BitTorrent(ビットトレント)などファイル共有ソフト(P2P)の著作権侵害で開示請求の意見照会書が届いたときの対処法

近年、当法律事務所の弁護士の相談として、BitTorrent(ビットトレント)などのファイル共有ソフトを使用して、映画、音楽、漫画、AV(アダルトビデオ)を違法ダウンロード・違法アップロードをしてしまい、発信者情報開示に係る意見照会書が届いた損害賠償請求書面が届いたなどの相談が増えてきています。

2021年9月現在、呪術廻戦等の人気漫画、アニメなどをトレントで違法ダウンロード・違法アップロードをしてしまい発信者情報開示に係る意見照会書が届いたという事例が相次いでおります。

また、AV・アダルトビデオについても、株式会社ケイ・エム・プロデュース(K.M.Produce、KMP)株式会社WILL(ウィル)制作のものをトレントにて違法ダウンロード・違法アップロードをしてしまい発信者情報開示に係る意見照会書が届いたという事例が相次いでおります。

本記事では、ファイル共有ソフトの簡単な仕組みを解説しつつ、ファイル共有ソフトと著作権侵害、発信者情報開示請求、逮捕事例、損害賠償請求と損害額などについて、解説をしていきます。

YouTubeで解説動画も撮りましたので、まずは動画をご覧ください。

 

ファイル共有ソフト(P2P)とは

ファイル共有ソフトとは、インターネットで不特定多数の利用者とファイルをやり取りする、いわゆるファイル共有のためのソフトウェアのこと(ウィキペディア(Wikipedia)参照)をいいます。

かつては、1対1でファイルを交換することが多く、ファイル交換ソフトと呼ばれておりましたが、現在は複数間のファイル共有が主流となっております。

通常のインターネットのネットワークでは、クライアントサーバー方式と呼ばれるシステムが使われております。これは、クライアントになるWebブラウザなどからの要求にサーバーが応答して処理をする方式です。

一方で、ファイル共有ソフトで使われるP2P(ピア・トゥ・ピア)方式は、クライアント・サーバーの区別なく、複数のコンピューターが相互に通信をする方式です。

それぞれのコンピュータがその保存するファイルをアップロードし、また、他のコンピュータからダウンロードできるシステムです。

この技術により、所有するファイルの共有が簡単にできるのです。

この技術自体は素晴らしく、現在、ビットコインなどの仮想通貨・暗号通貨にも使用されているブロックチェーン技術にも、このP2P方式が使用されています。

ファイル共有ソフトは、Napster、Gnutella、WinMX、Winny、Share、BitTorrent、μtorrent、Perfect Dark、Bit Comet、Vuze(Azureus)、Shareaza、Cabosなど、さまざまな種類があります。

今現在、発信者情報開示請求が多数提起されているのは、BitTorrentを利用した違法アップロードです。

BitTorrentの仕組みの詳細については、以下の記事をご参照ください。

ビットトレント(BitTorrent)の仕組みと違法性・著作権侵害・逮捕者も。。

ファイル共有ソフトと著作権侵害

著作権とは、著作物を保護する権利で、著作権法により規定されております。

著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの(著作権法2条1項1号)をいいます。

ファイル共有ソフトと著作権法の関係でいえば、主に公衆送信権・送信可能化権(著作権法23条)の侵害が問題になります。

公衆送信権とは、著作者がその著作物について、公衆によつて直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信を専有しておこなうことができる権利をいいます。

ファイル共有ソフトを使用して公衆に向けてファイルを送信したり、YouTubeで動画を流すことを独占して行えるのは当該著作物の著作者だけであるということです。

そのため、著作者でない第三者がファイル共有ソフトで他者が著作権を有する著作物を送信(アップロード)する行為は、公衆送信権を侵害する行為になります。

送信可能化権は、著作者が著作物を自動的に公衆送信ができる状態に置くことを専有しておこなうことができる権利をいいます。

著作者以外の第三者が、著作物をファイル共有ソフトで自動的に第三者が受信できる状態におくことは、送信可能化権を侵害します。

(公衆送信権等)
第二十三条 著作者は、その著作物について、公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行う権利を専有する。
2 著作者は、公衆送信されるその著作物を受信装置を用いて公に伝達する権利を専有する。

