「私文書偽造罪で有罪になると執行猶予はつく?」
「私文書偽造罪で執行猶予を獲得するためのポイントとは?」
「私文書偽造罪で執行猶予がついた実際の裁判例を知りたい」
他人の署名や印章を使って契約書などの私文書を偽造すると私文書偽造罪に問われることになります。私文書偽造罪で起訴され有罪になると、懲役刑(拘禁刑)が科される可能性があり、執行猶予が付かなければ刑務所に収監されてしまいます。
そのため、私文書偽造罪を犯してしまったときは、執行猶予を獲得できるかどうかが重要です。執行猶予を獲得するには、被害者との示談や再犯防止への取り組みなどいくつかのポイントがありますので、少しでも有利な判決を獲得するためにも執行猶予を得るためのポイントを押さえておきましょう。
本記事では、
・私文書偽造罪の刑罰と量刑相場 ・私文書偽造罪で執行猶予を得るためのポイント ・私文書偽造事件で執行猶予を獲得するために弁護士ができること |
についてわかりやすく解説します。
私文書偽造で逮捕・起訴されてしまった方はぜひ参考にしてください。
目次
私文書偽造罪で執行猶予がつくことはある|私文書偽造罪の刑罰と量刑相場

まずは私文書偽造罪の刑罰と量刑相場を見ていきましょう。
私文書偽造罪の法定刑
私文書偽造罪とは、他人名義の私文書を偽造・変造することにより成立する犯罪です。
私文書偽造罪の罰則は、他人の署名・押印がある文書であるかどうかによって法定刑が変わってきます。これは、他人の署名・押印がある文書の方が文書としての信用性が高いため、そのような文書を偽造する行為を重く処罰するためです。
他人の署名や押印がある私文書を偽造した場合、有印私文書偽造罪が成立し、3月以上5年以下の懲役(拘禁刑)が科されます。
他方、他人の署名や押印がない私文書を偽造した場合、無印私文書偽造罪が成立し、1年以下の懲役(拘禁刑)または10万円以下の罰金が科されます。
※「拘禁刑(こうきんけい)」とは、従来の刑罰である懲役と禁錮を一本化した刑罰です。改正刑法に基づき、2025年6月1日から、懲役と禁錮は拘禁刑に一本化されました。 |
私文書偽造罪の量刑相場
実際の量刑は、事案の悪質性や被害額、被害者との示談状況、前科前歴の有無などによって大きく変動します。
私文書偽造罪を犯したとしても、以下のようなケースであれば不起訴になる可能性が高いといえます。
・私文書偽造罪のみが成立するケース |
・初犯であり被害額が少ないケース |
・被害者との示談が成立しているケース |
他方、詐欺罪など他の犯罪とともに私文書偽造罪が成立するような事件では、起訴される可能性が高く、有罪になると懲役1年~3年程度で執行猶予3年が一つの目安となります。ただし、悪質性が高く被害額が大きい場合には実刑判決が下る可能性があるため注意が必要です。
私文書偽造罪で執行猶予を得るためのポイント

私文書偽造罪で執行猶予を獲得するためには、以下のポイントを押さえておくことが大切です。
前科前歴の有無
前科前歴がないことは執行猶予獲得に有利に働きます。
初犯であれば再犯可能性も低いと判断されやすく、被害者への謝罪や反省態度とあわせて、執行猶予付き判決が選択される傾向があります。
逆に、同種前科がある場合や執行猶予中の再犯の場合は、実刑の可能性が非常に高くなります。
被害者との示談
被害者との示談は、量刑判断で極めて重要です。
私文書偽造罪では、偽造された文書により実際に被害が生じているケースが多く、示談が成立しているか否かが判決内容を大きく左右します。
被害者に謝罪し損害を賠償することで、被害感情が和らぎ処罰感情が低減されるため、執行猶予が付く可能性が高まります。
私文書偽造罪に関連する他の犯罪の有無・内容
私文書偽造罪は、詐欺罪や横領罪などの手段として利用される犯罪ですので、私文書偽造罪単独ではなく、詐欺罪や横領罪などとセットで起訴されるケースが多いです。
このように詐欺罪や横領罪なども成立するケースにおいて、多額に被害が発生している場合には、実刑判決が下されるリスクが高いでしょう。
反省の態度
本人の反省の態度も執行猶予を獲得するために重要な要素となります。
捜査段階から罪を犯したことを認め、真摯に反省するとともに反省文を提出することも有効です。反省文の中で「なぜ罪を犯してしまったのか」「そのときどのような気持ちだったのか」「今後どうしていくのか」などを具体的に書くことで裁判官に反省の態度が伝わるでしょう。
親族、上司、友人などの監督者の有無
家族や上司、友人など、被告人を監督できる人物の存在も執行猶予の判断において重要視されます。監督者がいることで、社会内での更生が期待できると裁判所に判断してもらいやすくなるためです。
実際、監督者の情状証人としての出廷や身元引受書・嘆願書の提出が判決内容によい影響を与えることは多くあります。
私文書偽造罪に加えて詐欺罪でも起訴されると執行猶予が難しくなる
私文書偽造罪単独であれば不起訴または執行猶予がつくケースが多いものの、詐欺罪とセットで起訴された場合は実刑判決となるリスクが大きくなります。
私文書偽造罪は、詐欺罪を実現する手段として行われることが多く、この場合の量刑判断は詐欺の重大性に引きずられるため、たとえ示談が成立していても実刑が選択される可能性があります。特に、被害額が数百万円単位に及ぶ場合や計画的・組織的に行われていた場合には、執行猶予を得ることは困難です。
私文書偽造罪で執行猶予が付いた実際の裁判例

