暴行罪と傷害罪の違いと判例解説!

暴行罪と傷害罪の違い
弁護士 若林翔
2022年05月08日更新

なんだか似ている暴行罪と傷害罪、その違いは何でしょうか?

暴行罪と聞くと、人を殴ったり蹴ったりをイメージしがちですが、実際の判例では、イメージできないような内容で暴行罪の成立を認めたものがあります。

一方、傷害罪と聞くと、刃物で人を傷つける行為などをイメージしがちですが、実際の判例では、人の身体に直接触れないで傷害罪の成立を認めたものがあります。

暴行罪における暴行って何なのか?

傷害罪における傷害って何なのか?

暴行罪と傷害罪の違いについて、それぞれの定義、構成要件、法定刑などについて、判例を紹介しつつ解説をしていきます。

暴行罪と傷害罪の違い

暴行罪と傷害罪では、暴行罪は傷害(怪我)という結果が生じない場合で、傷害罪は傷害結果が生じた場合により成立するという構成要件(成立要件)と、傷害罪の方が暴行罪よりも重い罪であるという法定刑が違います

それぞれの構成要件(成立要件)と法定刑についてみていきましょう。

暴行罪と傷害罪の構成要件(成立要件)の違い

【暴行罪の構成要件(成立要件)】

暴行罪(208条)の構成要件は、「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったとき」です。

暴行罪は、「暴行」と「故意」があった場合に成立する犯罪です。

暴行罪のいう「暴行」とは、「人の身体に対する不法な有形力の行使」のことをいいます。

例えば、人を殴る、蹴る、叩く、物を投げて命中させるなどが典型的ですが、髪の毛を引っ張る、切る、近くで大音量の音楽などを鳴らす、音、光、熱等の物理力を行使する場合も暴行に含まれます。

暴行罪は、人を傷害するに至らなかったときに成立するので、暴行罪は傷害罪の未遂とも言えます。

でも、傷害罪の条文を読んでみると未遂の規定なんてないんですよね。不思議かもしれませんが、一応、暴行罪は傷害罪の未遂という扱いが一般的です。

【傷害罪の構成要件(成立要件)】

傷害罪(204条)の構成要件は、「人の身体を傷害した」ことです。

傷害罪は、暴行を加えて傷害の結果を惹起するに至り、暴行と傷害の間に因果関係が認められ、故意があることによって成立します。

傷害罪でもっとも問題となるのが傷害罪の傷害の意義です。

傷害の意義って何だ?と思われるかもしれませんが、次の章(判例における傷害の意義)で詳しく説明しますので、安心してください。

暴行罪と傷害罪の法定刑の違い

【暴行罪の法定刑】

暴行罪の法定刑は、『2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料』です。

(暴行)
第二百八条 暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

刑法

拘留や科料と聞くと、「なんじゃそれ?」と思う人がいると思うので、簡単に解説します。

拘留とは、1日以上30日未満の範囲で刑事施設に拘置することをいいます(刑法16条)。
科料とは、1000円以上1万円未満のお金を国に納付しなければならない刑罰のことをいいます(刑法17条)。

(拘留)
第十六条 拘留は、一日以上三十日未満とし、刑事施設に拘置する。
(科料)
第十七条 科料は、千円以上一万円未満とする。

刑法

【傷害罪の法定刑】

傷害罪の法定刑は、『15年以下の懲役又は50万円以下の罰金』です。

暴行罪と比べてみると、傷害罪の重さがよく分かるかと思います。

(傷害)
第二百四条 人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

刑法

判例における「傷害」の定義

傷害罪(204条)の構成要件は、「人の身体を傷害した」ことである。傷害罪と聞くと、例えば、刃物で切りつけられて出血した場合や殴って怪我させた場合などが典型的なケースだと考える方も多いでしょう。

しかし、判例における傷害罪の「傷害」とは、以下の通りであるとされています。

①大審院判例明治45年6月20日決定(刑録18輯896頁)は、「傷害罪ハ他人ノ身体ニ対スル暴行ニ因リ其生活機能ノ毀損ヲ惹起スルコトニ因リテ成立スルモノ」を傷害としている。

②最高裁昭和32年4月23日決定(刑集11巻4号1393頁)は、「傷害とは、他人の身体に対する暴行によりその生活機能に障がいを与えることであつて、あまねく健康状態を不良に変更した場合を含むもの」を傷害としている。