著作権法

BitTorrent(ビットトレント)などのファイル共有ソフトにおいては、ビットトレントを利用してデータをダウンロードすれば、他のビットトレント利用者の要求に応じて自動的に当該データを送信可能な状態になる点に注意が必要です。

すなわち、BitTorrent(ビットトレント)を利用して他社の著作物を違法ダウンロードすると、同時に、違法アップロードもしてしまうのです。

なお、現在は著作権法の改正により、違法アップロードのみならず、ダウンロードも著作権法上の処罰対象となっておりますので、ご注意ください。

著作権法改正と誹謗中傷の削除請求・発信者情報開示請求

 

 

ファイル共有ソフトと発信者情報開示請求

発信者情報開示請求の増加

発信者情報開示請求とは、インターネット上で誹謗中傷等の被害によりその権利を侵害された者が、加害者である投稿者・発信者を特定するために必要な情報の開示を求める請求です。

プロバイダ責任制限法(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律)の4条1項をその根拠としております。

(発信者情報の開示請求等)
第四条 特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、次の各号のいずれにも該当するときに限り、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(以下「開示関係役務提供者」という。)に対し、当該開示関係役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報(氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう。以下同じ。)の開示を請求することができる。
一 侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき。
二 当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき。

プロバイダ責任制限法

近年、BitTorrent(ビットトレント)などのファイル共有ソフトを使用して、著作権侵害をしたとして、発信者情報開示請求がなされることが多いです。

音楽、映画、漫画、AV(アダルトビデオ)などについての著作者らが、複数の著作権侵害事例に対して、発信者情報開示請求をしております。

そして、当法律事務所の弁護士がご相談を受けている複数の事件において、発信者情報開示について、プロバイダが任意開示に応じている傾向にあります。

一般社団法人日本レコード協会の発表によると、2019年9月から11月までの間に、45のIPアドレスに対して発信者情報開示を求め、ログの保存が無かった2つのIPアドレスを除いた全てのIPアドレスについて発信者情報が開示されたとのことです(PRTIMES参照)。

任意開示に応じなかったケースにおいても、著作権者は発信者情報開示請求訴訟に踏み切り、裁判所により開示の判決がなされております。

BitTorrent(ビットトレント)の発信者情報開示の判例

BitTorrent(ビットトレント)の発信者情報開示請求の裁判例について、直近のものですと、大阪地判令和3年4月22日判決があります。

【事案の概要】

この裁判例は、漫画「望まぬ不死の冒険者」の著者である漫画家の方が原告となった訴訟です。被告であるプロバイダとの契約者(以下「本件契約者」という。)が、P2P(ピアツーピア)ファイル共有ソフトウェアであるBitTorrent(ビットトレント)を利用して、原告が著作権を有する別紙著作物目録記載の漫画(以下「原告著作物」という。)の複製物である電子データ(以下「本件データ」という。)をインターネット上で不特定の者に対してアップロード送信したこと、及び本件契約者の行為は、原告の著作権 (公衆送信権)を侵害することは明らかであると主張して、発信者情報の開示を求めた事案です。

【特定の正確性】

この裁判例では、本件契約者の特定の正確性が問題になりましたが、裁判所は、IPアドレスやポート番号から、本件契約者を特定できると判断し、一般社団法人テレコムサービス協会プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会が認定をしたファイル共有ソフト監視システムである「P2P FINDER」による特定までは必要ないと判断をしました。

