私人逮捕とは?一般人でも逮捕できる制度の正しい知識とリスクを解説

私人逮捕とは?一般人でも逮捕できる制度の正しい知識とリスクを解説
弁護士 若林翔
2025年09月16日更新

「私人逮捕とはどのような手続き?」

「一般人でも犯人を逮捕できるって本当?」

「私人逮捕をする際の注意点を知りたい」

「私人逮捕」という言葉をご存じでしょうか。ニュースやSNSでも耳にする機会が増えていますが、正しい理解がないまま実行してしまうと、かえって逮捕する側が罪に問われるリスクがあります。

私人逮捕とは、警察官ではない一般人でも一定の条件を満たせば犯人を逮捕できる制度のことです。たとえば、万引き現場で犯人を取り押さえるケースや痴漢を見つけて確保するケースがこれにあたります。ただし、適法に行うには厳格な要件があり、方法を誤れば暴行罪や逮捕監禁罪に問われたり、損害賠償を請求されたりするリスクもあります。

本記事では、

・私人逮捕の基本的な仕組み
・私人逮捕が認められるケースと認められないケース
・私人逮捕に潜むリスク

などについてわかりやすく解説します。

私人逮捕を正しく理解し、もしトラブルに巻き込まれた場合にどう対処すべきかを知るための参考にしてください。

私人逮捕とは?

私人逮捕とは、警察官でない一般人であっても一定の条件を満たせば、犯罪を行った人をその場で逮捕できる制度のことをいいます。

普段「逮捕」と聞くと、警察官が行うものだとイメージする方が多いでしょう。しかし、現実には万引きの犯人を店員が取り押さえたり、痴漢をされた被害者や周囲の人が加害者を確保したりする場面があります。これらはすべて「私人逮捕」にあたります。

もっとも、私人逮捕は「誰でも自由にできる権限」ではありません。要件を満たさないまま勝手に相手を拘束すると、逆に逮捕した側が暴行罪や逮捕監禁罪で処罰されるリスクがあります。そのため、私人逮捕とはあくまでも法律で定められた条件を満たす場合にのみ行える例外的な制度である点を正しく理解しておくことが重要です。

私人逮捕を適法に行うための要件

要件内容
現行犯または準現行犯逮捕の要件現行犯逮捕:犯罪行為を行っている最中または直後に逮捕
準現行犯逮捕:犯行から間もない場合に逮捕
(例:逃走中、凶器所持、痕跡あり)
軽微犯罪の逮捕要件– 軽微犯罪(法定刑が30万円以下の罰金・拘留・科料)については以下の要件が必要: ①犯人の住居や氏名が不明 ②犯人が逃亡するおそれがある

私人逮捕ができるといっても誰でも自由に相手を拘束できるわけではありません。法律上の厳格な要件を満たす場合のみ認められる制度ですので、要件を無視した逮捕は、逆に逮捕した側が罪に問われる可能性があるため注意が必要です。以下では、私人逮捕を適法に行うための2つの要件を説明します。

現行犯または準現行犯逮捕の要件を満たすこと

まず重要なのが、現行犯逮捕または準現行犯逮捕に該当することです。

現行犯逮捕とは、犯罪を実際に行っている最中、または行為直後に逮捕することをいいます。たとえば、万引きをして商品を持ち出そうとしている瞬間や、痴漢の手を振り払った直後などが典型例です。

準現行犯逮捕とは、犯行から間もないと明らかに認められる場合、現行犯とみなして逮捕できる制度です。たとえば、犯人として追われている、凶器を所持している、身体や衣服に犯罪の痕跡があるといった状況が該当します。

この要件を満たさないと、私人逮捕は認められません。たとえば過去に犯罪をした疑いがある人を後から見つけて逮捕することは、私人にはできず、警察に対応を委ねなければなりません。

