名誉毀損の構成要件とは?該当する言動の具体例や判例もあわせて解説

名誉毀損の構成要件とは?該当する言動の具体例や判例もあわせて解説
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弁護士 若林翔
2025年07月04日更新

「SNSに悪口を書き込んでしまった…名誉毀損になってしまうのか…」

「具体的に何をすると名誉毀損が成立するのか」

SNSによる誹謗中傷をはじめ、他人の名誉を傷つけるような言動は名誉毀損罪にあたる可能性があります。

実際、不用意な言動によって、名誉毀損の罪に問われるのではないかと不安に感じている人もいるのではないでしょうか。

そこで本記事では、名誉毀損の構成要件を具体例を挙げながらわかりやすく解説します。

違法性が阻却されるケースなども記載しているので、ぜひ最後まで目を通してみてください。

※刑法改正により、2025年6月から懲役刑と禁錮刑は「拘禁刑」に一本化されています。

【拘禁刑とは?】
犯罪者を刑事施設に収容し、改善更生に必要な作業を命じたり、指導したりする刑罰のこと。刑務作業は義務ではなく、受刑者の特性に応じた支援プログラムが提供される。

名誉毀損の構成要件とは?

名誉毀損の構成要件は以下の3つです。

名誉毀損の構成要件

具体的にどのようなケースで名誉毀損罪が成立するのか、詳しくみていきましょう。

公然性があること

名誉毀損が成立するのは、公然性がある場合です。

公然性とは、不特定または多数の人が認識できる状態を指します。

たとえば、SNSへの誹謗中傷投稿は不特定多数が閲覧できるものなので、公然性を満たす可能性が高いでしょう。

反対に、1対1のメールや密室での会話は公然性が否定されます。

なお、公然性が生じる人数に明確な基準はなく、個々のケースごとに判断されます。

事実を摘示していること

名誉毀損の構成要件としては、「事実を摘示していること」も挙げられます。

特定の事実を具体的に指摘することで、社会的評価の低下が生じるからです。

たとえば、「Aさんは以前詐欺で逮捕されたことがある」といった発言は、社会的評価を下げる事実であるため、名誉毀損に該当する可能性は高いといえます。

一方、「Aさんはバカだ」といった抽象的な表現は具体的な事実といえず、名誉毀損罪には該当しません。

なお、ここでいう「事実」は必ずしも真実である必要はありません

虚偽の内容であっても、社会的評価を下げるものであれば名誉毀損は成立し得ます。

名誉を毀損していること

名誉毀損罪が成立するには、当然、「名誉を毀損していること」も必要です。

名誉毀損罪は、個人や団体の社会的評価を保護するために存在しています。

公然性のある方法で事実を摘示していても、そもそも社会的評価が低下するおそれがなければ犯罪は成立しません。

なお、実際に社会的評価が低下したかどうかは問われず、社会的評価を低下させる危険性があれば足りるとされています。

名誉毀損の成立を否定する3要件(違法性阻却事由)

