「収賄罪とはどのような犯罪?」
「年賀や季節の贈答品を受け取っても収賄罪になる?」
「実際にあった収賄罪の事件を知りたい」
公務員が業務の見返りとして金品や便宜を受け取った場合、「収賄罪」に問われる可能性があります。収賄罪は、公務の公正さや社会の信頼を損なう重大な犯罪であり、起訴されれば実刑判決になる可能性も十分にあるため、公務員の方は、収賄罪を犯さないよう十分に注意して職務を遂行していかなければなりません。
しかし、収賄罪の範囲は意外と広く、たとえば「年末の贈答品」や「ちょっとした接待」でも、状況次第では違法と判断されるケースがあります。さらに、収賄罪には「単純収賄罪」や「受託収賄罪」など、7つの類型が存在し、それぞれ成立の要件や罰則が異なります。
そのため、収賄罪の成立要件や犯罪類型をしっかりと理解しておくことが重要です。
本記事では、
・収賄罪の7つの類型と構成要件 ・どこまでが合法?収賄罪になるかもしれないグレーゾーン ・実際にあった収賄事件の事例 |
などについて詳しく解説します。
公務に携わる方や法務・コンプライアンス担当の方にとって、リスク回避のためにも知っておきたい重要な内容ですので、是非最後までお読みください。
目次
収賄罪とは?基本的な定義と成立要件

収賄罪とは、公務員がその職務に関して賄賂を受け取ることで成立する犯罪です。以下では、収賄罪の基本的な成立要件をみていきましょう。
公務員であること
「公務員」には、国家公務員・地方公務員はもちろんのこと、特別職(国会議員や市長など)や公的機関に準じた業務を行う委員・理事なども含まれます。
また、公務に準じる事務を行う「みなし公務員」(民間に委託された公益法人の職員など)も対象となる場合があります。
職務に関して利益を受け取ること
賄賂には現金や商品券のような金銭的価値のある物はもちろん、「旅行の接待」「高級レストランでの食事」「子どもの就職の便宜」「機密情報の提供」なども含まれます。
重要なのは職務行為と対価関係にある利益に該当するかどうかという点です。賄賂を受け取った見返りに何らかの行為が期待されていた場合、職務との対価性が認められ収賄罪が成立します。
収賄罪の7つの類型と構成要件
類型 | 概要 | 法定刑 |
---|---|---|
単純収賄罪 | 職務に関して賄賂を受け取る。不正行為がなくても成立。 | 5年以下の懲役 |
受託収賄罪 | 請託を受けて職務を引き受ける見返りに賄賂を受け取る(約束だけでも可)。 | 7年以下の懲役 |
事前収賄罪 | 将来の職務に関して賄賂をあらかじめ受け取る。 | 5年以下の懲役 |
第三者供賄罪 | 第三者に賄賂を渡させたり、その受領を了承する。 | 5年以下の懲役 |
加重収賄罪 | 賄賂を受け取った上で実際に不正行為を行う。 | 1年以上の有期懲役 |
事後収賄罪 | 退職後、在職中の職務に関する謝礼として賄賂を受け取る。 | 5年以下の懲役 |
あっせん収賄罪 | 他の公務員に不正をさせ、その見返りに賄賂を受け取る。 | 5年以下の懲役 |
刑法では収賄罪に関して7つの犯罪類型を定めています。以下では、収賄罪の7つの類型と構成要件を説明します。
単純収賄罪|職務に関して賄賂を受け取る
単純収賄罪は、最も基本的な収賄の形態です。公務員がその職務に関連して、金銭や物品、接待、その他の利益を収受、要求、約束した場合に成立します。
職務に関して賄賂を受け取れば単純収賄罪は成立し、実際に不正な行為をしたかどうかは問われません。たとえば、担当する許認可業務に関して、感謝の意味で渡された金品を受け取っただけでも、賄賂性が認められれば単純収賄罪が成立する可能性があります。
なお、単純収賄罪の法定刑は、5年以下の懲役(拘禁刑)と定められています。
※「拘禁刑(こうきんけい)」とは、従来の刑罰である懲役と禁錮を一本化した刑罰です。改正刑法に基づき、2025年6月1日から、懲役と禁錮は拘禁刑に一本化されました。 |