軽微犯罪の逮捕の要件を満たすこと

法定刑が30万円以下の罰金、拘留または科料に該当する「軽微犯罪」については、以下のいずれかの要件を満たさなければ私人逮捕はできません。

・犯人の住居または氏名が明らかではない
・犯人が逃亡するおそれがある

たとえば、信号無視などの道路交通法違反や軽犯罪法違反などの場合、本人が身元を明らかにしているのに拘束を続ければ、違法な逮捕と判断されかねません。私人逮捕が正当化されるのは、犯人が逃げてしまう可能性が高いなど、逮捕の必要性が認められる場合に限られるのです。

私人逮捕の方法と注意点

私人逮捕は、要件を満たせば一般人でも行える制度ですが、実際に逮捕する際には慎重な対応が求められます。誤った方法で相手を取り押さえると、逮捕した側が罪に問われるおそれがあるためです。以下では、私人逮捕を行うときの基本的な方法と注意点を説明します。

必要最小限の実力行使にとどめる

私人逮捕は、相手の行動を制止するために一定の実力行使が認められます。しかし、使える力は「必要最小限」に限定されます。

たとえば、万引き犯の腕をつかんで逃走を防ぐ、痴漢の犯人をその場に押さえつける、といった行為は必要な範囲と考えられるでしょう。

一方で、相手を殴る・蹴るなどの暴行を加えたり、逃げるおそれがないのにロープや手錠で過剰に拘束したりすると、暴行罪や逮捕監禁罪に問われる可能性があります。

私人逮捕は「市民による緊急的な措置」にすぎず、制圧行為を正当化するものではない点に注意しなければなりません。

逮捕後は直ちに警察官に身柄を引き渡す

私人逮捕を行った後は、速やかに警察官に引き渡す義務があります。逮捕したまま長時間拘束することは許されず、警察署や現場に駆けつけた警察官へできるだけ早く身柄を移さなければなりません。

仮に、犯人を長時間にわたり店のバックヤードなどに監禁した場合、私人逮捕の正当性が否定され、逆に逮捕監禁罪に問われるおそれがあります。また、SNSで話題になるような「私人逮捕系YouTuber」のように、身柄を引き渡さず動画撮影を優先する行為は、重大な法的リスクを伴うため危険です。

私人逮捕が認められる3つのケース

私人逮捕が認められる3つのケース

以下では、実際によく問題となる3つのケースを取り上げて、私人逮捕が認められる典型例を確認しましょう。

万引き現場で取り押さえるケース

もっとも典型的なのが、万引き犯を店員や警備員が取り押さえるケースです。

たとえば、商品をバッグに入れて店外に出ようとする瞬間や会計を通さずに立ち去ろうとする場面は「現行犯」にあたります。このような場合、店員や警備員が腕をつかんで制止し、そのまま警察に引き渡すことが認められます。

ただし、逃走を防ぐために必要な範囲にとどめる必要があり、過度な暴力や長時間の拘束は違法と判断されるリスクがある点に注意が必要です。

痴漢行為を目撃した人が犯人を確保するケース

痴漢の現場でも、被害者や目撃者が犯人を取り押さえることは私人逮捕として認められます。

満員電車で痴漢をしている姿をその場で確認できれば現行犯にあたり、被害者や周囲の乗客が加害者を捕まえて駅員に引き渡す行為は適法です。

このときも、必要以上の力を加えず、可能であれば駅員や警察官に迅速に引き渡すことが重要です。近年は「痴漢冤罪」の問題もあるため、周囲の証言や防犯カメラ映像など、客観的な証拠を確保しながら冷静に対応することが求められます。

喧嘩をしている人を取り押さえるケース

路上などで暴行・傷害事件が起きている場合に、その場で加害者を取り押さえる行為も私人逮捕として認められます。

たとえば、殴り合いをしている人物の一方が相手を一方的に暴行している状況で、周囲の人が加害者を押さえて警察に通報すれば、適法な私人逮捕となります。

ただし、この場合は身の危険を伴うため、複数人で協力する・すぐに警察を呼ぶなど、安全面に最大限配慮することが必要です。

私人逮捕が認められない4つのケース

私人逮捕が認められない4つのケース

私人逮捕とは、条件を満たした場合にのみ適法となります。しかし、ニュースやSNSで話題になる事例の中には、法律的に私人逮捕が認められないケースも多く存在します。以下では、私人逮捕が認められない代表的な4つのケースを取り上げて説明します。