名誉毀損の構成要件を満たす場合でも、以下の違法性阻却事由をすべて満たしている場合は罪に問われなくなります。

名誉毀損の成立を否定する要件

各要件のポイントを詳しくみていきましょう。

要件1|公共性があること

公共性がある場合は、名誉毀損の成立が否定されることがあります。

社会全体にとって有益な情報や、多くの人が関心を持つ事柄については、表現の自由や知る権利が優先されるためです。

たとえば、政治家の不正に関する事実をSNSに投稿する行為は、公共性が認められやすく、名誉毀損罪で訴えられる可能性は低いといえます。

要件2|公益を図る目的があること

公益を図る目的がある場合も、違法性阻却事由に当てはまります。

表現の自由や社会全体の利益を守るため、真実を伝える意思・行為が制限されないよう配慮されているのです。

公益を図る目的があったかどうかは、発信した内容や社会的影響などを踏まえたうえで、総合的に判断されます。

公共性のある事実であれば、それを発信する行為に公益目的が認められる可能性は高いといえるでしょう。

要件3|真実であることが証明されていること

違法性阻却事由が認められるには、少なくとも、発信した情報が真実でなければなりません。

真実性の証明責任を負うのは、情報の発信者本人です。

ただし、真実性の証明ができなかった場合でも、確実な資料や根拠に基づいて真実だと誤信したといえる合理的理由があれば、違法性が否定されます。

なお、真実性の証明は、摘示した事実の主要部分ついてなされれば足り、すべてが真実である必要はありません。

名誉毀損に該当する言動の具体例

名誉毀損に該当する言動としては、以下のようなものが挙げられます。

  • ・SNSで「Aは詐欺師だ」と投稿する
  • ・ブログで「株式会社Bは不正経理をしている」と根拠なく公表する
  • ・職場で複数の社員に聞こえるように「Cは上司と不倫している」と話す
  • ・新聞や雑誌で「Dには前科がある」と虚偽の記事を掲載する
  • ・LINEグループで「Eは嘘つきだ」と複数人に伝える
  • ・YouTube動画で「F店は偽物を売っている」と主張する
  • ・町内会の回覧板で「Gは近所迷惑行為をしている」と不確かな情報を流す

ケースバイケースですが、悪意を持って情報を拡散し、他者の社会的評価を下げた場合は、名誉毀損罪の罪に問われる可能性が高いです。

とはいえ、判断が難しい状況も多いので、少しでも思い当たる節があるのであれば、弁護士に相談することをおすすめします。

名誉毀損罪と侮辱罪の主な違いは「事実の摘示」があるかどうか

名誉毀損罪と侮辱罪の主な違いは、「事実の摘示」の有無にあります。

名誉毀損罪と侮辱罪の主な違い

名誉毀損罪では、具体的な事実を示すことが要件とされています。

一方、侮辱罪は事実を示さずとも、他人を侮辱するだけで成立する犯罪です。

たとえば、発信方法は同じでも、内容が「Aには前科がある」であれば名誉毀損罪、「Aはバカで無能だ」であれば侮辱罪が成立します。

なお、刑罰も異なり、名誉毀損罪は「3年以下の懲役もしくは禁錮(拘禁刑)・50万円以下の罰金」、侮辱罪は「1年以下の懲役もしくは禁錮(拘禁刑)・30万円以下の罰金・拘留・科料」です。

※関連コラム「侮辱罪と名誉毀損罪の違いとは?成立要件や判例を踏まえて解説!」

名誉毀損罪の成立が認められた事例

ここでは、名誉毀損罪の成立が認められた2つの事例を紹介します。

名誉毀損罪の成立が認められた事例

掲示板に虚偽の書き込みをして名誉を傷つけた

まず紹介するのは、インターネット掲示板で著名なクリニック医院長に関する虚偽の情報を書き込み、有罪判決が下された事例です。

【事案概要】

美容外科「〇〇クリニック」院長の〇〇氏をインターネット上で中傷したとして名誉毀損(きそん)の罪に問われた大学生の男(22)=埼玉県越谷市=の判決が11日、さいたま地裁であった。高橋純子裁判官は「被害者の社会的評価を低下させる」などとして、懲役10カ月執行猶予3年(求刑懲役10カ月)を言い渡した。判決によると、男は昨年2月16日、自宅でスマートフォンを使ってネット上の掲示板「5ちゃんねる」で〇〇氏を名指しした上で、「【緊急速報】ガチで逮捕」といったスレッドを3回作成。〇〇氏が交通死亡事故を起こして逮捕されたなどとする虚偽の書き込みをして、名誉を傷つけた。

(引用:読売新聞)

