「威力業務妨害罪と公務執行妨害罪はどのような行為に適用されるのか」
「威力業務妨害罪と公務執行妨害罪の違いがいまいちよくわからない」
威力業務妨害罪は「威力を用いて他人の業務を妨害する行為」に適用される罪です。
一方で、公務執行妨害罪は「暴行・脅迫によって公務員の職務を妨害する行為」を指します。
しかし、なんとなくイメージできていても、威力業務妨害罪と公務執行妨害罪が具体的にどう違うのか、正しく理解できている人は少ないはずです。
そこで本記事では、威力業務妨害罪と公務執行妨害罪の違いについて解説します。
それぞれの検挙事例や逮捕の可能性も詳しくまとめているので、ぜひ最後まで目を通してみてください。
※刑法改正により、2025年6月から懲役刑と禁錮刑は「拘禁刑」に一本化されています。
【拘禁刑とは?】 犯罪者を刑事施設に収容し、改善更生に必要な作業を命じたり、指導したりする刑罰のこと。刑務作業は義務ではなく、受刑者の特性に応じた支援プログラムが提供される。 |
目次
威力業務妨害罪・公務執行妨害罪とは?
まずは、威力業務妨害罪と公務執行妨害罪の構成要件・刑罰について解説します。
威力業務妨害罪の構成要件と刑罰
威力業務妨害罪の構成要件は、「威力を用いて他人の業務を妨害すること」です。
「威力」とは、人の自由意思を制圧するに足りる勢力を指し、必ずしも暴行・脅迫をともなう必要はありません。
たとえば、以下のような行為が威力業務妨害罪に該当します。
- ◆ 特定の会社に対する誹謗中傷をネット上に書き込む
- ◆ 店舗に対して爆破予告をする
- ◆ 株主総会で複数人が怒号し続ける
- ◆ 連日クレームを入れて営業を妨害する
なお、威力業務妨害罪の成立可否を判断するにあたって、実際に業務が妨害されていたかどうかは関係しません。
業務が妨害され得る程度の行為がおこなわれた時点で、構成要件を満たします。
威力業務妨害罪の刑罰は「3年以下の懲役(拘禁刑)または50万円以下の罰金」です。
公務執行妨害罪の構成要件と刑罰
公務執行妨害罪の構成要件は「職務執行中の公務員に対して暴行・脅迫を加えること」です。
「公務員」には、警察官・市役所職員・教員・消防士など法令に基づき公務を執行している者が広く対象とされています。
公共性の高い業務や公務をサポートする業務に従事している民間人も、「みなし公務員」として公務執行妨害罪の対象になることがあります。
また、公務執行妨害罪の保護対象は公務そのものなので、休憩中など「職務執行中」とはいえないところで暴行・脅迫を加えても、公務執行妨害罪は成立しません。
具体的には、以下のような行為が公務執行妨害罪に該当します。
- ◆ 職務質問中の警察官を突き飛ばす
- ◆ パトカーを蹴る
- ◆ 火災現場で消防士の活動を妨害する
- ◆ 役所の窓口にいる職員に「痛い目に遭わせてやる」などと暴言を吐く
なお、実際に公務が妨害されているかどうかは関係せず、公務を妨害するに足りる程度のものであれば、公務執行妨害罪の構成要件を満たします。
公務執行妨害罪の刑罰は「3年以下の懲役(拘禁刑)または50万円以下の罰金」と、威力業務妨害罪と同じです。
威力業務妨害罪と公務執行妨害罪の違いは?