指名手配犯を逮捕するケース

一見すると「指名手配されている人物を見つけたのだから逮捕できるのでは」と考えがちですが、これは私人逮捕ができるケースにはあたりません。

指名手配は、過去の犯罪事実に基づくものであり、その場で犯罪を行っているわけではないため、現行犯逮捕や準現行犯逮捕の要件を満たさないからです。指名手配犯を見かけた場合は、速やかに警察へ通報するのが正しい対応です。

逮捕時に必要以上の暴行・拘束を加えたケース

私人逮捕では「必要最小限の実力行使」にとどめることが求められます。

たとえば、犯人が抵抗していないのに殴る・蹴るなどの暴行を加える、逃亡の危険がないのにロープや手錠で長時間拘束するといった行為は、暴行罪や逮捕監禁罪に問われる可能性があります。

逮捕そのものが適法であっても、方法が違法であれば私人逮捕の正当性は失われる点に注意が必要です。

軽微犯罪で身分を明らかにしているのに逮捕したケース

軽微な犯罪(30万円以下の罰金、拘留または科料にあたるもの)については、犯人が氏名・住所を明らかにしており、逃亡の可能性が低ければ私人逮捕はできません。

たとえば、犯人が自分の身分を名乗っているのに拘束を続ければ、違法逮捕と判断されてしまいます。実際に行われている犯罪が軽微犯罪か否かは一般の方では正確に判断できませんので、犯人が身分を明らかにしており、逃亡のおそれがないなら私人逮捕は避けた方が賢明です。

薬物使用の疑いがある人を逮捕したケース

「薬物を使っているのではないか」という単なる疑いの段階では、私人逮捕は認められません。

薬物犯罪は外見や挙動だけで断定できるものではなく、薬物検査や鑑定を実施して初めて犯行が明らかになる性質の犯罪です。そのため、私人逮捕の要件である現行犯性を欠くため、私人逮捕は認められません。

私人逮捕に潜むリスク

私人逮捕に潜むリスク

私人逮捕とは、適法に行えば社会の安全を守る有効な制度です。しかし、要件を満たさなかったり、方法を誤ったりすると、逆に逮捕した側が法的責任を問われる危険があります。以下では、私人逮捕に潜む2つの主要なリスクを紹介します。

違法な私人逮捕による刑事責任を負うリスク|暴行罪・逮捕監禁罪

私人逮捕は「必要最小限の実力行使」に限られています。

・犯人が抵抗していないのに殴る・蹴る
・逃走のおそれがないのにロープや手錠で拘束し続ける
・犯人を警察に引き渡さず長時間監禁する

といった行為は「違法な逮捕」と評価され、逮捕した側が暴行罪・傷害罪・逮捕監禁罪などの刑事責任を問われる可能性があります。

実際に、万引き犯を取り押さえたものの過度な暴力を加えてしまい、逮捕した側が逆に書類送検された例もあります。私人逮捕は、犯罪者に正義の鉄槌を下す手段ではなく、あくまで例外的な手段であり、リスクのある行動であることを理解する必要があります。

違法な私人逮捕による民事責任を負うリスク|損害賠償

違法な私人逮捕は、民事責任の追及を受けることもあります。

たとえば、

・暴力を加えてけがをさせた場合の治療費・慰謝料
・長時間拘束したことで精神的苦痛を与えた場合の損害賠償
・不当逮捕が社会的に広まった場合の名誉毀損による慰謝料

などが典型例です。

特に、昨今はSNSや動画配信サービスで「私人逮捕の様子」を公開する行為も見られますが、無関係の人の顔を撮影・拡散した場合にはプライバシー侵害や名誉毀損の責任も問われかねません。

