交通事故を起こしてパニックになり、その場から離れてしまった…。
「これはひき逃げ?それとも当て逃げ?」
「どんな処罰を受けるのだろう」
こんな不安を抱えている方も多いのではないでしょうか?
ひき逃げと当て逃げは、どちらも事故現場から逃げる行為ですが、処罰の重さがまったく異なります。
この記事では、ひき逃げと当て逃げの違いについて、①成立する犯罪、②刑罰、③免許への影響、④賠償責任、⑤逮捕の可能性という5つのポイントから比較しつつ紹介します。
さらに、万が一事故を起こして現場から離れてしまった場合の対処法も取り上げました。
記事を読み終わる頃には、ひき逃げと当て逃げの違いの全てが分かり、事故後に取るべき行動も明確になるはずです。ぜひご一読ください。
※令和7年6月1日より、従来の「懲役・禁錮」が「拘禁刑」に1本化されました。
目次
「ひき逃げ」と「当て逃げ」の違いはケガの有無
ひき逃げと当て逃げの違いは、「被害者がケガをしているか」という点です。
交通事故を起こしてその場から立ち去る行為は同じでも、人が負傷しているかどうかで、適用される法律や処罰の内容が変わってきます。
・ひき逃げ=人にケガをさせて、逃げる行為
・当て逃げ=車や物を壊して、逃げる行為
ひき逃げになるケースの例
ひき逃げは、人身事故を起こして事故現場から逃走した場合に成立します。
「人をひいて、その場から逃げる」というのをイメージするかもしれませんが、実はそれだけではありません。
以下のようなケースも、法律上は「ひき逃げ」として扱われます。
・接触はないが、車を避けようとした歩行者が転倒してケガをした
・自転車で歩行者にぶつかってケガをさせ、そのまま立ち去った
・相手が「大丈夫」と言ったので立ち去ったが、実はケガをしていた
相手にケガがなければ、人身事故を起こしても、原則ひき逃げにはなりません。
ただし、ケガがないかどうかは、医師が判断することです。一般人(加害者や被害者)がその場で「大丈夫」と言っただけでは確定できません。
事故直後は痛みを感じていなくても後から症状が現れたり、相手方が通院して、人身事故扱いへと切り替えられるケースもあります。
当て逃げになるケースの例
当て逃げは、物に対する損害を与えて逃走した場合に成立します。
代表的なケースは以下のとおりです。
・駐車場で無人の車にぶつかり、連絡せずにその場を離れた
・ガードレールや電柱にぶつかって破損させたが報告しなかった
・コンビニの看板や塀を破損させて逃走した
・他人のペットと衝突して、そのまま立ち去った
特に多いのが、駐車場での当て逃げです。
「誰も見ていないから」「小さな傷だから」という理由で立ち去る人がいますが、防犯カメラやドライブレコーダーによって特定される可能性があります。
動物も、法律上は「物」として扱われます。そのため、ペットをひいて逃走した場合も当て逃げとなりうることにも注意してください。
ひき逃げと当て逃げの5つの違い
ここまで、ひき逃げと当て逃げの違いである「ケガの有無」について説明してきました。
もっとも、両者の違いはそれだけではありません。法的な処分や賠償責任など、さまざまな面で差があります。
以下では、5つの観点からひき逃げと当て逃げの違いを比較していきます。
■ひき逃げと当て逃げの5つの違い
項目 | ひき逃げ | 当て逃げ |
---|---|---|
①事故の内容 | 人身事故 ※人を死傷させたまま現場から離れる | 物損事故 ※車や物だけを壊して現場から離れる |
②成立する犯罪と刑罰 | (成立する犯罪) ①過失運転致死傷罪 ②救護義務違反 ③報告義務違反 ④危険防止措置義務違反(刑罰) 最長15年の拘禁刑または200万以下の罰金 | (成立する犯罪) ①報告義務違反 ②危険防止措置義務違反(刑罰) 最長1年の拘禁刑または10万円以下の罰金 |
③行政処分 | 35点(免許取消) | 7点(免許停止) |
④被害者への賠償 | 治療費・慰謝料・逸失利益など高額になりやすい | 車両費が中心 |
⑤逮捕の可能性 | 高い | 低い |
事故の内容
1章で説明したとおり、ひき逃げは人身事故、当て逃げは物損事故です。
人を死傷させて現場から離れればひき逃げ、車や物だけを壊して現場から離れれば当て逃げとなります。
項目 | ひき逃げ | 当て逃げ |
---|---|---|
事故の内容 | 人身事故 ※人を死傷させたまま現場から離れる | 物損事故 ※車や物だけを壊して現場から離れる |
成立する犯罪・刑罰
成立する犯罪や刑罰にも大きな違いがあります。
ひき逃げでは、4つの犯罪が成立し、刑は「最長15年の拘禁刑または200万以下の罰金」となります。当て逃げでは、2つの犯罪が成立し、刑は「最長1年の拘禁刑または10万円以下の罰金」です。
■ひき逃げ・当て逃げで成立する犯罪
罪名 | ひき逃げ | 当て逃げ |