受託収賄罪|賄賂を受け取る約束をして職務を引き受ける
受託収賄罪は、単純収賄罪が「請託を受けて」行われた場合に成立する犯罪です。「請託」とは、職務に関して依頼を受けて受諾することをいいます。たとえば、「賄賂を贈る代わりに、○○をしてください」という要求を受けてそれに応じる場合です。
実際に賄賂を受領していなくても、「約束」と「引き受け」があれば処罰の対象となります。
なお、受託収賄罪の法定刑は、7年以下の懲役(拘禁刑)と定められています。
事前収賄罪|職務遂行前に賄賂を受け取る
事前収賄罪は、公務員が将来の職務行為に関して、あらかじめ賄賂を受け取った場合に成立する犯罪です。ここでのポイントは、職務行為がまだ行われていない段階で、報酬を「前払い」でもらう点です。
たとえば、官公庁への就職が内定している人が将来担当する予定の職務に関して、請託を受けて賄賂を受け取った場合がこれにあたります。
職務行為が行われる前であっても、その見返りであることが明らかであれば違法性が問われます。
なお、事前収賄罪の法定刑は、5年以下の懲役(拘禁刑)と定められています。
第三者供賄罪|第三者に賄賂を提供させたり、第三者が賄賂を受け取ることを了承する
第三者供賄罪は、公務員自身が直接利益を受け取らなくても、他人に賄賂を提供させたり、第三者が受領することを了承した場合に成立します。
たとえば、業者に対して「自分の親族に金銭を渡してくれ」と指示するケースや、知人が受け取ることを知りながら黙認したような場合が該当します。実質的に自らの利益となるかどうかではなく、「第三者の受領を容認したか」が重要です。
なお、第三者供賄罪の法定刑は、5年以下の懲役(拘禁刑)と定められています。
加重収賄罪|賄賂を受け取っただけでなく実際に不正な行為をした
加重収賄罪は、賄賂を受け取っただけでなく、その見返りとして違法行為や不当な職務行為を行った場合に成立する犯罪です。公務員が単純収賄、受託収賄、事前収賄、第三者供賄のいずれかの罪を犯した上で不正行為を行うという点で公務の公正さや信頼性を著しく損なうため、より重い処罰が科される収賄の形態です。
なお、加重収賄罪の法定刑は、1年以上の有期懲役(拘禁刑)と定められており、他の収賄罪に比べて特に重い刑罰が設けられています。
事後収賄罪|公務員だった人が在職中の不正行為の対価として賄賂を受け取る
事後収賄罪は、公務員を退職した後に、在職中の業務に関連する謝礼等の名目で賄賂を受け取った場合に成立する犯罪です。
たとえば、現職中に便宜を図った企業から、退職後に「退職祝い金」などの名目で金品が支払われるといったケースが典型例です。在職中に賄賂の要求や約束があり、退職後に賄賂の収受がなされたときは、加重収賄罪が成立します。
なお、事後収賄罪の法定刑は、5年以下の懲役(拘禁刑)と定められています。
あっせん収賄罪|公務員が他の公務員に不正な行為をさせて、その見返りに賄賂を受け取る
あっせん収賄罪は、自らが行動するのではなく、他の公務員に働きかけを行い、その見返りとして賄賂を受け取る場合に成立します。
たとえば、上司や影響力のある立場にある者が、「部下に便宜を図らせるよう口添えするから、その謝礼をよこせ」といった要求をするような場面が想定されます。自分が直接職務を行わなくても、「あっせん」という行為自体が公務の中立性を害するため、処罰対象となります。
なお、あっせん収賄罪の法定刑は、5年以下の懲役(拘禁刑)と定められています。
下記のコラムも併せてご覧ください。
どこまでが合法?収賄罪になるかもしれないグレーゾーン

収賄罪は、一見して違法性の判断が難しい「グレーゾーン」の行為もありますので、どこまでが合法でどこからが違法なのかの判断に迷うこともあるかもしれません。以下では、そのようなグレーゾーンとなるケースについて説明します。
年賀や季節の贈答品を受け取ったらどうなる?
