逮捕されたら懲戒解雇される?解雇を避けるための対処法を解説

逮捕されたら懲戒解雇される?解雇を避けるための対処法を解説
弁護士 若林翔
2025年09月09日更新

「逮捕されると職場を解雇されてしまうの?」

「逮捕されたことが会社に伝わるのではないかと不安になっている」

「逮捕による解雇を避ける方法を知りたい」

会社員が逮捕された場合、「懲戒解雇されてしまうのではないか」と不安になる方は少なくありません。特に、逮捕の事実が勤務先に知られるのか、解雇されると生活や再就職にどのような影響があるのか、といった点は切実な問題です。

もっとも、逮捕されたからといって直ちに懲戒解雇になるわけではありません。刑事事件では、逮捕されたとしても「無罪」や「不起訴」となる可能性もあるため、有罪が確定していない段階での解雇は不当解雇の可能性があります。

本記事では、

・逮捕と懲戒解雇の関係
・懲戒解雇となるケースや判例
・懲戒解雇を避けるための具体的な対処法

などを詳しく解説します。

逮捕をきっかけに解雇リスクに直面している方や、その可能性に不安を抱えている方は、ぜひ参考にしてください。

目次

逮捕されただけでは懲戒解雇されることはない

逮捕されただけでは懲戒解雇されることはない

逮捕されたからといって、直ちに会社から懲戒解雇されるわけではありません。刑事事件では「推定無罪の原則」があり、逮捕は有罪確定と同じ意味ではないからです。以下では、逮捕と懲戒解雇の関係について基本的な考え方を説明します。

逮捕=有罪確定ではない

会社員が逮捕された場合、すぐに「懲戒解雇になるのでは」と考える方は多いでしょう。しかし、逮捕された事実だけで直ちに懲戒解雇されることはありません。これは、刑事事件における「推定無罪の原則」が前提にあるためです。

逮捕とは、あくまで警察が被疑者を拘束する手続きにすぎず、この時点では有罪が確定していません。実際には、その後の捜査や裁判の結果、不起訴処分や無罪判決となる可能性も十分にあります。したがって、逮捕=有罪が確定したということではないのです。

懲戒解雇には合理的理由と相当性が必要

労働契約法16条や判例の考え方によれば、懲戒解雇を有効に行うためには「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が必要です。単に「逮捕されたから心証が悪い」というだけでは、懲戒解雇の要件を満たさず、不当解雇と判断される可能性が高いです。

もっとも、逮捕の事実そのものが会社の業務や信用に直接的な悪影響を及ぼしたり、長期の欠勤によって職務遂行が困難になったりする場合には、後述するように懲戒解雇の対象となることがあります。

したがって、逮捕の事実がただちに懲戒解雇に直結するわけではなく、解雇の有効性は事件の内容や会社への影響を総合的に判断して決められるという点を理解しておくことが重要です。

解雇されるか不安…逮捕されたら会社に知られてしまう?

解雇されるか不安…逮捕されたら会社に知られてしまう?

逮捕されても、必ずしも勤務先にその事実が知られるとは限りません。多くの方が「会社に逮捕が知られたら懲戒解雇されるのでは」と不安に思いますが、実際には警察が自動的に職場へ連絡する仕組みはありません。ただし、一定の場合には逮捕の事実が会社に伝わる可能性があるため注意が必要です。以下では、会社に知られるケースと知られないケースの違いについて説明します。

警察から勤務先に連絡がいくことは基本的にはない

刑事事件で逮捕された場合、警察が本人の勤務先にわざわざ逮捕の事実を通知することは通常ありません。あくまで捜査機関と本人とのやり取りが中心であり、会社に逮捕を知らせる義務もないのです。

そのため、逮捕=勤務先に即座に発覚するわけではありません。

勤務先に知られるケースとは?

