「SNSで感情的になり、誹謗中傷してしまった…」
「炎上に便乗して、ついバカ・クズなどと軽い気持ちで投稿してしまった…」
このような経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか?
実は最近、このような投稿が侮辱罪として刑事事件になるケースが増えています。
本記事では、SNSの投稿が原因で侮辱罪が成立し、刑事処分を受けた8つの実例を紹介します。さらに、X(Twitter)、LINE、YouTubeなど、プラットフォームごとの特徴や、もし侮辱的な投稿をしてしまった場合の対処法も取り上げました。
この記事を読めば、SNSの投稿で「どこまでがセーフで、どこからがアウトなのか」をハッキリと理解できるはずです。
SNSでの発言に不安を感じている方、「訴える」と言われて困っている方は、ぜひ最後までお読みください。
目次
SNSで侮辱罪が成立する要件
SNSで侮辱罪が成立するには、3つの要件をすべて満たす必要があります。
SNSでよくあるケースを交えながら詳しく解説していきます。
①人を侮辱する発言をした
SNSで侮辱罪が成立する1つ目の要件は、「人を侮辱する発言」をしたことです。
「人を侮辱する発言」とは、相手に対する軽蔑的な価値判断を示す表現を指します。
自分では、「軽い冗談のつもり」でも、客観的に見て相手の人格を否定する内容なら、侮辱罪が成立する可能性があります。
● 「見た目からしてバケモノかよ」
● 「死ねや、くそが」「きもい」「かす」
● 「コロナみたいな顔してからに」
SNSでは、絵文字や顔文字を使って「冗談っぽく書いたからセーフ」と考える人もいます。しかし、「死ね😊」「ゴミクズwww」のように絵文字・草・顔文字を付けていても、本質的に「軽蔑の意思表示」といえるなら違法性は消えません。
②不特定または特定多数に見られる状態だった
2つ目の要件は「公然性」です。公然性とは、「不特定の人、または特定多数の人」が見聞きできる状態を指します。
SNSの場合、公開アカウントでの投稿は基本的に公然性を満たしています。フォロワーがいなくても、公開された時点で「不特定の人」が閲覧できる状態になったといえるからです。
■公然性を満たすSNSの例
・X(Twitter)の投稿やリプライ
・YouTubeのコメント
・TikTokのコメント
・Instagramの投稿・ストーリーズ
・LINEのオープンチャット
・Facebookへの投稿
・掲示板(5ちゃんねる等)への書き込み など
他方、1対1のDMやメールでのやり取り、フォロワーの少ない鍵付き(非公開)アカウント、特定少数のグループチャットなら、公然性を欠くため侮辱罪は成立しにくいです。
ただし、特定少数でも、その内容が後で拡散される可能性(伝播可能性)がある場合は公然性が認められます。たとえば、2〜3人程度のLINEグループでも、メンバーを通じて外部に広まる可能性(伝播可能性)があれば、公然性が認められる場合があります。
同様に、X(旧:Twitter)などの鍵付きアカウントも注意が必要です。
非公開でも、フォロワーが複数人いれば、「特定多数」として公然性が認められる可能性があります。
③具体的な「事実」を示していない
3つ目の要件は、具体的な事実を示していないことです。
侮辱罪が成立するのは、あくまでも具体的な事実を示さずに軽蔑的な発言をした場合に限られます。具体的な事実を示していれば、侮辱罪ではなく「名誉毀損罪」の問題となります。
■侮辱罪と名誉毀損罪の違い
侮辱罪 | 名誉毀損罪 | |
---|---|---|
投稿の例 | 「バカ」「クズ」「死ね」と投稿 | 「○○は不倫している」と投稿 |
刑罰 | 1年以下の拘禁刑若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料 | 3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金 |
【プラットフォーム別】SNSで侮辱罪が成立するケース
SNSとひとくちに言っても、プラットフォームごとに侮辱罪が成立しやすい状況や注意すべき点は異なります。
