刑事事件において、加害者を起訴し、処罰するためには証拠が必須といえます。
そのため、証拠がない状況で業務上横領を疑われたとしても、基本的に不利益を受けることはありません。
一方で、横領が事実であるにもかかわらず、それらしい証拠を残していないからといって楽観視するのは間違いです。
横領事件では予期せぬ証拠が見つかる可能性も高いので、素直に罪を認め、早期解決に向けて動き出すべきでしょう。
本記事では、証拠がない横領事件で不利益を受ける可能性や、冤罪を疑われたときの対処法などについて解説します。
横領が事実であっても冤罪であっても、証拠の重要性は理解しておく必要があるので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
業務上横領で疑われても証拠がないなら不利益を受ける可能性は低い
業務上横領で疑われても、証拠がないなら不利益を受ける可能性は低いといえます。
まずは、証拠がない横領事件の取り扱いについて詳しくみていきましょう。
刑事告訴は受理されない
証拠がない横領事件の刑事告訴は、警察に受理されない可能性が高いと考えられます。
警察は刑事告訴を受理すると、捜査を開始する義務を負わなければなりません。
そのため、犯罪の事実を裏付ける証拠がなく、捜査が難しいケースでは、刑事告訴の受理を拒否することがあります。
なお、業務上横領罪は告訴がなくても起訴されるおそれのある「非親告罪」ですが、基本的に会社からの告訴がなければ捜査機関は動こうとしません。
損害賠償の返還請求は認められない
業務上横領で疑われても、証拠がなければ損害賠償の返還請求は認められない可能性が高いです。
横領事件に関して当事者間での解決が難しい場合は、裁判に発展するケースもあります。
しかし、証拠がない状態で会社が裁判を起こしたとしても、裁判所は横領の事実を認定することはできません。
その結果、会社側の返還請求は棄却されることになるでしょう。
懲戒解雇は無効になる
業務上横領で疑われ、懲戒解雇されたとしても、証拠がなければ無効になります。
懲戒解雇は、従業員の生活に大きな影響を与える重大な処分です。
横領の事実を裏付ける十分な証拠が揃っておらず、推測の域を脱していないような状況では、通常、懲戒解雇は認められません。
冤罪の疑いをかけられて懲戒解雇された場合には、不当解雇として訴えることも検討しましょう。
業務上横領の冤罪で証拠がないのに疑われた場合の対処法
次に、業務上横領の冤罪で証拠がないのに疑われた場合の対処法を解説します。
最後まで無実を主張する
業務上横領の冤罪で証拠がないのに疑われた場合は、最後まで無実を主張してください。
無実であるにもかかわらず認めてしまうと、懲戒解雇や刑事告訴などの深刻な結果を招く可能性があります。
会社によっては、「今だったら大きな問題にはしないでやる」「認めなければ降格させるぞ」などと、脅してくるようなこともあるかもしれません。
しかし、やってもいない罪を認める行為は絶対にNGです。
冤罪であればいずれ自身の潔白は証明されるはずなので、まずは落ち着いて対応するようにしましょう。
被害弁済に応じない
証拠がないのに横領を疑われた場合は、被害弁済に応じないことも重要です。
被害弁済に応じると、罪を認めたものとして解釈されます。
その結果、無実であるにもかかわらず、刑事告訴されたり、起訴されたりする可能性があるのです。
本当に横領をしていないのなら、会社からの圧力に動じることなく、冷静に対処するようにしてください。
場合によっては、労働組合や弁護士に相談し、法的な助言を得ることも検討しましょう。
会社側に証拠の提示や調査を求める
冤罪の疑いをかけられた場合は、会社側に証拠の提示や調査を求めることも重要です。
横領の事実を証明する責任は、会社側にあります。
納得がいくまで、防犯カメラの映像・領収書・出納帳・会計伝票・銀行通帳などの客観的な証拠を提示してもらいましょう。
そのうえで決定的な証拠が見つからない場合には、疑いが晴れることもあるはずです。
ただし、どのようなものが証拠として有効なのかを判断することは難しいので、まずは弁護士のアドバイスを受けるようにしてください。
横領していないことを裏付ける証拠を集める
業務上横領の冤罪で証拠がないのに疑われた場合は、横領していないことを裏付ける証拠を集めるようにしてください。
従業員側に冤罪を証明する法的責任はありませんが、明確な証拠を提示できれば問題の早期解決が期待できます。
具体例には、以下のような証拠を集めるのが効果的です。
- 勤務記録・業務日誌
- 同僚や取引先からの証言
- Googleマップのタイムライン・健康アプリなどの位置情報記録(疑われている時間帯に別の場所にいたことを示すもの)
- 電話やSNSなどの履歴・ネットの検索履歴・ゲームなどのアプリの使用履歴(疑われている時間帯に別の行動をしていたことを示すもの)
- 銀行口座の記録・業務上の取引記録(金銭の流れを示すもの)
なお、余計なトラブルを避けるためにも、証拠収集の際には会社の規則や法律を遵守するようにしましょう。
業務上横領が事実であっても証拠がなければ逃げ切れる?
