【名誉毀損罪の事実とは?】事実に当たるケース・当たらないケースまとめ

名誉毀損罪の事実とは
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弁護士 若林翔
2025年08月08日更新

「本当のこと(事実)なら、何を言ってもいい」…と思っていませんか?

実は、名誉毀損罪は本当のこと(事実)を言っても成立する犯罪です。
SNSで他人の不倫を暴露したり、職場で同僚の前科を言いふらしたりすれば、それが100%事実でも処罰される可能性があります。

本記事では、名誉毀損罪の「事実」とは具体的にどのような内容なのか、どのような場合に犯罪となるのか、そして例外的に処罰されないケースについて、具体例を交えながら解説します。

名誉毀損罪について、ぜひ本記事で正確な知識を身につけてください。

※令和7年6月1日より、従来の「懲役・禁錮」が「拘禁刑」に1本化されました。

名誉毀損罪は「事実(本当のこと)」でも成立する

名誉毀損罪は、本当のことを言っても成立する犯罪です。
ここでいう「事実」とは、人の社会的評価を低下させる内容であり、真実か嘘かは関係ありません。
たとえば、「〇〇は不倫している」「△△は借金を踏み倒した」といった内容は、それが100%真実でも、相手の評判を下げるため名誉毀損罪になりうるのです。

(名誉毀損)
第二百三十条 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。

※関連コラム「【名誉毀損罪の全てを解説】構成要件・成立ケース・逮捕を防ぐ方法など」 

名誉毀損罪の「事実」とは?判断基準3つ

名誉毀損罪の事実とは、「人の社会的な評価を低下させる具体的な内容」を指します。ある表現が名誉毀損罪の事実といえるかは、次の3つの基準で判断されます。

名誉毀損罪の事実となる基準

それぞれ、具体例を交えながら見ていきます。

①人の社会的評価を下げる内容か

1つ目の基準は、その内容が人の社会的評価を下げるものかどうかです。

社会的評価を下げる内容とは、その人の品性、信用、名誉を傷つけるような事実を指します。他人の前科、不倫、浮気など、社会的にネガティブな側面が強い内容なら、真偽を問わず名誉毀損罪の「事実」となり得ます。

他方、「具体的な事実」ではなく「個人的な感想」なら、批判的な内容でも名誉毀損罪の事実にはあたりません。

内容事実にあたる?
万引きした
不倫した
あの店は不味い
あまり好きじゃない

なお、名誉毀損罪が成立するために、実際に相手の評価が下がる必要はありません。
一般的に見て、社会的評価を低下させる危険性があれば、実際に評価が下がっていなくても名誉毀損罪は成立します。

②事実だと証明できる程度に具体的か

2つ目の基準は、示した内容が「事実として証明できる程度に具体的か」です。

「いつ、誰が、何をした」など、客観的に真偽の判断ができる程度の具体性が必要です。
たとえば、「〇〇課長は△月△日に不倫相手と会っていた」は具体的ですが、「〇〇課長は性格が悪い」は抽象的な評価であり、事実にはあたりません。

「個人の特定」という観点で問題になりやすいのは、実在の人物をモデルにした創作物(マンガやノンフィクション小説など)です。
誰を題材にしているかが分からなければ名誉毀損罪の事実にはなりませんが、誰を指しているのかが容易に推測できれば、名誉毀損罪の事実となり得ます。

ケース事実にあたる?理由
誰がモデルなのか一般人には分からない小説個人を特定できないため、名誉毀損罪「事実」にはならない
特定の個人が推測できる小説実在の人物と結びつけられるため、「事実」になる

③公然と示していたか

3つ目の基準は、事実を公然と示したかどうかです。
公然とは、「不特定の人」または「特定多数の人」に示すことを意味します。

たとえば、インターネット上の投稿は不特定の人が閲覧できるため、公然性があります。
他方、個室での1対1の会話など「特定かつ少数」の相手にしか話していなければ、公然性は認められません。

状況公然性がある?
SNSでの投稿
会社や学校で複数人に話す
被害者との1対1の会話
グループLINEでの発言

なお、特定少数の相手にしか伝えていなくても、そこから多数の人に広がる可能性(伝播可能性)があれば公然性が認められます。

名誉毀損罪となる事実の例

実際にどのような事実が名誉毀損罪の事になりうるのか、具体的なケースを2つ紹介します。

・不倫や不貞行為についての発言

・性的な画像・動画(ディープフェイク、アイコラ、盗撮など)

不倫や不貞行為についての発言

不倫や不貞行為に関する事実の公表は、名誉毀損罪の事実となり得ます。

たとえば、「既婚者の〇〇が部下とホテルに行っていた」…といった内容をSNSで呟いたり、職場内で広めたりしたら、それが真実でも名誉毀損罪となりうるのです。

同僚の不倫現場を目撃したり、交際相手に浮気されたりした場合でも、その事実をSNSに投稿したり、職場で言いふらしたりすることは避けるべきです。

性的な画像・動画(ディープフェイク、アイコラ、盗撮など)