【著作権 (公衆送信権)の侵害】

裁判所は、著作権 (公衆送信権)の侵害について、本件契約者が、ファイル共有ソフトウェアであるビットトレントを用いて、原告著作物を複製した本件データを、不特定多数の他のビットトレントの利用者からの求めに応じて自動的に送信し得る状態にして,原告代理人にこれを送信したことが認められ、原告の許諾、著作隣接権の権利制限事由その他の違法性阻却事由の存在を窺わせる事情は認められないことから、 権利侵害は明らかというべきである。と判断しました。

 

ファイル共有ソフトと著作権法違反の逮捕事例

前述のごとく、ファイル共有ソフトを使用した違法アップロードなどは著作権法に違反します。

そして、著作権法違反は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金です。

また、法人の場合には、三億円以下の罰金刑が定められています。

第百十九条 著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者(第三十条第一項(第百二条第一項において準用する場合を含む。第三項において同じ。)に定める私的使用の目的をもつて自ら著作物若しくは実演等の複製を行つた者、第百十三条第二項、第三項若しくは第六項から第八項までの規定により著作権、出版権若しくは著作隣接権(同項の規定による場合にあつては、同条第九項の規定により著作隣接権とみなされる権利を含む。第百二十条の二第五号において同じ。)を侵害する行為とみなされる行為を行つた者、第百十三条第十項の規定により著作権若しくは著作隣接権を侵害する行為とみなされる行為を行つた者又は次項第三号若しくは第六号に掲げる者を除く。)は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

第百二十四条 法人の代表者(法人格を有しない社団又は財団の管理人を含む。)又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、次の各号に掲げる規定の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人に対して当該各号に定める罰金刑を、その人に対して各本条の罰金刑を科する。
一 第百十九条第一項若しくは第二項第三号から第六号まで又は第百二十二条の二第一項 三億円以下の罰金刑

著作権法

このように、重い罰則が定められている著作権法ですが、実際に、逮捕されて刑事処罰を受けたケースもありますので、ご紹介していきます。

BitTorrent(ビットトレント)の逮捕事例

アニメ動画を違法公開 容疑の男逮捕 被害18億円

ファイル共有ソフトを使ってアニメの動画をインターネット上に違法に公開したとして、大阪府警サイバー犯罪対策課などは15日、三重県四日市市中川原2の会社員で韓国籍、〇〇容疑者(29)を著作権法違反(公衆送信権侵害)の疑い逮捕した。同課によると、アニメやテレビ番組など計約170作品を公開しており、被害額は約18億円に上るとみられる。

逮捕容疑は2018年9月5日、テレビアニメの映像を制作会社の許可を得ずにファイル共有ソフト「ビットトレント」を使ってネット上に公開し、誰でもダウンロードできる状態にして著作権を侵害した疑い。

サイバー犯罪対策課によると、〇〇容疑者は「自分が編集した動画をみんなに見てほしかった」と話しているという。

逮捕容疑となったアニメ1作品(73話、販売価格計14万1600円)だけで250件の違法ダウンロードがあり、被害額は約3500万円に上るという。

ビットトレントは容量の大きいファイルを送ることができ、特定のサイトにアクセスすれば、市販されているのと同水準の画質の動画が見られるとされる。

同課は、ビットトレントを使って著作権侵害の疑いがあるアニメ動画がアップロードされたことを確認。動画公開者のアカウント情報やIPアドレスから〇〇容疑者を特定した。

日本経済新聞 2019年4月15日 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO43732930V10C19A4AC8000/

この事件は、ビットトレントを使用して、アニメやテレビ番組を違法にアップロードしたとして、著作権法違反(公衆送信権侵害)の疑いで逮捕された事件です。

前述した判例でも指摘されておりますが、ビットトレントは他のファイル共有ソフトなどに比して、特定が容易な仕様になっております。今回の事件でも、動画公開者のアカウント情報やIPアドレスから容疑者が特定されております。

