あおり運転は暴行罪から妨害運転罪へ|10の禁止行為と罰則を解説

あおり運転は暴行罪から妨害運転罪へ|10の禁止行為と罰則を解説
弁護士 若林翔
2025年09月11日更新

「あおり運転にはどのような罪が適用される?」

「あおり運転になる行為にはどのようなものがある?」

「あおり運転で逮捕されるとどうなる?」

車を運転していると、前方の車に煽られたり、車間距離を極端に詰められたりといった「あおり運転」に遭遇することがあります。以前はこのような危険行為に対して、暴行罪が適用されるケースがありましたが、現在では「妨害運転罪」が新たに設けられ、より厳しく処罰されるようになりました。

「妨害運転」の内容については、法律で詳細に規定されていますので、どのような行為が妨害運転にあたるのかしっかりと理解しておきましょう。

本記事では、

・あおり運転に暴行罪が適用されていた背景
・法改正により創設された妨害運転罪の内容
・あおり運転の対象となる10の具体的な行為類型

などを詳しく解説します。

万が一、自分や身近な人があおり運転をしてしまった場合に備えて、逮捕後の流れや弁護士に相談すべき理由についても触れていますので、ぜひ最後までお読みください。

あおり運転への法的対応の変遷|暴行罪から妨害運転罪へ

かつては、あおり運転に対して直接適用できる法律が存在しなかったため、刑法の暴行罪が適用されていました。暴行罪は、人に対する有形力の行使を処罰する規定ですが、車を使った威嚇的な運転行為も含まれると解釈されています。そのため、幅寄せや急ブレーキといった行為に対しては、暴行罪として立件されるケースがありました。

しかし、こうした対応では法的な明確性に欠け、抑止力としても不十分との批判がありました。これを受けて、2020年の道路交通法改正により「妨害運転罪」が新設され、あおり運転に特化した処罰が可能になりました。この改正によって、あおり運転は独立した犯罪として明確に規定され、警察による摘発や起訴も進めやすくなったのです。

あおり運転に妨害運転罪が適用される10の行為類型

類型行為内容該当違反名
対向車線へのはみ出しセンターライン越え・逆走で威嚇通行区分違反
急ブレーキ後続車を驚かせる目的の急停止急ブレーキ禁止違反
車間距離を詰める前車に極端に接近してプレッシャーをかける車間距離不保持
急な進路変更急ハンドルで割り込み・妨害進路変更禁止違反
危険な追い越し無理な追い越しや直後の妨害減速追い越し方法違反
執拗なパッシングライト点滅による威嚇減光等義務違反
執拗なクラクション必要なく鳴らし続ける警音器使用制限違反
幅寄せ・蛇行運転進路ふさぎ・追い込みなど危険運転安全運転義務違反
高速道路での低速走行意図的に交通の流れを妨げる遅走行最低速度違反
高速道路での駐停車高速道路上での無用な停車高速自動車国道等駐停車違反

妨害運転罪は、以下の10類型の行為が対象です。いずれも他の車両の通行を妨害する目的で行われた場合に処罰対象となります。

対向車線へのはみ出しや逆走|通行区分違反

意図的にセンターラインを越えて対向車線にはみ出したり、逆走して他車を威嚇する行為は「通行区分違反」にあたります。特に対向車との接触事故のリスクが高く、重大な交通事故につながりかねません。

急ブレーキ|急ブレーキ禁止違反

後続車を驚かせる目的で急ブレーキをかける行為も典型的なあおり運転です。道路交通法では「急ブレーキ禁止違反」として規定されており、追突事故の原因にもなります。

極端に車間距離を詰める|車間距離不保持

前の車に極端に接近してプレッシャーをかける行為は「車間距離不保持」に該当します。適切な車間距離を保っていなければ、前車の急な挙動に対応できず、重大な交通事故につながりかねません。これは運転手に強い恐怖感を与える悪質な行為といえます。

急な進路変更|進路変更禁止違反

意図的に急ハンドルを切って車線を変更し、他車の走行を妨害する行為は「進路変更禁止違反」です。無理な割り込みも含まれ、事故のリスクが非常に高くなります。

危険な追い越し|追い越し方法違反

安全確認をせず、危険なタイミングで追い越しを行うことは「追い越し方法違反」にあたります。追い越した後に前方で減速して妨害する行為なども含まれます。

執拗なパッシング|減光等義務違反

ヘッドライトを何度も点滅させて威嚇する「パッシング」は、「減光等義務違反」として取り締まりの対象になります。夜間では特に危険性が増します。

執拗なクラクション|警音器使用制限違反

警音器(クラクション)は「必要な場合」にのみ使用が許されています。執拗に鳴らし続けることは「警音器使用制限違反」に該当します。

幅寄せ・蛇行運転など|安全運転義務違反

幅寄せや蛇行運転で相手の進路をふさぐような行為は「安全運転義務違反」です。相手を道路の端に追いやるなどの危険な運転もこれに含まれます。

高速道路での低速走行|最低速度違反

高速道路上で必要以上に低速で走行し、後続車に迷惑をかけたり、意図的に交通の流れを妨害する行為は「最低速度違反」として扱われます。多くの高速道路では最低速度が時速50㎞に設定されていますので、それを下回る速度での走行は、最低速度違反となります。