少額の年賀品やお中元・お歳暮であっても、職務に関係していれば収賄とみなされる可能性があります。
金額にかかわらず、「職務との関連性」が焦点となります。
接待や会食を受けたらどうなる
高額な接待や頻繁な会食は、賄賂と認定されるリスクがあります。
実際に不正な行為をしなくても、「期待された接待」であれば違法性があると見なされる可能性があります。
金品ではなく便宜や情報提供もNG?
収賄罪の対象は「金品」に限りません。
内部情報の提供や、行政判断に影響を与えるような発言・仲介も賄賂とみなされることがあります。
収賄罪の刑罰
以下では、収賄罪の7つの類型ごとの刑罰を紹介します。
収賄罪の法定刑
収賄罪の7つの類型ごとの法定刑をまとめると以下のようになります。
概要 | 法定刑 | |
---|---|---|
単純収賄罪 | 職務に関して賄賂を受け取る、要求する、または約束する | 5年以下の懲役(拘禁刑) |
受託収賄罪 | 賄賂を受け取る約束をして請託を受け、職務を引き受ける | 7年以下の懲役(拘禁刑) |
事前収賄罪 | 将来の職務行為の見返りに、あらかじめ賄賂を受け取る | 5年以下の懲役(拘禁刑) |
第三者供賄罪 | 第三者に賄賂を提供させたり、第三者の収受を容認する | 5年以下の懲役(拘禁刑) |
加重収賄罪 | 賄賂を受け取った上で実際に不正な職務行為を行う | 1年以上の有期懲役(拘禁刑) |
事後収賄罪 | 公務員退職後、在職中の職務行為の見返りとして賄賂を受け取る | 5年以下の懲役(拘禁刑) |
あっせん収賄罪 | 他の公務員に不正行為をさせるよう働きかけ、その見返りとして賄賂を受け取る | 5年以下の懲役(拘禁刑) |
受け取った賄賂は没収・追徴される
刑法197条の5では、収賄に関連して得た利益は「没収または追徴」されると定められています。
没収……犯罪に関連する物の所有権を奪って、国家に帰属させる刑罰 追徴……犯罪に関連する物の没収ができないときに、その価額の納付を強制する刑罰 |
収賄罪により受け取った賄賂は、原則として没収の対象となり、既に使われてしまった場合や主食の接待のように没収できないときは追徴されます。
収賄罪で執行猶予・示談の可能性はある?
収賄罪で起訴され有罪になったとしても、初犯であり、賄賂の額が少額で職務との関連性も低いなど比較的軽い収賄罪であれば執行猶予の可能性があります。
ただし、収賄罪は、被害者のいない犯罪類型になりますので、示談によって刑を軽くすることはできません。このような被害者のいない犯罪類型において執行猶予を獲得するには、刑事事件の経験豊富な弁護士によるサポートが不可欠ですので、早めに弁護士に相談するようにしましょう。
実際にあった収賄事件の事例

以下では、実際にあった収賄事件の事例を紹介します。
地方自治体職員による収賄
直方市にある浄水施設の管理業務をめぐる汚職事件で、知人の会社からおよそ120万円相当の物品を受け取ったとして収賄の罪に問われた元職員に、福岡地方裁判所は「物品をみずから要求するなど利欲性は顕著だ」と指摘して、執行猶予のついた有罪判決を言い渡しました。
判決で、福岡地方裁判所の鈴嶋晋一裁判長は、「市の担当者だからこそ下請けの紹介を依頼されていて、その選定は被告が指導、助言すべき職務に含まれる」と指摘しました。
その上で、「『欲しいものリスト』を送信するなど物品をみずから選んで要求していたことから利欲性は顕著だ」として、元係長に懲役2年、執行猶予4年、追徴金10万5000円余りを言い渡しました。
(引用:NHK)
中央官庁・企業癒着のケース
東京五輪・パラリンピックを巡る汚職事件で、起訴された5つの贈賄ルートすべてで判決が出そろった。収賄側も含め、これまで出された判決はいずれも有罪だが、全ルートで受託収賄罪に問われている大会組織委員会元理事の高橋治之被告は無罪を主張。公判は長期化の様相を呈しており、行方が注目される。
