「特別背任罪の代表的な事例にはどのようなものがあるの?」
「特別背任罪は必ず実刑になる?未遂でも処罰される?」
「特別背任罪の弁護を弁護士に依頼するメリットとは?」
特別背任罪とは、会社の取締役など一定の重要な地位にある人が会社の任務に背く行為をして会社に損害を与えた場合に成立する犯罪です。
以前、マスコミで大々的に報道された日産自動車の前会長カルロス・ゴーン氏の会社資金の流用も特別背任事件になりますので、「特別背任罪」という言葉を聞いたことがある方もいるでしょう。過去の代表的な特別背任事件には、拓銀特別背任事件、イトマン事件、平和相互銀行特別背任事件などがありますので、どのような犯罪なのかを具体的にイメージするためにも、代表的な事例を押さえておきましょう。
本記事では、
・特別背任事件の代表的な事例3選 ・特別背任罪の事例に関するよくある質問 ・特別背任罪に問われた際、弁護士に依頼するメリット |
などについてわかりやすく解説します。
特別背任罪は、一般的な背任罪に比べて法定刑が重く、初犯であっても実刑になるリスクがあります。そのため、特別背任罪を犯してしまったときは、すぐに刑事事件に強い弁護士に相談するようにしてください。
目次
特別背任罪の有名事例・判例

特別背任罪の事例①|拓銀特別背任事件(最高裁平成21年11月9日決定)
銀行の代表取締役頭取ら3人が、実質的に倒産状態にある融資先企業に対し、赤字補填金などを実質無担保で融資を行った事件です。本来、銀行が融資を実行する際には、融資先の返済能力などを調査し、回収困難にならないよう適切な担保を設定することが求められているにもかかわらず、被告人らは、経営上合理的な理由なく無担保で融資を継続し、銀行に多額の損害を与えることになりました。
裁判所は、被告人ら3人に対して、懲役2年6か月の実刑判決を言い渡しました。
被告人らは、本件各融資は、実質破綻企業に対する既存の貸付金の回収額をより多くして損失の極小化をすること、銀行に対する信用不安の発生を防止し、融資打ち切りによる地域社会の混乱を回避するなどの事情で行われたものであり、経営判断の原則が適用されるべきものであるとして無罪を主張していました。
しかし、銀行は、業務の性質上、一般の民間企業と同様のリスク取引を行うことは許容されず、実質破綻企業への無担保融資が許容されるのは、主に以下のような場合になります。
・清算手続きに伴う必要資金を融資する場合 ・法的再建手続きに必要な資金を融資する場合 ・再建、再編計画の検討期間中に必要な資金を融資する場合 ・再編、再生計画実行中に必要な資金を融資する場合 |
本件では、融資先が債務超過状態にあり、経営改善や再建に向けて抜本的な対策に着手していないにもかかわらず、漫然と融資を継続していたことから、経営判断の適用はなく、銀行頭取としての任務に違背していたものと認定されています。
なお、被告人らには、前科前歴がなく、銀行から退職金を得ていないなどの有利な事情もありましたが、損害額が高額であり、銀行の頭取としての基本的な義務をないがしろにしたことから任務違背の程度が大きく、実刑判決となりました。
特別背任罪の事例②|イトマン事件(最高裁平成17年10月7日決定)
イトマン事件とは、「戦後最大の経済事件」とも呼ばれる特別背任事件です。この事件は、大阪市内の総合商社・伊藤萬の代表取締役が、子会社の取締役らと共謀して、不正な融資や取引により会社から数千億円を引き出した事件です。具体的には、絵画などの美術品購入をめぐる任務違背のほか、不動産投資(ゴルフ場開発資金)名目での巨額融資などで、会社に多額の損害を与えることになりました。
裁判では、被告人らに懲役7年の実刑判決が下されています。
伊東萬による不正な取引は数多くありましたが、そのうち立件されたのはわずか10件ほどでした。裁判でも不正取引の全容は明らかになることはなく、多額の資金が裏社会に流れたと言われています。
特別背任罪の事例③|平和相互銀行特別背任事件(最高裁平成10年11月25日決定)
平和相互銀行特別背任事件とは、当時の株式会社平和相互銀行の監査役で顧問弁護士であり、経営上強い発言力を持っていた被告人が、代表取締役らと共謀して、融資先から必要な担保をとらずに土地の購入資金・開発資金などを不正融資した事件です。
起訴された不正融資は4件あり、いずれも特別背任罪の成立が認められ、被告人のうち1人が懲役3年の実刑判決、もう1人が懲役3年6月の実刑判決となりました。
なお、裁判では、被告人らに銀行の利益を図るという目的があるとされましたが、主たる目的は、融資先の利益を図る目的であったとして、特別背任罪の成立を認めています。このように、本人図利目的と第三者図利目的が併存する場合には、どちらが主たる目的であるかによって特別背任罪の成立を判断するのが判例の立場になります。
特別背任罪の最近の事例

