「職務質問してきた警察官に暴力をふるってしまった…どんな罪に問われるのか」
「公務執行妨害は初犯でも懲役になる可能性はあるのか」
職務執行中の公務員に対して暴力・脅迫を加えた場合は、公務執行妨害罪が成立します。
公務執行妨害罪には懲役刑(拘禁刑)が規定されているので、最悪の場合は、刑務所に収容される可能性もゼロではありません。
実際、公務執行妨害罪の罪に問われ、実刑を受けることになるのか不安に感じている方もいるのではないでしょうか。
そこで本記事では、公務執行妨害罪で懲役刑(拘禁刑)が言い渡される可能性について解説します。
※刑法改正により、2025年6月から懲役刑と禁錮刑は「拘禁刑」に一本化されています。
【拘禁刑とは?】 犯罪者を刑事施設に収容し、改善更生に必要な作業を命じたり、指導したりする刑罰のこと。刑務作業は義務ではなく、受刑者の特性に応じた支援プログラムが提供される。 |
目次
公務執行妨害罪の刑罰は「3年以下の懲役・禁錮(拘禁刑)または50万円以下の罰金」
公務執行妨害罪の刑罰は「3年以下の懲役・禁錮(拘禁刑)または50万円以下の罰金」です。
公務員の職務執行を妨害する行為は、国・地域や社会の秩序維持に重大な影響を及ぼすため、比較的重い刑罰が規定されています。
詳しくは後述しますが、悪質なケースでは初犯であっても懲役刑(拘禁刑)が科される可能性があることを理解しておきましょう。
なお、公務員に対する妨害行為により、公務執行妨害罪とほかの罪(暴行罪や脅迫罪など)が同時に成立する「観念的競合」が生じた場合は、法定刑が重いほうの罪を適用するのが原則です。
公務執行妨害罪で懲役刑(拘禁刑)になる可能性はどれくらいある?
ここでは、公務執行妨害罪で懲役刑(拘禁刑)になる可能性を詳しくみていきましょう。
起訴される事件のうち半数程度は略式起訴で罰金刑になる
公務執行妨害罪で起訴される事件のうち、半数程度は略式起訴による罰金刑です。
略式起訴とは、公開の裁判を省略し、書類上の審理のみで処罰を決める手続きのことを指します。
検察庁の統計によると、そもそも起訴されるのは検挙された事件のうち45%程度です。
そして、2023年には766人が起訴されていますが、そのうち略式起訴が419人、公判請求が347人と、略式起訴が起訴全体の約55%を占めています。(参照:検察統計調査|法務省)
公務執行妨害事件は比較的軽微な事案も多く、被疑者が事実を認め反省している場合などは、迅速な処理と社会復帰を促す観点から略式起訴が選択されやすい傾向にあるのです。
裁判の判決では懲役・禁錮(拘禁刑)を言い渡される可能性が高い
公務執行妨害罪で正式起訴され、裁判が開かれた場合は、懲役・禁錮(拘禁刑)を言い渡される可能性が高くなります。
2023年の通常第一審を例に挙げると、公務執行妨害罪で裁判にかけられた200人のうち、およそ8割にあたる157人が懲役・禁錮刑を言い渡されています。(参照:令和6年版犯罪白書|法務省)
とはいえ、量刑はさまざまな事情が考慮されたうえで決定するものです。
公務執行妨害罪で検挙された場合は、最後まであきらめずにしかるべき対処を講じていくようにしましょう。
公務執行妨害罪における懲役刑(拘禁刑)の量刑相場は?初犯でも実刑になる?