ファイル共有ソフト「BitTorrent」によるマンガの著作権侵害を摘発

株式会社講談社と株式会社集英社と一般社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)は3月18日、ファイル共有ソフト「BitTorrent」を利用しマンガ作品を無断アップロードしていた長崎県の30代男性を、長崎県警生活環境課サイバー犯罪対策室と長崎署が著作権法違反(公衆送信権侵害)の疑い長崎地検に送致したことを発表した。

この男性は、トレントトラッカーサイト「Nyaa.si」を利用して多数の海賊版データを所持し、BitTorrentを通じてアップロードしていたという。長崎県警の捜査員がサイバーパトロールで発見し、ACCSを通じて著作権者に連絡した。講談社『鬼灯の冷徹』26巻と集英社『僕のヒーローアカデミア』18巻を無断アップロードしていた疑い

BitTorrentでの著作権侵害の摘発事例は珍しく、講談社と集英社は非常に画期的なこととしている。また、これ契機として安易なファイル共有ソフトの利用行為が深刻な著作権侵害を引き起こすことへの理解が深まり、抑止効果に繋がることを願っていると声明している。そして今後も、作家の創作努力を踏みにじるような悪質な著作権侵害行為に対し、刑事告訴・民事提訴など、断固たる姿勢で望んでいくとしている。

HON.jp 2019.3.18 https://hon.jp/news/1.0/0/21845

この事件では、講談社、集英社発行の漫画について、ビットトレントを使用して違法アップロードした男性が、著作権法違反(公衆送信権侵害)の疑いで書類送検されている。

講談社と集英社が、今後も、著作権侵害行為に対して刑事告訴・民事提訴など、断固たる姿勢で望んでいくと発表している。

実際に、現在、ファイル共有ソフトを使用した漫画の違法アップロードについて、両者とも精力的に活動をしているようで、発信者情報開示に係る意見照会書が届いたとの弁護士への相談が増えてきています

そして、特に『呪術廻戦』や『鬼滅の刃』など人気の漫画(アニメ)となると、ダウンロード数もおのずと多くなり、権利者からの損害賠償請求額が跳ね上がるケースが散見されております。

Share(シェア)の逮捕事例

P2P悪用の著作権侵害、全国一斉摘発 27人逮捕

全国47都道府県警は2月19~21日にかけ、P2Pファイル共有ソフトを悪用した著作権法違反の一斉摘発を行い、22日までに27人を逮捕した。

警察庁によると、全国で124カ所を捜索。漫画「Q.E.D.証明終了」をShareで違法公開していた疑いの秋田県横手市の歯科医師の男(37)などが摘発された。

一斉摘発は2009年から実施され、4回目。

ITmedia 2013,2,25 https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1302/25/news061.html

この事件は、ファイル共有ソフトを使用した著作権法違反の一斉摘発のニュースです。

このケースでは、全国で27名が逮捕されており、その多くがShare(シェア)の使用で逮捕されております。

著作権法が改正されたこともあり、今後も一斉摘発などの大規模捜査が行われる可能性もあるでしょう。

著作権法違反の逮捕事例と罰則・量刑相場・判例についての詳細は、以下の記事もご参照ください。

リンク:著作権法違反の逮捕事例と罰則・量刑相場・判例について弁護士が解説!

ファイル共有ソフトの著作権法違反と損害賠償

BitTorrent(ビットトレント)などのファイル共有ソフトを使用して、漫画、映画やAV(アダルトビデオ)を違法にアップロードしてしまった場合、前述のように、発信者情報開示請求がなされ、これにより個人情報が開示されてしまうことがあります。

その後、著作権者からの損害賠償請求書面が届き、あせって弁護士に相談にくる事例も多いです。

著作権者からの損害賠償請求書面には、極めて高額な請求額が記載されていることも多いです。

損害賠償の請求額が、数千万円になることや、1億円を超える請求がなされている事案もあります。

損害賠償請求の法的根拠

損害賠償請求の法的な根拠は、民法上の不法行為になります。

(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

民法

BitTorrent(ビットトレント)などのファイル共有ソフトを使用した著作権法違反の事案では、故意又は過失による不法行為が成立することにはほとんど争いがないでしょう。

