道路交通法違反で私人逮捕|一般人が逮捕するリスクと正しい対処法

道路交通法違反で私人逮捕|一般人が逮捕するリスクと正しい対処法
弁護士 若林翔
2025年08月27日更新

「道路交通法違反を目撃した場合、一般人でも犯人を逮捕できるの?」

「一般人による私人逮捕ができるとしても何かリスクがあるのでは?」

「道路交通法を目撃した一般人がとるべき行動とは?」

道路交通法違反を現認した場合、状況によっては一般人でも犯人を取り押さえて逮捕できる「私人逮捕」が認められるケースがあります。しかし、私人逮捕には厳しい要件があり、誤った方法で行うと逆に加害者扱いされてしまうリスクもあります。

そのため、基本的には一般人による私人逮捕は避けるべきであり、違反行為を目撃したときは警察への通報や被害者の救助を行った方がよいでしょう。

本記事では、

・道路交通法違反で私人逮捕ができる条件
・一般人が逮捕に踏み切る際の注意点
・私人逮捕の代わりにとるべき正しい対処法

などをわかりやすく解説します。

道路交通法違反を見逃したくない方や、万が一の場面で適切に行動したい方は、ぜひ参考にしてください。

道路交通法違反を目撃したら一般人でも逮捕できるがおすすめしない

道路交通法違反を目撃したら一般人でも逮捕できるがおすすめしない

道路交通法違反には、信号無視や無免許運転、ひき逃げ、酒気帯び運転など重大な危険を伴う行為が含まれます。これらの違反行為を目の当たりにしたとき、一般人として「このまま見過ごしてよいのか」「警察が来るまでに逃げられるのではないか」と不安になる方もいるでしょう。

結論から言えば、一定の条件を満たせば、一般人でも犯人を現行犯として逮捕する「私人逮捕」が認められています。

ただし、私人逮捕が認められる要件は厳格ですので、安易に私人逮捕をしてしまうと逆に違法行為として刑事および民事上の責任を問われかねません。

このように私人逮捕には刑事・民事上のリスクが伴いますので、基本的には私人逮捕は避けた方がよいでしょう。

道路交通法違反を目撃した一般人が犯人を逮捕するための要件

道路交通法違反を目撃した一般人が犯人を逮捕するための要件

一般人が道路交通法違反を犯した犯人を逮捕するには、以下の要件を満たす必要があります。

現行犯または準現行犯逮捕の要件を満たすこと

私人逮捕が認められるのは、「現行犯人」または「準現行犯人」の場合に限られます。

現行犯人とは、まさに犯罪を行っている、または犯罪直後の状態にある人物です。
たとえば、今まさに飲酒運転をしているドライバーやひき逃げ直後に車両から降りたばかりの人物が該当します。

・準現行犯人とは、現行犯ではないものの、犯行から間もないと明らかに認められる状況下であることから現行犯人と同様に扱われる人物です。たとえば、犯人として追いかけられている、犯罪に使われたと思われる凶器を所持している、身体や衣服に犯罪の痕跡がある場合などが該当します。

これらに該当しない場合は、たとえ違反行為があっても、私人逮捕を行うことはできません。後から録画や証言で違反が明らかになったとしても、その場で現行犯の要件を満たさない限り、一般人による逮捕は違法です。

軽微犯罪の逮捕の要件を満たすこと

軽微犯罪とは、30万円以下の罰金、拘留または科料にあたる罪をいいます。軽微犯罪の犯人を私人逮捕するには、以下の要件を満たす必要があります。

・犯人の住所または氏名が明らかでない
・犯人が逃亡するおそれがある

道路交通法に違反する行為をした人を目撃したとしても、その人が氏名や住所を名乗っている、抵抗せずにその場にとどまっているといった状況では、私人逮捕をすることはできません。

