「業務上横領の示談書には何を書けばいい?」
こんな疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか?
業務上横領罪では、示談書の書き方によって、その後の状況が大きく変わる可能性があります。示談書の内容に不備があれば無効になったり、必要な条項が漏れていれば後で追加請求されたりするリスクがあるのです。
この記事では、そうした失敗を避けるために、弁護士が作成した示談書のテンプレートや、必ず記載するべき6つの項目、雛形を使うときに知っておくべき3つのリスクを紹介します。
業務上横領罪の示談で失敗しないために、示談書の基本をしっかり押さえておきましょう。
◉本記事でわかること
■業務上横領の示談書に必ず記載すべき6つの項目
■テンプレートをそのまま使うときの3つのリスク
■自分で示談書を作成する際の注意点と弁護士依頼のメリット
横領事件に強いグラディアトル法律事務所の弁護士が、あなたの状況に合わせた最適な解決策をご提案します。
目次
業務上横領の示談は示談書の雛形(テンプレート)
業務上横領の示談では、「示談書」という書面が必要です。
書面がなくても示談自体は有効に成立しますが、後々大きなトラブルに発展する可能性が高いです。「言った・言わない」といった争いを防ぐためにも、必ず書面で残しておきましょう。
業務上横領の示談書の一般的な雛形は、以下のとおりです。
業務上横領示談書テンプレート
示 談 書
株式会社●●● (以下「甲」という。)と ●●● ●●●(以下「乙」という。)は、令和●年●月●日、乙が甲における ●●部長という地位の従業員でありながら、甲の売上金●円を業務上横領した事実(以下「本件横領」という。)について、本日、以下のように示談が成立したので、示談成立の証として、本書面2通を作成し、甲乙各1通ずつ保管する。
第1条(謝罪)
乙は、甲に対して、本件横領について深く謝罪する。
第2条(示談金の支払い)
乙は、甲に対して、本件横領の示談金として、金●●●円の支払義務があること認め、本示談成立後1週間以内に、甲が指定する口座に振り込む方法により支払う。ただし、振込手数料は乙の負担とする。
第3条(宥恕・被害届等の取り下げ)
甲は、前条の示談金が支払われることを条件として、乙を宥恕し、本件横領について被害届の提出又は刑事告訴せず、既に提出している被害届又は刑事告訴がある場合には、前条の示談金の受領後直ちに取り下げる。
第4条(守秘義務)
甲及び乙は、本件横領及び本示談書の存在及び内容について、みだりに第三者に口外しないことを約する。
第5条(清算条項)
甲及び乙は、本件に関し、本示談書に定めるものの他、何らの債権債務のないことを相互に確認する。
令和●年●月●日
甲:住所
名称
代表者
乙:住所
氏名 ㊞
ただし、これは一般的なケースを想定したものなので、あなたの状況に完全に合致するとは限りません。テンプレートをそのまま使うと、必要な条項が漏れていたり、逆に不利な内容が含まれていたりするリスクがあります。あくまでも参考として活用しつつ、最終的には弁護士に相談し、個別の事案に即した示談書を作成しましょう。
テンプレートに記載した各項目の詳細は、2章で詳しく解説します。
業務上横領の示談書に必ず書くべき項目6つ
業務上横領の示談書では、必ず記載するべき項目が6つあります。
それぞれ説明していきます。
① 頭書き(当事者の名前、対象事件の特定など)
株式会社 (以下「甲」という。)と (以下「乙」という。)は、令和●年●月●日、乙が甲における 部長という地位の従業員でありながら、甲の売上金●円を業務上横領した事実(以下「本件横領」という。)について、本日、以下のように示談が成立したので、示談成立の証として、本書面2通を作成し、甲乙各1通ずつ保管する。
示談書の冒頭部分である「頭書き」では、「誰と誰が(当事者)」、「どの事件について」示談するのかを明確に特定する必要があります。これは、示談の効力が及ぶ当事者と対象範囲を確定させるために不可欠です。
頭書きには、主に「当事者の特定」に必要な事項と、「事件の特定」に必要な事項の2つを記載します。
【当事者の特定】
加害者(横領した従業員)と被害者(会社)を特定します。
特定が不十分だと後々トラブルになる可能性があるため、氏名、住所を正確に記載しましょう。漢字の間違い(新・旧字体など)や番地に至るまで、繰り返し確認することが必要です。
【事件の特定】
示談の対象となる業務上横領事件について、発生日時(または期間)、場所、横領の態様、被害金額などを可能な限り具体的に記載し、どの事件に関する合意なのかが明確になるようにします。