---|---|---|
過失運転致死傷罪 (自動車運転処罰法) | 7年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金 | ー |
救護義務違反 (道路交通法) | 10年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金 | ー |
報告義務違反 (道路交通法) | 3月以下の拘禁刑または5万円以下の罰金 | 3月以下の拘禁刑または5万円以下の罰金 |
危険防止措置義務違反 (道路交通法) | 1年以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金 | 1年以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金 |
刑罰の上限 | 最長15年の拘禁刑または200万以下の罰金 | 最長1年の拘禁刑または10万円以下の罰金 |
ひき逃げで成立する犯罪
「ひき逃げ」では4つの罪が成立して、以下のように処罰されます。
まず、「現場から逃げた」という行為に対して、3つの罪(救護義務違反・報告義務違反・危険防止措置義務違反)が成立します。
1つの行為が複数の罪に該当する場合は最も重い罪によって処罰されるため、実際の刑罰には「救護義務違反(最長10年)」だけが適用されます。(※これを観念的競合といいます。)
他方、「人をケガさせた」という行為に対して、「過失運転致死傷罪(最長7年)」も成立します。「人をケガさせた」ことは、「現場から逃げた」ことと別個の行為なので、併合罪という考え方で処理されます。
この場合、拘禁刑の上限は最長15年(最も重い刑の1.5倍)、罰金刑の上限は200万円(各罪の罰金額の合計)となります。
(併合罪)
第四十五条 確定裁判を経ていない二個以上の罪を併合罪とする。ある罪について拘禁刑以上の刑に処する確定裁判があったときは、その罪とその裁判が確定する前に犯した罪とに限り、併合罪とする。
当て逃げで成立する犯罪
「当て逃げ」の場合、「現場から逃げた」という行為に対して、報告義務違反と危険防止措置義務違反の2つが成立します。
こちらは1つの行為なので、より重い犯罪である「危険防止措置義務違反」によって処罰されます。(観念的競合)
刑は、危険防止措置義務違反の刑罰である「1年以下の拘禁または10万円以下の罰金」が適用されます。
行政処分
運転免許に対する行政処分でも、ひき逃げと当て逃げには大きな差があります。
「ひき逃げ」の場合、救護義務違反として35点が加算され、一発で免許取消処分です。
さらに、3年間は免許を再取得できません。行政処分前歴や事故の内容によっては、欠格期間が最大10年になる場合もあります。
「当て逃げ」の場合は、危険防止措置義務違反(5点)と安全運転義務違反(2点)で合計7点が加算されます。
6点以上で免許停止となるので、前歴がなければ30日間の免許停止処分です。ただし、行政処分前歴が1回あれば「90日の免停」、2回あれば「免許取消」となる可能性もあります。
項目 | 加算点数 | 行政処分 |
---|---|---|
ひき逃げ | 35点 ※救護義務違反 | 免許取り消し |
当て逃げ | 7点 ※危険防止措置義務違反+安全運転義務違反 | 免許停止(30日~) |
被害者への賠償
民事上の賠償責任においても、ひき逃げと当て逃げでは金額に大きな差が生じます。
ひき逃げの場合、被害者の治療費、休業損害、慰謝料、後遺障害の逸失利益など、賠償額が高額になりやすいです。大きな事故なら数千万円、相手が死亡すれば1億円を超えるケースもあります。
当て逃げの場合は、主に車両の修理費用が中心です。
高級車の場合は修理費が高額になることもありますが、人身事故と比較すると賠償額は限定的です。ただし、逃げたことで相手の怒りを買い、示談交渉が難航するケースもあります。
項目 | ひき逃げ | 当て逃げ |
---|---|---|
被害者への賠償 | 治療費・慰謝料・逸失利益など高額になりやすい | 車両費が中心 |
逮捕の可能性
ひき逃げは重大犯罪として扱われるため、逮捕される可能性が高くなります。
特に、被害者が死亡または重傷を負った場合、逮捕・勾留される可能性は極めて高いです。最近は、防犯カメラやドライブレコーダーが普及しているため、逃げ切ることは難しいでしょう。
当て逃げの場合、逮捕される可能性は低いです。後日、警察から「任意の出頭」という形で呼び出しを受けて、取り調べを受けることになります。
ただし、逮捕されるケースもゼロではなく、悪質なケースや常習犯の場合は逮捕にいたる場合があります。
項目 | ひき逃げ | 当て逃げ |
---|---|---|
逮捕の可能性 | 極めて高い | 低い |
ひき逃げ・当て逃げをしたらどうすればいい?