一般人が道路交通法違反で逮捕するのはリスクが高い!私人逮捕を避けるべき3つの理由

一般人でも私人逮捕を行うことは可能ですが、実際にこれを行うのは非常に大きなリスクが伴います。たとえ違反行為を目の当たりにしたとしても、法律の要件を満たさずに介入すれば、逆に自分が法的責任を問われる結果にもなりかねません。ここでは、私人逮捕を避けるべき主な理由を3つ解説します。

私人逮捕の要件を満たさない違法逮捕のリスクがある

私人逮捕が適法とされるためには、「現行犯」や「準現行犯」であることが必要です。しかし、交通違反の多くは一瞬の出来事であるため、現行犯性を立証するのは容易ではありません。

また、道路交通法違反となる行為には「軽微犯罪」に該当するものも多く、一般人が違反行為に応じた法定刑をその場で判断するのは困難といえます。

私人逮捕の要件を満たさないにもかかわらず、無理に犯人を取り押さえると、逮捕・監禁罪に問われる可能性が出てきます。善意で行ったとしても、違法逮捕とされれば3月以上7年以下の懲役(拘禁刑)が科される可能性があり、非常に重い代償を負うことになります。

※「拘禁刑(こうきんけい)」とは、従来の刑罰である懲役と禁錮を一本化した刑罰です。改正刑法に基づき、2025年6月1日から、懲役と禁錮は拘禁刑に一本化されました。

行き過ぎた追跡行為や取り押さえをしてしまうリスクがある

私人逮捕の際には、必要かつ相当な範囲での実力行使が認められています。

しかし、実際には興奮や緊迫した状況から、相手を強く押さえつけたり、抵抗されて力を加え過ぎてしまうケースが多く見受けられます。逮捕時に犯人を取り押さえようとして、過度な実力行使をしてしまえば、暴行罪や傷害罪として処罰されるリスクがあります。

また、車両での追跡中に交通事故を起こせば、自らが加害者となるリスクも否定できません。

違法な私人逮捕により刑事責任や民事上の賠償責任が生じる可能性がある

要件を満たさない私人逮捕は、逮捕・監禁罪や暴行罪、傷害罪などの刑事責任だけではなく、民事上の賠償責任が生じる可能性があります。

たとえば、相手に怪我を負わせてしまえば、治療費や休業損害、慰謝料などの損害を賠償しなければならず、被害の程度によっては高額な賠償金を負担しなければならないケースもあります。仮に刑事事件として不起訴となっても、民事上の責任は別に問われるため、非常にリスクの高い行動といえるでしょう。

このように、私人逮捕は一歩間違えば大きな法的トラブルを招く行為です。正義感から行動したとしても、その結果が自らに返ってくる可能性がある以上、軽々しく行うべきではありません。私人逮捕は「できる」からといって「してよい」とは限らない、という点をしっかり理解しておく必要があります。

一般人が道路交通法違反を目撃したときに私人逮捕以外にとるべき行動

一般人が道路交通法違反を目撃したときに私人逮捕以外にとるべき行動

一般人による私人逮捕には多くのリスクが伴うため、違反を目撃した際には私人逮捕以外の手段で対処するのが賢明です。

道路交通法違反となる行為をしている証拠を残す

道路交通法違反となる行為を目撃したときは、違反行為を確実に証明できるように証拠を残しておきましょう。

証拠を残す方法としては、スマートフォンなどでの動画・写真の撮影が簡単かつ有効な手段です。撮影の際には、「いつ」「どこで」「どのような違反行為があったか」が明確にわかるように、車両ナンバーや周囲の状況、信号機や標識なども含めて撮影するとよいでしょう。

ただし、犯人に過度に接近したり、執拗に撮影したりすると、逆上した犯人から危害を加えられるリスクがあるため、常識的な範囲で対応するようにしてください。

警察に通報する

道路交通法違反となる行為を目撃したときは、自分で対応するのではなく警察に通報するのが基本です。通報時には、目撃した内容を正確かつ簡潔に伝えるようにしましょう。

たとえば「○月○日、○時ごろ、○○市○○通りで、白い軽自動車が信号無視をして歩行者と接触しそうになった」など、客観的な事実と場所・時間を明示することで、警察も速やかな対応が可能になります。