裁判では、過激な投稿で注目を集めようとした浅はかな行為が強く非難されました。

一方で、精神障害が犯行に影響していることも認められ、執行猶予付き判決が下されています。

公園で特定の学校に対するヘイトスピーチをおこなった

次に紹介するのは、公園で拡声器を持ち、朝鮮学校に対するヘイトスピーチをおこなったことについて、名誉毀損罪が成立した判例です。

【事案概要】

京都朝鮮第一初級学校跡(京都市南区)近くの公園でヘイトスピーチをしたとして名誉毀損(きそん)罪に問われた「在日特権を許さない市民の会」(在特会)元京都支部長の〇〇被告(51)の控訴審判決が14日、大阪高裁であった。長井秀典裁判長は、罰金50万円とした昨年11月の一審・京都地裁判決を支持し、被告側の控訴を棄却した。高裁判決によると、被告は2017年、同校跡を指して「ここに日本人を拉致した朝鮮学校があった」「その朝鮮学校の校長ですね、日本人拉致した、国際指名手配されております」などと拡声機で発言し、学校を運営していた京都朝鮮学園の名誉を傷つけた

(引用:朝日新聞)

裁判では、拉致事件の事実関係を明らかにする公益目的があったことは認められましたが、発言内容に真実性の証明がないことなどを理由に、名誉毀損の成立が認められました

一審で罰金50万円が言い渡され、被告側は控訴していましたが棄却されています。

名誉毀損は民事上の損害賠償責任が生じることもある

名誉毀損行為は刑罰に処されるだけでなく、民事上の損害賠償責任が生じることもあります。

民法第709条では、故意・過失によって、他人の権利や法律上保護される利益を侵害する行為(不法行為)に及んだ者は、そこから生じた損害を賠償する責任を負うことが定められています。

そして、名誉毀損は上記の不法行為に該当するため、加害者は損害賠償責任を負わなければなりません。

名誉毀損事件では、損害賠償として慰謝料を請求されるケースが一般的です。

慰謝料の相場は、個人相手なら10~50万円程度、企業・団体なら100万円程度になることもあります。

当事者間で解決できなければ、民事裁判を起こされる可能性がある点にも注意が必要です。

名誉毀損罪の構成要件に関してよくある質問

最後に、名誉毀損の構成要件に関してよくある質問に回答します。

名誉毀損罪の構成要件に関してよくある質問

刑法と民法における名誉毀損の要件は同じ?

刑法と民法における名誉毀損の要件には、以下のような違いがあります

刑法公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した場合
民法故意または過失による事実・意見・論評の流布により、社会的評価が低下した場合

たとえば、ネット上で「Aさんは悪い人間だ」と発信した場合、事実の摘示にはあたらないため名誉毀損罪は成立しません。

しかし、社会的評価を低下させる意見として、民法上の名誉毀損が成立する余地があります。

被害者が黙っていれば名誉毀損の罪に問われない?

被害者が黙っていれば、原則として名誉毀損の罪に問われることはありません。

名誉毀損罪は親告罪なので、被害者が刑事告訴しなければ、起訴されることすらないからです。

なお、被害者が刑事告訴できるのは「犯人を知ったときから6か月以内」です。

氏名や住所などの情報がなくとも、犯人が誰なのか特定し得る情報を入手した時点で「犯人を知ったとき」といえます。

たとえば、インターネット上の投稿に関しては、アカウント名やハンドルネームなどが特定されたときから6ヵ月のカウントが始まります。

名誉毀損の加害者になってしまったときはグラディアトル法律事務所に相談を!

本記事のポイントは以下のとおりです。

  • ◆ 名誉毀損罪は公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した場合に成立する
  • ◆ 違法性阻却事由に当てはまる場合は処罰されない
  • ◆ 「事実の摘示」がない場合は侮辱罪にあたる
  • ◆ 名誉毀損は民事上の損害賠償責任が生じることもある

個人の情報発信が当たり前になった今、名誉毀損は身近な犯罪になっています。

とはいえ、名誉毀損は刑罰に処されるおそれがあるうえ、損害賠償を請求されることもある重大な犯罪です。

心当たりがある場合には、一刻も早く弁護士に相談し、今後の対応について助言を求めてください。

グラディアトル法律事務所では、経験豊富な弁護士が24時間・365日体制で相談に応じています

逮捕や損害賠償請求などのリスクを最小限に抑えられるよう、刑事・民事双方の観点から具体的なアドバイスを提供させていただきます。

初回相談は無料、LINEでの相談にも対応しているので、お気軽にご連絡ください。

 

弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。

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