威力業務妨害罪と公務執行妨害罪の主な違いは以下のとおりです。
威力業務妨害罪 | 公務執行妨害罪 | |
妨害の対象 | 一般人の業務・ 強制力のない一部の公務 | 公務員の職務 |
妨害の手段 | 威力 | 暴行・脅迫 |
威力業務妨害罪と公務執行妨害罪の違いは、妨害の対象と手段にあります。
威力業務妨害罪は、民間の一般人が従事する業務を妨害した場合に成立する犯罪です。
一方、公務執行妨害罪は、公務員の職務を妨害した場合に適用されます。
また、公務執行妨害罪は暴行・脅迫による妨害行為に限定されますが、威力業務妨害罪では、暴行・脅迫を含め、人の自由意志を制圧する行為なら幅広く適用対象となります。
なお、刑罰については禁錮刑の有無に違いがありましたが、刑法改正で懲役・禁錮が拘禁刑に一本化されたため、いまでは「3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金」でまったく同じです。
威力業務妨害罪と公務執行妨害罪は観念的競合になることもある
威力業務妨害罪と公務執行妨害罪は、観念的競合となることがあります。
観念的競合とは、1つの行為が同時に両方の犯罪の構成要件を満たす状態のことです。
まず、公務執行妨害罪は公務全般を対象にしています。
そのなかで、非権力的な公務に対する妨害行為は、威力業務妨害罪の対象にもなり得るのです。
たとえば、市役所の窓口業務に従事する職員に暴行・脅迫を加え、それが「威力」にもあたる場合は、公務執行妨害罪と威力業務妨害罪が成立します。
観念的競合が生じた場合は、法定刑が最も重い罪で処罰されるのが原則です。
とはいえ、威力業務妨害罪と公務執行妨害罪の刑罰は「3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金」で同じなので、その範囲で刑罰が言い渡されることになります。
威力業務妨害罪の罪に問われた事例
ここでは、実際に威力業務妨害罪の罪に問われた事例を3つ紹介します。
事案概要 |
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鹿児島地検は18日、衆議院議員の〇〇氏(67)の後援会事務所(鹿児島市〇〇)に向けて爆竹を投げ込んだとして、鹿児島市の施設作業員の男(62)を威力業務妨害罪で鹿児島地裁に在宅起訴した。認否を明らかにしていない。起訴状などによると、被告は2024年10月28日午前9時40分ごろ、事務所前の国道225号で、ミニバイクにまたがりながら爆竹に火を付けて事務所に向かって投げ、関係者の業務を妨害したとされる。衆院選投開票日の翌日で、〇〇氏は当時、事務所内で報道各社の取材を受けていた。鹿児島南署が10月29日に逮捕した。(引用:南日本新聞デジタル) |
昨年11月に開催された自動車の世界ラリー選手権(WRC)で、岐阜県恵那市の競技コースに車で進入し競技を妨害したとして、威力業務妨害罪に問われた会社員、〇〇被告(42)は27日、岐阜地裁多治見支部(〇〇裁判官)で開かれた初公判で起訴内容を認めた。検察側は「自己中心的極まりない犯行」として懲役2年6月を求刑し、弁護側は執行猶予付き判決を求め即日結審した。判決は4月17日。起訴状によると、昨年11月23日、恵那市内の公道を規制して開催された競技のコースに、係員の制止を振り切って車で進入。競技車両の直前に停車して発走できなくさせた上、競技を中止させたなどとしている。(引用:産経新聞) |
石川県白山市内の公園の施設に火をつけたうえ、市に爆破予告の文書を送ったなどとして威力業務妨害などの罪に問われた市職員の男の初公判が15日金沢地裁で開かれ、男は罪を認めました。この裁判は7月、白山市の松任総合運動公園で敷地内にある東屋に火をつけ燃やしたうえ、白山市役所と松任総合運動公園を爆破させるなどと書いた文書をFAXで市に送信したとして、白山市公園緑地課の職員の男(35)が器物損壊と威力業務妨害の罪に問われているものです。検察側は、男が犯行当日に任されていた会議の準備ができておらず、中止させるために犯行に及んだほか、東屋を燃やすための道具や証拠隠滅のための手袋などを用意していることなどから計画的な犯行だったとして、懲役2年を求刑しました。(引用:北陸放送ニュース) |
2023年における信用棄損・威力業務妨害の検挙件数は627件です。(参照:令和5年の刑法犯に関する統計資料|警察庁)
公務執行妨害罪に比べると検挙件数は少ないものの、身近にある犯罪のひとつであり、安直な行動によって自分自身が加害者になることも十分考えられます。
公務執行妨害罪の罪に問われた事例
ここでは、実際に公務執行妨害罪の罪に問われた事例を3つ紹介します。
事案概要 |