ここからは、X(旧:Twitter)、LINE、YouTubeやInstagramなどのプラットフォーム別に各SNSで侮辱罪が成立しやすいケースを紹介します。
X(旧:Twitter)のポスト(ツイート)やリプライ
Xは拡散性が高く、ポスト(リツイート)やリプライ機能により侮辱的な発言が広まりやすいという特徴があります。特定の人物に対して「ゴミ」「クズ」「消えろ」といった人格攻撃をリプライで送ったり、引用リツイートで侮辱的なコメントを付けたりすると、侮辱罪が成立する可能性があります。
炎上に便乗した投稿にも、注意が必要です。
たとえば、不祥事を起こした人物に対して「社会のゴミ」「生きる価値なし」といった投稿を行うと、たとえ相手が問題行動を起こしていたとしても、侮辱罪に問われる可能性があります。
LINEのオープンチャットやグループチャットでの発言
LINEで注意すべきなのは、オープンチャットやグループチャットなどでの発言です。
LINEは「クローズドな空間」と思われがちですが、複数人が参加しているチャットなら公然性を満たす場合があります。
特に、オープンチャットは、「不特定」の人が参加できるため「公然性」を満たしやすいです。匿名で参加していても、発信者情報開示請求などの法的手続きを踏めば、投稿者の情報は開示されます。
LINEグループは、誰でも参加できるわけではないため、オープンチャットに比べると危険性は低いです。ただし、クラス全体、サークル全体のようにチャットの参加人数が多いケースは、「特定多数」として公然性を満たす可能性があります。
なお、2〜3人などの少人数でも、グループ内の発言が外部に広まる可能性(伝播可能性)があれば、公然性ありと扱われます。
YouTubeやInstagram(インスタグラム)のコメント
YouTubeやInstagramのコメント欄も、侮辱罪が成立します。
配信者に対して行ったコメントは誰でも閲覧できるため、公然性ありと扱われるからです。ライブ配信中のコメントも、リアルタイムで多くの視聴者が見ている状況なら、公然性ありと扱われます。
なお、動画やライブの内容に対する批判と、配信者への人格攻撃は明確に区別されます。
たとえば、「この動画はつまらない」なら問題ありませんが、「なんでこんなバカが配信してんの?」などの発言は侮辱罪が成立しうるのです。
匿名アカウントでコメントしても、IPアドレスなどからコメント投稿者は特定されます。
SNSで侮辱罪が成立しないケースは?
ここまで侮辱罪が成立するケースを見てきましたが、逆に「成立しない」パターンもあります。相手を批判したり不快にさせる内容でも、法的要件を満たさなければ侮辱罪にはなりません。
以下、「批判的な発言・投稿」でも侮辱罪が成立しないケース紹介します。
DMや個別LINEなどでの侮辱発言
侮辱的な発言を行っても、1対1のDMや個別LINEなら侮辱罪は成立しません。
なぜなら、侮辱罪は「公然と」人を侮辱した場合に成立する犯罪だからです。当事者間だけのやり取りは、公然性の要件を満たさないのです。
たとえば、X(Twitter)のDMで「バカ」と送っても、Instagram のDMで「ブス」と送っても、本人しか見られない状態であれば侮辱罪にはなりません。同様に、LINEの個別トークでの悪口も、2人だけのやり取りなら公然性を欠くので侮辱罪は成立しません。
ただし、執拗にDMを送り続ければストーカー規制法違反や脅迫罪など、別の犯罪が成立する可能性はあります。
批判的な商品レビュー・口コミ
レビュー・口コミも、基本的に侮辱罪は成立しません。正当な口コミ・レビューである限りは、表現の自由の範囲内として保護されるからです。
たとえば、X(旧:Twitter)やInstagram(インスタグラム)に「このラーメンはまずい」「店内が汚い」「待ち時間が長すぎる」といった投稿をしても侮辱罪にはなりません。あくまでも商品やサービスに対する評価であり、個人の感想・意見に過ぎないからです。
ただし、レビュー・口コミでも、「店員は全員クズ」といった人格攻撃を含んでいると、侮辱罪が成立する可能性があります。同様に、事実と異なる内容を書き込んで営業妨害をすれば、偽計業務妨害罪や名誉毀損罪に問われる可能性があります。
実際にSNSで侮辱罪が成立して、刑事事件になったケース8選
これまで侮辱罪の要件や成立パターンを見てきました。