生成AIを使った「ディープフェイク(性的動画)」、「アイコラ(アイドルの合成画像)」なども名誉毀損罪の事実となり得ます。
名誉毀損罪の「事実」には、発言だけでなく「画像や動画」も含まれるからです。

スポーツ選手を盗撮して、性的画像や動画を公開する行為も同様です。

無断で有名人の性的画像を公開したり、SNS等に投稿したりすると、名誉毀損罪が成立しうるでしょう。実際に、以下のような事例で名誉毀損罪が成立し、逮捕にいたっています。

■ スポーツ選手の盗撮を投稿し、名誉毀損罪で逮捕された事例

元女子バレーボール選手の盗撮動画をアダルト動画サイトで販売して名誉を傷つけたとして、千葉県警は21日、同県市川市福栄2丁目、会社員●●容疑者(57)を名誉毀損(きそん)の疑いで逮捕し、発表した。
(引用:朝日新聞)名誉毀損容疑で男逮捕 女性選手の盗撮動画、販売 千葉県警:朝日新聞

■ディープフェイクを作成して、名誉毀損罪が成立した事例

人工知能(AI)を使った「ディープフェイク」と呼ばれる技術で合成した女子陸上選手の虚偽画像をSNSに投稿したなどとして、警視庁は6日、愛知県内に住む私立大学4年の男(22)を名誉 毀損きそん 容疑で東京地検に書類送検した。警視庁は男が昨年10月以降、虚偽(フェイク)画像を含む女性約70人の画像を無断で投稿していたとみて調べている。
(引用:読売新聞オンライン)AI「ディープフェイク」で女子選手の顔と別人の裸を合成、卑わいな投稿をした疑い

名誉毀損罪にならない事実の例

次に、名誉毀損罪が成立しない事実についても見ていきましょう。

名誉毀損罪とならない事実

価値判断や評価を示すだけの内容

単なる意見や評価なら、名誉毀損罪の「事実」にはあたりません。
「あの店の料理はまずい」「〇〇の接客態度は最悪だった」などの批判的な口コミ・商品レビューは、価値判断や評価に過ぎないからです。

ただし、「バカ」「無能」「クズ」といった侮辱的な言葉で口コミやレビューを投稿すれば、名誉毀損罪ではなく「侮辱罪」が成立する可能性があります。

誰のことなのかが分からない事実

個人を特定できない内容も、名誉毀損罪の「事実」とは認められません。

たとえば、「政治家のほとんどが不正をしている」「この業界では談合が横行している」といった発言をしても、「いつ・誰が・どのような」行為をしたのかは特定できないため、名誉毀損罪は成立しません。

ただし、「営業部で唯一メガネをかけている人」「いつも赤い車で通勤している社員」のように、容易に個人が特定できる場合は、個人名を出していなくても、名誉毀損罪が成立する可能性があります。

同様に、イニシャルや伏せ字を使わっても、社会通念上「誰のことかが特定できる」といえれば、名誉毀損罪となりうるので注意が必要です。

名誉毀損となっても処罰されない事実の例

名誉毀損の事実に該当しても、一定の要件のもとで処罰されないケースがあります。死者に関する事実や公共の利害に関する事実などが代表例です。

死者に関する事実(虚偽でない場合)

死者に関する事実は、生きている人とは異なる扱いがされます。

(名誉毀損)
2 死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。

本来、名誉毀損罪は真偽に関わらず成立しますが、死者については公表した事実が正しければ処罰されません。
たとえば、「故人の〇〇は生前に不正を行っていた」という内容を公表するようなケースが考えられます。歴史上の人物への批判や過去の事件の検証なども同様です。

公共の利害に関する事実(真実性の証明があった場合)

「△△市長が横領した」など、公共の利害に関わる事実も、真実であれば処罰されません。これは、民主主義を機能させるには、国民が政治や行政を監視し、批判する自由が保障されている必要があるからです。

(公共の利害に関する場合の特例)
第二百三十条の二 前条第一項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。

ただし、公共の利害に関する事実が処罰されないのは、基本的に「真実であることの証明ができたとき」に限られます。
「あの政治家は不正をしている、これは公共の利害に関する事実だ」と信じてSNSなどで発信しても、それが誤っていれば名誉毀損罪となり得るため注意してください。

なお、誤信の原因となった資料・根拠が相当程度に確実なものだったと認められれば、例外的に処罰されないケースもあります。

刑法二三〇条ノ二第一項にいう事実が真実であることの証明がない場合でも、行為者がその事実を真実であると誤信し、その誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らし相当の理由があるときは、犯罪の故意がなく、名誉毀損の罪は成立しないものと解するのが相当である。(出典:最高裁判決 昭和44年6月25日)

名誉毀損罪の事実について知っておきたい5つのQ&A

Q.「すでに一般に知られている内容」なら名誉毀損になりませんか?

