「勝手に印鑑を使っただけで偽造になる?」
「実は書類を偽造してしまったが、これって犯罪になるの?」
「有印と無印で文書偽造の罪の重さが変わるって本当?」
他人の名前や印鑑を使って勝手に文書を作成すると「私文書偽造罪」という犯罪が成立します。私文書偽造罪には、「有印」と「無印」の区別があり、署名や押印のある文書の方が信用性が高いことから、有印私文書偽造罪は、無印私文書偽造罪に比べて重く処罰されることになります。
有印私文書偽造罪は、法定刑に罰金刑は存在しませんので、起訴されて有罪になると必ず懲役刑(拘禁刑)が科される非常に重い罪になります。執行猶予が付かなければ刑務所に収監されることになりますので、早期に弁護士に相談して適切な対応をしてもらうようにしましょう。
本記事では、
・有印私文書偽造罪の成立要件 ・私文書偽造罪は「有印」と「無印」で何が違う? ・有印私文書偽造罪を犯してしまったときの対処法 |
などについて詳しく解説します。
文書偽造に関する法的リスクを正しく理解し、適切な対応につなげるための参考にしてください。
目次
有印私文書偽造罪とは
有印私文書偽造罪とは、他人名義の署名や印鑑が押された私文書を偽造する行為を処罰する犯罪です。
「有印」とは、文書に署名や印章が存在することを指します。署名や印章がある文書は、そうでない文書に比べて信用性が高い文書とされていますので、有印私文書偽造罪は、署名や印章の存在しない無印私文書偽造罪よりも重い刑罰が科されるのが特徴です。
つまり、有印私文書偽造罪は「他人のふりをして印鑑やサインを使い、本来なら作成権限がない文書を偽造した行為」に対して適用される犯罪といえるでしょう。
有印私文書偽造罪の成立要件

有印私文書偽造罪が成立するためには、以下の4つの要件をすべて満たす必要があります。
権利、義務、事実証明に関する文書・図画であること
私文書偽造罪は、「私文書」を偽造した場合に成立します。
「私文書」とは、権利、義務、事実証明に関する文書・図画を指します。以下に該当する文書はその典型例です。
・売買契約書 ・賃貸借契約書 ・預金払戻請求書 ・借用書 ・履歴書 ・資格証明書 ・美術品の鑑定書 ・入学試験の解答用紙 ・郵便局の転居届 |
私文書偽造罪は、文書に対する信用を保護するための物であることから、対象となる文書は、社会生活上の重要な事項を証明するものに限定されます。つまり、単なるメモや個人的な日記などは私文書の偽造罪の対象にはあたりません。
他人の印章・署名を使用したこと
「印章」とは、人格の同一性を表示するために使用される象形をいい、一般的には印鑑の押印によってできる印影を指します。印章により文書の信用性が高まる点がポイントになりますので、印章は実印に限られるものではありません。
「署名」とは、氏名その他の呼称を表記することをいい、一般的には氏名などを自筆で書く行為を指します。
印章・署名は、文書の名義人であることを証明する重要な役割を果たすものであることから、他人の印章・署名を使用して文書を作成する行為は、文書の信用性を著しく毀損するものとなります。
偽造行為があること
「偽造」とは、他人の名義を使って、名義人の意思に基づかない文書を作成することをいいます。ここで重要なのは、作成権限のない人が他人名義の文書を作成するという点です。
たとえば、本人の承諾なく署名を代筆したり、印鑑を勝手に押したりする行為が典型例です。
行使の目的があること
私文書偽造罪が成立するには、偽造した文書を使う意図(行使の目的)があることが必要です。
つまり、たとえ実際にその偽造文書を使用していなくても、使用するつもりで偽造した時点で罪が成立します。
有印私文書偽造罪の罰則と量刑|3月以上5年以下の懲役(拘禁刑)

有印私文書偽造罪の法定刑は、3月以上5年以下の懲役(拘禁刑)と定められています。
法定刑に罰金刑はありませんので、起訴されて有罪になれば必ず懲役刑(拘禁刑)となる非常に重い犯罪になります。執行猶予付き判決を獲得できなければ、実刑となり刑務所に収監される可能性もあるということです。
有印私文書偽造罪は、詐欺罪とセットで成立するケースが多いため、有印私文書偽造罪と詐欺罪に問われた場合、被害者との間で示談が成立しなければ実刑になる可能性も十分にあります。そのため、有印私文書偽造罪を犯したときは、すぐに弁護士に依頼して、示談交渉などの適切な対応をしてもらうことが重要です。
私文書偽造罪は「有印」と「無印」で何が違う?