つまり、判例における傷害罪の「傷害」とは、「生理的機能に傷害を与えることないし健康状態に不良を変更すること」を言います。

なお、毛髪やひげ等の切除行為は、傷害罪に該当しそうですが、判例は暴行罪としています(前掲大審院明治45年判決)。

暴行によらない傷害の判例

最高裁判所

傷害は、通常、暴行を加えることによって惹起されますが、暴行によらずに傷害の結果を惹起する場合があります。

ここでは、暴行によらない傷害について、過去の判例、最近の最高裁の判例を紹介します。

なお、判例の事例において、被告人をX、被害者をAと表記します。

過去の判例

①XがY(女性)の外陰部に陰部を押し当てて、Aに性病を感染させた(最高裁昭和27年6月6日決定(刑集6巻6号795頁))。

故意で性病をうつす行為には傷害罪が成立してしまいます。

例えば、自分が性病であることを知っており、それを相手にうつしてやろうと思って実際にうつしたら傷害罪になってしまうので、くれぐれもそんなことはしないでくださいね。

ただ、自分が性病であることを知らないで相手に移してしまったら、傷害罪は成立しなくても過失致傷罪(209条)は成立してしまうかもしれませんね。

②XがAに対して半年間、ほぼ毎日、深夜から早朝に嫌がらせ電話をかけたことにより、Aが精神衰弱症になってしまった(東京地裁昭和54年8月10日判決(判例時報943号122頁))。

③Xは半年の間、A方前路上やその周辺において、ほぼ毎日、Aに向かって怒号や騒音などの嫌がらせ行為を行って、Aが入院加療約3ヶ月を要する不安及び抑うつ状態にさせた(名古屋地裁平成6年1月18日(判例タイムズ858号272頁)。

④Xが、自分の交際相手の男性が以前に交際していたA(女性)にまだ思いを寄せていると思い、約3年半にわたり、Aの居住先や実家に合計1万回以上の無言電話や被害者を中傷する嫌がらせ電話を続け、AにPTSDを負わせた(富山地裁平成13年4月19日判決(判例タイムズ1081号291頁)。

⑤Xは思いを募らせていたAに裏切られたと思い込み、Aに対して強い憎しみを抱き、Aの心を傷つけないと気が済まないと思い、Aの住居に3回放火し、約1ヶ月半の間に約2000回に及ぶ無言電話をかけ続け、Aの母に全治不明のPTSDを負わせた(東京地裁平成16年4月20日判決(判例時報1877号154頁)。

②から⑤までで共通することは、どれも嫌がらせ行為をし続けたことによって相手をPTSDや精神衰弱症などにさせてしまったことですね。

最近はSNSが普及しているので簡単に相手に嫌がらせをすることが可能になっています。

例えば、Twitterで芸能人に対して「お前うざい」、「死ねよ」などの言葉を言い続けた結果、その芸能人がPTSDなどになり、書き込んだ本人を特定した場合、傷害罪になる可能性があるということですね。

SNSは便利ですけど、使い方を間違えると相手を傷つけることになるので、やめましょう。

近年の最高裁判例

以下では、暴行によらない傷害の近年の最高裁判例を紹介します。

事例1(最高裁平成17年3月29日決定刑集59巻2号54頁)

【事実の概要】
Xは、約1年にわたり、隣家に居住するAに向けて、近接する窓を開け、連日連夜にわたりラジオの音声及び複数の目覚まし時計のアラーム音を大音量で鳴らし続けるなどして、Aに精神的なストレスを与え、全治不詳の慢性頭痛症、睡眠障害、耳鳴り症を生じさせた。その際、Xは、Aに精神的ストレスが生じるかもしれないことを認識していた。

【決定要旨】
「被告人は,自宅の中で隣家に最も近い位置にある台所の隣家に面した窓の一部を開け,窓際及びその付近にラジオ及び複数の目覚まし時計を置き,約1年半の間にわたり,隣家の被害者らに向けて,精神的ストレスによる障害を生じさせるかもしれないことを認識しながら,連日朝から深夜ないし翌未明まで,上記ラジオの音声及び目覚まし時計のアラーム音を大音量で鳴らし続けるなどして,同人に精神的ストレスを与え,よって,同人に全治不詳の慢性頭痛症,睡眠障害,耳鳴り症の傷害を負わせたというのである。以上のような事実関係の下において,被告人の行為が傷害罪の実行行為に当たるとして,同罪の成立を認めた原判断は正当である。」。

事例2(最高裁平成24年1月30日決定(刑集66巻1号36頁))