高速道路での駐停車|高速自動車国道等駐停車違反

高速道路上で無用に停車して相手車両の進行を妨げる行為は極めて危険です。「高速自動車国道等駐停車違反」に該当し、厳しい処罰の対象となります。

あおり運転(妨害運転罪)の罰則|暴行罪よりも厳罰化

あおり運転(妨害運転罪)の罰則|暴行罪よりも厳罰化

妨害運転罪の創設により、あおり運転に対しては従来の暴行罪よりも厳しい罰則が適用されます。具体的な罰則は、以下のとおりです。

・交通の危険のおそれがある妨害運転:3年以下の懲役(拘禁刑)または50万円以下の罰金
・著しい交通の危険を生じさせた妨害運転:5年以下の懲役(拘禁刑)または100万円以下の罰金

また、妨害運転罪で検挙された場合、一発で免許取り消し処分になります。

このようにあおり運転は、行政処分と刑事処分の両方を受ける可能性があるため、社会的影響も大きいといえるでしょう。

※「拘禁刑(こうきんけい)」とは、従来の刑罰である懲役と禁錮を一本化した刑罰です。改正刑法に基づき、2025年6月1日から、懲役と禁錮は拘禁刑に一本化されました。

あおり運転で逮捕されるとどうなる?逮捕後の流れ

あおり運転で逮捕されるとどうなる?逮捕後の流れ

あおり運転で警察に通報された場合、証拠が揃っていれば現行犯逮捕や通常逮捕(後日逮捕)される可能性があります。逮捕後の一般的な流れは以下のとおりです。

逮捕・取り調べ

逮捕後、被疑者は警察署に連行され、取り調べを受けます。取り調べでは、動機や当時の状況、意図的だったかどうかなどが詳しく聞かれます。

この供述内容は、後の処分に大きな影響を与えるため、曖昧な回答はせず、回答に悩むときは自己判断で対応せず弁護士と相談しながら慎重に対応することが重要です。

検察官送致・勾留請求

逮捕から48時間以内に、事件は検察官へ送致されます。検察官は被疑者をさらに拘束する必要があると判断した場合、逮捕から72時間以内かつ送致から24時間以内に裁判官に勾留を請求します。

勾留・勾留延長

裁判官は、被疑者に対する勾留質問を行った上で、勾留を許可するかどうかの判断をします。

勾留が許可されると原則10日間の身柄拘束となり、必要があればされに10日間の延長が可能です。

つまり逮捕から合計すると23日間にも及ぶ身柄拘束期間になりますので、会社員であれば欠勤が長引き、社会生活や信用にも影響を及ぼします。

起訴または不起訴の決定

勾留期間の終了前に、検察官が起訴するか不起訴にするかを判断します。起訴されれば正式な刑事裁判に進み、有罪となれば妨害運転罪に基づく厳しい刑罰が科されることになります。

起訴されればほぼ確実に有罪になってしまいますので、前科を避けるには不起訴処分を獲得することが重要です。

法改正により暴行罪よりも厳罰化!あおり運転をしてしまったときはグラディアトル法律事務所に相談を

妨害運転罪は、2020年の道路交通法改正により新設された規定で、あおり運転のように他人の通行を妨げる目的で車を操作する悪質な行為を対象としています。従来は暴行罪などの規定で対処されていましたが、それでは十分な抑止力にならないという社会的問題を受け、より明確かつ重い罰則を設けたのがこの妨害運転罪です。

この法律のもとでは、運転者の「妨害する意思」が重視されるため、同じような運転行為でも意図や状況によって処分の重さが異なります。たとえば、相手から挑発を受けた結果、短絡的に行動してしまったケースでは、情状酌量の余地がある場合もあります。逆に、ドライブレコーダー映像などで悪質性が明白であれば、逮捕・起訴・免許取消といった重い処分に直結します。

そのため、万が一あおり運転で通報された・身に覚えがあるといった場合は、すぐに弁護士に相談し、今後の対応を慎重に進めることが重要です。グラディアトル法律事務所では、交通事件に精通した弁護士が状況を丁寧に分析し、迅速に対応いたします。

ご自身やご家族の将来を守るためにも、早期のご相談をおすすめします。

まとめ

あおり運転は、これまで暴行罪などで処罰されることもありましたが、2020年の法改正により「妨害運転罪」という新たな処罰規定が設けられ、厳しい取り締まりが行われるようになりました。

あおり運転に関わってしまった、または通報された可能性があるという方は、まずは交通事件に強いグラディアトル法律事務所までご相談ください。

弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。

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