「殺人罪に時効はあるの?」
「何年経てば逮捕されなくなるの?」
このような疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか?
結論から言うと、殺人罪に公訴時効はありません。つまり、何年経っても逮捕・起訴される可能性はなくならないのです。
本記事では、殺人罪の時効について、以下の点を詳しく解説します。
● 殺人罪の時効の基本知識
● 過去の殺人事件の取り扱い
● 刑事上の時効と民事上の時効の違い
● 殺人未遂・傷害致死など関連犯罪の時効期間
殺人罪の時効について正確な情報を知りたい方は、ぜひご一読ください。
目次
結論:殺人罪は現在、時効が廃止されている
かつて殺人罪には25年という公訴時効が存在していました。つまり、事件発生から25年が経過すれば、たとえ犯人が判明しても起訴できなくなっていたのです。
しかし、2010年(平成22年)4月27日の刑事訴訟法改正により、殺人罪の公訴時効は廃止されました。現在では、事件から30年、40年が経過しても、新たな証拠が見つかれば捜査が再開され、逮捕に至る可能性があります。
改正後 (平成22年4月27日以降) | 改正前 (平成22年4月26日まで) | |
---|---|---|
殺人罪の公訴時効 | なし | 25年 |
公訴時効廃止の対象となったのは「人を死亡させた罪で死刑に当たるもの」です。
殺人罪(刑法199条)のほか、強盗殺人罪(刑法240条)、現住建造物等放火致死罪(刑法108条)なども含まれます。
公訴時効廃止前の殺人罪はどうなる?
それでは、公訴時効が廃止される前に発生した殺人事件はどうなるのでしょうか?
これは、殺人事件がいつ発生したのかによって異なります。境目となる日付は、「1985年(昭和60年)4月27日」です。
殺人事件の発生日 | 時効の扱い |
---|---|
1985年(昭和60年)4月27日以前 | 公訴時効が成立(刑事責任を問えない) |
1985年(昭和60年)4月28日以降 | 公訴時効なし(いつでも起訴可能) |
1985年(昭和60年)4月27日以前の殺人事件の公訴時効
1985年(昭和60年)4月27日以前に発生した殺人事件については、公訴時効廃止の影響を受けません。法律が改正された「2010年(平成22年)4月27日」時点で、すでに公訴時効が成立しているからです。
例えば、1985年4月1日に発生した殺人事件は、25年後の2010年4月1日に時効が成立します。2010年4月27日以降も、この事件で起訴されることはありません。
1985年(昭和60年)4月28日以降の殺人事件の公訴時効
一方で、1985年(昭和60年)4月28日以降に発生した殺人事件については、公訴時効になることはありません。「2010年(平成22年)4月27日」時点でまだ時効が成立していないからです。
例えば、1985年4月28日に発生した殺人事件は、本来なら2010年4月28日に公訴時効とが成立します。しかし、4月27日に公訴時効が廃止されたため、時効は成立していない扱いとなります。今後も、新たな証拠が見つかったり、犯人が発覚したりすれば、捜査・起訴される可能性があります。
時効の廃止は「遡及処罰の禁止」に反しない?
過去の事件に対して時効を廃止することは、憲法が定める「遡及処罰の禁止」(憲法39条)に反しないのでしょうか?
