著作権法改正と誹謗中傷の削除請求・発信者情報開示請求

弁護士 若林翔
2023年07月05日更新

TwitterやYouTubeなどのSNS,ホスラブや爆サイなどの匿名掲示板において、誹謗中傷の被害にあったり,人に知られたくない個人情報を書き込まれてしまった場合の対処法として,削除請求や発信者情報開示請求という手段は有名になってきているかと思います。

しかし,削除請求や発信者情報開示請求という手段をとるには,単に悪口を書かれたということでは認められず,自身の権利(名誉権や著作権等)を明確に侵害されたと主張する必要があります。

そこで,本コラムでは,削除請求や発信者情報開示請求を行うために必要な「権利侵害性」及び最近になって著作権法が改正されたことがどのような影響があるのかをわかりやすく解説いたします。

削除請求・発信者情報開示請求の要件〜権利侵害の明白性〜

削除請求の法的根拠は,人格権に基づく妨害排除(予防)請求権であり,発信者情報開示請求の法的根拠は,プロバイダ責任制限法(正式名称は,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律)4条1項です。

この点について詳しくは,こちらをご覧ください。

削除/発信者情報開示請求の法的根拠【プロバイダ責任制限法】

 

権利侵害性の具体例(名誉権・プライバシー権・名誉感情・著作権)

削除請求や発信者情報開示請求において,共通の要件となっているのは,「請求者の権利が侵害されたことが明らかであるとき」,いわゆる「権利侵害の明白性」と呼ばれています。

では,どのような権利が対象になるのでしょうか?

名誉権・名誉毀損

名誉権とは,その人が外部的に有している社会的評価に関わる権利であり,その社会的評価を低下させる行為が名誉毀損となります。

どのような記載が名誉毀損に該当するかは,こちらを確認してみてください。

【名誉毀損判例】ネット上での誹謗中傷が名誉毀損にあたるとされた裁判例まとめ

プライバシー権

プライバシー侵害は,一般人の感受性を基準にして公開を望まず,私生活上の事実または事実らしく受け取られるおそれがある事柄を公開された場合に成立します。

どのような事柄を公開することがプライバシー侵害になるかは,こちらを確認してみてください。

【ホスラブ開示請求】特定方法・期間・費用相場・成功事例を解説!

名誉感情

「バカ」「ブス」などの事実の摘示を含まずに他人の名誉感情を害する表現については侮辱行為(名誉感情の侵害)として人格権侵害が認められる場合があります。

上で記載した名誉毀損との違いは,記載内容が社会的評価を低下させるものか否かによって決まります。

名誉感情侵害の詳細は、以下の記事をご参照ください。

ホスラブで名誉感情侵害を認めた判例まとめ

著作権

著作物には,著作権法によって,著作権が認められています。

著作権には,複製権(著作権法21条),上演権・演奏権(同法22条),上映権(同法22条の2),公衆送信権等(同法23条),口述権(同法24条),展示権(同法25条),頒布権(同法26条),譲渡権(同法26条の2),貸与権(同法26条の3),翻訳権・翻案権等(同法27条)が,それぞれ認められています。

(複製権)
第二十一条 著作者は、その著作物を複製する権利を専有する。
(上演権及び演奏権)
第二十二条 著作者は、その著作物を、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として(以下「公に」という。)上演し、又は演奏する権利を専有する。
(上映権)
第二十二条の二 著作者は、その著作物を公に上映する権利を専有する。
(公衆送信権等)
第二十三条 著作者は、その著作物について、公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行う権利を専有する。
2 著作者は、公衆送信されるその著作物を受信装置を用いて公に伝達する権利を専有する。
(口述権)
第二十四条 著作者は、その言語の著作物を公に口述する権利を専有する。
(展示権)
第二十五条 著作者は、その美術の著作物又はまだ発行されていない写真の著作物をこれらの原作品により公に展示する権利を専有する。
(頒布権)
第二十六条 著作者は、その映画の著作物をその複製物により頒布する権利を専有する。
2 著作者は、映画の著作物において複製されているその著作物を当該映画の著作物の複製物により頒布する権利を専有する。
(譲渡権)
第二十六条の二 著作者は、その著作物(映画の著作物を除く。以下この条において同じ。)をその原作品又は複製物(映画の著作物において複製されている著作物にあつては、当該映画の著作物の複製物を除く。以下この条において同じ。)の譲渡により公衆に提供する権利を専有する。
2 前項の規定は、著作物の原作品又は複製物で次の各号のいずれかに該当するものの譲渡による場合には、適用しない。
一 前項に規定する権利を有する者又はその許諾を得た者により公衆に譲渡された著作物の原作品又は複製物
二 第六十七条第一項若しくは第六十九条の規定による裁定又は万国著作権条約の実施に伴う著作権法の特例に関する法律(昭和三十一年法律第八十六号)第五条第一項の規定による許可を受けて公衆に譲渡された著作物の複製物
三 第六十七条の二第一項の規定の適用を受けて公衆に譲渡された著作物の複製物
四 前項に規定する権利を有する者又はその承諾を得た者により特定かつ少数の者に譲渡された著作物の原作品又は複製物
五 国外において、前項に規定する権利に相当する権利を害することなく、又は同項に規定する権利に相当する権利を有する者若しくはその承諾を得た者により譲渡された著作物の原作品又は複製物
(貸与権)
第二十六条の三 著作者は、その著作物(映画の著作物を除く。)をその複製物(映画の著作物において複製されている著作物にあつては、当該映画の著作物の複製物を除く。)の貸与により公衆に提供する権利を専有する。
(翻訳権、翻案権等)
第二十七条 著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する。

