危険運転致死傷罪の事例|実際の事例からわかるリスクと刑罰の重さ

危険運転致死傷罪の事例|実際の事例からわかるリスクと刑罰の重さ
弁護士 若林翔
2025年09月04日更新

「危険運転致死傷罪が適用された事例を知りたい」

「危険運転致死傷罪が適用されるポイントとは?」

「危険運転致死傷罪が適用された事例の量刑はどのくらい?」

危険運転致死傷罪は、悪質な運転によって人を死傷させた場合に適用される非常に重い罪です。近年では、飲酒運転やあおり運転、薬物使用後の運転といった危険行為が社会問題となり、こうしたケースに対して厳正な処罰が求められるようになっています。

ニュースや報道で「危険運転致死傷罪で起訴」などと耳にすることも増えましたが、具体的にどのような行為がこの罪に当たるのか、どのような状況で適用されるのか、よくわからないという方も多いのではないでしょうか。

危険運転致死傷罪が適用されるケースを具体的にイメージするためには、実際に危険運転致死傷罪が適用された事例を知ることが有効な手段です。

本記事では、

・実際に危険運転致死傷罪が適用された6つの事故事例
・危険運転致死傷罪が成立するためのポイント
・実際に科された刑罰の傾向

などについて詳しく解説します。

ご自身やご家族が加害者・被疑者となってしまった場合に備え、正しい知識を身につけておきましょう。

実際に危険運転致死傷罪が適用された6つの事故事例

実際に危険運転致死傷罪が適用された6つの事故事例

危険運転致死傷罪が適用されるのは、一般的な交通事故とは異なり、著しく危険な運転によって人を死傷させた場合に限られます。以下では、実際にこの罪が適用された6つの事例を紹介します。

【事例①】酒に酔ったまま運転し歩行者を死亡させたケース

2024年6月、熊本市で、飲酒運転をしていた当時24歳の男が、追突事故後に逃走しようと車を時速70キロ以上で後退進行させ、歩行者2人をはねて死傷させる事故が発生しました。被害者の1人である27歳の女性は死亡し、もう1人もけがを負いました。

加害者は酒に酔った状態で事故を起こしたことを自覚し、飲酒運転の発覚を恐れてその場から逃げようとしたとされます。裁判では、後退での高速走行が「進行を制御することが困難な高速度」に該当するかどうかが争点となりました。

熊本地方裁判所は、車の構造上、バック時の高速度走行は極めて制御が難しいと認定。「少しのハンドル操作で大きく曲がる可能性がある」として、危険運転致死傷罪の成立を認め、懲役12年の実刑判決を言い渡しました。

この判決は、バック走行であっても危険運転致死傷罪が適用され得ることを示した重要な事例といえます。

飲酒しバック走行死傷事故で懲役12年 危険運転認める 熊本|NHK 熊本県のニュース

【事例②】危険ドラッグを使用後に運転し、追突事故で人を死亡させたケース

2014年5月、長野県中野市で、当時19歳の元少年が危険ドラッグを使用した直後に無免許で乗用車を運転し、対向車線を逆走時速126キロ超で複数の車に次々と衝突し、消防士の男性1人を死亡させ、別の車の2人にも重軽傷を負わせました。

裁判では、被告人が「事故を起こすとは思わなかった」と主張したものの、長野地裁は、事故前に同乗者が薬物の影響で手足の硬直を起こす様子を見ていたことから、運転の危険性を十分に認識していたと判断。「それでも運転を継続した責任は重大」と述べ、危険運転致死傷罪の成立を認定し、懲役13年の実刑判決を言い渡しました。

死亡した被害者は、事故の3週間前に結婚し、挙式を控えていた若き消防士でした。裁判長は「突然の事故で人生を奪われた。無念の情は察するに余りある」と言及し、被告人の無謀な行動を厳しく非難しました。