この点について、最高裁判所は次のように判断しています。
公訴時効を廃止するなどした「刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律」(平成22年法律第26号)の経過措置として,同改正法律施行の際公訴時効が完成していない罪について改正後の刑訴法250条1項を適用する旨を定めた同改正法律附則3条2項は,憲法39条,31条に違反せず,それらの趣旨にも反しない。
(引用:裁判要旨|最高裁平成27年12月3日)
時効完成前の事件に時効廃止を適用することは、「被疑者・被告人となり得る者につき既に生じていた法律上の地位を著しく不安定にするようなものでもない。」として、合憲という判断が示されています。
22年前の殺人事件で逮捕されたケースもある
実際に、20年以上前の殺人事件で容疑者が逮捕される事例も発生しています。
2025年に報道されたニュースでは、2003年に発生した殺人事件について、22年後に容疑者が逮捕されました。
2003年に行方不明となり、7年後に雑木林で白骨化した遺体で見つかった川崎市高津区の会社員●●さん(当時●)を殺害したとして、神奈川県警は6日、元同僚で川崎市麻生区上麻生6丁目の会社員●●容疑者(●)を殺人容疑で逮捕し、発表した。県警によると、「やっていません」と容疑を否認しているという。
逮捕容疑は03年10月ごろ、●●さんを川崎市内かその周辺で刃物のようなもので刺すなどして殺害したというもの。凶器は見つかっていないという。
捜査関係者によると、遺体には複数の傷があり、あばら骨には刃物で傷つけられたとみられる傷もあった。殺害後、遺体が遺棄されたとみて関係者から事情聴取したところ、川崎市の酒店の元同僚で、●●さんとトラブルがあったとされる●●容疑者が浮上。10年と23年に任意で事情聴取したが、否認していたという。
(引用:朝日新聞 2025年3月6日)
この事件は、時効が成立する直前で逮捕にいたっていますが、現在は殺人罪の公訴時効が廃止されています。今後は30年、40年経過した事件でも、捜査が続けられる可能性があるでしょう。
DNA鑑定技術の進歩などにより、新たな証拠が見つかれば、古い事件でも解決に至るケースが増えていくと考えられます。
民事上の「消滅時効」は殺人罪にもある
ここまで「刑事上の時効(公訴時効)」について説明しましたが、「民事上の消滅時効」は殺人罪にも存在します。検察官が起訴できるかどうかという問題と、被害者遺族が慰謝料を請求できるかという問題は全く別の話だからです。
民事上の消滅時効とは?
民事上の消滅時効とは、一定期間が経過すると、損害賠償請求ができなくなる制度です。
殺人事件の場合、被害者遺族が加害者に対して、精神的苦痛に対する慰謝料や、被害者が生きていれば得られたはずの収入などを請求できます。
ただし、この請求権には消滅時効があります。
民事上の消滅時効が成立すると、被害者遺族は加害者に対して損害賠償を請求する権利を失います。消滅後に裁判を起こしても、慰謝料を受けることはできません。
殺人罪の消滅時効の起算点
消滅時効の起算点について、民法では以下のように定められています。
■消滅時効の起算点(人の生命又は身体を害する不法行為)
時効の起算点 | 消滅時効までの期間 |
---|---|
損害および加害者を知った時 | 5年 |
不法行為の時 | 20年 |
損害賠償請求権は、被害者遺族が「誰が加害者か」を知ってから5年、または事件発生から20年のいずれか早い方の期間が経過すると、消滅時効により失われます。
殺人罪の消滅時効(民事)の計算例
時効期間がどのように計算されるのかを、2つのパターンに分けて、実際に計算してみましょう。
・2010年1月1日:殺人事件発生(犯人不明)
・2015年1月1日:犯人が判明
・2020年1月1日:時効成立(損害賠償請求できなくなる)
・2005年1月1日:殺人事件発生(犯人不明)
・2025年1月1日:時効成立(以降、犯人が判明しても請求不可)
このように、事件がいつ発生したのか、犯人がいつ判明したのかによって、時効成立までの期間は変わってきます。
消滅時効はストップまたはリセットすることがある
民事上の消滅時効は、一定の事由が生じると、時効完成が一時的にストップ(時効の完成猶予)したり、時効期間がリセット(時効の更新)したりすることがあります。
・裁判上の請求(訴訟を起こした場合)
・支払督促の申立て
・和解・調停の申立て
・催告(内容証明郵便などで請求した場合)※6か月間のみ
・確定判決による権利の確定
・債務の承認(加害者が支払義務を認めた場合)
