「公務員にお金や物を渡しただけで罪になるの?」
「公務員が接待を受けるのはどこまで許される?」
「贈収賄罪で逮捕されるとどのようなリスクがある?」
ニュースでもたびたび耳にする「贈収賄罪」は、公務員などに対する賄賂の授受を処罰する重大な犯罪です。贈収賄罪は、賄賂を「渡す側(贈賄)」と「受け取る側(収賄)」の双方が処罰対象になるのが特徴で、会社役員や議員、行政職員などが関与する事件も少なくありません。
一方で、どのような行為が贈収賄罪にあたるのか、その構成要件や罰則の内容は複雑で、誤解や思い込みに基づくトラブルも発生しています。さらに、贈収賄罪で逮捕された場合には、長期間の身柄拘束や実名報道といった深刻なリスクも伴いますので、それを避けるには贈収賄罪に関する正確な理解が不可欠です。
本記事では、
・贈収賄罪の構成要件と刑罰 ・贈収賄罪で逮捕された場合の流れ ・贈収賄罪で逮捕された場合に生じるリスク |
などについて詳しく解説します。
もしも自分や家族が関与してしまった場合のために、正しい知識を身につけておきましょう。
目次
贈収賄罪とは?
贈収賄罪とは、賄賂を「受け取る側」である公務員などに適用される収賄罪と、賄賂を「渡す側」である私人などに適用される贈賄罪の総称です。いずれも、社会の公正を損なう重大な犯罪とされ、刑法の中でも厳しく処罰されます。
この犯罪の背景には、公共の職務が個人の利益により歪められることに対する重大な懸念があります。公務の中立性や公正性を維持するために、賄賂の授受は強く禁じられており、処罰の対象は「現金」だけに限らず、物品・接待・就職斡旋など多岐にわたります。
贈賄罪と収賄罪の違い

贈賄罪と収賄罪の大きな違いは、犯罪の主体です。
贈賄罪は、賄賂を贈る側に成立する犯罪であるのに対して、収賄罪は、賄賂を受け取る側に成立する犯罪であるという点が両罪の違いになります。
つまり、公務員に対して賄賂を渡した場合、収賄罪と贈賄罪がセットで成立することになるのがこの犯罪の特徴といえるでしょう。
贈賄罪の構成要件と刑罰
贈賄罪は、以下の要件を満たした場合に成立します。
・贈賄の相手が公務員であること ・贈賄が職務に関連していること ・賄賂の供与、約束、申込みをしたこと |
実際に賄賂を渡していなくても、約束や申し込みがあった時点で贈賄罪が成立します。
なお、贈賄罪の法定刑は、3年以下の懲役(拘禁刑)または250万円以下の罰金と定められています。
※「拘禁刑(こうきんけい)」とは、従来の刑罰である懲役と禁錮を一本化した刑罰です。改正刑法に基づき、2025年6月1日から、懲役と禁錮は拘禁刑に一本化されました。 |
収賄罪の7つの類型ごとの構成要件と刑罰
収賄罪は、以下の7つの行為に分類されます。ここでは、収賄罪の7つの類型ごとの構成要件と刑罰を説明します。
概要 | 法定刑 | |
---|---|---|
単純収賄罪 | 職務に関して賄賂を受け取る、要求する、または約束する | 5年以下の懲役(拘禁刑) |
受託収賄罪 | 賄賂を受け取る約束をして請託を受け、職務を引き受ける | 7年以下の懲役(拘禁刑) |
事前収賄罪 | 将来の職務行為の見返りに、あらかじめ賄賂を受け取る | 5年以下の懲役(拘禁刑) |
第三者供賄罪 | 第三者に賄賂を提供させたり、第三者の収受を容認する | 5年以下の懲役(拘禁刑) |
加重収賄罪 | 賄賂を受け取った上で実際に不正な職務行為を行う | 1年以上の有期懲役(拘禁刑) |
事後収賄罪 | 公務員退職後、在職中の職務行為の見返りとして賄賂を受け取る | 5年以下の懲役(拘禁刑) |
あっせん収賄罪 | 他の公務員に不正行為をさせるよう働きかけ、その見返りとして賄賂を受け取る | 5年以下の懲役(拘禁刑) |
単純収賄罪|職務に関して賄賂を受け取る