著作権法

インターネット上の削除請求や発信者情報開示請求においては,著作権のうち公衆送信権翻案権がしばしば問題となります。

各権利の具体的な内容や侵害要件については,本コラムでは割愛しますが,他人の著作物を利用しているようなケースでは,多くの場合に著作権法違反となるでしょう。なお,著作権法に違反する場合には,侵害の差止請求(インターネット上への投稿の場合,削除請求と同義です。)が明文上認められています(同法112条)。

(差止請求権)
第百十二条 著作者、著作権者、出版権者、実演家又は著作隣接権者は、その著作者人格権、著作権、出版権、実演家人格権又は著作隣接権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
2 著作者、著作権者、出版権者、実演家又は著作隣接権者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物、侵害の行為によつて作成された物又は専ら侵害の行為に供された機械若しくは器具の廃棄その他の侵害の停止又は予防に必要な措置を請求することができる。

著作権法

著作権法の改正について

2021年1月1日,書籍や漫画などに見られる海賊版の対策を強化する改正著作権法が施行されました。

これまでは,映像と音楽のみが違法ダウンロードの規制対象でしたが,その対象が書籍や漫画などにも拡大することになります。

改正のポイントは,以下の4点です。

① リーチサイト対策
② 侵害コンテンツのダウンロード違法化
③ 著作権侵害訴訟の証拠収取手続きの強化
④ アクセスコントロールに関する保護の強化

このうち,削除請求,発信者情報開示請求と関連するであろう①を中心にお話いたします。

「リ—チサイト」とは,他のウェブサイトで違法にアップロードされた著作物などのリンク情報等を提供するウェブサイトのことを指します。

インターネット上に著作物が著作権者に無断でアップロードされた場合,そのアップロードされたページについては公衆送信権等の侵害となり,当然に削除請求が可能です。

しかし,その違法アップロードページへリンクを設定する行為は違法な著作権侵害とはならないと以前は考えられていました。

今回の改正により,リーチサイトを運営する行為は刑事罰の対象となり(著作権法120条の2第3号,119条2項4号,同5号)リーチサイトにおいて違法アップロードページへのリンクを設定する行為が著作権侵害行為とみなされることになります(著作権法113条2項)。