A. すでに一般に知られている内容でも、名誉毀損罪の対象になりえます。
過去の事実や広く知られている内容でも、それを公然と話すことで、相手の社会的評価を下げることに変わりはないからです。

Q.「本当のこと」なら名誉毀損になりませんか?

A. 本当のことであっても、名誉毀損罪は成立します。
刑法230条1項は、「その事実の有無にかかわらず」と規定してるからです。ただし「公共の利害に関する事実」で「公益目的」があり、かつ内容が真実である場合は、違法性が阻却されることがあります(刑法230条の2)。

(名誉毀損)
第二百三十条 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
(公共の利害に関する場合の特例)
第二百三十条の二 前条第一項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。

Q.「噂」として広めるだけなら名誉毀損罪になりませんか?

A.噂で聞いたんだけど…」と前置きしても、名誉を傷つける内容を公然と伝えれば名誉毀損になりえます。
たとえば、「◯◯が万引きしたらしい」とSNSで拡散した場合、「らしい」とあいまいにしても、その内容によって相手の社会的評価が下がれば名誉毀損罪が成立する可能性があります。

Q.「漫画や小説」なら名誉毀損になりませんか?

A. 漫画や小説などフィクションでも、特定の個人が容易に同定でき、その内容が社会的評価を下げる場合は名誉毀損が成立する可能性があります。
ただし、内容が明らかにフィクションであり、現実の人物と結び付けられない場合は名誉毀損に当たらないと判断されることもあります。

Q.氏名を言わなければ名誉毀損になりませんか?

A. 氏名を出さなくても、名誉毀損罪は成立します。
ハンドルネームや伏字、源氏名などでも、周囲の人が誰を指しているか分かる場合は、名誉毀損罪が成立する可能性が高いとされています(最判昭28・12・15)。

名誉毀損罪となる行為をしてしまった方は、グラディアトル法律事務所へご相談ください

名誉毀損罪となる行為をしてしまった方、または相手から「名誉毀損で訴える」と言われている方は、ぜひ弊所グラディアトル法律事務所にご相談ください。

当事務所は、これまで数多くの名誉毀損・誹謗中傷事件を解決してきた実績ある法律事務所です。名誉毀損罪に精通した弁護士が、依頼者の利益を勝ち取るために、迅速かつ的確な対応をアドバイスさせていただきます。

■グラディアトル法律事務所ができること

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「本当に名誉毀損になるの?」というご相談に対し、弁護士が状況を詳しくお伺いして適切なアドバイスを行います。刑事・民事の両面を見据えたうえで、最善の対処方針をご提案します。

2. 被害者との示談交渉を行い、逮捕や起訴、前科を回避します
名誉毀損罪は親告罪であり、被害者との示談が成立すれば、告訴の取り下げや不起訴につながる可能性があります。弁護士が間に立って誠意ある謝罪と交渉を行い、刑事処分の回避を目指します。

3. 法外な損害賠償請求を防ぎ、適正金額での解決を目指します
名誉毀損による慰謝料請求は、ケースによって数十万円から数百万円と幅があります。被害者側から過大な請求をされた場合、判例を踏まえた適正額での解決を図ります。

弁護士には、厳格な守秘義務が定められているため、ご相談によって事件のことが外部に漏れることは一切ありません。24時間365日相談受付をしていますので、まずはお気軽にご連絡ください。

※関連コラム「名誉毀損は弁護士に相談すべき!信頼できる弁護士の選び方」 

まとめ

最後に、記事のポイントをまとめます。

◉名誉毀損罪の事実とは?
・「人の社会的評価を低下させる内容」を指す
・真実か嘘かは関係なく、「本当のこと」でも名誉毀損罪は成立する

◉名誉毀損になるかを判断する基準
①人の社会的評価を下げる内容か
②事実だと証明できる程度に具体的か
③公然と示していたか

◉名誉毀損罪が成立する事実の例
・不倫や不貞行為についての発言
・性的な画像・動画(ディープフェイク、アイコラ、盗撮)など

◉名誉毀損罪が成立しない事実の例
・価値判断や評価を示すだけの内容(口コミ・レビューなど)
・誰のことなのかが分からない事実

◉名誉毀損となっても処罰されない事実(例外)
・死者に関する事実(虚偽でない場合)
・公共の利害に関する事実(真実性の証明があった場合)

以上です。
この記事が参考になったと感じましたら、ぜひグラディアトル法律事務所にご相談ください。

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弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。

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