以下では、特別背任罪で逮捕・起訴された最近の事例を紹介します。
投資ファンド運営会社元代表が特別背任罪で起訴された事例
架空の業務委託契約で知人の会社に計約4000万円の資金を不正に送金し、役員を務める会社2社に損害を与えたとして、東京地検特捜部は、投資ファンド運営会社「IDIインフラストラクチャーズ」の元代表取締役(61)を会社法違反(特別背任)と背任の罪で起訴しました。
容疑者は、部下らと共謀して、IDI社や自身が取締役を務めていた外国法人を通じて計約4160万円相当を知人が経営する会社に送金し、名目はいずれも業務委託費だが架空とみられ、IDI社と外国法人に損害を与えたとされています。
(引用:朝日新聞デジタル)ファンド運営会社元代表を特別背任罪で起訴 東京地検特捜部
部品製造・販売会社の元代表らが特別背任罪で逮捕された事例
経営していたナットなどの製造・販売会社「東京衡機エンジニアリング」に、外注先から人件費を水増し請求させ約1000万円の損害を与えたとして、神奈川県警は、会社法違反(特別背任)の疑いで、同社元社長と、外注先の金属加工・販売会社の代表取締役を逮捕しました。
関係者によると、製造・販売会社の元社長が金属加工・販売会社の代表取締役に東京衡機エンジニアリングに対して人件費を水増し請求させたことにより、同社に約1000万円の損害を与えた疑いが持たれている。東京衡機エンジニアリング側が金属加工・販売会社と委託加工費の金額を協議する中で、水増し請求疑惑が浮上しました。
(引用:産経新聞)特別背任の疑いで元社長ら2人を逮捕 部品製造会社に人件費を水増し請求
芸能事務所の元取締役が特別背任罪で逮捕された事例
取引先への発注額を水増しして会社に損害を与えたとして、警視庁渋谷署は、芸能事務所「buddy go」の元取締役(56)を会社法違反(特別背任)容疑で逮捕したと発表しました。
発表によると、容疑者は、所属する歌手aikoさんのファン向けのTシャツやバッグなどを、知人の男(56)が営む芸能関連会社を通じて仕入れた際、仕入れ価格を25回水増しし、会社に計約1億円の損害を与えた疑いが持たれています。
調べに対して容疑者は、「知人の会社が得た利益の9割を受け取る契約は結んだが、会社法違反の認識はない」と供述しています。
(引用:読売新聞オンライン)aikoさん事務所の元取締役、1億円特別背任容疑…ファン向けTシャツなど仕入れ値水増し
日産自動車元会長が特別背任罪で起訴された事例
東京地検特捜部は、オマーンの販売代理店に支払った会社の資金の一部を自らに還流させたとして日産自動車元会長、カルロス・ゴーン容疑者(65)を会社法違反(特別背任)罪で追起訴しました。
起訴状によると、ゴーン元会長は2017年7月~18年7月、日産子会社「中東日産会社」(アラブ首長国連邦)からオマーンの販売代理店「スヘイル・バウワン・オートモービルズ」に計1000万ドルを送金させ、うち計500万ドル(約5億5500万円)を元会長が実質保有する預金口座に還流させたとされています。
(引用:日本経済新聞)ゴーン元会長を追起訴、特別背任罪 捜査は事実上終結へ
特別背任罪の事例に関するよくある質問

以下では、特別背任罪の事例に関するよくある質問を紹介します。
特別背任罪は親告罪?
特別背任罪は、親告罪ではありません。
親告罪とは、被害者などによる告訴がなければ起訴することができない犯罪をいいます。特別背任罪は、親告罪ではありませんので、被害者からの告訴がなくても警察が捜査を進め、事件を起訴することが可能です。
もっとも、会社内部で行われる任務違背行為を警察が独自に把握するのは困難ですので、通常は、被害者による刑事告訴をきっかけに捜査が開始します。
特別背任罪は必ず実刑になる?
特別背任罪は、一般的な背任罪に比べて重い犯罪になりますが、必ず実刑になるわけではありません。
しかし、被害額が高額になると実刑になるリスクが高くなりますので、早期に適切な弁護活動を行うことが大切です。執行猶予付き判決を獲得できれば、有罪になっても刑務所への収容を回避できますので、執行猶予が付くかどうかが重要なポイントになります。
特別背任罪は未遂でも処罰される?
特別背任罪は、未遂犯の処罰規定がありますので、特別背任罪の未遂も処罰対象になります(会社法962条)。
特別背任罪の未遂とは、会社法960条1項各号で定める一定の身分がある人による任務違背行為があったものの、会社に損害が発生しなかった場合をいいます。
特別背任未遂罪の法定刑は、特別背任既遂罪と同じく10年以下の懲役または1000万円以下の罰金(併科あり)ですが、未遂による刑の減免が受けられる可能性があります。
関連コラム:
特別背任罪とは?成立要件や罰則、具体的な事例やリスクなどを解説
特別背任罪に問われた際、弁護士に依頼するメリット