このように、私人逮捕は、適法に行えば正当化されるが、一歩間違えれば逮捕する側が加害者になるという大きなリスクを伴う制度です。万一トラブルになった場合は、早急に弁護士へ相談して対応を検討することが重要です。

私人逮捕に関するよくある質問(Q&A)

私人逮捕に関するよくある質問(Q&A)

私人逮捕とは、一般人でも行える制度ですが、現場では「これはやっても大丈夫なのか?」と迷う場面が少なくありません。ここでは、よくある3つの質問をQ&A形式で紹介します。

私人逮捕の際に手錠をかけることはできる?

私人逮捕では必要最小限の実力行使しか認められません。

手錠やロープなどの拘束具を使うと、暴行罪や逮捕監禁罪に問われる可能性があります。そのため、犯人を押さえる程度にとどめ、すぐに警察官に引き渡すようにしてください。

私人逮捕の現場をスマホで撮影するのは違法?

私人逮捕の場面を撮影・公開すると、プライバシー侵害や名誉毀損にあたる可能性があります。特に、無関係の人が映ったり、誤認逮捕だった場合は重大な責任を負うこともあります。

最近は、私人逮捕の瞬間を動画撮影してSNSやYouTubeに投稿する「私人逮捕系YouTuber」と呼ばれる人が増えてきていますが、重大なリスクを伴う行為であることを忘れてはいけません。

私人逮捕されたけど納得できない……どうすればいい?

不当に拘束されたと思ったら、まず警察に事実を伝え、速やかに弁護士へ相談しましょう。

暴力や監禁があれば、逮捕した相手に対して刑事告訴や損害賠償請求を検討できます。その際は、証拠となる映像や証言を確保しておくことも大切です。

違法な私人逮捕をした・された場合はグラディアトル法律事務所に相談を

違法な私人逮捕をした・された場合はグラディアトル法律事務所に相談を

私人逮捕とは、一定の条件を満たせば一般人でも行える制度ですが、要件や方法を誤ると違法となり、重大なトラブルに発展します。

たとえば、取り押さえの際に過剰な力を加えてけがをさせてしまった場合や、長時間拘束した場合には、逮捕した側が暴行罪や逮捕監禁罪で刑事責任を問われるリスクがあります。さらに、相手から損害賠償を請求される民事責任を負う可能性もあります。

一方で、私人逮捕された側が「不当な拘束だ」と感じた場合には、私人逮捕をした人を刑事告訴したり、損害賠償請求をするなどの法的手続きが必要になり、専門的な知識を持つ弁護士の助力が欠かせません。

このようなトラブルに巻き込まれた際には、刑事事件に強い弁護士に早急に相談することが重要です。グラディアトル法律事務所では、

・初回相談無料で安心して相談できる
・24時間365日受付で緊急のトラブルにも対応可能
・刑事事件・民事トラブル双方に豊富な実績を持つ弁護士が担当

といった体制を整えています。

私人逮捕に関する問題は、放置すると取り返しのつかない結果につながるおそれがあります。

「自分の行為は違法にならないか不安」「不当な逮捕を受けた」と感じたら、一人で悩まず、まずは弁護士にご相談ください。迅速な対応が、最善の結果を導く第一歩となります。

まとめ

私人逮捕とは、一般人でも現行犯など一定の条件を満たせば認められる制度ですが、要件を誤ると違法となり、逮捕した側が暴行罪や逮捕監禁罪で処罰されるリスクもあります。重要なのは、必要最小限の力で制止し、速やかに警察へ引き渡すことです。

しかし、現場判断は難しく、トラブルに発展するケースも少なくありません。

もし「私人逮捕をしてしまった」「不当に逮捕された」といった状況に直面した場合は、刑事事件に強いグラディアトル法律事務所へご相談ください。

弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。

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