2023年の地方裁判所における死刑・懲役・禁錮の科刑状況をみると、公務執行妨害罪の刑期や執行猶予の有無は以下のようになっています。

(参考:令和6年版犯罪白書|法務省)
公務執行妨害罪では「1年以上2年未満の執行猶予付き判決」を言い渡されるケースが多いです。
初犯で起訴された場合には、1年未満の刑期に収まることもあるでしょう。
なお、公務執行妨害罪全体の執行猶予率は約6割です。
懲役・禁錮刑になった157人のうち、100人に対して執行猶予が付されています。
公務執行妨害罪で懲役刑(拘禁刑)の実刑になりやすいケース
次に、公務執行妨害罪で懲役刑(拘禁刑)の実刑になりやすいケースを解説します。
激しい暴行・脅迫がおこなわれていた場合
公務執行妨害罪で懲役刑(拘禁刑)の実刑になりやすいケースのひとつは、激しい暴行や脅迫が行おこなわれていた場合です。
暴行・脅迫の程度が悪質であればあるほど、刑事責任が重く評価されます。
たとえば、警察官に対して殴る・蹴るといった直接的な暴力を繰り返したり、刃物を突きつけて脅迫をした場合などは、執行猶予が付かないこともあるでしょう。
なお、暴行・脅迫に関しては、実際に公務が妨害されているかどうかは問題になりません。
公務が妨害される可能性のある行為であれば、公務執行妨害罪の構成要件を満たします。
前科がある場合
公務執行妨害罪で前科がある場合も、懲役刑(拘禁刑)の実刑判決を受けやすくなります。
前科があることで、更生の余地が小さく、再犯のリスクも高いとみなされてしまうのです。
ただし、前科があっても被害が軽微で、加害者自身も深く反省しているようなケースでは、執行猶予付き判決となる可能性が残されています。
再犯は刑罰が重くなることを念頭に置いたうえで、早期に弁護士と相談し、実刑回避に向けた対処を講じるようにしましょう。
反省の態度が見られない場合
加害者に反省の態度が見られない場合も、公務執行妨害罪で懲役刑(拘禁刑)の実刑判決が言い渡される傾向にあります。
反省する姿勢は、再犯のリスクに直結するものです。
たとえば、加害者が自らの行為を正当化して謝罪を拒否したり、言い逃れをしたりしている場合は、再び同じ罪を犯す可能性が高いと判断されるわけです。
そのため、裁判官は、再犯が起きないように教育する意味合いで、執行猶予を付けず懲役刑(拘禁刑)の実刑を選択するケースがあります。
自身にとって少しでも有利な結末を望んでいるのであれば、素直に罪を認め、反省文を提出するなどの行動を起こすことが大切です。
【判例紹介】公務執行妨害罪の量刑相場
次に実際の判例を参考にしながら、公務執行妨害罪の量刑相場をみていきましょう。
酒に酔った2人が騒音を注意してきた警察官に暴行|懲役10ヵ月・執行猶予3~4年
酒に酔った2人が騒音を注意してきた警察官に暴行し、公務執行妨害罪の罪に問われた事例です。
【事案概要】
①深夜、住民からの騒音苦情を受けて警察官が現場マンションに駆け付けた②警察官が通路で騒いでいた被告人らに対し、静かにするよう注意した③被告人Aが激高し、警察官を怒鳴りながら胸を押して後退させた④続いて、被告人Bが警察官の頭部をヘルメット越しに拳で1回殴りつけた |
(参考:神戸地裁平成18年3月2日|裁判所)
本事案では、警察官の職務執行を妨害した責任は重いとされた一方で、暴行の程度が軽く、謝罪の手紙が作成されるなど、加害者らに反省の姿勢が見られることが考慮されました。
その結果、被告人Aに対して「懲役10ヵ月・執行猶予4年」、被告人Bに対して「懲役10ヵ月・執行猶予3年」が言い渡されています。
役所の窓口で職員に暴行|懲役1年・執行猶予4年
役所の窓口で職員に暴行し、公務執行妨害罪で裁判にかけられた事例です。
【事案概要】
①被告人は、区役所に生活保護費の支給を求めて相談に訪れた②担当職員から「現時点では生活保護費を支給できない」と説明を受け、立腹した③被告人はカウンター上に朱肉ケースを叩き付けた④さらに職員から退席を求められると、被告人は職員の左手を平手で殴打した |
(参考:神戸地裁平成15年3月26日|裁判所)
本事案では、自己中心的な動機で暴行に至ったことに酌量の余地はなく、不合理な弁解を続ける姿勢も厳しく評価されました。
しかし、本人が二度と同様の犯行に及ばないと宣誓していたこともあり、「懲役1年・執行猶予4年」の判決が下されています。
コンビニ店員に暴行し、駆け付けた警察官にも暴行|懲役1年
コンビニ店員に暴行し、駆け付けた警察官にも暴行したことで、暴行罪・公務執行妨害罪の罪に問われた事例です。
【事案概要】
①被告人はコンビニ店員の言動に立腹し、胸ぐらをつかんで引き倒し、腹部を蹴るなどの暴行を加えた②その後、通報で駆けつけた警察官から職務質問を受けた③被告人は警察官のネクタイをつかんで胸部を押すなどの暴行に及んだ |
(参考:神戸地裁平成19年6月4日|裁判所)
被告人は当時アルコールを摂取していたため、裁判では責任能力の程度が争われましたが、結果として責任能力は失われていなかったと判断されました。
そして、暴行罪と公務執行妨害罪の併合罪として刑が加重されたほか、被告人には覚せい剤取締法違反の前科もあったことから、「懲役1年」の実刑判決が言い渡されています。
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まとめ
本記事のポイントは以下のとおりです。
- ◆ 公務執行妨害罪の刑罰は「3年以下の懲役・禁錮(拘禁刑)または50万円以下の罰金」
- ◆ 起訴される事件のうち半数程度は略式起訴で罰金刑
- ◆ 懲役・禁錮刑(拘禁刑)の量刑相場は「1年以上2年未満の執行猶予付き判決」
- ◆ 暴行・脅迫の程度が激しく、反省していない場合などは懲役刑(拘禁刑)の実刑になりやすい
公務執行妨害罪は、たとえ初犯であっても実刑になり得る犯罪です。
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