【事実の概要】
Xは、大学病院内において、睡眠薬の粉末を混入した洋菓子を同病院の休日当直医として勤務していたAに提供し、事情を知らないAに食させて、Aに約6時間にわたる意識障害及び筋弛緩作用を伴う急性薬物中毒の症状を生じさせ、6日後に、同病院の研究室において,医学研究中であったAが机上に置いていた飲みかけの缶入り飲料に上記同様の睡眠薬の粉末及び麻酔薬を混入し,事情を知らないAに飲ませて,Aに約2時間にわたる意識障害及び筋弛緩作用を伴う急性薬物中毒の症状を生じさせた。

【決定要旨】
「被告人は,病院で勤務中ないし研究中であった被害者に対し,睡眠薬等を摂取させたことによって,約6時間又は約2時間にわたり意識障害及び筋弛緩作用を伴う急性薬物中毒の症状を生じさせ,もって,被害者の健康状態を不良に変更し,その生活機能の障害を惹起したものであるから,いずれの事件についても傷害罪が成立すると解するのが相当である。所論指摘の昏酔強盗罪等と強盗致傷罪等との関係についての解釈が傷害罪の成否が問題となっている本件の帰すうに影響を及ぼすものではなく,所論のような理由により本件について傷害罪の成立が否定されることはないというべきである。」。

事例3(最高裁平成24年7月24日決定(刑集66巻8号709頁))

【事実の概要】
Xが、1年余りの間に4回にわたり、各被害女性を、次々とホテルの客室等に誘い込み、暴行や脅迫を加えるなどして監禁し、その結果、被害女性4名に重篤な外傷後ストレス障害(PTSD)等の傷害を負わせるなどした。

【決定要旨】
「被告人は,本件各被害者を不法に監禁し,その結果,各被害者について,監禁行為やその手段等として加えられた暴行,脅迫により,一時的な精神的苦痛やストレスを感じたという程度にとどまらず,いわゆる再体験症状,回避・精神麻痺症状及び過覚醒症状といった医学的な診断基準において求められている特徴的な精神症状が継続して発現していることなどから精神疾患の一種である外傷後ストレス障害(以下「PTSD」という。)の発症が認められたというのである。所論は,PTSDのような精神的障害は,刑法上の傷害の概念に含まれず,したがって,原判決が,各被害者についてPTSDの傷害を負わせたとして監禁致傷罪の成立を認めた第1審判決を是認した点は誤っている旨主張する。しかし,上記認定のような精神的機能の障害を惹起した場合も刑法にいう傷害に当たると解するのが相当である。」。

近年の最高裁判例を見てきましたが、嫌がらせ行為によって相手をPTSDにしたり、睡眠障害などにさせたという事例なので、過去の判例の内容とそこまで大差はないですね。

過去の判例で見られなかったのは、事例2の最高裁平成24年1月30日決定ですね。

例えば、相手に激辛カレーを食べさせようと思い、その旨を伝えないで、「美味しいカレーを買ってきたから食べてみて」と伝えて食べさせたところ、お腹を壊し、下痢ばかり出るようになった場合、相手の「生理的機能に傷害を与えている」と言えるので、傷害罪が成立する可能性があります。ドッキリとかでそういうことをやると、もしかしたら傷害罪が成立するかもしれないですよ?

もちろん、自分からそれを知っていて食べたのであれば傷害罪は成立しないと思います。例えば、蒙古タンメン中本は辛いラーメンで有名ですが、辛いラーメンであることわかっていながら「お宅のラーメン食べたらお腹を壊したので店を訴えてやる」と言い出して、それで傷害罪の成立を認めてしまったら、そういう商売はできなくなってしまいますので、そんなことで傷害罪が成立することはないでしょう。しかし、店側がわざと激辛にしてお客様に提供してお腹を壊してしまったというのであれば、話は変わってきますね。

暴行罪の判例

ここでは、暴行罪について、単純な殴る蹴るなどの暴行以外で暴行罪を認めた判例を紹介します。

事例1(最高裁昭和29年8月20日決定(刑集8巻8号1277頁)

【事実の概要】
被告人らが、Aら部課長に対して職場交渉をしたが、満足な回答を得られなかったので、多数の組合委員等と共に、「組合側につけ」など叫び、大太鼓を連打し、脳貧血等を起こさしめる等の暴行を加えた。

【決定要旨】
「刑法二〇八条にいう暴行とは人の身体に対し不法な攻撃を加えることをいうのである。・・・被告人等が共同して・・・部課長等に対しその身辺近くにおいてブラスバンド用の大太鼓、鉦等を連打し同人等をして頭脳の感覚鈍り意識朦朧たる気分を与え又は脳貧血を起さしめ息詰る如き程度に達せしめたときは人の身体に対し不法な攻撃を加えたものであつて暴行と解すべきであるから同旨に出でた原判示は正当である。」