(引用:産経新聞)
政治家と企業の間の収賄事例
元衆議院議員の秋本真利被告(49)は、洋上風力発電事業への参入を目指す「日本風力開発」の元社長、塚脇正幸被告(65)から国会で会社に有利になる質問をする見返りに、おととしまでに借り入れや資金提供など7200万円余りの賄賂を受けたとして、受託収賄などの罪に問われています。
検察は、去年11月に東京地方裁判所で開かれた初公判で、元議員が馬の購入や繁殖など馬主として活動するための資金の提供を受け、これが賄賂にあたると主張しています。
これに対し、17日、元議員の弁護士による冒頭陳述が行われ、「元議員は、元社長が主体となって行う馬の繁殖事業に関する事務作業などを担っていて、馬の購入費などを受け取っていたが、これらの費用は元社長が負担すべきもので、賄賂にはあたらない」などと主張しました。
(引用:NHK)
収賄罪で逮捕されたらどうなる?刑事手続きの流れ

以下では、収賄罪で逮捕されたときの刑事手続きの流れについて説明します。
逮捕・取り調べ
収賄の嫌疑があると判断された場合、警察が逮捕に踏み切ります。逮捕されると、直ちに警察署などの留置施設に拘束され、取り調べが行われます。
取り調べで供述した内容は、供述調書にまとめられ後日の裁判の証拠になりますので、取り調べでの発言は慎重に行わなければなりません。
検察官送致
逮捕から48時間以内に、被疑者の身柄は検察官に送致(送検)されます。
検察官は、被疑者の供述や証拠内容を確認し、身柄を拘束したままさらに捜査を続ける必要があるかを判断します。
検察官が身柄拘束の必要があると判断すると、逮捕から72時間以内かつ送致から24時間以内に裁判官に対して勾留請求を行います。
勾留・勾留延長
裁判所が勾留を認めた場合、まずは10日間、被疑者は引き続き拘束されます。必要に応じて勾留期間はさらに最大10日間延長され、最長で20日間の身柄拘束が可能です。
つまり逮捕から合計すると最長で23日間にも及ぶ身柄拘束になるということです。
起訴または不起訴の決定
勾留期間の終了前に、検察官は、被疑者を起訴するか、不起訴とするかを決定します。起訴されれば、刑事裁判での審理に進み、有罪・無罪が裁判官によって判断されます。
収賄罪で逮捕されたときはグラディアトル法律事務所にお任せを

収賄罪は、公務員という立場の公正さが問われる極めて重大な犯罪であり、逮捕されただけでも社会的信用に深刻な打撃を与えます。報道による実名公表、職場への影響、家族や周囲からの信頼喪失など、精神的・経済的ダメージも計り知れません。
そのため、できるだけ早い段階で弁護士に相談し、今後の見通しや取るべき対応について明確にしておくことが重要です。
グラディアトル法律事務所では、刑事弁護に強い弁護士が多数在籍し、収賄事件の対応実績も豊富に有しています。逮捕直後からの身柄解放に向けた対応はもちろん、取り調べ時のアドバイス、早期釈放に向けた活動、執行猶予の獲得に向けたサポートなどを迅速かつ的確に行うことが可能です。
24時間365日相談を受け付けておりますので、収賄罪で逮捕されてしまったときはすぐにグラディアトル法律事務所までご相談ください。
まとめ
収賄罪は、単なる金銭授受だけでなく、情報提供・接待など幅広い行為が対象となる可能性がある、非常に複雑で重い犯罪です。特に、公務員やその関係者は、自身の言動がどう見られるかを意識して行動する必要があります。
万が一、収賄の疑いをかけられた場合には、早急に専門の弁護士に相談し、適切な対応をとることが重要ですので、刑事事件の経験と実績豊富なグラディアトル法律事務所までご相談ください。