・一部弁済(慰謝料の一部を支払った場合)
例えば、被害者遺族が内容証明郵便で慰謝料を請求すれば、6か月間は時効の完成が猶予されます。
加害者が「支払います」と認めれば、その時点で時効はリセットされ、新たに5年間のカウントが始まります。
殺人罪に関連する犯罪の時効期間
殺人事件では、最終的に殺人罪ではなく、別の罪名で起訴されることもあります。関連して問題となりやすい犯罪の公訴時効(刑事上の時効)についてまとめました。
殺人未遂の公訴時効は25年
殺人未遂罪とは、殺意をもって相手を殺そうとした結果、死亡に至らなかった場合に成立する犯罪です。
法定刑 | 公訴時効 | |
---|---|---|
殺人未遂罪 | 死刑又は無期若しくは5年以上の懲役刑(拘禁刑) (未遂減免による減軽の可能性あり) | 25年 |
殺人未遂罪の公訴時効は25年です。例えば、2010年1月1日に発生した殺人未遂事件は、2035年1月1日に時効が成立します。
傷害致死の公訴時効は20年
傷害致死罪は、相手を傷つけるつもりで暴行を加えた結果、予期せず死亡させてしまった場合に成立します。殺意がない点で、殺人罪とは異なります。
法定刑 | 公訴時効 | |
---|---|---|
傷害致死罪 | 3年以上の有期懲役刑(拘禁刑) | 20年 |
傷害致死罪の公訴時効は20年です。2020年1月1日に発生した傷害致死事件であれば、2040年1月1日に時効が成立することになります。
殺人罪と異なり、時効廃止の対象とはなっていません。
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同意殺人の公訴時効は10年
同意殺人罪(嘱託殺人・承諾殺人)は、被害者の依頼や同意を得て殺害した場合に成立する犯罪です。「お願いだから殺してくれ」といった依頼に応じて殺害した場合などが該当します。
法定刑 | 公訴時効 | |
---|---|---|
同意殺人罪 | 6月以上7年以下の懲役刑(拘禁刑) | 10年 |
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過失運転致死傷罪・危険運転致死傷罪の公訴時効は10年〜20年
過失運転致死傷罪は、自動車の運転上の必要な注意を怠り、人を死亡させた場合に成立します。飲酒運転や大幅な速度超過などの場合は、危険運転致死傷罪などが成立する場合もあります。
法定刑 | 公訴時効 | |
---|---|---|
過失運転致死傷罪 (自動車運転処罰法) | 6月以上7年以下の懲役刑(拘禁刑) | 10年 |
危険運転致死傷罪 (自動車運転処罰法) | 1年以上の有期懲役刑(拘禁刑) | 20年 |
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まとめ
最後に、記事のポイントをQ&A形式でまとめます。
Q.公訴時効とはどのような制度ですか?
A.公訴時効とは、犯罪が発生してから一定期間が経過すると、検察官が起訴できなくなる制度です。時効が成立すると、たとえ犯人が判明していても、刑事裁判にかけることができなくなります。
Q.殺人罪に公訴時効はありますか?
A.現在、殺人罪に公訴時効はありません。
2010年(平成22年)4月27日の刑事訴訟法改正により、殺人罪の公訴時効は完全に廃止されました。そのため、事件から何年経過していても、逮捕・起訴される可能性があります。
Q.殺人罪の捜査はいつまで続きますか?
A.殺人罪には公訴時効がないため、事件が解決するまで捜査は継続される可能性があります。たとえば、DNA鑑定技術などの進歩により、古い証拠から新たな手がかりが見つかることもあります。
Q.殺人事件に関連する他の犯罪には公訴時効がありますか?
A.殺人未遂(25年)、傷害致死(20年)、同意殺人(10年)など、殺人罪以外の関連犯罪には現在も公訴時効があります。最終的にどの罪名で起訴されるかによって、時効の有無が変わってきます。
Q.民事の損害賠償請求には時効がありますか?
A.刑事上の時効は廃止されましたが、民事上の損害賠償請求には時効があります。被害者遺族が加害者を知ってから5年、または事件から20年で時効が成立し、慰謝料請求ができなくなります。
以上です。
過去の殺人事件について不安を抱えている方は、一人で悩まず早期に弁護士に相談することが重要です。弁護士には守秘義務があるため、秘密が外部に漏れることはありません。
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