単純収賄罪は、最も基本的な収賄の形態です。公務員がその職務に関連して、金銭や物品、接待、その他の利益を収受、要求、約束した場合に成立します。
なお、単純収賄罪の法定刑は、5年以下の懲役(拘禁刑)と定められています。
受託収賄罪|賄賂を受け取る約束をして職務を引き受ける
受託収賄罪は、単純収賄罪が「請託を受けて」行われた場合に成立する犯罪です。「請託」とは、職務に関して依頼を受けて受諾することをいいます。
なお、受託収賄罪の法定刑は、7年以下の懲役(拘禁刑)と定められています。
事前収賄罪|職務遂行前に賄賂を受け取る
事前収賄罪は、公務員が将来の職務行為に関して、あらかじめ賄賂を受け取った場合に成立する犯罪です。職務行為がまだ行われていない段階で、報酬を「前払い」でもらう点がこの犯罪のポイントです。
なお、事前収賄罪の法定刑は、5年以下の懲役(拘禁刑)と定められています。
第三者供賄罪|第三者に賄賂を提供させたり、第三者が賄賂を受け取ることを了承する
第三者供賄罪は、公務員自身が直接利益を受け取らなくても、他人に賄賂を提供させたり、第三者が受領することを了承した場合に成立します。
なお、第三者供賄罪の法定刑は、5年以下の懲役(拘禁刑)と定められています。
加重収賄罪|賄賂を受け取っただけでなく実際に不正な行為をした
加重収賄罪は、賄賂を受け取っただけでなく、その見返りとして違法行為や不当な職務行為を行った場合に成立する犯罪です。
なお、加重収賄罪の法定刑は、1年以上の有期懲役(拘禁刑)と定められています。
事後収賄罪|公務員だった人が在職中の不正行為の対価として賄賂を受け取る
事後収賄罪は、公務員を退職した後に、在職中の業務に関連する謝礼等の名目で賄賂を受け取った場合に成立する犯罪です。
なお、事後収賄罪の法定刑は、5年以下の懲役(拘禁刑)と定められています。
あっせん収賄罪|公務員が他の公務員に不正な行為をさせて、その見返りに賄賂を受け取る
あっせん収賄罪は、自らが行動するのではなく、他の公務員に働きかけを行い、その見返りとして賄賂を受け取る場合に成立します。
なお、あっせん収賄罪の法定刑は、5年以下の懲役(拘禁刑)と定められています。
実際にあった贈収賄事件の事例
三重県津市が発注した水道修繕工事に絡み、市の元職員2名が業者から物品の提供を受けたとして、収賄罪や詐欺罪に問われた以下の事件がありました。
三重県の津市発注の水道修繕工事を巡る贈収賄事件で、業者から洗濯機を受け取ったとして収賄罪などに問われた元市職2人に対し、津地裁(西前征志裁判官)は30日、懲役2年6月、執行猶予3年、追徴金20万4790円(求刑懲役2年6月、追徴金同)の判決を言い渡した。また、贈賄罪に問われた水道工事会社代表には懲役2年、執行猶予3年(求刑懲役2年)の判決を言い渡した。判決によると、両被告は、市内の水道修繕工事を同社に委託した見返りに、水道工事会社代表から洗濯機1台や水など計127点(販売価格計20万4790円)の物品を受け取ったとされる。判決で、西前裁判官は「公金を侵害しただけでなく、公務の公正に対する社会の信頼を侵害した」と指摘。「常習性も認められ、刑事責任も軽くない」と強調した。その上で、元職員2人が懲戒免職処分を受けたことなどから「社会的制裁を受けた」と説明。3人に執行猶予付きの判決が相当と結論付けた。 (引用:伊勢新聞)津市贈収賄、3人有罪判決 津地裁、水道工事巡り 三重(伊勢新聞) – Yahoo!ニュース |
贈収賄罪で逮捕された場合の流れ

贈収賄罪で逮捕された場合の一般的な刑事事件の流れは以下のとおりです。
逮捕・取り調べ
贈収賄罪の疑いが生じた場合、証拠隠滅のおそれがあるため通常逮捕となります。贈賄側または収賄側のどちらか一方が逮捕されると、連鎖的に他方も逮捕となるケースが多いです。