危険ドラッグ暴走で3人死傷 元少年に懲役13年判決 長野地裁

【事例③】高速道路でのあおり運転で人を死亡させたケース

2017年、神奈川県大井町の東名高速道路で、あおり運転によって一家4人を死傷させたとして、危険運転致死傷罪などで起訴されました。被告人は、ワゴン車に対して4回にわたり車間に割り込み減速するなどの妨害行為を行い、最終的に追い越し車線に停車させました。その直後、後続の大型トラックが追突し、運転していた女性とその夫の2人が死亡、同乗していた娘2人が軽傷を負いました。

横浜地裁は2018年に懲役18年の判決を言い渡しましたが、東京高裁は一度これを破棄し、地裁に審理を差し戻しました。その後の再審でも、地裁は妨害運転と事故との因果関係を認定し、改めて懲役18年の実刑を言い渡しました。被告は控訴しましたが、東京高裁は2024年に控訴を棄却し、判決が確定しています。

この事件は、物理的接触がなくても「あおり運転」で停止を強いた行為により致死傷事故が起きた場合、危険運転致死傷罪が成立し得ることを示した代表的な判例です。

東名あおり運転の被告、懲役18年を言い渡した裁判長に「俺が出るまで待っておけよ」

【事例④】無免許かつ高速度で信号無視した死亡事故

2024年12月、静岡市駿河区で、当時23歳の建設作業員の男が、無免許のうえコカインを使用した状態で軽自動車を運転し、信号無視で交差点に進入。青信号で右折中だった車と衝突し、相手運転手の男性に全治1週間のけがを負わせました。

この事故は、男が別の交差点で信号を無視した直後、パトカーに追跡されながら逃走を続けた末に発生したもので、事故直後に警察が現場に到着し、緊急逮捕。無免許運転が発覚した後、当初の過失運転致傷ではなく、より重い無免許危険運転致傷罪で起訴されました。

さらに、事故後の検査で被告の体内から麻薬成分(コカイン)が検出されたことから、麻薬取締法違反の疑いでも再逮捕されました。警察は、薬物の使用が運転能力に及ぼした影響や事故との因果関係についても詳しく調査を進めています。

本件は、無免許・薬物影響下・逃走行為が重なった極めて悪質な事案であり、危険運転致傷罪の厳格な適用と刑事責任の追及が求められた事例です。

コカインの使用も発覚 過失よりも罰則重い“危険運転” 男はなぜ信号無視を… 警察が停止を求めるも逃走 無免許危険運転致傷の罪で23歳の男を起訴(静岡市)

【事例⑤】逆走により正面衝突を起こし人を死なせたケース

2025年5月、三重県亀山市の新名神高速道路で、外国籍の男が車を逆走させ、複数の車両を巻き込む玉突き事故を引き起こしました。運転していたのは、ペルー国籍の無職男性(当時34歳)で、自動車運転処罰法違反(危険運転致傷)の疑いで再逮捕されました。

事故は午前11時ごろに発生。容疑者は下り線を普通乗用車で逆走し、進行方向の車両に妨害行為を行った結果、回避のため停止した車に大型貨物車が追突し、多重事故が発生。4台が巻き込まれ、49~63歳の女性4人が軽傷を負いました。

さらに、容疑者は逆走中に別の車2台と接触事故を起こしていたにもかかわらず、警察に報告せず逃走していたとして、道路交通法違反(事故不申告)でも逮捕されています。本人は「高速道路を逆走し、車の妨害をしたことは間違いない」と容疑を認めています。

この事件は、高速道路での逆走行為が極めて危険な運転と評価され、危険運転致傷罪の適用が認められた事例です。

危険運転致傷容疑でペルー人男再逮捕 新名神逆走―三重県警:時事ドットコム

【事例⑥】妨害運転を繰り返し、相手車両が単独事故を起こしたケース

2024年5月、千葉県銚子市の県道で、77歳の無職の男が、軽乗用車を運転中に行った妨害運転行為により、相手女性にけがを負わせたとして、自動車運転処罰法違反(危険運転致傷)の疑いで逮捕されました。