ファイル共有ソフトの損害賠償では、損害額の算定が問題となります。

ファイル共有ソフトの著作権侵害と損害額

不法行為で認められる損害額は、違法アップロードによる著作権法違反という不法行為と因果関係のある損害額です。具体的には、違法アップロードがなければ著作権者が得られただろう利益(逸失利益)が損害額になります。

もっとも、その算定は極めて困難であるため、著作権法では、損害額についての推定規定(著作権法114条1項)が定められております。

その損害額の推定の算定式は、以下のようになります。

著作権を侵害する公衆送信の受信数✖️利益の単価

もっとも、実際の事件においては、著作権者からの損害賠償請求書面では、利益の単価ではなく、販売価格にダウンロード数をかけた金額を損害額として請求してくることが多いです。

このような場合には、販売価格から経費等を引くべきであるなどの主張をして金額を下げる交渉をしていくことになります。

(損害の額の推定等)
第百十四条 著作権者等が故意又は過失により自己の著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為によつて作成された物を譲渡し、又はその侵害の行為を組成する公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行つたときは、その譲渡した物の数量又はその公衆送信が公衆によつて受信されることにより作成された著作物若しくは実演等の複製物(以下この項において「受信複製物」という。)の数量(以下この項において「譲渡等数量」という。)に、著作権者等がその侵害の行為がなければ販売することができた物(受信複製物を含む。)の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を、著作権者等の当該物に係る販売その他の行為を行う能力に応じた額を超えない限度において、著作権者等が受けた損害の額とすることができる。ただし、譲渡等数量の全部又は一部に相当する数量を著作権者等が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものとする。

著作権法

また、上記推定規定によっても正確な損害額の立証が困難な事件も多く、このような場合には、裁判所が損害額を認定することができると定められています(著作権法114条の5)。

(相当な損害額の認定)
第百十四条の五 著作権、出版権又は著作隣接権の侵害に係る訴訟において、損害が生じたことが認められる場合において、損害額を立証するために必要な事実を立証することが当該事実の性質上極めて困難であるときは、裁判所は、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定することができる

著作権法

著作権侵害の損害賠償の裁判例

そして、著作権侵害が問題になった判例を見てみても、請求金額に比して、認められる認容額は大幅に低くなる傾向にあるようです。

東京地判令和2年2月14日は、自社サイトにおいて漫画の違法アップロードがなされた事案です。この事件では、原告が、原告の著作権(公衆送信権)を侵害したと主張して、被告会社に対し、民法709条及び著作権法114条1項に基づき、損害賠償金1億9324万3288円と遅延損害金を請求しましたが、裁判所は、219万2215円の損害のみを因果関係のある損害と認めました。

東京地判平成28年4月21日は、FC2動画でAV(アダルトビデオ)2本が違法にアップロードされた事案です。原告が、被告に対し、原告は映像作品(AV(アダルトビデオ))の著作権を有するところ、被告が当該動画を動画共有サイトのサーバーにアップロードした行為が公衆送信権(著作権法23条1項)の侵害に当たると主張して、民法709条及び著作権法114条1項(主位的)又は3項(予備的)に基づき、損害賠償金1475万4090円を請求しましたが、裁判所は、動画1本について50万円、合計100万円と弁護士費用10万円の損害のみを因果関係のある損害と認めました。

 

違法アップロードの身に覚えがないという主張は通用するか?