警察により逮捕された後は、警察署内の留置施設で身柄拘束され、警察官による取り調べを受けることになります。取り調べで不利な発言をすると、今後の裁判にも影響しますので慎重に対応するようにしてください。
検察官送致
逮捕から48時間以内に被疑者は、検察官に送致され、検察官による取り調べを受けます。
検察官は、被疑者の身柄拘束を継続するかどうかを検討し、身柄拘束を続ける必要があると判断したときは、逮捕から72時間以内かつ送致から24時間以内に、裁判官に対して勾留請求を行わなければなりません。
勾留・勾留延長
裁判官により勾留が許可されると原則として10日間の身柄拘束が行われます。また、勾留延長も許可されると身柄拘束期間が最長10日間延長されます。
そのため、逮捕から合計すると最大で23日間にも及ぶ身柄拘束を受けることになります。特に、贈収賄事件は、関係者との口裏合わせを防ぐ必要があるため、長期間の身柄拘束が認められやすい傾向があります。
起訴または不起訴の決定
勾留期間の終了前に、検察官は、被疑者を起訴するか、不起訴とするかを決定します。起訴されれば、刑事裁判での審理に進み、有罪・無罪が裁判官によって判断されます。
贈収賄罪で逮捕された場合に生じるリスク

贈収賄罪で逮捕されてしまうと、以下のようなリスクが生じます。
逮捕・勾留による長期間の身柄拘束
贈収賄罪で逮捕・勾留されると最長で23日間にも及ぶ身柄拘束を受けることになります。特に、贈収賄事件は、関係者が多数存在し、口裏合わせを防ぐ必要性が高いことから、長期間の身柄拘束が認められやすい犯罪類型です。
身柄拘束中は、外部との連絡が取れず、一切外出も認められませんので、身柄拘束が長期化すれば社会生活に生じる不利益も大きくなります。また、身柄拘束による肉体的・精神的負担も大きくなりますので早期の身柄解放が重要となります。
前科が付くことによる職業制限や失職の可能性
贈収賄罪で逮捕・起訴されるとほぼすべての事件が有罪になります。実刑を回避できたとしても、前科がついてしまいますので、それにより職業制限や失職の可能性があります。
収賄罪を犯した公務員であれば懲戒免職の対象となり、贈賄罪を犯した会社役員であれば解任の対象となるため、職を失うことにより今後の日常生活に大きな支障が生じることになるでしょう。
実名報道のリスクと社会的信用の喪失
贈収賄事件は、社会的関心の高い事件ですので、贈収賄事件で逮捕された場合、実名報道される可能性が高いといえます。
実名報道されてしまうとインターネット上で半永久的に情報が残り続けますので、今後の就職や結婚などのライフステージにおいて悪影響が生じることになります。また、贈賄罪を犯したのが会社の代表者や役員であった場合、企業の社会的信用が喪失することになりますので、会社経営にも重大な支障が生じることになるでしょう。
贈収賄罪で弁護士を依頼すべき理由

贈収賄罪の嫌疑をかけられた場合または逮捕された場合は、以下のような理由からすぐに弁護士に依頼することをおすすめします。
不利な供述調書が取られるのを回避できる
贈収賄事件では、捜査機関が「誰から何を受け取ったか」「対価性があるか」などを詳細に追及してきます。取調べの中で、事実関係や供述内容を巡って心理的圧力を受けることも珍しくありません。
弁護士がついていれば、取調べの違法性や不当な誘導が行われていないかチェックし、被疑者の権利を守るためのアドバイスを受けることができます。
取り調べで不利な供述をしてしまえば、その内容が「供述調書」として証拠化され、後の裁判に影響する可能性があるため慎重な対応が求められます。早い段階で弁護士が介入し、黙秘権や供述の判断に関して適切に対応することが、将来の結果を大きく左右することになるでしょう。