横領横領が事実であっても、証拠が一切なければ逃げ切ることもできるかもしれません。
しかし、実際に横領しているのであれば、なにかしらの証拠が残っているものと考えるべきです。
たとえば、以下のようなものが横領の証拠として扱われます。
- 防犯カメラの映像
- 口座の入出金記録
- 送金伝票
- 現金や商品・備品の持ち出し記録
- 印鑑の管理記録
- ネットオークションサイトの出品記録
- 集金した際に取引先に渡した領収書
- メールのやりとり
- 業務日報
- 同僚の証言
- 弁護士会照会による購入情報の確認結果
嘘をついて横領を否認していると、罪が重くなることもあります。
横領の事実を隠し通すことは難しいので、弁護士とも相談しながら早期解決を目指しましょう。
業務上横領の疑いをかけられた場合に弁護士に相談するメリット
次に、業務上横領の疑いをかけられた場合に弁護士に相談するメリットを紹介します。
冤罪の証明に向けた証拠収集・調査を進めてくれる
弁護士に相談すれば、冤罪の証明に向けた証拠収集・調査を進めてもらうことができます。
基本的に立証責任を負うのは会社側ですが、冤罪を疑われている以上、黙ってみているわけにはいきません。
しかし、会社と対立している状況の中で、冤罪の証拠を集めることは簡単ではないでしょう。
その点、経験豊富な弁護士なら、法律や会社の規則に違反しないように、冤罪の証明になるものを着実に収集することができます。
証拠収集を円滑に進めていくためにも、弁護士と緊密に連携し、自身の行動や状況について正確な情報を提供するようにしましょう。
会社と冷静に話し合いを進めて事件化を防いでくれる
会社と冷静に話し合いを進めて事件化を防いでくれることも、弁護士に相談するメリットのひとつといえます。
円滑な問題解決を目指すのであれば、まず事件化させないことが重要です。
そもそも事件化しなければ、刑罰に処されることも前科がつくこともありません。
しかし、当事者間での話し合いは感情的になりやすく、互いに冷静な判断ができなくなる可能性があります。
その点、弁護士が間に入れば、客観的な立場で状況を分析し、会社と従業員の両方に配慮した解決案を提示することが可能です。
裁判に発展した場合の対応も任せられる
裁判に発展した際の対応を任せられることも、弁護士に相談・依頼する大きなメリットといえるでしょう。
横領事件に関して話し合いで解決できない場合は、裁判を起こされることがあります。
裁判に発展すると証拠の収集や法廷での主張の準備など、やらなければならないことが山積みですが、多くの人は何をどうしていいのかわからないはずです。
一方、弁護士のサポートがあれば、裁判に必要な手続きを全て任せられるので、依頼者の負担は軽減されます。
何より、やってもいないことで有罪になったり、必要以上の刑罰を受けたりすることは避けなければならないので、裁判に発展した場合は弁護士のサポートが必要不可欠です。
横領が事実の場合は示談交渉を代行してくれる
横領が事実の場合は、弁護士に相談することで示談交渉をスムーズに進められます。
弁護士は法律の専門家であり、交渉のプロです。
強気な姿勢で対応してくる会社側とも冷静に話し合いを進められるので、早期解決が期待できます。
また、示談金額の設定や社内調査費用の負担方法なども、できるだけ依頼者側が有利になるように交渉してくれるはずです。
示談が成立しているかどうかは、起訴・不起訴や量刑の判断時にも大きく影響するため、できるだけ弁護士に任せるようにしましょう。
関連コラム:横領事件の弁護士費用はいくら?内訳・相場や弁護士選びのコツを解説
業務上横領と証拠に関してよくある質問
最後に、業務上横領と証拠に関してよくある質問を紹介します。
証拠がないのに冤罪で解雇されたらどうするべき?
証拠がないのに冤罪で解雇された場合、まずは会社との話し合いによる解決を目指しましょう。
それでも解決しなければ、労働審判・民事裁判を検討してください。
労働審判・民事裁判が始まると、会社側は証拠の提出を求められます。
そこで、十分な証拠がないことが明らかになれば、解雇が無効になる可能性があります。
なお、労働審判であれば民事裁判よりも短期間で終わるうえ、費用負担を抑えられますが、状況次第で選択すべき方法は異なるので、まずは弁護士に相談することをおすすめします。
証拠がなければ逮捕されることもない?
業務上横領で証拠がない場合、原則として逮捕されることはありません。
逮捕の要件とされる「嫌疑の相当性」を満たすためには、基本的に証拠が必要になるためです。
しかし、物理的な証拠がなくても、同僚の証言などをもとに逮捕される可能性は残されています。
そのため、横領が事実であってもそうでなくても、逮捕を回避するための対策を講じていくことが大切です。
仮に逮捕されてしまった場合には、一刻も早く弁護士に連絡し、早期釈放に向けた弁護活動を依頼しましょう。
関連コラム:横領で逮捕されるケースとは?逮捕のリスクや逮捕回避の対処法を解説
まとめ
本記事のポイントは以下のとおりです。
- ◆ 業務上横領で疑われても証拠がないなら不利益を受ける可能性は低い
- ◆ 冤罪を疑われたら無実を主張し、証拠の提示を求める
- ◆ 横領が事実であれば逃げ切ろうとは考えず早期解決を目指すべき
横領が事実であろうと冤罪であろうと、証拠がないからといって安心していると問題はどんどん大きくなっていきます。
そのため、少しでも円滑な解決を目指すのであれば、できるだけ早く弁護士に相談し、然るべき対処を講じてもらうことが重要です。
グラディアトル法律事務所には横領事件を得意とする弁護士が多数在籍しています。
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