特別背任罪の疑いをかけられたときは、以下のようなメリットがありますので、弁護士に依頼することをおすすめします。
被害を受けた会社との間の示談交渉をサポートできる
特別背任事件は、任務違背行為により会社に損害を与える犯罪ですので、会社との示談が重要になります。
早期に示談交渉を行い、示談を成立させることができれば、事件化を回避することができますので、特別背任罪で処罰されるリスクは消滅します。また、会社により刑事告訴された後でも、示談が成立していれば逮捕や起訴を回避できる可能性が高くなります。
しかし、特別背任罪の示談交渉は、法的知識や交渉経験がなければ会社との交渉が難航し、合意に至らない可能性もあります。そのため、示談成立の可能性を高めるためにも会社との交渉は、弁護士に依頼するべきです。弁護士であれば、豊富な交渉経験に基づき会社との交渉を進められますので、適正な条件で示談を成立させることが可能です。
自首同行により逮捕のリスクを軽減できる
捜査機関に特別背任事件が発覚する前であれば、警察に自首をすることで逮捕のリスクを軽減することができます。
弁護士に依頼すれば弁護士が自首に同行しますので、警察に対して逮捕をしないよう強く要請することによって逮捕を回避できる可能性を高めることができます。また、弁護士が身柄引受人になることで逃亡・証拠隠滅のおそれを軽減できるため、それにより逮捕を回避できる可能性を高めることもできます。
ただし、自首をしたからといって必ず逮捕を回避できるわけではありませので、自首をするかどうかは弁護士と相談しながら慎重に検討するようにしてください。
逮捕されたとしても迅速に面会をしてアドバイスができる
警察により逮捕されると最長72時間の身柄拘束を受け、その間は、弁護士以外の人との面会は一切できません。また、その後勾留・勾留延長されるとさらに最長20日間の身柄拘束を受け、その間に警察による取り調べを受けることになります。
警察の取り調べで話した内容は、供述調書にまとめられ後日の裁判の証拠となります。供述調書は、捜査機関側が考えるストーリーに沿って作成されますので、自分の認識とは異なる供述調書が作成されるリスクがあります。
弁護士に依頼をすれば早期に面会に駆けつけて、今後の取り調べに対するアドバイスをしてもらうことができます。弁護士のアドバイスに従って取り調べに対応することで、不利な供述調書を作成されるリスクを最小限に抑えることができるでしょう。
特別背任罪の弁護はグラディアトル法律事務所にお任せください

特別背任罪の主体である取締役などの経営者には、経営判断にあたって一定の裁量が与えられていますので、会社に損害が生じたとしても、直ちに特別背任罪に問われるわけではありません。任務違背行為がなかったことや図利加害目的がなかったことなどを主張していくことで、特別背任罪の成立を否定できるケースもあります。
それには、専門家である弁護士のサポートが不可欠になりますので、特別背任罪の疑いをかけられてしまったときは、すぐにグラディアトル法律事務所までご相談ください。特別背任事件は、非常に複雑な事件ですので、経験豊富な弁護士でなければ対応を誤って不利な処分となるリスクが高くなります。当事務所では、刑事事件に関する豊富な経験と実績がありますので、特別背任事件に関してもどうぞ安心してお任せください。
また、事実関係を認める場合では、早期に被害者との示談を成立させ、不起訴や執行猶予付き判決獲得に向けたサポートもできますので、まずはグラディアトル法律事務所までご相談ください。
まとめ
今回は、特別背任罪の事例について紹介しましたが、いずれも巨額の特別背任事件で、刑事裁判では実刑判決が言い渡されています。特別背任罪は、必ず実刑になるわけではありませんが、被害額が高額な事案になると実刑判決が言い渡されるリスクが高いため、できる限り早い段階で弁護士に相談すべきでしょう。
特別背任罪の疑いをかけられてしまったときは、経験と実績豊富なグラディアトル法律事務所までご相談ください。