ビットトレント(BitTorrent)は、データをダウンロードした場合、アップロードもされてしまう仕組みになっています。

一方で、BitTorrentを利用して他人の著作物をダウンロードした人のなかには、「自分はダウンロードはしたけど、アップロードまでされるとは知らなかった」と思う人もいるのではないでしょうか。

実際に、BitTorrentを利用している人は、目当てのファイルを手に入れたい、すなわちダウンロードしたいというだけで、そのファイルを第三者に提供したい、すなわちアップロードしたいとは考えていない場合が多いと思われます。

では、そのような主張は意味があるのでしょうか。

発信者情報開示請求は、その権利を侵害した人を特定するためにあります。では、なぜ特定するかというと、不法行為に基づく損害賠償(民法709条)や著作権侵害をした犯人を処罰して欲しいと刑事告訴などをするためとなります。

損害賠償にあたっては、権利の侵害に際して故意又は過失があることが必要となってきます。すなわち、アップロードまでされるとは知らなかったという場合に故意や過失がなかったということができるのかが問題となります。

故意とは、他人の権利の侵害に対する認識・予見のことをいいます。一方で過失とは、権利侵害の結果を認識・予見することが可能でありながら、認識・予見をしなかったことをいいます。

BitTorrentを利用してデータをダウンロードするためには、クライアントソフトウェアを利用しなくてはなりません。クライアントソフトウェアの中には、BitTorrentからデータをダウンロードした場合には、アップロードも同時にされてしまう仕組みになっていることを告知しているものもあります。

たとえばqBitTorrentでは、インストールの際にダウンロードと同時にアップロードが行われる旨が告知されるようになっています。

利用者は、「同意する」を押すよう求められますから、qBitTorrentの利用者は基本的に全員がアップロードまでされることを知っていた、故意があったといえそうです。

仮に漫然と利用していて通知自体を見ていなかったとしても、ダウンロードと同時にアップロードもされる仕組みになっているということを知る機会はあったでしょうから、少なくとも過失はあったといえるでしょう。

では、このような警告が行われないクライアントソフトウェアを利用している場合はどうでしょうか。

クライアントソフトウェアの導入の段階で、通常はどのようにしてクライアントソフトウェアを導入するか、どうやってBitTorrentからデータをダウンロードするかを調べるはずです。

そうすると、その過程でBitTorrentはどのような仕組みになっているか知ることは可能であったということができます。実際にBitTorrentのクライアントソフトウェアの導入方法に関してまとめたWebサイトにおいては、BitTorrentのしくみに加えて、ダウンロードしたファイルが同時にアップロードされることが明示されているものがあります。

そのため、BitTorrentを利用すれば、アップロードまでしてしまう、つまり著作権侵害がありうることは、認識・予見可能であったということができます。そのため、少なくとも過失はあったといえそうです。

したがって、「自分はダウンロードはしたけど、アップロードまでされるとは知らなかった」という主張は、ほとんどの場合は、意味がないということになりそうです。

発信者情報開示についての上記裁判例でも、以下のように判断しております。

被告は、ビットトレント利用者が、ビットトレントを利用してファイルをダウンロードした者が、同時にアップロード者となる仕組みを知っているとは限らず、本件契約者についても著作権侵害の故意又は過失を欠く可能性があるから、権利侵害が明らかとはいえない、あるいは正当な理由があるとはいえないと主張する。

しかしながら、プロバイダ責任制限法4条1項1号の文言に照らし、原告が本件契約者の故意、過失といった主観的要素を立証する必要があるとはいえない。また、証拠(甲12の1、2、甲13、16)によれば、ビットトレントを利用してデータをダウンロードすれば、他のビットトレント利用者の要求に応じて自動的に当該データを送信可能な状態になることは、インターネット上で説明されていることが認められ、前記1(2)で認定したところによれば、本件契約者は、本件IPアドレスの端末において、本件データ以外にも、多数の電子ファイルを公衆に送信可能な状態にしていたことが認められるのに対し、被告は、本件契約者に故意、過失が存しない可能性がある旨を抽象的に主張するにとどまるから、権利侵害の明白性、あるいは開示を受けるべき正当な理由は否定されない

大阪地判令和3年4月22日判決

 