比較項目 | 有印私文書偽造罪 | 無印私文書偽造罪 |
---|---|---|
印章・署名の有無 | 印章または署名(記名含む)がある文書の偽造 | 印章・署名がない文書の偽造 |
法定刑 | 3月以上5年以下の懲役(拘禁刑) | 1年以下の懲役 または 10万円以下の罰金 |
典型的な文書 | 借用書、念書、委任状、各種届出書など署名・押印のある文書 | メモ、預金通帳など署名・押印のない文書 |
立件の頻度 | 多い(大半の事件が該当) | 非常に少ない(署名・記名があると有印扱いになるため) |
違法性の評価 | 信用性が高い文書の偽造であるため、違法性がより高いとされ重く処罰される | 信用性が比較的低いため、有印より軽い法定刑が定められている |
私文書偽造罪には、印章・署名の有無によって「有印私文書偽造罪」と「無印私文書偽造罪」の2種類分けられます。以下では、同じ私文書偽造罪でも「有印」と「無印」で何が違うのかを説明します。
文書の作成名義人の印章・署名の有無
有印私文書偽造罪は、対象の文書に「印章または署名がある」場合を指し、無印私文書偽造罪は「印章・署名がない」文書を偽造した場合です。
もっとも、署名にはゴム印等による記名も含みますので、無印私文書偽造罪が成立するケースは非常に少なく、立件されるほとんどの事件は有印私文書偽造罪と考えても問題ないでしょう。
刑罰の重さの違い
有印私文書偽造罪と無印私文書偽造罪は、法定刑が異なり、有印の方が重く処罰されます。
・有印私文書偽造罪:3月以上5年以下の懲役(拘禁刑) |
・無印私文書偽造罪:1年以下の懲役(拘禁刑)または10万円以下の罰金 |
印章や署名のある文書は、信用性が高いため、これを偽造することは違法性が高いことからこのような法定刑の差が生じています。
典型的に問題となる文書の種類の違い
有印私文書の典型例は、借用書、念書、委任状、各種届出書など署名・押印があるさまざまな文書が該当します。
他方、無印私文書は、簡易なメモや預金通帳などが想定されます。たとえば、横領の発覚を免れるために、預金通帳の「年月日」「摘要」「お預り金額」「差引残高」に虚偽の内容を記載したものを作成する行為が典型的なケースです。
有印私文書偽造罪が成立する具体的なケース

以下では、有印私文書偽造罪が成立する典型的なケースを紹介します。
他人名義の借用書を勝手に作成して印鑑を押す
金銭の貸し借りに関してトラブルが発生したとき、実際にはお金を貸していないのに「貸したことを証明する」ために、相手の名前を無断で記載し、印鑑を押した借用書を作成するケースがあります。このような文書は、「権利の発生」を証明する有印私文書にあたります。
また、交渉や裁判などで証拠として提出する意図がある場合には、行使目的の要件も満たすことになります。仮に実際に行使していなくても、作成時点で相手を欺く目的が明確であれば、有印私文書偽造罪が成立します。
離婚届に配偶者に無断で名前を書いて印鑑を押す
離婚の話し合いがうまく進まず、相手が離婚に応じてくれない場合、配偶者の同意なしに離婚届を勝手に記入し、印鑑を押して提出しようとする事例も見られます。離婚届も有印私文書に該当しますので、配偶者に無断で離婚届に署名押印する行為は、私文書偽造罪に該当します。
親族間だからといって軽く扱われることはなく、逮捕・起訴に発展するリスクも十分にあるといえるでしょう。
従業員が架空の領収書を作成する
会社の従業員が、交通費や接待費を水増しして不正に経費を請求するため、架空の領収書を自作し、あたかも取引先の発行であるかのように見せかけて印鑑を押すケースも有印私文書偽造罪に該当します。
この場合、領収書は経済取引の証明としての役割を果たす文書であり、「事実証明に関する文書」に該当します。また、会社に対して提出する目的(行使目的)も明確であるため、業務上横領罪や詐欺罪と並行して立件されることも少なくありません。
