私人逮捕で公務執行妨害罪に!?罪に問われないためのポイントも解説

私人逮捕で公務執行妨害罪に!?罪に問われないためのポイントも解説
弁護士 若林翔
2025年08月13日更新

「私人逮捕で警察の邪魔をすると公務執行妨害罪になる?」

「私人逮捕する側が罪に問われるのはどんなとき?」

一般人が現行犯を逮捕する「私人逮捕」は法的に認められた手続きです。

しかし、過激な動画投稿をしていたYouTuberが逮捕された事例もあるように、行き過ぎた私人逮捕は罪に問われるリスクがあります。

とはいえ、どのような行為が違法になるのか、具体的にイメージできる人は多くないはずです。

そこで本記事では、私人逮捕によって公務執行妨害罪などの犯罪が成立するケースについて解説します。

私人逮捕が犯罪にならないためのポイントなども解説しているので、参考にしてみてください。

※刑法改正により、2025年6月から懲役刑と禁錮刑は「拘禁刑」に一本化されています。

【拘禁刑とは?】
犯罪者を刑事施設に収容し、改善更生に必要な作業を命じたり、指導したりする刑罰のこと。刑務作業は義務ではなく、受刑者の特性に応じた支援プログラムが提供される。

私人逮捕中に警察の捜査を妨げると公務執行妨害罪にあたる可能性がある

私人逮捕中に警察の捜査を妨げると、公務執行妨害罪に問われる可能性があります。

公務執行妨害罪は「職務執行中の公務員」に対して暴行・脅迫を加えた場合に成立する犯罪です。

公務執行妨害罪

たとえば、私人逮捕した犯人の様子を撮影するために、駆けつけた警察官を押しのけた場合などは、公務執行妨害罪として検挙されるおそれがあります。

私人逮捕は法的に認められた手続きですが、何をしても許されるわけではないことを念頭に置いておかなければなりません。

なお、公務執行妨害罪の刑罰は「3年以下の懲役もしくは禁錮(拘禁刑)または50万円以下の罰金」です。

関連コラム:公務執行妨害罪とは?構成要件や刑罰、逮捕後の流れを弁護士が解説

行き過ぎた私人逮捕で成立する公務執行妨害罪以外の罪

ここでは、行き過ぎた私人逮捕によって成立する、公務執行妨害罪以外の罪を4つ紹介します。

行き過ぎた私人逮捕で成立する公務執行妨害罪以外の罪

警察に犯人を引き渡さなかった場合|逮捕監禁罪

私人逮捕した犯人を警察に引き渡さない行為は、逮捕監禁罪に該当する可能性があります。

刑事訴訟法の規定により、私人が加害者を逮捕した場合は、直ちに警察官に引き渡さなければなりません

犯人を自宅に長時間閉じ込めるなど、必要以上に身柄を拘束し続けることは、私人逮捕の範囲を超えた「不法な逮捕・監禁」とみなされ、逮捕監禁罪に問われるおそれがあります。

正当な私人逮捕であっても、身柄拘束の程度・時間によっては違法性が生じることを覚えておきましょう。

なお、逮捕監禁罪で有罪になると「3月以上7年以下の懲役(拘禁刑)」に処されます。

犯人を勝手に逃がした場合|犯人隠避罪

私人逮捕した犯人を勝手に逃がした場合、犯人隠避罪の罪に問われる可能性があります。

一般人でも犯人を逮捕することはできますが、独断で釈放する権利はありません。

逮捕後に犯人を意図的に逃がす行為は、捜査機関による発見・逮捕を妨げる「隠避」に該当します。

犯人隠避罪の刑罰は「3年以下の懲役(拘禁刑)または30万円以下の罰金」です。

なお、場所を提供して犯人をかくまった場合は犯人蔵匿罪に該当し、犯人隠避罪と同様の刑罰に処されます。

犯人に暴行を加えた場合|暴行罪・傷害罪

私人逮捕するなかで犯人に暴行を加えた場合は、暴行罪や傷害罪が成立し得ます。

私人逮捕の実力行使は「社会通念上、逮捕のために必要かつ相当であると認められる限度内」でのみ認められているものです。

たとえば、抵抗しない犯人に殴る蹴るなどの暴行を加えた場合、けががなければ暴行罪、けがしていれば傷害罪の罪に問われます。

暴行罪の刑罰は「2年以下の懲役(拘禁刑)もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料」、傷害罪の刑罰は「15年以下の懲役(拘禁刑)または50万円以下の罰金」です。

