
刑事事件において「自白」は高い証拠能力を有する
刑事事件において、自白は「証拠の女王」と呼ばれるほど、高い証拠能力を有しています。
自白は被疑者・被告人自身の口から語られる直接的な証拠であり、犯罪事実を明らかにするうえで説得力があるためです。
たとえば、客観的な証拠がある状態で、被疑者・被告人自身も罪を認める自白をした場合は、有罪が決定的なものとなるでしょう。
一方で、自白偏重は冤罪を引き起こす要因にもなりかねません。
そのため、ほかの客観的証拠が見つかっていない場合などは、自白の証拠能力が否定されることになっています。
任意性のない自白の証拠能力は否定される(自白法則)
任意性のない自白に証拠能力は認められません。(自白法則)
憲法や刑事訴訟法では、自白の証拠能力について以下のように定めています。
| 第三十八条 何人も、自己に不利益な供述を強要されない。 ② 強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない。 |
(引用:日本国憲法|e-Gov法令検索)
| 第三百十九条 強制、拷問又は脅迫による自白、不当に長く抑留又は拘禁された後の自白その他任意にされたものでない疑のある自白は、これを証拠とすることができない。 |
(引用:刑事訴訟法|e-Gov法令検索)
ここでは、自白の証拠能力が否定されるケースを具体的にみていきましょう。

拷問や脅迫などによって自白を強要されていた場合
拷問や脅迫などによって自白を強要されていた場合、その自白の証拠能力は否定されます。
強制的に得られた自白には任意性がなく、虚偽の内容を含んでいる可能性が高いためです。
たとえば、「家族がどうなっても知らないぞ」と脅されたり、暴力を受けたりするなかで、自白してしまったケースなどが該当します。
取調べの在り方は改善されつつありますが、今なお、苦痛や恐怖から逃れるために、犯してもいない罪を認めてしまう人は少なくありません。
不当に長い身柄拘束を受けていた場合
不当に長い身柄拘束を受けていた場合も、その後になされた自白は証拠能力が否定されます。
長期間の拘束によって被疑者の心身が疲弊すると、早く解放されたいという心理から虚偽の自白をしてしまう可能性があるためです。
たとえば、長期間にわたって勾留され、取調べが連日おこなわれた結果、疲労困憊した被疑者が犯行を認めてしまうケースが該当します。
そもそも不当に身柄拘束すること自体が重大な人権侵害です。
状況を弁護士に伝えたうえで、強く抗議してもらう必要があります。
黙秘権を侵害されていた場合
黙秘権が侵害されていた場合も、その後になされた自白は証拠能力が否定されます。
黙秘権は、被疑者が自己に不利益な供述を強要されない権利であり、適正な刑事手続きの前提となるものです。
取調べの冒頭で捜査官が「黙秘する権利がある」ことを告知しないまま自白を得たとしても、その自白は任意性を欠くものとして、証拠能力が否定されることがあります。
また、黙秘している被疑者に対して「黙っていると不利になる」などと告げて供述を強要した場合も、黙秘権の侵害に該当します。
自白以外に不利益な証拠がない場合は有罪にならない(補強法則)
自白以外に不利益な証拠がない場合、裁判官は有罪判決を下すことができません。(補強法則)

自白のみに依拠すると冤罪を生む危険性が高いため、客観的な証拠による裏付けが必要とされています。
たとえば、窃盗事件で被疑者が犯行を認める自白をしていても、それを補強する証拠(防犯カメラの映像や目撃者の証言など)が一切存在しない場合は有罪になりません。
ただし、ほかの証拠によって、自白の内容すべてが裏付けられている必要はありません。
犯罪事実が実際に存在したことを示す証拠があれば、自白の細部まで証明されていなくても有罪認定が可能です。
自白の証拠能力が否定されて無罪となった判例
次に、自白の証拠能力が否定されて無罪となった判例を2つ紹介します。