発信者情報開示に係る意見照会書が届いたら

発信者情報開示に係る意見照会書とは、発信者情報開示請求を受けたプロバイダなどが、発信者情報を開示するかどうかの意見を発信者(投稿者)に確認をするための書面です。

プロバイダ責任制限法4条2項は、発信者と連絡することができない場合その他特別の事情がある場合を除き、開示するかどうかについて当該発信者の意見を聴かなければならないと定めており、同条項に基づいて、発信者の意見を聞くための書面が意見照会書になります。

同条項は、発信者情報の開示請求への対応に当たって、プライバシーや表現の自由、通信の秘密等、発信者の権利利益が不当に侵害されることのないよう配慮するため、発信者の意見を聞く規定を設けております。

(発信者情報の開示請求等)
第四条
2 開示関係役務提供者は、前項の規定による開示の請求を受けたときは、当該開示の請求に係る侵害情報の発信者と連絡することができない場合その他特別の事情がある場合を除き、開示するかどうかについて当該発信者の意見を聴かなければならない。

プロバイダ責任制限法

発信者情報開示に係る意見照会書が届いたときの対処法としては、以下の3つの方法があります。

  • 無視する
  • 拒否の回答をする
  • 同意の回答をする

無視しても開示がなされる可能性がある以上、拒否か同意の回答をすべきでしょう。

拒否の回答をすべき場合とは、権利侵害性など、発信者情報開示請求の要件が認められない可能性がある場合になります。この場合には、要件を満たさないことをしっかりと主張・立証していくことにより、開示がなされないことがあるからです。

同意の回答をすべき場合とは、権利侵害性など、発信者情報開示請求の要件が認められる可能性が高い場合です。

なお近時、権利者が株式会社クロスワープの提供する調査ツール「P2P Finder」により調査を行い、当該調査結果を元に発信者情報開示請求を行う事例が増加しています。

「P2P Finder」の調査結果に関しては、プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会において信頼性があると認定されており、意見照会に対して無視や不同意の対応をしても、プロバイダの判断により個人情報が開示される可能性が非常に高いものとなっています。

権利者が民事訴訟を刑事告訴を選択した場合、金銭的にも社会的にも大きな不利益を被るおそれがあります。

ですので、このような場合には、弁護士を通じて速やかにプロバイダと権利者に対して謝意を示し、示談によって早期の解決を図らねばなりません。

また前述したように、BitTorrent(ビットトレント)などのファイル共有ソフトを使用した著作権法違反の事案では、逮捕されて刑事処罰を受ける可能性があります。

刑事処罰を避けるために、早めに同意をして、相手方と示談をすることが必要になる場合があります。

また、開示がなされて多額の損害賠償請求がなされる可能性もありますので、早期に和解交渉を進めることにより、和解金額を低く抑えられることもあります。

発信者情報開示に係る意見照会書が届いたときの対応方法については、以下の記事もご参照ください。

発信者情報開示請求に係る意見照会書が届いたときの対処法と同意拒否の回答書の書き方を弁護士が解説!

 

ファイル共有ソフトと著作権侵害のまとめ

以上で見てきたとおり、BitTorrent(ビットトレント)などのファイル共有ソフトを使用して、映画、音楽、漫画、AV(アダルトビデオ)を違法アップロードしてしまい、発信者情報開示に係る意見照会書が届いた、損害賠償請求書面が届いたなどの相談が増えてきています。

著作権者側もネットの発達による著作権侵害には敏感になっているようで、厳格な対応をしているようです。

実際に、ファイル共有ソフトを利用した違法アップロードで逮捕されて刑事処罰されているケースもあります。

また、民事での損害賠償請求も極めて高額な金額が請求されてしまうこともあります。

BitTorrent(ビットトレント)などのファイル共有ソフトは、違法ダウンロードをすると、違法アップロードもしてしまう仕組みになっているため、著作権侵害をしないよう注意して使用してください。

著作権侵害行為をしてしまった場合には、できる限りすみやかに、弁護士に相談するのがいいでしょう。

弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。

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