早期の身柄解放を実現できる
贈収賄事件では、関係者との口裏合わせによる証拠隠滅を防ぐために、勾留・勾留延長により長期間身柄拘束される可能性があります。
しかし、弁護士がついていれば、勾留請求に対して逃亡や証拠隠滅のおそれがないことを示す意見書や証拠資料を裁判所に提出し、勾留請求自体を防ぐことができます。また、準抗告により勾留の早期解消を目指すことも可能です。
さらに、勤務先や家族との連携を図り、身元引受人の確保など釈放に向けたサポートも受けられますので、これにより生活や仕事へのダメージを最小限に抑えることができます。
不起訴処分獲得を目指した弁護活動ができる
贈収賄事件では、職務との関連性の有無、賄賂の対価性の有無などが争点になるケースが多いです。贈収賄罪の成立要件は、非常に曖昧な部分もありますので、法的観点から適切な主張立証をしてくことで、贈収賄罪の成立を否定できるケースもあります。
贈収賄罪で起訴されてしまえばほとんどの事件が有罪になるため、前科を回避するには、起訴されるまでの捜査段階の弁護活動が非常に重要になります。贈収賄事件に強い弁護士であれば、不起訴処分を獲得するためのポイントを熟知していますので、効果的な弁護活動により不起訴処分の可能性を高めることができます。
贈収賄罪に関するQ&A

以下では、贈収賄罪に関するよくある質問とその回答を紹介します。
贈収賄罪に時効はある?
贈収賄罪には、時効がありますので、犯罪行為が終了したときから一定期間が経過すれば処罰されなくなります。
具体的な時効期間は、以下のとおりです。
罪名 | 時効期間 |
---|---|
贈賄罪 | 3年 |
単純収賄罪 | 5年 |
受託収賄罪 | 5年 |
事前収賄罪 | 5年 |
第三者供賄罪 | 5年 |
加重収賄罪 | 10年 |
事後収賄罪 | 5年 |
あっせん収賄罪 | 5年 |
※「贈収賄罪 時効」にリンク
みなし公務員にも贈収賄罪は適用される?
贈収賄罪は、公務員だけではなく公務員とみなされる立場(公営企業、地方独立行政法人職員など)にも収賄罪が適用されます。
どのようなものが賄賂にあたる?
現金だけでなく、高額な接待・旅行・物品・人事便宜・住宅提供なども賄賂として認定されることがあります。
贈収賄罪で逮捕されたときはグラディアトル法律事務所に相談を

贈収賄罪は、公務員や企業経営者が関与することが多く、社会的注目度の高い事件です。報道による実名公表や社会的信用の喪失、失職などその影響は計り知れません。
また、事件の内容によっては、実刑判決となることもあり、対応を誤れば人生を大きく狂わせる結果につながりかねません。
もしご自身やご家族が贈収賄事件で捜査対象となった場合、できるだけ早期に刑事事件に強い弁護士へ相談することが重要です。
グラディアトル法律事務所では、贈収賄事件を含む刑事事件の弁護を多数取り扱っており、専門性の高い弁護士が迅速かつ的確に対応します。特に、贈収賄罪においては、以下のような弁護活動が可能です。
・取調べ対応のアドバイスと供述内容の戦略的整理 ・勾留阻止や準抗告による早期の釈放対応 ・起訴回避に向けた弁護活動 ・実刑回避に向けた公判弁護 |
当事務所では、24時間365日相談を受け付けており、初回相談を無料で実施しておりますので、少しでも不安がある方は、どうぞお気軽にご相談ください。
まとめ
贈収賄罪は、公共の信頼を揺るがす重大犯罪であり、贈る側・受け取る側の双方が処罰対象です。特に、収賄罪には7つの類型があり、それぞれに応じた法的対応が求められます。
万が一、贈収賄事件に関与してしまった場合は、すぐに弁護士の助言を受けることが極めて重要です。早期の対応が、将来の人生を大きく左右しますので、一刻も早くグラディアトル法律事務所までご相談ください。