以下のようなケースでは、例外的に会社に逮捕が知られてしまうことがあります。

・事件が報道され、実名や勤務先が報じられた場合
・会社の関係者が事件の関係で事情聴取を受けた場合
・逮捕・勾留による長期欠勤で会社に連絡が必要となった場合

このようなケースでは、会社側に逮捕が伝わり、その後の処分(懲戒解雇を含む)につながる可能性が出てきます。

逮捕・勾留による欠勤で発覚するリスク

もっとも多いのは、逮捕後に勾留が続き、職場に出勤できないことで逮捕が発覚するケースです。特に、無断欠勤が数日以上続けば、会社は安否確認や所在調査を行い、結果的に逮捕が判明することがあります。勾留期間が長引くほど、会社に知られるリスクは高まると言えるでしょう。

逮捕をきっかけに懲戒解雇される可能性がある3つのケース

逮捕をきっかけに懲戒解雇される可能性がある3つのケース

逮捕されたという事実だけで懲戒解雇されることはありませんが、場合によっては解雇が有効と判断されることもあります。特に、会社に重大な支障を与えるケースや社会的信用を著しく失墜させるケースでは、懲戒解雇が現実的なリスクとなります。以下では、懲戒解雇が問題となりやすい典型的な3つのケースを紹介します。

逮捕によって長期間職場を離れることになった場合

逮捕後、勾留が長期に及ぶと職場に出勤できず、業務に大きな支障が生じます。特に、重要なポジションを担っている社員が長期間不在となれば、会社としては業務を維持できません。

このように就業規則上の「無断欠勤」や「職務放棄」にあたる状況となれば、懲戒解雇が認められる可能性があります。

会社の信用やイメージを著しく損なう犯罪である場合

社会的に非難されやすい犯罪を起こした場合、会社のイメージや信用が大きく損なわれます。特に、詐欺、強盗、性犯罪、傷害事件といった刑事事件は報道されやすく、勤務先の名前が公表されることもあります。

こうしたケースでは、「企業の社会的評価を著しく低下させた」として懲戒解雇が有効とされる可能性が高いといえるでしょう。

業務に関連する違法行為を行った場合

職務上の地位や役割を利用した犯罪は、会社への信頼を根本から揺るがすものです。

たとえば、経理担当者による横領、営業担当者による背任、会社資産の不正利用などが挙げられます。これらは「業務に直接関連する不正行為」であり、懲戒解雇が正当化されやすい典型例です。

逮捕を理由とする解雇の有効性に関する判例

逮捕を理由とする解雇の有効性に関する判例

逮捕の事実があったとしても、それだけで懲戒解雇が直ちに有効になるわけではありません。裁判所はこれまでの判例において、事件の内容・逮捕による欠勤状況・会社への影響などを考慮して、解雇の有効性を判断してきました。ここでは、代表的な判例の考え方を紹介します。

盗撮で逮捕された従業員の懲戒解雇を無効と判断した判例|名古屋地裁令和6年8月8日

【事案の概要】

本件は、従業員が通勤途中の地下鉄車内で盗撮行為に及んだとして、愛知県迷惑行為防止条例違反の疑いで逮捕された事案です。逮捕の翌日には釈放され、その後、被害者との間で示談が成立しました。さらに、検察は令和5年11月16日に不起訴処分としています。

ところが会社側は、従業員の行為を「法令違反であり、会社の信用を損なうもの」として懲戒解雇を決定しました。ただし、事件が報道されることはなく、欠勤も逮捕当日と翌日のわずか2日間にとどまっていました。これに対し、従業員は、懲戒解雇が無効であるとして、地位確認および賃金の支払いを求めて裁判を起こしました。

【裁判所の判断】

裁判所は、私生活上の行為であっても、会社の秩序や社会的評価を著しく損なう場合には懲戒解雇の理由となり得ることは認めました。しかし同時に、その処分が社会通念上相当といえるかどうかが重要であると指摘しています。

本件では、

・犯罪は条例違反にとどまり、検察が不起訴処分としたこと
・事件が報道されておらず会社の信用や業務に具体的な悪影響が及んでいないこと
・勾留は実質1日で欠勤が短期に限られていたこと
・従業員に懲戒歴がなかったこと

などを考慮しました。その結果、懲戒解雇は処分として重すぎ、社会的相当性を欠くとして、従業員の地位確認を認め、固定給の支払いを命じました。

【ポイント】

この判例が示すのは、逮捕されたという事実そのものが直ちに懲戒解雇を正当化するものではないということです。検察による不起訴処分や会社への実質的な影響の有無、欠勤期間の長短、従業員の過去の勤務態度など、個別事情を総合的に判断して解雇の有効性が決まります。

つまり、企業に懲戒基準が存在したとしても、それを機械的に適用するのではなく、社会的に見て相当かどうかという観点が常に求められるのです。

痴漢で有罪となった従業員の懲戒解雇が無効と判断された判例|東京地裁平成27年12月25日判決

【事案の概要】

鉄道会社の正社員で駅係員の原告は、通勤中の自社路線の電車内で14歳女性に対する痴漢行為に及んだとして逮捕され、その後、本件条例違反につき罰金20万円の略式命令を受け、確定しました。