したがって,今後は,リーチサイトに対して,削除請求・発信者情報開示請求をしていくことは可能になったといえましょう。

(侵害とみなす行為)
第百十三条 次に掲げる行為は、当該著作者人格権、著作権、出版権、実演家人格権又は著作隣接権を侵害する行為とみなす。
2 送信元識別符号又は送信元識別符号以外の符号その他の情報であつてその提供が送信元識別符号の提供と同一若しくは類似の効果を有するもの(以下この項及び次項において「送信元識別符号等」という。)の提供により侵害著作物等(著作権(第二十八条に規定する権利(翻訳以外の方法により創作された二次的著作物に係るものに限る。)を除く。以下この項及び次項において同じ。)、出版権又は著作隣接権を侵害して送信可能化が行われた著作物等をいい、国外で行われる送信可能化であつて国内で行われたとしたならばこれらの権利の侵害となるべきものが行われた著作物等を含む。以下この項及び次項において同じ。)の他人による利用を容易にする行為(同項において「侵害著作物等利用容易化」という。)であつて、第一号に掲げるウェブサイト等(同項及び第百十九条第二項第四号において「侵害著作物等利用容易化ウェブサイト等」という。)において又は第二号に掲げるプログラム(次項及び同条第二項第五号において「侵害著作物等利用容易化プログラム」という。)を用いて行うものは、当該行為に係る著作物等が侵害著作物等であることを知つていた場合又は知ることができたと認めるに足りる相当の理由がある場合には、当該侵害著作物等に係る著作権、出版権又は著作隣接権を侵害する行為とみなす。
一 次に掲げるウェブサイト等
イ 当該ウェブサイト等において、侵害著作物等に係る送信元識別符号等(以下この条及び第百十九条第二項において「侵害送信元識別符号等」という。)の利用を促す文言が表示されていること、侵害送信元識別符号等が強調されていることその他の当該ウェブサイト等における侵害送信元識別符号等の提供の態様に照らし、公衆を侵害著作物等に殊更に誘導するものであると認められるウェブサイト等
ロ イに掲げるもののほか、当該ウェブサイト等において提供されている侵害送信元識別符号等の数、当該数が当該ウェブサイト等において提供されている送信元識別符号等の総数に占める割合、当該侵害送信元識別符号等の利用に資する分類又は整理の状況その他の当該ウェブサイト等における侵害送信元識別符号等の提供の状況に照らし、主として公衆による侵害著作物等の利用のために用いられるものであると認められるウェブサイト等
二 次に掲げるプログラム
イ 当該プログラムによる送信元識別符号等の提供に際し、侵害送信元識別符号等の利用を促す文言が表示されていること、侵害送信元識別符号等が強調されていることその他の当該プログラムによる侵害送信元識別符号等の提供の態様に照らし、公衆を侵害著作物等に殊更に誘導するものであると認められるプログラム
ロ イに掲げるもののほか、当該プログラムにより提供されている侵害送信元識別符号等の数、当該数が当該プログラムにより提供されている送信元識別符号等の総数に占める割合、当該侵害送信元識別符号等の利用に資する分類又は整理の状況その他の当該プログラムによる侵害送信元識別符号等の提供の状況に照らし、主として公衆による侵害著作物等の利用のために用いられるものであると認められるプログラム

第百二十条の二 次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
三 第百十三条第二項の規定により著作権、出版権又は著作隣接権を侵害する行為とみなされる行為を行つた者

第百十九条
2 次の各号のいずれかに該当する者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
四 侵害著作物等利用容易化ウェブサイト等の公衆への提示を行つた者(当該侵害著作物等利用容易化ウェブサイト等と侵害著作物等利用容易化ウェブサイト等以外の相当数のウェブサイト等(第百十三条第四項に規定するウェブサイト等をいう。以下この号及び次号において同じ。)とを包括しているウェブサイト等において、単に当該公衆への提示の機会を提供したに過ぎない者(著作権者等からの当該侵害著作物等利用容易化ウェブサイト等において提供されている侵害送信元識別符号等の削除に関する請求に正当な理由なく応じない状態が相当期間にわたり継続していたことその他の著作権者等の利益を不当に害すると認められる特別な事情がある場合を除く。)を除く。)
五 侵害著作物等利用容易化プログラムの公衆への提供等を行つた者(当該公衆への提供等のために用いられているウェブサイト等とそれ以外の相当数のウェブサイト等とを包括しているウェブサイト等又は当該侵害著作物等利用容易化プログラム及び侵害著作物等利用容易化プログラム以外の相当数のプログラムの公衆への提供等のために用いられているウェブサイト等において、単に当該侵害著作物等利用容易化プログラムの公衆への提供等の機会を提供したに過ぎない者(著作権者等からの当該侵害著作物等利用容易化プログラムにより提供されている侵害送信元識別符号等の削除に関する請求に正当な理由なく応じない状態が相当期間にわたり継続していたことその他の著作権者等の利益を不当に害すると認められる特別な事情がある場合を除く。)を除く。)
六 第百十三条第五項の規定により著作権を侵害する行為とみなされる行為を行つた者

著作権法

改正著作権法と違法ダウンロードの法律関係、逮捕については、以下の記事をご参照ください。

違法ダウンロードの法律・改正著作権法の違反行為や罰則を弁護士が解説

違法ダウンロードの逮捕者は少ない!逮捕リスクが高い場合や対処法解説

 

著作権法改正と削除請求・発信者情報開示請求のまとめ

今回の著作権法改正によって,対策の困難だった「リーチサイト」に対して法的措置を講じることができるようなった点は,非常に意義のあることだと思います。

著作権以外でも,自身がどのような権利侵害を受けているのか,その投稿が法的措置を取ることが可能なものなのかを判断するのは非常に困難です。

当法律事務所の弁護士は,Twitter,Facebook,Instagram,YouTubeなどのSNS,ホスラブや爆サイなどの匿名掲示板で削除請求や発信者情報開示請求を成功させております。

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弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。

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