では実際にどのような投稿が侮辱罪として立件されているのか、法制審議会の資料から8つの事例を紹介します。
すべて、SNSの投稿がきっかけで、実際に刑事事件になったものです。「どういった投稿がアウトなのか」…具体的なイメージを掴むための参考として活用してください。
※下表にある「科料」とは刑事罰の1種です。もっとも軽い刑罰ですが、前科が付くため、就職活動・海外旅行など様々なシーンで影響が生じるおそれがあります。
事案の概要 | 判決・略式命令 | |
---|---|---|
1 | SNSに「この子○○(地名)一番安い子!!お客様すぐホテル行ける!!最低!!」などと投稿するとともに,当該SNSにおける被害者のプロフィール画面を撮影した画像を掲載したもの。 | 科料 9,000円 |
2 | SNSに「この○○(被害者名)を有名ブスオナペにしたいので皆さん拡散お願いします!」,「#オナペ」,「#ブスオナペ」,「#肉便器」などと掲載したもの。 | 科料 9,000円 |
3 | SNSの投稿欄に「人間性を疑います。1人のスタッフを仲間外れにし,みんなでいじめる。1人のスタッフの愚痴を他院のスタッフに愚痴を言いまくる社長 1人のスタッフの話も聞けない社長」などと記載した文章を送信して掲載したもの。 | 科料 9,000円 |
4 | SNSの投稿欄にアルバイト先前で撮影した画像を掲載するとともに,「○○(アルバイト先名)でうまくやっていくコツは,向上心を持たないことと,諦めることと,店長が言うことは聞き流してればいいということだった気がする。♯うちの○○(店長である被害者名)がご迷惑おかけしましたはパワーワードすぎ」などと掲載したもの。 | 科料 9,000円 |
5 | SNSの他人名義のアカウントに係るページに,被害者の顔写真及び「○○(被害者名)」,「今日会えないからエッチできないじゃん」,「1日1回,キスで充電しなきゃだね~」などの文字が記載された画像を掲載したもの。 | 科料 9,000円 |
6 | SNSの被害者に関する配信動画で「BM,ブタ」などと放言したもの。 | 科料 9,000円 |
7 | SNSの配信動画で「何処ですかあ,豚さん何処ですかあ家」,「ブスう,死ね」,「お金はない,体形は豚,顔はブス,体は臭そうってやばいなお前」などと放言したもの。 | 科料 9,000円 |
8 | 被害者が出演しているインターネット上の動画のコメント欄に「この女,自分が加害者だからこういうこと言うのでしょう。」などと投稿して掲載し,また,SNSで,被害者の顔写真と共に「18:30-本日の陰謀オカルトコーナーには○○(被害者名)さんが登場!お楽しみに!」などと投稿されたことに対し,返信欄に「この女,SM嬢ですよ。」と投稿して掲載したもの。 | 科料 9,000円 |
(参考/法務省|法制審議会刑事法(侮辱罪の法定刑関係)部会 第1回会議「侮辱罪の事例集」より)
SNSで侮辱罪となったときの慰謝料相場
侮辱罪で刑事処分を受けると、科料や罰金とは別に、民事上の損害賠償請求を受ける可能性があります。
慰謝料の目安は、相手が何を根拠に請求しているかによって異なります。
侮辱発言だけなら10万円程度が目安です。ただし、名誉毀損やプライバシー侵害などの不法行為も含まれていると、高額になるケースもあります。
慰謝料の目安 | 備考 | |
---|---|---|
侮辱罪のみ | 10万円〜 | 人格否定の程度により変動 |
名誉毀損を含む | 10万〜100万円程度 | 具体的事実の摘示がある場合 |
プライバシー侵害を含む | 10万〜100万円程度 | 個人情報の流出規模による |
慰謝料請求を受けたときは、まず相手が何を根拠に請求してきたのかを確認しましょう。「侮辱だけなのか」「名誉毀損も含まれているのか」「プライバシー侵害も主張されているのか」によって、請求額も対応方法も変わってきます。
請求金額の内訳も確認が必要です。
なかには慰謝料だけでなく、弁護士費用や発信者情報開示請求にかかった調査費用が全額上乗せされているケースがあります。特に、弁護士費用は慰謝料の10%程度しか認められないケースが通常なので、大幅に減額できる可能性があります。
SNSで侮辱罪となる発言をしたときにすべきことは?