録画や写真などの証拠を持っている場合には、その旨も伝えると、後日の捜査や違反処理に役立ちます。

被害者がいるときは救急車を呼ぶ

道路交通法違反の中には、接触事故やひき逃げなど、他者に危害が加わるものもあります。もし負傷者がいる場合には、加害者の追跡よりも被害者の安全確保が最優先です。まずは救急車を呼び、必要に応じて応急処置を行いましょう。

救急通報時には、場所、負傷者の人数や状態、現在の状況などを具体的に伝えることが大切です。安全な場所に負傷者を誘導し、救急隊の到着を待つ間、冷静に対応することが求められます。

道路交通法違反を理由とする一般人の逮捕(私人逮捕)に関するよくある質問

道路交通法違反を理由とする一般人の逮捕(私人逮捕)に関するよくある質問

一般人による私人逮捕については、実際にどう行動すべきか迷う場面も少なくありません。ここでは、私人逮捕に関して寄せられる代表的な質問とその答えを紹介します。

私人逮捕の際に手錠をかけることはできる?

現行犯逮捕の場面では必要最小限の実力行使が認められていますので、相手が暴れている、逃走しようとしているという場合は手錠をかけることも相当な手段として認められる可能性があります。

ただし、現場の具体的な状況次第では違法と判断されるリスクもあるため、避けた方が賢明です。

私人逮捕した後、警察に引き渡さないとどうなる?

私人逮捕を行った場合には、速やかに警察や検察官に引き渡さなければなりません。これを怠ると、違法監禁に問われる可能性があります。

逮捕後はできる限り早く110番通報するか、最寄りの交番に連れて行くなどの対応が求められます。

道路交通法違反で私人逮捕をしたら報奨金はもらえる?

一般人が私人逮捕を行っても、基本的に報奨金が支払われる制度はありません。

警察の捜査に協力したことが感謝されることはありますが、具体的な金銭的報酬は期待できないと考えておきましょう。

違法な私人逮捕をしてしまった方・された方はグラディアトル法律事務所に相談を

違法な私人逮捕をしてしまった方・された方はグラディアトル法律事務所に相談を

私人逮捕は、一定の条件下で一般人にも認められる制度ですが、実務上は非常に判断が難しく、逮捕の要件を満たさないまま行ってしまうケースも少なくありません。特に、道路交通法違反は、違反内容の重大性に差があるうえに、違反の瞬間をとらえられなければ現行犯性が認められず、私人逮捕としては不適法になるおそれがあります。

違法な私人逮捕をした人は、逮捕監禁罪や暴行、傷害罪などの刑事責任や損害賠償請求による民事責任を問われる可能性があり、違法な逮捕をされた人は相手に対して刑事告訴や損害賠償請求が可能です。

グラディアトル法律事務所では、このような私人逮捕に関するトラブルを多数取り扱っており、違法性の有無や今後の対応方針について、法的観点から的確にアドバイスいたします。「逮捕してしまったが、正しかったのか不安」「取り押さえられたが、納得がいかない」と感じたら早めに当事務所までご相談ください。

ご自身が加害者・被害者どちらの立場であっても、早期の法的対応がトラブル拡大を防ぐ鍵となります。グラディアトル法律事務所では、豊富な実績とノウハウを活かして、依頼者の不安を解消し、最善の結果を目指してサポートいたします。

まとめ

道路交通法違反を目撃しても私人逮捕には厳格な要件があり、一般人が軽率に行うと違法逮捕として処罰や損害賠償の対象になる可能性があります。安全に証拠を残し、警察へ通報するのがもっとも適切な対応です。

万が一、私人逮捕をしてしまった、あるいは不当に逮捕されたと感じた場合は、早急にグラディアトル法律事務所までご相談ください。

弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。

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