特定が不十分だと、後になって「この示談は別の件に関するものだ」といった主張がなされるリスクが生じます
② 謝罪
第1条(謝罪) 乙は、甲に対して、本件横領について深く謝罪する。
謝罪条項は、加害者が被害者に対して謝罪の意思を示すためのものです。
上記のテンプレートでは、定型的な一文を記載していますが、より誠意を伝えるために示談書とは別に、「謝罪文」を用意することも有効です。
横領事件では、加害者の反省の度合いが量刑を判断する上で重要な要素となります。
謝罪文を用意すれば、加害者が真摯に反省していることを客観的な証拠として示すことができるでしょう。被害者側としても、加害者の謝罪の意思を書面で確認することで、許す気持ち(宥恕)につながることがあります。
③ 示談金の支払い
第2条(示談金の支払い) 乙は、 甲に対して、 本件横領の示談金として、 金 円の支払義務があること認め、 本示談成立後1週間以内に、 甲が指定する口座に振り込む方法により支払う。 ただし、 振込手数料は乙の負担とする。
示談金の金額、支払期日、支払方法など、金銭の支払いに関する条件を具体的かつ明確に定めます。テンプレートは一括払いを想定した内容ですが、弁護士を通じて交渉し、被害者が了承すれば分割払いにできる場合もあります。
分割払いにする場合は、支払総額、各回の支払額、支払期日、支払いが遅れた場合の遅延損害金(利率など)についても詳細に定めておく必要があります。金銭の取り決めが曖昧だと、後日、トラブルの原因になりやすいため注意が必要です。
④ 宥恕文言(被害届を出さない、告訴取り下げなど)
第3条(宥恕・被害届等の取り下げ) 甲は、 前条の示談金が支払われることを条件として、 乙を宥恕し、 本件横領について被害届の提出又は刑事告訴せず、既に提出している被害届又は刑事告訴がある場合には、 前条の示談金の受領後直ちに取り下げる。
宥恕(ゆうじょ)文言とは、被害者が加害者を許し、刑事処罰を求めないという意思を示す条項のことです。
示談書に宥恕文言が含まれていると、まだ捜査機関に発覚していない事件であれば、被害届の提出や告訴をしないという約束になります。すでに被害届や告訴状が提出されている場合には、それらを取り下げる旨を記載してもらうこともできます。
万が一起訴されてしまっても、検察官は起訴・不起訴の判断において、被害者の処罰感情を重視するため、不起訴処分になる可能性が高まるでしょう。
業務上横領の示談交渉では、この宥恕条項を得られるかどうかが大きなポイントとなることが多く、加害者にとっては極めて重要な条項です。
⑤ 守秘義務
第4条(守秘義務) 甲及び乙は、本件横領及び本示談書の存在及び内容について、みだりに第三者に口外しないことを約する。
守秘義務条項とは、示談が成立した事実、示談の内容、そして示談の対象となった業務上横領事件について、正当な理由なく第三者に口外したり、漏洩したりしないことを当事者双方が約束する条項です。
加害者側にとっては、横領事件や示談の事実が外部に知られて不利益になることを防ぐ目的があります。(例:再就職への影響、社会的信用の失墜など)
一方、被害者である会社側にとっても、社内の不祥事に関する情報が広まることは避けたいと考えるのが通常です。
そのため、相互の利益を守る観点から、守秘義務条項が設けられるケースが一般的です。
⑥ 清算条項
第5条(清算条項) 甲及び乙は、 本件に関し、 本示談書に定めるものの他、 何らの債権債務のないことを相互に確認する。
清算条項とは、示談をもって、業務上横領に関する当事者間の問題はすべて解決済みとし、示談書に定める以外には一切の債権・債務が存在しないことを相互に確認する条項です。
これは、示談による最終的な解決を確認し、将来的な紛争の再燃(蒸し返し)を防ぐことを目的としています。
例えば、被害者が後になって「示談金以外にも損害があった」として追加の請求をしたり、加害者が「示談金は不当に過大だった」として返還や減額を求めたりすることを防ぐ効果が期待できます。
業務上横領の示談書を自分で作成する注意点
業務上横領の示談書は、自分で作成することも不可能ではありません。
しかし、実務上、決しておすすめはできません。意図しない結果を招いたり、後でトラブルになったりする可能性があるからです。
特に、以下の3つの点には注意が必要です。
それぞれ説明します。
示談書に不備があれば無効になる場合がある
示談書の内容によっては、その示談書自体が法的に有効ではないと判断される可能性があります。