特に、複数回にわたる偽造行為や組織的な水増し請求があった場合には、常習性や悪質性が問題視され、実刑判決につながるおそれもあります。
有印私文書偽造罪で逮捕された実際の事例を紹介
以下では、有印私文書偽造罪で逮捕された実際の事例を紹介します。
新型コロナ離隔証明書を偽造して逮捕
勤務先への提出のため、実在しない医療機関名義で隔離証明書を偽造し、押印して提出したとして逮捕された事例として、以下のようなものがあります。
陸上自衛隊都城駐屯地の自衛隊員2人が、新型コロナに関する隔離証明書を偽造したなどとして、有印私文書偽造などの疑いで書類送検されました。 書類送検されたのは、都城駐屯地第43普通科連隊所属の22歳の陸士長、2人です。このうち1人は、おととし、新型コロナに関する隔離証明書を偽造し、保険会社に郵送。 さらに、去年、2人は、同じように隔離証明書を偽造し、保険会社に郵送した疑いです。これを受け、陸上自衛隊の警務隊は2人を有印私文書偽造などの疑いで、3日、書類送検しました。 (引用:MRT)新型コロナ隔離証明書を偽造した疑い 陸上自衛隊都城駐屯地の自衛隊員を書類送検 |
技能講習修了証を偽造して刑事告発
フォークリフトの運転やガス溶接など危険を伴う業務に従事する場合に必要な技能講習修了証を偽造したとして、金属加工会社が刑事告発された事例として、以下のようなものがあります。
フォークリフトの運転など危険を伴う業務に従事するのに必要な証明書を偽造した疑いがあるとして、千葉労働局は千葉県木更津市の金属加工会社を刑事告発しました。労働局によりますと、1枚あたり数万円で主に外国人に売っていたとみられるということです。 刑事告発されたのは、木更津市の金属加工会社「種子島」で、千葉労働局によりますと、「技能講習修了証」を偽造したとして、有印私文書偽造の疑いがあるということです。「技能講習修了証」は、フォークリフトの運転やガス溶接など危険を伴う業務に従事する場合に必要な証明書で、労働局の登録機関で規定の講習を受けた個人に発行されます。労働局が去年、千葉県内の企業から相談を受けて確認したところ、「技能講習修了証」ではなくて「技能講習終了証明書」と書かれていたほか、発行元が労働局に登録のない金属加工会社になっているなど、偽造されたものと分かったということです。 これまでの調べで通信アプリを通じて1枚あたり数万円で主に外国人に売り、全国で少なくとも200枚ほどが出回っているとみられるということです。労働局によりますと、金属加工会社は偽造した疑いについて一部否認しているということです。労働局は各地の事業者に対し、証明書の再確認と偽造されたものの回収を呼びかけています。 (引用:NHK)技能講習修了証偽造疑い 金属加工会社を刑事告発 千葉労働局 |
旅行業登録の更新書類を偽造して逮捕
観光業者が国への届出書類(旅行業登録の更新書類)を偽造したとして逮捕された事例として、以下のようなものがあります。
那覇署は24日、自身が代表を務める旅行会社の、営業の登録期間を更新する際、偽造した書類を県にメールで提出したとして、有印私文書偽造・同行使の容疑で会社代表の男性(55)=中城村=を那覇地検に書類送致した。 「私がやりました」と容疑を認めているという。書類送検容疑は2023年6月ごろ、旅行業の登録期間更新書類を偽造し、県に提出した疑い。県警によると、男性の会社では外国人を含む観光客を対象に、県内のツアーやレンタカーの手配などを行っていたという。 県警は「県内で増加する外国人観光客の利益や安心安全を阻害する事案である」と警戒を示し、適正な書類申請を呼びかけている。 (引用:琉球新報)旅行業登録の更新書類を偽造疑い 会社代表を書類送検 外国人観光客ツアーなど手配 沖縄 |