私人逮捕の様子を撮影して拡散した場合|名誉棄損罪

私人逮捕の様子を撮影して拡散した場合は、名誉棄損罪が成立する可能性があります。

不特定多数が動画を閲覧した結果、被逮捕者の社会的評価が低下したのであれば、たとえ相手が犯罪者であっても名誉毀損に該当するためです。

さらに、動画投稿の目的が「動画の視聴回数を増やしたい」といったものであれば、公共性や公益性が認められにくく、名誉毀損罪の成立要件を満たしやすくなります。

名誉毀損罪の刑罰は「3年以下の懲役(拘禁刑)または50万円以下の罰金」です。

また、名誉棄損事件では民事上の損害賠償責任を負うケースが多い点にも注意しておく必要があります。

私人逮捕する側が罪に問われないためのポイント

次に、私人逮捕する側が罪に問われないためのポイントを解説します。

私人逮捕する側が罪に問われないためのポイント

私人逮捕の要件を再確認する

私人逮捕する側が罪に問われないためには、私人逮捕の要件を再確認することが重要です。

私人逮捕の要件は以下のとおりです。

要件概要
現行犯逮捕・準現行犯逮捕の要件を満たしていること【現行犯逮捕】
犯人が現に罪を行い、または現に罪を行い終わった者であることが明らかな場合

【準現行犯逮捕】
犯人が罪を行い終わってから間もないことが明らかで、次のいずれかにあたる場合・犯人として追われている・被害品や凶器を所持している・身体や衣服に犯罪の痕跡がある・呼び止められて逃走しようとしている
軽微犯罪の逮捕の要件を満たしていること法定刑が30万円以下の罰金・拘留・科料にあたる罪で、以下のいずれかに該当する場合・犯人の氏名や住所が明らかでない・犯人が逃走するおそれがある

要件を満たしていない状態で私人逮捕に踏み切ると、反対に逮捕した側が罪に問われるおそれがあります。

たとえ善意でも罪に問われる可能性があるため、私人逮捕には慎重な判断が求められます。

警察の指示には素直に従う

警察の指示に従っていれば、私人逮捕する側が罪に問われることは基本的にありません。

私人逮捕では、駆けつけた警察官に犯人を引き渡し、状況説明をおこなうのが基本的な流れです。

警察の指示を無視して勝手に犯人を逃がしたり、拘束を続けたりすると犯人隠避罪や逮捕監禁罪などに問われるリスクがあります。

私人逮捕では犯人の身柄を拘束することはできても、警察が介入したあとの捜査にまで口を出すことはできない点に注意してください。

過剰な実力行使を避ける

私人逮捕する際には、過剰な実力行使を避けるようにしてください。

私人逮捕で認められているのは、抵抗や逃亡を防ぐために必要な最小限の実力行使です。

たとえば、無抵抗の犯人を無理に押さえつけたり、複数人で羽交い絞めにしたりする行為は必要最小限の実力行使とはいえず、暴行罪や傷害罪に該当する可能性があります。

また、過剰な実力行使は、刑事責任だけでなく民事上の損害賠償責任も生じるおそれもあるので注意しておきましょう。

私人逮捕と公務執行妨害罪に関してよくある質問

最後に、私人逮捕と公務執行妨害罪に関してよくある質問に回答します。

私人逮捕と公務執行妨害罪に関してよくある質問

私人逮捕を妨害する行為は公務執行妨害罪になる?

私人逮捕を妨害する行為は、公務執行妨害罪にはなりません。

公務執行妨害罪は「職務執行中の公務員」を妨害する行為に対して適用される犯罪です。

私人逮捕する一般市民を妨害したとしても、公務執行妨害罪の要件は満たしません。

ただし、私人逮捕を妨害する手段によっては、別の罪に問われる可能性があります。

違法な職務をおこなう公務員を私人逮捕すると公務執行妨害罪になる?

違法な職務をおこなう公務員を私人逮捕しても、公務執行妨害罪にはなりません。

公務執行妨害罪は「公務員が適法に職務を執行していること」を要件としているためです。

また、公務執行妨害罪が成立するには、公務員に対して暴行・脅迫が加えられている必要があります。

警察以外の公務員が職務妨害してくる相手を私人逮捕することはできる?

公務員が職務妨害を受けた場合、妨害してくる相手を私人逮捕することもできます。

要件さえ満たしていれば、私人逮捕は誰でもできる手続きです。

官公庁職員や教員などであっても、私人逮捕に踏み切ること自体に法的な問題はありません。

私人逮捕で罪に問われた場合はグラディアトル法律事務所に相談を!

本記事のポイントは以下のとおりです。

  • ◆ 私人逮捕中に警察の捜査を妨げると公務執行妨害罪にあたる
  • ◆ 行き過ぎた私人逮捕は逮捕する側が罪に問われるおそれがある
  • ◆ 私人逮捕する側が罪に問われないためには警察の指示に従い、過剰な実力行使を避けることが重要

行き過ぎた私人逮捕は公務執行妨害罪をはじめ、犯人隠避罪や暴行罪・傷害罪などの罪に問われる可能性があります。

私人逮捕は法律で認められた手続きではあるものの、正しい知識をもっていなければ、リスクをともなうことを理解しておきましょう。

万が一、私人逮捕する側で検挙された場合は、一刻も早くグラディアトル法律事務所に相談してください

弊所は刑事事件全般を得意とする法律事務所であり、これまでにも数々の事件を解決に導いてきた実績があります。

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初回相談は無料、1人で悩んでいても事態は好転しないので、困ったときはいつでもご相談ください。

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弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。

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