示談が無効・取り消しになりうるケースには以下のようなものがあります。
・当事者や対象事件の特定が不十分 ・使用されている文言が曖昧で、複数の解釈ができる ・示談の内容が公序良俗(社会の一般的な道徳観念や秩序)に反する ・詐欺や強迫によって示談が成立した ・権限のない者(無権代理人)が示談を締結した |
業務上横領のような刑事事件に関わる示談では、示談書の有効性が後に裁判で争われる可能性もあるため、法的に有効な示談書を作成することが極めて重要です。
必要条項が漏れると、紛争の蒸し返しにつながる
必要な条項が漏れていないかも、細心の注意が必要です。
例えば、本件に関する権利義務関係が全て解決したことを確認する「清算条項」が漏れていると、被害者から後になって「示談金以外にも損害が発生した」として追加の請求を受けるリスクが残ります。
「宥恕文言」がなければ、示談が成立しても被害届や告訴を取り下げてもらえない、あるいは新たに出されてしまう可能性も否定できません。
テンプレートはそのまま使えない
示談書のテンプレート(雛形)を、そのまま流用することは避けましょう。
テンプレートはあくまで一般的なケースを想定して作られており、個別の事案の具体的な事情を反映していないからです。
業務上横領事件は、その手口、被害額、被害者である会社の意向、加害者の経済状況など、一つとして同じものはありません。そのまま利用すると、自分の状況に合わない条項が含まれていたり、逆に、自分を守るために必要な条項が記載されていなかったりするリスクがあります。
かといって、安易に修正すると、逆に文言が不明確になったり、矛盾が生じたりするリスクもあります。そのため、テンプレートはあくまでも参考程度にとどめ、最終的には弁護士に作成を依頼することをおすすめします。
業務上横領の示談を弁護士に依頼するメリット
ここまで、業務上横領の示談書をご自身で作成する場合のリスクを見てきました。
これらのリスクを回避し、より安全かつスムーズに事件を解決するには、示談交渉から示談書の作成まで一貫して弁護士に任せるのが最善策と言えるでしょう。
ここからは、弁護士に依頼することで具体的にどのようなメリットがあるのか解説します。
会社との示談交渉を一任できる
弁護士に依頼する最大のメリットは、被害者である会社との示談交渉を全て任せられることです。
業務上横領の加害者は、会社に対して強い負い目を感じていることが多いです。
示談交渉を進めるどころか、会社の上司や同僚と顔を合わせることすら避けたいと思っているケースが通常でしょう。感情的になってしまい、かえって話し合いがこじれてしまうケースも少なくありません。
弁護士が代理人になれば、本人は会社側と直接やり取りをする必要がなくなります。
紛争解決の専門家として、客観的かつ冷静に交渉を進めてくれるので、精神的な負担が大幅に軽減されます。
分割払いなどの方法も提案できる
業務上横領事件では、被害額が高額になるケースが多いです。
そのため、せっかく償いの意思があっても、示談金を一括で支払うことが難しいケースが少なくありません。しかし、経済的に支払いが難しくても、示談できなければ逮捕・起訴されるリスクが高まります。
弁護士に依頼すれば、加害者の資力に応じた現実的な支払い方法(分割払いなど)を検討し、被害者側に提案できます。
もちろん、加害者本人から「一括では払えません」と主張するだけでは、被害者の理解を得ることは難しいでしょう。しかし、弁護士が代理人として介入し、具体的な返済計画を示し、その実現可能性を丁寧に説明すれば、分割払いを認めてくれる可能性が高まるのです。
弁護士は、加害者の収入や資産状況を踏まえ、具体的な分割払いの計画(月々の支払額、支払期間など)を作成し、粘り強く交渉を行います。
有利な条件で示談できる可能性が高まる
弁護士に示談交渉を依頼すれば、加害者にとってより有利な条件で示談を成立できる可能性が高まります。弁護士は、業務上横領に関する法的な知識や、過去の裁判例、類似事案における示談金の相場観、交渉のノウハウなどを熟知しているからです。
被害者側から提示された示談金の額が、相場に照らして過大であると考えられる場合には、その根拠を具体的に示しながら減額交渉ができます。逮捕や起訴を避けるために不可欠な「宥恕条項」を示談書に盛り込んでもらえる可能性も高まるでしょう。
結果として、ご自身で交渉するよりも、精神的な負担を減らしつつ、より納得のいく形で事件を解決できることが期待できます。
業務上横領罪の示談はグラディアトル法律事務所へご相談ください!