有印私文書偽造罪を犯してしまったときの対処法
万が一、有印私文書偽造罪に該当する行為をしてしまった場合は、早期に適切な対応をとることが重要です。以下では、有印私文書偽造罪を犯してしまったときの対処法を紹介します。
被害者との示談
有印私文書偽造罪を犯したときにもっとも効果的な対処法は、被害者との示談です。
示談が成立すれば逮捕や起訴を回避できる可能性が高くなり、起訴されたとしても刑が軽くなる可能性があります。
有印私文書偽造罪のみが成立するケースであれば、被害者に対する慰謝料や迷惑料程度の支払いで済みますので、示談金としては数十万円程度が相場になります。
しかし、一般的には有印私文書偽造罪は詐欺罪や横領罪とセットで成立するケースも多いため、被害者に生じた実損害の補填も必要になります。そのため、このようなケースでは100万円から数千万円にも及ぶ示談金が必要になるケースもあります。
自首
自ら警察に出頭して罪を認める「自首」も、刑事処分を軽減する有効な手段です。自首をすることで、逮捕を回避できるという事実上の効果も期待できますので、捜査機関に犯罪事実が発覚していないタイミングであれば、自首も検討してみるとよいでしょう。
ただし、自首をすれば必ず逮捕を回避できるというわけではありませんので、自首するかどうかは弁護士と相談しながら慎重に判断するようにしてください。
弁護士に相談
有印私文書偽造を犯したときは、すぐに弁護士に相談することをおすすめします。
有利な処分を獲得するためには被害者との示談が重要となりますが、加害者が直接連絡しようとしても被害者から拒絶されてしまうケースも多く、当事者同士での示談交渉は困難です。このようなケースでは、弁護士が窓口となって交渉することで、スムーズに示談交渉を進められますので、早期に示談を成立させるためにも、早めに弁護士に相談するようにしてください。
また、刑事事件に強い弁護士であれば、逮捕されたときの早期釈放や不起訴処分の獲得に向けたサポートが受けられますので、相談するなら刑事事件の実績と経験豊富な弁護士にするべきでしょう。
有印私文書偽造罪の公訴時効は5年
有印私文書偽造罪の公訴時効は5年とされています。
つまり、有印私文書偽造罪を犯してから5年間は捜査・起訴の対象となるため、過去の行為でも注意が必要です。
有印私文書偽造罪の弁護はグラディアトル法律事務所にお任せを
有印私文書偽造罪は、単体では比較的軽微な犯罪だと考えている方も多いですが、実際には詐欺罪や横領罪などと併せて追及されるケースが多く、処罰が重くなるおそれがある重大な犯罪です。そのため、捜査の初期段階でいかに適切に対応できるかが、その後の処分の重さを大きく左右します。少しでも刑事処分を軽減したいと考えるのであれば、できるだけ早い段階で、刑事事件に精通した弁護士の支援を受けることが不可欠です。
グラディアトル法律事務所には、有印私文書偽造を含む数多くの刑事事件を取り扱ってきた弁護士が在籍しています。私たちは、これまでの実績と経験にもとづき、身柄の早期釈放、取調べ対応、被害者との示談交渉、裁判での有利な主張の組み立てなど、状況に応じた迅速なサポートを行っています。特に、逮捕直後の身柄解放や不起訴処分の獲得を目指す弁護活動において、多くの成功事例を有しています。
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まとめ
有印私文書偽造罪は、他人の印鑑や署名を用いて私文書を偽造する行為をした場合に成立する犯罪です。法定刑に罰金刑が存在しないため、起訴され有罪になると懲役刑(拘禁刑)が科される非常に重い犯罪になりますので、早期に適切な対応をすることが求められます。
もしご自身やご家族が関与してしまった場合には、早急な示談、自首、弁護士相談が有効ですので、まずはグラディアトル法律事務所までご相談ください。