会社は「法令違反・信用失墜」を理由に就業規則に基づき諭旨解雇としましたが、事件は報道されず、外部からの苦情等も確認されませんでした。原告は処分無効を主張して地位確認と賃金支払を請求しました。

【裁判所の判断】

裁判所は、私生活上の非行でも企業秩序に関連し社会的評価の毀損につながるおそれがあれば懲戒事由となり得る点を認め、痴漢行為自体の非難性も踏まえて「懲戒の対象にはなる」と評価しました。

他方で処分の相当性を厳格に審査し、

・行為は条例違反で罰金にとどまること
・報道・社会的周知がなく具体的な企業外部への悪影響は確認できないこと
・原告に懲戒歴はなく勤務態度に問題がないこと
・示談努力はあったこと
・会社の量定方法が「起訴・略式請求の有無のみ」を基準として個別事情を十分に斟酌していなかったこと
・懲戒委員会手続の進行を原告に周知せず弁明の機会も与えていなかったこと

などから本件諭旨解雇は重きに失し、社会通念上相当性を欠き、懲戒権の濫用として無効と判断しました。

【ポイント】

「懲戒事由に当たるか」と「どの処分が社会的に相当か」は別問題であり、処分の重さの均衡と適正手続(弁明機会等)が決定的に重要です。

特に、有罪相当(略式命令確定)でも、

・報道・周知がなく具体的悪影響が小さい
・欠勤長期化等の業務支障がない
・前歴なし・勤務状況良好

といった事情が重なると、もっとも重い類型の処分は無効となり得ます。

会社側は、機械的な量定基準(起訴の有無のみ等)に依拠せず、個別具体的事情の総合衡量と手続の公正を確保することが不可欠である、という実務上の教訓を示す判例です。

懲戒解雇されたときに生じる3つの不利益

懲戒解雇されたときに生じる3つの不利益

懲戒解雇は、企業が取り得る懲戒処分の中でもっとも重い制裁です。そのため、従業員にとっては単に職を失うだけではなく、社会生活や将来のキャリアに深刻な影響を及ぼす可能性があります。以下では、懲戒解雇によって生じる代表的な不利益を3つ説明します。

職を失い収入がなくなる

最大の不利益は、当然ながら職を失うことによる収入源の喪失です。

通常の解雇や自己都合退職と異なり、懲戒解雇は即時に契約を終了させることが多いため、退職日から収入が途絶えてしまいます。経済的な打撃が大きく、生活基盤を一気に失うリスクがあります。

退職金の減額・不支給の可能性がある

懲戒解雇となった場合、会社の就業規則や退職金規程に基づき、退職金が大幅に減額されたり、場合によっては一切支給されないケースがあります。数十年勤務してきたとしても、それまでの功労が認められずに退職金を失う可能性がある点は大きな痛手です。

転職や再就職に支障が生じる

懲戒解雇歴があると、転職活動や再就職において大きなハンデとなります。履歴書や職務経歴書には直接「懲戒解雇」と記載する義務はないものの、前職の退職理由を問われた際に説明に苦慮することになります。

また、業界によっては情報が共有され、信用を失ったことで新しい職を得にくくなる場合もあります。

逮捕による懲戒解雇をさけるための対処法|早期に弁護士に相談することが重要

逮捕による懲戒解雇をさけるための対処法|早期に弁護士に相談することが重要

逮捕されてしまったとしても、必ずしも懲戒解雇に直結するわけではありません。大切なのは、事態を放置せず、できるだけ早い段階で適切な対処を取ることです。特に、刑事事件に精通した弁護士に相談することで、解雇を回避できる可能性が高まります。以下では具体的な対処法を4つ紹介します。

逮捕・勾留からの早期釈放を目指す

逮捕後に長期間勾留されると、会社を欠勤せざるを得ず「無断欠勤」や「職務放棄」とみなされるリスクが高まります。これが就業規則違反に当たり、懲戒解雇の理由として用いられるケースは少なくありません。そのため、最初に取り組むべきは「早期の釈放」を実現することです。

弁護士は勾留阻止や勾留延長の回避に向けて、裁判所や検察に働きかけ、身柄解放を目指します。できる限り早く社会復帰すれば、会社への影響も最小限に抑えられ、懲戒解雇の回避につながります。