業務上横領の示談交渉は、ぜひ弊所グラディアトル法律事務所へご相談ください。弊所は、数多くの業務上横領事件で示談を成立させた実績がある法律事務所です。
・会社に示談交渉を持ちかけたが、取り合ってもらえない ・業務上横領罪で警察から連絡がきており、一刻も早い示談が必要 ・示談書を作成せずに、示談してしまった ・一方的に不利な内容で示談をしてしまったかもしれない など |
上記のような方は、一人で悩まず、是非お話をお聞かせください。
弊所では、横領事件の豊富な経験を持つ弁護士が、24時間365日・全国相談受付可能な体制でご相談を承っています。
ご相談をいただくタイミングが遅くなるほど、私たちにできることも少なくなってしまいます。業務上横領を起こしてしまったら、1人で抱え込まず、ぜひ私たちグラディアトル法律事務所へご連絡ください。
横領事件に強いグラディアトル法律事務所の弁護士が、あなたの状況に合わせた最適な解決策をご提案します。
業務上横領の示談書についてよくある質問
示談書を作らずに示談をするとどうなりますか?
法律上、口頭での合意も示談としては有効です。
ただし、合意内容を客観的に証明する手段がないため、「示談金はもっと高額だったはずだ」「そんな条件は聞いていない」などのトラブルに発展するリスクがあります。
口頭で示談してしまった場合でも、後から示談書を作成できるケースもありますので、まずは弁護士にご相談ください。
示談書作成後でも示談金の交渉はできますか?
原則として、一度有効に成立した示談書の内容について、後から一方的に変更することは困難です。ただし、示談の内容が著しく不当(公序良俗違反)であったり、相手方からの強迫によって示談させられたようなケースでは、示談の無効や取消しを主張できる場合があります。
(例)実際には業務上横領の事実がないにもかかわらず、脅されて高額な示談金を支払う約束をしてしまった場合など
示談書を作らずに示談しました。後になって追加請求されたらどうすればいいですか?
言われるがままに支払うのではなく、すぐに弁護士に相談することをおすすめします。
口頭で合意した際のメールのやり取り、会話の録音、交渉に同席した第三者の証言など、口頭合意の存在や内容を推認させる証拠がないかも、確認しておきましょう。
まとめ
記事のポイントをまとめます。
1.業務上横領の示談には「示談書」が不可欠
口頭での示談も有効ですが、「言った・言わない」のトラブルを防ぐため、必ず書面で残すべきです。雛形(テンプレート)もありますが、参考程度にとどめて、弁護士に作成を依頼しましょう。
2.示談書には必ず記載すべき6つの項目がある
示談を有効に成立させるには、「①頭書き(当事者・事件の特定)、②謝罪、③示談金の支払い条件、④宥恕文言(処罰を求めない意思表示)、⑤守秘義務、⑥清算条項(これ以上の請求がないことの確認)」を正確に記載することが重要です。
3.自分で示談書を作成するのは大きなリスクがある
示談書の内容に不備があれば無効になる可能性があり、必要な条項が漏れると後々紛争が蒸し返される危険があります。また、テンプレートは自分の事案にあっているとは限らないので、かえって不利になることもあります。
4.示談交渉・示談書作成は弁護士への依頼がおすすめ
示談交渉・示談書作成は弁護士への依頼がおすすめです。
会社との交渉を一任でき精神的負担が減るほか、分割払いの提案や、示談金の減額交渉、宥恕文言の獲得など、有利な条件で示談できる可能性が高まります。
以上です。
この記事が役に立った、参考になったと感じましたら、ぜひグラディアトル法律事務所にもご相談ください。
横領事件に強いグラディアトル法律事務所の弁護士が、あなたの状況に合わせた最適な解決策をご提案します。
無料相談はこちら