虚偽自白を誘発する不当な取調べがおこなわれたケース
まず紹介するのは、不当な取調べによって虚偽自白を誘発され、起訴された女性の事例です。
【事案概要】
| 未婚女性が勤務先デパートの医務室で婚外子を出産した直後、赤ん坊が死亡した状態で発見された。女性は当初否認していたが、取調べの中で殺意と殺害行為を認める自白をおこない、起訴された。しかし、裁判所は出産事故だった疑いがあり、客観的証拠がない中で死因を確定させることはできないと判断。さらに、出産後4日目という特殊な健康状態にあった被告人に対する長時間の取調べは不当であり、自白調書には任意性も信用性もないとして無罪判決を言い渡した。 |
(参照:文献番号1989WLJPCA03220003|Westlaw Japan)
本判決は、被疑者の健康状態を考慮しない取調べは不当であり、自白の任意性が否定されることを示した重要な判例といえます。
長期間に及ぶ身柄拘束の中で執拗に取調べを受けていたケース
次に紹介するのは、長期間に及ぶ身柄拘束の中で執拗に取調べを受け、虚偽の自白をしてしまったケースです。
【事案概要】
| 被告人は別件で逮捕・勾留されたあと、強盗殺人事件について取調べを受けた。当初否認していたが、警察による長時間の取調べの中で自白に転じた。しかし、判決では、別件による起訴後の勾留中におこなわれた余罪取調べは勾留の目的を著しく損なうものであり、違法の疑いがあるとされた。さらに、警察官による取調べは説得追及の限度を超えており、強制的に自白を得た疑いがあるとして、供述調書の証拠能力を否定。最終的に、無罪を言い渡された。 |
(参照:文献番号1972WLJPCA12140007|Westlaw Japan)
起訴後の勾留は起訴事実の審理のためのものであり、その目的を著しく損なう余罪取調べは違法です。
加えて、取り調べでは過度な追及がおこなわれていたため、自白の証拠能力が否定されたのも当然のことといえるでしょう。
自白を求められたときの対処法
次に、自白を求められたときの対処法を解説します。

冤罪の場合は一貫して否認する
冤罪の場合は、取調べで自白を求められても一貫して否認を続けることが重要です。
一度でも虚偽の自白をしてしまうと、あとから覆すことが難しくなります。
取調べでは「早く認めれば楽になる」「黙っていると不利になる」などと説得されることがありますが、虚偽自白を引き出すための手法なので信用してはいけません。
毅然とした態度で否認を貫き、できるだけ早く弁護士に相談することが重要です。
黙秘権を行使する
取調べで自白を求められた場合、黙秘権を行使することも選択肢に入れておくべきでしょう。
黙秘権を行使すれば、自分に不利な証拠を作らないで済みます。
また、証拠不足による不起訴・無罪を狙うことも可能です。
客観的な証拠が見つかっていない場合や記憶があいまいな場合は、安易な発言を控えましょう。
なお、終始黙秘する必要はないので、自身にとって有利になる事情は積極的に発言してください。
刑事事件が得意な弁護士に相談する
取調べで自白を求められた場合は、できるだけ早く刑事事件が得意な弁護士に相談してください。
弁護士に相談すれば、取調べの適切な対応方法を助言してもらえるうえ、不当な自白の強要に対しては強く抗議してくれます。
一方で、弁護士がいない状態で取調べを受けると、疲労や精神的圧迫によって虚偽の自白をしてしまうリスクがあります。
取調べでは一つひとつの発言が命取りになるので、できるだけ早い段階から弁護士に介入してもらいましょう。
自白の証拠能力に関してよくある質問
最後に、自白の証拠能力に関してよくある質問に回答します。

疑問がなくなれば不安も解消されるので、ぜひ参考にしてみてください。
自白は撤回できる?
一度してしまった自白を撤回することは、非常に難しいといえます。
自白は有力な証拠として扱われるため、裁判所や検察官が撤回を簡単に認めることはありません。
ただし、違法な取調べによる虚偽自白であったことなどを証明できれば、証拠から排除してもらえる可能性があります。
とはいえ、撤回の主張が認められるには高いハードルがあるため、弁護士のサポートが必要不可欠です。
数ある証拠の中で自白は何番目に有力?
具体的に順位付けすることはできませんが、自白が実務上重視されているのは確かです。
特に略式起訴の場合、本人が犯罪事実を認めていれば、有罪になる可能性が非常に高いといえます。
法律の建前上は客観証拠優先ですが、自白偏重の慣習をぬぐい切れていないのが実際のところです。
自白の「証拠能力」と「証明力」は何が違う?
自白の「証拠能力」は、裁判での証拠として認められるかどうかを示すものです。
「証明力」は証拠能力があることを前提として、どれだけ信用できるのかを表しています。
たとえば、拷問や脅迫によって得られた自白は任意性がないため「証拠能力」が否定されることになるでしょう。
一方、「証拠能力」が認められた自白でも、内容に矛盾があったり、客観的証拠と食い違う場合は「証明力」が低いと判断されます。
自白に関して不安・悩みがある場合はグラディアトル法律事務所に相談を!
刑事事件において、自白は重要度の高い証拠のひとつです。
一度自白してしまうと撤回することは極めて困難であり、冤罪の場合でも有罪判決につながる危険性があります。
そのため、取調べで自白を求められた際には、できるだけ早く弁護士に相談し、助言を受けることが重要です。
グラディアトル法律事務所は刑事事件を得意としており、経験豊富な弁護士が24時間365日体制で相談に応じています。
初回相談は無料で受け付けているので、取調べや自白に関してお悩みの方はお気軽にご相談ください。