逮捕容疑によると、男は午後2時55分ごろ、合流車線から前に出た21歳女性の軽乗用車に対して敵意を示し、対向車線に進路変更して強引に追い越し。その後、前に割り込む形でブレーキをかけ、女性の車をガードレールと自分の車に衝突させました。女性はこの事故で軽傷を負っています。

警察の調べに対して容疑者は、「事故を起こしたことは間違いないが、けがを負わせるつもりはなかった」と供述。故意に近い運転態様で相手にけがを負わせた点が重視され、危険運転致傷罪の適用に至りました。

本件は、あおり運転の一種である「急な進路変更や急ブレーキ」が実際にけがを伴う事故に発展した事例として、妨害運転の危険性が改めて問題視されたケースです。

追い越し後に急ブレーキ、車衝突 危険運転致傷の疑いで77歳の男逮捕 銚子:千葉日報

事例から見る危険運転致死傷罪が認定されるポイント

事例から見る危険運転致死傷罪が認定されるポイント

危険運転致死傷罪は、単に事故の結果だけではなく、「どのような運転態様だったか」が重視されます。これまで紹介した6つの事例を踏まえると、危険運転致死傷罪が認定されるためには以下の3つの要素が特に重要となります。

運転者の認識や目的

まず注目されるのは、運転者がどのような認識や意図をもって運転していたかという点です。たとえば、東名高速道路のあおり運転事件(事例③)では、被告人が車間を詰めて減速を繰り返し、相手車両を停止させたことが問題となりました。直接の衝突を引き起こしていないにもかかわらず、「相手に危険を生じさせる意図をもった妨害運転」と評価されたことで危険運転致死傷罪が成立しています。

同様に、静岡の薬物使用運転の事例(事例④)では、警察の追跡を逃れようと信号を無視し続けた意図が重大な加算要素となりました。「逃走目的での危険運転」が、単なる過失ではなく強い非難に値すると判断されたのです。

正常な運転が困難な状態といえるか

次に重視されるのが、「正常な運転が著しく困難だったかどうか」です。これは速度超過や酒気帯び・薬物使用後の運転などでよく問題となります。

たとえば、熊本の飲酒バック事故(事例①)では、被告が酒に酔った状態で時速70キロ以上で後退進行したことが「著しく正常な運転が困難な状態」とされました。また、長野の危険ドラッグ使用者(事例②)も、薬物の影響で判断力が著しく低下していたことが認定され、危険運転致死傷罪の成立につながりました。

こうしたケースでは、運転前後の言動や飲酒・薬物の影響を示す検査結果、同乗者の証言などが「困難な状態」の証拠として扱われます。

危険運転致死傷罪を立証できる証拠があるか

最後に、実際に危険運転致死傷罪で有罪とするには、運転の危険性や因果関係を裏付ける証拠が不可欠です。

高速道路での逆走事故(事例⑤)や妨害運転による衝突事故(事例⑥)では、防犯カメラやドライブレコーダー映像、被害者の証言、事故直後の現場状況などが重要な証拠となりました。また、あおり運転事件では「運転態様の常習性」や「意図的な妨害」が証拠から浮かび上がり、結果的に致死傷行為との因果関係が認められました。

証拠の有無や質によって、過失運転致死傷罪との分岐点が決まることも多く、弁護士による適切な主張と反証も非常に重要となります。

危険運転致死傷罪に問われた場合の刑罰と量刑の傾向

危険運転致死傷罪に該当する場合、一般的な過失運転よりもはるかに重い処罰が科されます。以下では、危険運転致死傷罪の法定刑と実際の量刑傾向について説明します。

危険運転致死傷罪の法定刑

項目内容
対象行為故意に近い悪質な運転(酒・薬物・あおり運転・極端な速度など)
致死の場合の刑罰1年以上の懲役(※実刑可能性が非常に高い)
致傷の場合の刑罰15年以下の懲役(※懲役1~3年の判決が多数、執行猶予が付く可能性もあり)
罰金刑の有無なし(懲役のみ)
併合罪の可能性無免許、薬物、道交法違反などと併せて刑が加重される場合あり