ここからは、SNSで侮辱的な投稿をしてしまったと気づいたとき、投稿者がすぐにとるべき3つの対応方法を解説します。
侮辱発言をした投稿を削除する
まず最初にすべきことは、問題となっている投稿の削除です。
投稿が残っている限り、被害者の精神的苦痛は続きますし、拡散されて被害が大きくなるリスクも高まるからです。
削除する前には、念のため投稿のスクリーンショットを残しておきましょう。
後々、相手と示談交渉や裁判が必要になったとき、「どのような投稿をしたか」を確認するために必要です。証拠を保全した上で、速やかに削除してください。
被害者に謝罪する
投稿を削除したら、次は被害者への謝罪を検討しましょう。謝罪によって解決できるなら、それに越したことはありません。
ただし、謝罪の方法は慎重に選ぶ必要があります。相手によっては、「ツイートで謝ってほしい」「タイムラインで非を認めてほしい」と要求してくるケースがあります。自分のフォロワーに向けて、加害者が非を認めたことを示したいからです。
しかし、SNS上での公開謝罪には大きなリスクがあります。
内容によっては、晒されて拡散したり、かえって炎上したりするケースもあるからです。さらに、「全面的に非を認める」内容は、後の交渉で不利になる場合もあります。
「揉めそうだな…」と感じたら、できれば弁護士を通じて謝罪の意思を伝えましょう。
弁護士を通じて示談交渉をする
相手の温度感が高く、自力での解決が難しそうなら、弁護士を通じた示談交渉を検討しましょう。示談が成立すれば、刑事告訴を回避して、前科がつくことを防げます。被害者との直接やりとりも回避できるため、精神的な負担も軽減されるでしょう。
示談書を作成してもらえるのも大きなメリットです。
口約束だけでは、「謝罪して示談したのに、後から追加請求された」というトラブルになりがちですが、書面があれば確実に解決できます。
SNSで侮辱罪となる発言をしてしまったらグラディアトル法律事務所へご相談ください
SNSで感情的な投稿をしてしまった方、相手から「侮辱罪で訴える」と言われている方は、ぜひ弊所グラディアトル法律事務所にご相談ください。
当事務所は、X(Twitter)、Instagram、YouTubeなど各種SNSでの誹謗中傷事件を数多く解決に導いてきた実績ある法律事務所です。SNS特有のリスクにも精通した弁護士が、依頼者の利益を「勝ち取る」ために、迅速かつ的確な対応を提供いたします。
■SNSの侮辱罪でグラディアトル法律事務所ができること
1. SNS投稿の法的リスクを正確に判断して、冤罪を防ぎます。
「リプライで言い返しただけなのに侮辱罪?」「削除したから大丈夫?」といったご相談に対し、プラットフォームごとの特性を踏まえた最善の対処方針をご提案します。2. 投稿削除から謝罪まで、SNSならではの解決策を提案します。
単に削除するだけでなく、スクリーンショットの証拠保全、適切な謝罪方法など、SNS特有の対応が必要です。プラットフォームごとの特性を理解した弁護士が、最適な解決方法を一緒に考えます。3. 法外な損害賠償請求を防ぎます。
被害者側から高額な慰謝料を請求されるケースもありますが、その金額が妥当かどうかは専門的な判断が必要です。根拠のない過大な請求には、弁護士が冷静に対処します。4. 名誉毀損や業務妨害など、他の法的リスクも含めて対応します。
侮辱罪だけでなく、発言内容によっては名誉毀損罪・偽計業務妨害罪など、他の罪に問われる可能性もあります。刑事と民事の両方に対応している当事務所だからこそ、複雑なリスクを一括でご相談いただけます。
弁護士には、厳格な守秘義務が定められているため、ご相談によって事件のことが外部に漏れることは一切ありません。24時間365日相談受付をしていますので、まずはお気軽にご連絡ください。
まとめ
最後に、記事のポイントをQ&A形式でまとめました。
Q1. SNSで侮辱罪が成立するための要件は何ですか?
A. 侮辱罪が成立するには、以下の3つの要件をすべて満たす必要があります。
・人を侮辱する発言をした(相手への軽蔑的な価値判断を示す表現)
・不特定または特定多数に見られる状態だった(公然性)
・具体的な「事実」を示していない
Q2. SNSのプラットフォームによる違いはありますか?
A. プラットフォームごとに以下のような特徴があります。
・X(Twitter)→ リプライや引用RTでの人格攻撃、炎上便乗での誹謗中傷
・LINE → オープンチャットや大人数グループでの侮辱発言
・YouTube/Instagram → コメント欄での「ブス」「死ね」などの人格攻撃
Q3. SNSで侮辱罪が成立しないケースはありますか?
A. 以下の2つのケースでは侮辱罪は成立しません。
・DMや個別LINEなど1対1でのやり取り
・批判的なレビューや口コミ
Q4. 侮辱罪で請求される慰謝料の相場はどのくらいですか?
A.請求の根拠によって、目安となる金額は異なります。
・侮辱罪のみ → 10万円程度
・名誉毀損を含む → 10万〜100万円程度
・プライバシー侵害を含む → 10万〜100万円程度
Q5. SNSで侮辱的な投稿をしてしまったらどうすべきですか?
A. 以下の3つの対応が必要です。
● 侮辱発言をした投稿の削除する
● 被害者への謝罪
● 弁護士を通じた示談交渉
以上です。
この記事が参考になったと感じましたら、ぜひグラディアトル法律事務所にご相談ください。一日も早く事件が解決し、平穏な日常を取り戻せることを願っています。