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市によると今年7月、生活福祉課を訪れた55歳の男が60代の男性職員を突き飛ばし、頭部打撲など7日間のけがを負わせた疑いで松本署に逮捕され、8月2日に傷害罪と公務執行妨害罪で起訴された。男は逮捕の1週間前も同課の窓口で職員に暴言をはいたり机を強くたたいたりしたため、当日は職員4人で対応していたという。(引用:朝日新聞) |
横浜地検の収容を振り切り、5日間にわたって逃走を続けた無職の男(43)の逮捕容疑は、刃物を振り回して地検職員の業務を妨げたとする公務執行妨害だ。・・・窃盗や覚せい剤取締法違反(使用)などの罪に問われた同容疑者は、控訴審中に保釈された。2月に懲役3年8月の実刑判決が確定した後、再三の出頭要請に応じず、4カ月以上も社会で普通に生活を送っていたが、勾留中の容疑者や被告、服役中の受刑者を対象とする逃走罪は、同容疑者に適用できない。(引用:神奈川新聞) |
郡山市で公務中の男性警察官を蹴るなどした疑いで42歳の男が現行犯逮捕されました。公務執行妨害の疑いで現行犯逮捕されたのは、郡山市に住む42歳の会社員の男です。4月27日の午後9時半すぎ、「酒に酔って暴れている人がいる」という通報を受けて駆けつけた41歳の男性警察官が、郡山市安積町荒井の市道で男に股間をけられた疑いで、男は公務執行妨害の容疑で現行犯逮捕されました。(引用:福島中央テレビ) |
2023年における公務執行妨害罪の検挙件数は1,604件です。(参照:令和5年の刑法犯に関する統計資料|警察庁)
公務執行妨害罪の検挙件数は一貫して減少していましたが、近年では増加傾向に転じています。
威力業務妨害罪・公務執行妨害罪による逮捕の可能性
次に、威力業務妨害罪・公務執行妨害罪による逮捕の可能性について詳しく見ていきましょう。
威力業務妨害罪・公務執行妨害罪の逮捕率
威力業務妨害罪・公務執行妨害罪の逮捕率は以下のとおりです。
【既済となった事件の被疑者の逮捕人員】
威力業務妨害罪 | 約43%(947件のうち411件が逮捕) ※信用棄損・業務妨害の逮捕率 |
公務執行妨害罪 | 約87%(1,796件のうち1,562件が逮捕) |
(参照:検察庁統計|法務省)
既済となった事件の逮捕率は、犯罪全体で約37%です。
つまり、威力業務妨害罪と公務執行妨害罪の逮捕率は比較的高い水準にあるといえるでしょう。
威力業務妨害罪・公務執行妨害罪で逮捕されたあとの流れ
威力業務妨害罪や公務執行妨害罪で逮捕された場合は、まず警察による取り調べがおこなわれます。
犯行に至った経緯や動機などを詳しく聞かれることになるでしょう。
その後、逮捕から48時間以内に検察官へ送致されるケースが一般的です。
次に、検察官の取り調べを受け、多くの場合は24時間以内に勾留請求がおこなわれます。
勾留が認められると原則10日間、延長されると最大20日間にわたる身柄拘束を受けなければなりません。
勾留期間中に検察官が起訴・不起訴を決定し、不起訴の場合は釈放、起訴された場合は裁判に移行します。
ただし、威力業務妨害罪や公務執行妨害罪では略式起訴により、書面での審理のみで、罰金刑が言い渡されるケースも少なくありません。
なお、起訴後の有罪率は99%以上なので、起訴された時点で、刑罰を受けることがほぼ確定します。
威力業務妨害罪・公務執行妨害罪に関する疑問や不安はグラディアトル法律事務所に相談を!
威力業務妨害罪や公務執行妨害罪は、構成要件が複雑で理解しにくい部分があるのも事実です。
もしも、自分自身が罪に問われる可能性があるのなら、できるだけ早く弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に相談・依頼すれば、個々の状況を客観的な視点で分析し、最適な対応策を提案してくれるはずです。
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まとめ
本記事のポイントは以下のとおりです。
- ◆ 威力業務妨害罪は威力を用いて他人の業務を妨害した場合に成立する犯罪
- ◆ 公務執行妨害罪は職務執行中の公務員に暴行・脅迫を加えた場合に成立する犯罪
- ◆ 威力業務妨害罪・公務執行妨害罪は主に妨害の対象と手段が異なる
- ◆ 威力業務妨害罪と公務執行妨害罪は観念的競合になることもある
- ◆ 威力業務妨害罪・公務執行妨害罪の逮捕率は高い水準にある
威力業務妨害罪と公務執行妨害罪は類似する点の多い犯罪ですが、自身が関与している可能性があるなら、それぞれの違いを正しく理解しておくべきです。
少しでも不安なことや疑問に感じることがあれば、グラディアトル法律事務所までご相談ください。
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