不起訴処分を目指す

懲戒解雇をするには「合理的理由」と「社会的相当性」が求められます。逮捕されても不起訴となれば「犯罪を犯したと確定したわけではない」ため、懲戒解雇の根拠は弱くなります。

弁護士は、被害者との示談成立、反省文や情状資料の提出などを通じて不起訴処分を目指します。不起訴になれば刑事責任を免れるだけでなく、会社に対しても「有罪確定ではない」という強力な説明材料になります。

将来の転職や社会的信用を守る意味でも、不起訴処分の獲得は極めて重要な目標です。

家族から職場に欠勤の連絡を入れる

逮捕直後に無断で出勤が途絶えると、会社からすぐに不信感を持たれてしまいます。特に、「音信不通=無断欠勤」とされると、懲戒処分のリスクが高まります。

本人が連絡できない状況であっても、家族が会社に連絡を入れることで状況を和らげられます。その際は「体調不良」「家庭の事情」など、直ちに刑事事件と結びつかない説明をしておくことが現実的です。

こうした対応により、勤務先への印象悪化を防ぎ、解雇のリスクを減らすことができます。小さな一手でも、将来の評価に大きく影響します。

懲戒解雇になる前に自主退職をする

懲戒解雇が避けられない状況に陥った場合は、自ら退職を申し出るのも有効な選択肢です。

懲戒解雇と自主退職では、社会的評価や再就職への影響に大きな差があります。懲戒解雇歴は履歴書に直接書かなくても、職務経歴や退職理由を問われた際にマイナス材料となる可能性が高いのに対し、自主退職であれば比較的スムーズに次の職場へ移ることが可能です。

また、退職金の扱いにおいても、自主退職であれば一定の権利を保持できる場合があります。将来のキャリアを考えると、懲戒解雇の前に退職を決断することも現実的な回避策となります。

逮捕による懲戒解雇が不安な方はグラディアトル法律事務所に相談を

逮捕による懲戒解雇が不安な方はグラディアトル法律事務所に相談を

逮捕は、突然訪れるものであり、本人も家族も大きな不安に直面します。「このまま会社に知られてしまうのではないか」「懲戒解雇になって生活が立ち行かなくなるのではないか」と頭をよぎるのは当然のことです。しかし実際には、逮捕=即懲戒解雇ではなく、早期の対応次第で大きく状況を変えることができます。そのためには、刑事事件の知識だけでなく、労働法や企業対応に通じた弁護士のサポートが欠かせません。

グラディアトル法律事務所は、刑事弁護に加えて労働問題にも精通していることが大きな特徴です。たとえば、勾留を阻止して早期に釈放を実現できれば、職場への欠勤日数を最小限に抑えられ、解雇の理由とされにくくなります。また、不起訴処分を獲得すれば「犯罪を犯したと確定したわけではない」と主張でき、懲戒解雇の根拠は大きく揺らぎます。こうした結果を導くために、弁護士は被害者との示談交渉や証拠収集、会社への対応方針まで一貫してサポートします。

さらに、懲戒解雇が避けられない状況に追い込まれても、弁護士に相談することで「自主退職」という形に軟着陸できる場合があります。自主退職であれば懲戒解雇に比べて社会的ダメージは格段に小さく、退職金の支給や再就職活動にも有利です。つまり、弁護士への早期相談は、刑事手続きだけでなく、その後の人生設計に直結する重要なステップなのです。

逮捕直後は判断力が鈍りがちで、家族も対応に追われて冷静に行動できないことが少なくありません。そんなときこそ専門家に相談することで、最善の行動を選び取ることができます。逮捕による懲戒解雇が不安な方は、一人で抱え込まず、まずはグラディアトル法律事務所にご相談ください。

まとめ

逮捕されたからといって直ちに懲戒解雇となるわけではなく、無罪や不起訴となる可能性もあります。

しかし、勾留による長期欠勤や会社の信用を大きく損なう犯罪、業務に直結する違法行為などの場合は懲戒解雇のリスクが高まります。懲戒解雇は収入や退職金、再就職に大きな不利益を及ぼすため、早期の対応が重要です。

グラディアトル法律事務所では、刑事弁護と労働問題双方に精通した弁護士が、釈放活動や不起訴獲得、職場対応まで一貫してサポートします。逮捕による解雇が不安な方は、一人で抱え込まず、ぜひ当事務所にご相談ください。

弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。

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