危険運転致死傷罪は、人の死傷という重大な結果を、故意に近い危険な運転によって引き起こした場合に成立する犯罪です。自動車運転処罰法において、危険運転致死傷罪に対して以下のような重い刑罰を定めています。

・危険運転致死罪(人を死亡させた場合):1年以上の有期懲役(拘禁刑)
・危険運転致傷罪(人にけがを負わせた場合):15年以下の懲役(拘禁刑)

通常の過失運転致死傷罪では、不起訴や罰金刑で済むケースが多いですが、危険運転致死傷罪には罰金刑がないため懲役刑(拘禁刑)が基本であり、死亡事故になると実刑判決となる可能性が非常に高いです。

また、特に悪質な事例では、別の罪(無免許運転、麻薬取締法違反、道路交通法違反など)との併合罪として扱われ、刑期がさらに加重される場合もあります。

危険運転致死傷罪の量刑傾向

令和6年版の犯罪白書によると、危険運転致死傷罪により懲役刑が言い渡された被告人の科刑状況は以下のようになっています。

【危険運転致傷罪】

・懲役6月超~1年未満:約10.9%
・懲役1年以上~2年未満:約59.0%
・懲役2年以上~3年未満:約22.8%
・懲役3年:約4.5%
・懲役3年超~5年以下:約2.6%
・懲役5年超~10年以下:約0.3%

【危険運転致死罪】

・懲役1年以上~2年未満:約3.1%
・懲役2年以上~3年未満:約6.2%
・懲役3年:約6.2%
・懲役3年超~5年以下:約15.6%
・懲役5年超~7年以下:約25.0%
・懲役7年超~10年以下:約40.6%
・懲役10年超:約3.1%

このデータからは、危険運転致傷罪では懲役1年以上3年以下の事件が多く危険運転致死罪では懲役3年超10年以下の事件が多くなっています

懲役(拘禁刑)3年は、執行猶予が付くかどうかの分岐点ですので、危険運転致傷罪であれば執行猶予が付く可能性がありますが、危険運転致死罪では執行猶予が付く可能性はほぼないといえるでしょう。

危険運転致死傷罪で逮捕されてしまったときはグラディアトル法律事務所に相談を

危険運転致死傷罪で逮捕されてしまったときはグラディアトル法律事務所に相談を

危険運転致死傷罪は、通常の過失事故と異なり「著しく危険な運転」によって人を死傷させたとされる極めて重い罪です。逮捕されれば、高い確率で起訴され、長期間の実刑判決となり、家族や職場、社会生活に深刻な影響を及ぼすことにもなりかねません。

こうした重大な局面では、交通事件・刑事事件に強い弁護士の支援が不可欠です。グラディアトル法律事務所は、危険運転致死傷罪を含む重大交通事故の弁護を多数扱っており、事案の早期解決・刑事処分の軽減・示談交渉などにおいて豊富な実績があります。

私たちは、逮捕後の迅速な対応をはじめ、運転態様や状況の法的評価を徹底的に見直し、依頼者の立場を最大限守る弁護活動を行っています。必要に応じて、示談交渉や保釈請求、裁判対応まで一貫して対応可能です。

「実刑を避けたい」「今後の生活を守りたい」とお考えの方は、今すぐグラディアトル法律事務所にご相談ください。あなたとご家族の人生を守るため、全力でサポートいたします。

まとめ

危険運転致死傷罪は、悪質な運転行為によって人を死傷させた場合に適用される重大な罪です。飲酒や薬物使用、あおり運転、逆走など、故意に近い行動が重く問われ、実刑となるケースが多数を占めます。

過去の事例・判例からもわかるように、運転態様や状況次第で量刑は大きく左右されます。万が一この罪に問われた場合は、早期に弁護士に相談し、適切な対処をとることが不可欠です。危険運転致死傷罪を犯してしまったときは、グラディアトル法律事務所までご相談ください。

弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。

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