以下では、私文書偽造罪で執行猶予が付いた実際の裁判例を紹介します。
委任状と払戻請求書を偽造し700万円を詐取した事件(懲役3年・執行猶予5年)|横浜地裁令和7年2月21日判決
被告人(当時警察官)は、Aから預かった銀行通帳と届出印を使い、Aから貯金払戻権限を得ているように装うため、委任状と払戻請求書を偽造。C銀行所定の書式にA名義で記入・押印し、郵便局に提出して700万円を不正に払戻し、詐取した罪で起訴されました。
裁判所は、警察官という立場を悪用した悪質な犯行で、被害額も高額であり刑事責任は重いとしつつも、全額弁済して示談・宥恕を得たこと、反省とギャンブル依存治療の開始、母親の監督誓約、前科前歴がないことなどを考慮し、社会内更生の機会を与えるとして、懲役3年・執行猶予5年の有罪判決を言い渡しました。
残高証明書を偽造した事件(懲役3年・執行猶予5年)|山口地裁周南支部令和7年1月14日判決
公益財団法人A財団の事務局管理課主幹であった被告人は、財団資産の欠損を監査で隠すため、令和元年~4年にかけて、B信用金庫発行の残高証明書10通とH証券発行の証券残高等証明書2通の日付等を改ざん・偽造し、監事に提出して行使。有印私文書偽造・同行使計6件の犯行で、総額1億4000万円以上の資金欠損を拡大させた罪で起訴されました。
裁判所は、職責を悪用し財団の信用を著しく毀損した点で刑事責任は重いとしつつ、反省、一部補填、前科前歴なしを考慮し、懲役3年・執行猶予5年の有罪判決を言い渡しました。
私文書偽造事件で執行猶予を獲得するために弁護士ができること

私文書偽造事件で執行猶予を獲得するには、刑事事件に強い弁護士のサポートが不可欠です。以下では、執行猶予を獲得するために弁護士ができる3つのことを紹介します。
被害者との示談交渉
弁護士は、私文書偽造罪で執行猶予を得るために、まず被害者との示談交渉を最優先で進めます。被害者が直接加害者と連絡を取りたくないと考えることは自然ですが、弁護士が代理人として間に入ることで、冷静かつ法的に適切な形で交渉を進められ、示談成立の可能性が大きく高まります。
示談が成立すれば、被害弁償により経済的被害が回復されるだけでなく、被害者の処罰感情も軽減されるため、量刑判断においても有利な情状として考慮されます。これにより執行猶予付き判決を獲得できる可能性を大幅に高めることができます。
再犯防止に向けたサポート
弁護士は、再犯防止に向けた具体的かつ実効性のある取り組みを被告人やその家族と一緒に計画し、サポートします。具体的には、再就職先の確保や社会復帰支援、家族や監督者との連携体制の構築など個別具体的な事案に応じて最適な取り組みを行います。
このような再犯防止に向けた取り組みをしている証拠を裁判所に提出することで、執行猶予が相当であると判断される可能性が高まります。
刑事裁判での情状弁護
刑事裁判では、弁護士による情状弁護が極めて重要です。被告人に有利となる事情を的確に主張・立証することで、判決内容に大きな影響を与えることができます。
具体的には、反省文の作成指導、謝罪文の添削、情状証人(家族・上司・監督者など)の選定・証人尋問準備、監督体制の具体化、再発防止策の提示などを行います。
刑事事件に強い弁護士であれば情状弁護に関する豊富な経験がありますので、事案に応じた最適な手段を選択して執行猶予の獲得をサポートしてもらうことができます。
私文書偽造事件で執行猶予を目指すならグラディアトル法律事務所に相談を

私文書偽造罪で執行猶予を獲得するためには、早期から適切な弁護活動を行うことが重要です。示談交渉、情状弁護、再犯防止策の構築など、どれも専門知識と経験が必要な分野です。
グラディアトル法律事務所では、刑事事件に強い弁護士が在籍し、私文書偽造事件に関する豊富な弁護経験を有しています。豊富な経験や実績にもとづいて有利な処分を獲得するポイントを熟知していますので、逮捕直後からの身柄解放に向けた対応、取り調べ時のアドバイス、被害者との示談交渉、早期釈放に向けた活動、執行猶予の獲得に向けたサポートなどを迅速かつ的確に行うことが可能です。
24時間365日相談を受け付けておりますので、私文書偽造事件に関与してしまったという方はすぐにグラディアトル法律事務所までご相談ください。
まとめ
私文書偽造罪は、初犯で被害者との示談が成立している場合には不起訴または執行猶予がつくケースが多いですが、詐欺罪もセットで成立する場合や悪質性が高い場合には実刑判決となる可能性も否定できません。執行猶予を獲得するためには、被害者との示談、反省と再犯防止の取り組み、監督者の確保などが重要です。
私文書偽造罪で逮捕・起訴されてしまった場合には、一人で悩まず、刑事事件に強い弁護士へ早急に相談することをおすすめします。刑事事件に強い弁護士をお探しの方は、グラディアトル法律事務所までお気軽にご相談ください。