被告人らが相手複数人に対して、大太鼓を連打したりして相手に意識朦朧にさせ、脳貧血を引き起こすと暴行罪になってしまうんですね。

ここの傷害罪と暴行罪の境界線が難しいように見えますね。

本件事案は、あくまで意識を朦朧とさせ、貧血を引き起こしただけなので、相手の生理的機能を傷害していないので、暴行罪になるのでしょう。

事例2(仙台高裁昭和30年12月8日判決(高等裁判所刑事裁判特報2巻24号1267頁))

【事実の概要】
XがAに対して、そばにあった椅子を2回投げつけたが、Aには当たらなかった

【決定要旨】
「その時の被告人の言葉と行為からみて被告人がAに向つて椅子を投げつけ同人に対し暴行をなす意思であつたことを肯認するに十分である。被告人は本件所為をすれば附近の人も驚くであろうし、嬶の奴も心配するだろうと思つた旨弁解しているけれども(八八丁裏)、・・・それは本件所為の動機ないし目的に過ぎないのであつて、それがために被告人に右暴行の意思のあつたことを妨げるものではなく、またその行為を適法ならしめるものではない。そして、所論椅子が相手方の体に当らなかつた事実は何等暴行罪の成立を妨げるものではない。けだし、暴行とは人に向つて不法な物理的勢力を発揮することで、その物理的勢力が人の身体に接触することは必ずしも必要でないと解すべきところ、本件において、右被告人の椅子をA目がけて投げつけた行為はAに向つて不法の物理的勢力を発揮したもの、即ち暴行をなしたものといい得るからである。」。

椅子をぶつけて傷害に至らなかった場合は暴行罪が成立するというのはイメージできますが、当たらなかったとしても暴行罪が成立してしまうんですね。

事例3(福岡高裁昭和46年10月11日判決(判例時報655号98頁))

【事実の概要】
XがAに立腹し、社員食堂から塩壺を持ち出し、これを携えたままAを追いかけ、Aに対して塩をまき始め、それがAの頭、顔、胸、腕及び大腿部にふりかかった

【決定要旨】
「刑法第二〇八条の暴行は、人の身体に対する不法な有形力の行使をいうものであるが、右の有形力の行使は、・・・必ずしもその性質上傷害の結果発生に至ることを要するものではなく、相手方において受忍すべきいわれのない、単に不快嫌悪の情を催させる行為といえどもこれに該当するものと解すべきである。そこで、これを本件についてみるに、被告人の前記所為がその性質上Aの身体を傷害するに至ることができるものか否かの判断はしばらく措き、通常このような所為がその相手方をして不快嫌悪の情を催させるに足りるものであることは社会通念上疑問の余地がないものと認められ、かつ同女において、これを受忍すべきいわれのないことは、原判示全事実および前段認定の事実に徴して明らかである。してみれば、被告人の本件所為が右の不法な有形力の行使に該当することはいうまでもない。」。

暴行罪は、例えば、人を殴ったり蹴ることにより成立するとイメージしがちですので、塩を数回ふりかける行為などが暴行罪が成立するというのはそのイメージから外れるのではないでしょうか。

ちなみに、筆者は刑法を学ぶ前に塩をふりかけるだけで暴行罪になるとは思っていませんでした。

暴行罪と傷害罪の違いのまとめ

ここまで述べたように、暴行罪と傷害罪では、傷害の結果が生じているかという違い、法定刑の違いがありました。

また、実際の判例では暴行によらない傷害があるということが分かったと思います。

傷害罪が成立するには、例えば、刃物で相手を傷つけた場合などをイメージするかと思いますが、実際は、性病を感染させたり、長期間被害者に対して嫌がらせ行為をすることによってPTSDを発生させて傷害罪が成立するというパターンが多く見受けられます。

そのため、例えば、LINEやTwitterなどのSNSで長期間相手を傷つけるような言葉をずっと言い続け、その結果、相手がPTSDになった場合、傷害罪が成立する可能性があります。

また、昨今は新型コロナウィルスが話題ですが、自分がコロナウィルスにかかっていることを認識していながら相手にうつして感染させると傷害罪が成立する可能性があります(https://www.fnn.jp/articles/-/26064)。

さらに、相手に事情を伝えないで、睡眠薬を飲ませて意識障害を生じさせたり、辛いものを食べさせてお腹を壊すことによって生理的機能を傷害すると傷害罪になります。

なお、相手の髪の毛を切断しただけでは傷害罪ではなく、暴行罪が成立することになりますが、髪の毛を根本から引き抜いた場合は傷害罪になります。

 

弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。

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