ひき逃げや当て逃げをしてしまった場合、パニックになるかもしれませんが、冷静な対応が重要です。逃げ続けるほど状況は悪化しますし、処分も重くなります。
以下では、事故現場から離れてしまったとき、取るべき行動を説明します。
弁護士に相談する
ひき逃げ・当て逃げをしてしまったら、まず弁護士に相談することが最も重要です。
刑事事件に詳しい弁護士であれば、今後の流れや被害者への対応方法について的確なアドバイスをもらえるでしょう。
逮捕の可能性はあるのか、賠償金額はどの程度になりそうか、被害者へどのように連絡するべきかなど、事故後に不安に感じているポイントについて教えてもらえます。
弁護士によっては、警察から任意の出頭を求められたとき、付き添ってくれる場合もあります。
万が一逮捕されたときも、釈放・示談に向けてすぐに動き出してくれるので、事故後の不安が大きく軽減されるはずです。
自首・出頭も検討する
警察に自首、出頭することも選択肢の1つです。
特に、ひき逃げで被害者がケガをしている場合は、できるだけ早く自首して警察に事実を自白した方がよいでしょう。タイミングが早いほど、刑が減軽される可能性は高くなります。
警察へ行った後は、被害者との示談交渉が必要です。そのため、事前に弁護士へ状況を説明し、示談交渉や万が一逮捕された時の対応を依頼しておきましょう。
「ひき逃げ」と「当て逃げ」に関するよくある質問
Q. そもそも「ひき逃げ」と「当て逃げ」の違いは何ですか?
A. 「被害者がケガをしているか」です。
人がケガをした事故(人身事故)から逃げたら「ひき逃げ」、物だけが壊れた事故(物損事故)から逃げたら「当て逃げ」です。
事故の大きさは関係なく、軽い接触でも相手がケガをすれば「ひき逃げ」として扱われます。
Q. ひき逃げや当て逃げは、自転車でも成立しますか?
A. はい、成立します。道路交通法上、自転車も「車両(軽車両)」に含まれるからです。
自転車でも、歩行者にぶつかって逃げれば救護義務違反(ひき逃げ)となり、1年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金となります。
Q. 事故に気づかなくても「ひき逃げ」になりますか?
A. いいえ。事故自体に気づいていなければ、ひき逃げは成立しません。
ただし、「本当に気づかなかったのか」は、ドライブレコーダーの映像や周囲の状況などから判断されます。たとえば、大きな音や衝撃があったり、車体に明らかな損傷があるような状況で「気づかなかった」と言っても、通常は信じてもらえません。
その場合は「気づいていたはず」として、ひき逃げで処罰される可能性があります。
Q. 相手が「大丈夫」と言っていても、後からケガを訴えたらひき逃げになりますか?
A. はい。道路交通法では、人身事故を起こした運転者には負傷者の救護義務や事故現場の危険防止措置義務があります。
相手が「大丈夫」と言ったとしても、これらの措置をとらずに現場を離れると、「ひき逃げ(救護義務違反)」として扱われる可能性があります。
まとめ
最後に、記事のポイントをまとめます。
◉ひき逃げと当て逃げの違いは「被害者がケガをしているか」
・「ひき逃げ」は人をケガさせて逃げること
・「当て逃げ」は車や物を壊して逃げること
◉成立する犯罪の違い
ひき逃げ | 当て逃げ |
---|---|
・過失運転致死傷罪 ・救護義務違反 ・報告義務違反 ・危険防止措置義務違反 | ・報告義務違反 ・危険防止措置義務違反 |
◉刑罰の違い
・ひき逃げ:最長15年の拘禁刑または200万円以下の罰金
・当て逃げ:最長1年の拘禁刑または10万円以下の罰金
◉行政処分(免許への影響)
・ひき逃げの行政処分:35点で一発免許取消、3年間は再取得不可(最大10年)
・当て逃げの行政処分:7点で免許停止30日(前歴なしの場合)
◉被害者への賠償
・ひき逃げの賠償:治療費・慰謝料・逸失利益など高額(死亡事故では1億円超も)
・当て逃げの賠償:車両修理費が中心で限定的
◉逮捕のリスク
・ひき逃げの逮捕可能性:極めて高い
・当て逃げの逮捕可能性:低い(ただし悪質なケースは逮捕あり)
以上です。
この記事が役に立った、参考になったと感じましたら、是非グラディアトル法律事務所にご相談ください。