飲食店でも残業代はもらえる!よくある8つの誤解と請求方法を解説

飲食店でも残業代を支払ってもらうための8つの誤解と請求方法

「飲食店では残業代が出ないって本当?」

「飲食店の店長になると残業代が出なくなる?」

「開店準備や閉店後の片づけをしているのに残業代が払われていない」

飲食店で働く方の多くは、残業代請求ができるにもかかわらず、できないものと誤解して、残業代請求を諦めてしまっているケースがあります。店長への残業代の不払い、開店前の準備や閉店後の片づけの時間を労働時間から除外する、研修期間中を理由に残業代を支払わないなどのケースでは、会社に対して、残業代を請求できる可能性があります。そのため、飲食店で働く方は、残業代請求に関する正しい知識を身につけておくことが重要です。

本記事では、

  • 残業代が支払われない飲食店でのよくある8つの誤解
  • 飲食店で働く人の残業代請求の証拠となり得るもの
  • 飲食店で働く人が残業代請求をする際の注意点

などについてわかりやすく解説します。

あなたの状況が残業代請求可能なケースに該当する場合には、早めに弁護士に相談をして、残業代請求の手続きを進めてもらうようにしましょう。

 

飲食店でも残業代はもらえる!

飲食店でも残業代はもらえる

飲食店と一般企業では、勤務時間(営業時間)が異なるため、飲食店で働く労働者の方が残業が長くなる傾向があります。すわなち、一般企業では、午前9時から午後6時まで(休憩時間1時間含む)といった勤務時間が通常ですが、飲食店では午前10時から午後10時まで営業していることも珍しくありません。飲食店にとっては、営業時間を減らすことは顧客獲得の機会を損失するという考えから、長時間残業により対応しようとするため、必然的に残業時間が長くなってしまうのです。

また、深夜営業をしている飲食店もあるため、一般企業に比べて深夜労働が多いのも飲食店の特徴といえます。

飲食店で働く人も労働者であることには変わりありませんので、飲食店に対して残業代を請求することができます。残業が多い飲食店では、未払い残業代が発生している可能性もありますので、しっかりと残業代を請求していくようにしましょう。

 

残業代が支払われない飲食店でのよくある8つの誤解

残業代が支払われない飲食店での8つの誤解

飲食店では、残業代支払いに関するルールの誤解から残業代が支払われていないケースもあります。以下では、残業代が支払われない飲食店でのよくある8つの誤解を紹介します。これらにあてはまる方は、残業代を請求できる可能性があります。

 

店長だから残業代は出ない?

飲食店の店長やマネージャーの立場にある人は、管理職だからという理由で残業代が支払われないことがあります。

労働基準法では、経営者と一体的な地位にある労働者を「管理監督者」として労働時間などの規制の適用除外としています。そのため、飲食店の店長やマネージャーが管理監督者に該当する場合には、残業代が支払われなくても問題はありません。

しかし、管理監督者は、肩書だけで判断するのではなく、職務内容や権限、待遇などを踏まえて判断しなければなりません。経営者から雇われている店長の多くは、労働基準法上の管理監督者には該当しませんので、残業代を請求できる可能性があります。

なお、管理職の残業代・管理監督者該当性の詳細は、以下の記事もご参照ください。

「管理職の残業代は出ない」は間違い!違法なケースや請求方法を解説

休憩時間中に業務をしても残業代は出ない?

通し営業をしている飲食店では、休憩時間中であっても来客があれば対応しなければなりません。また、ランチ営業とディナー営業を分けている飲食店では、営業時間の合間に休憩時間をとることが多いですが、その時間で仕込みなどの作業をしているケースもあります。

そもそも休憩時間とは、業務から完全に解放されている時間をいいますので、上記のようなケースでは、完全に業務から解放されているとはいえませんので、労働時間としてカウントしなければなりません。

そのため、休憩時間中に業務をしている方は、その時間を含めて残業代を請求できる可能性があります。

なお、労働時間と休憩時間のルールについての詳細は、以下の記事をご参照ください。

労働時間と休憩のルールとは?法律の規定と違法な休憩の対処法

 

開店前の準備や閉店後の片づけは残業代の対象外?

飲食店での業務は、営業時間だけではなく、開店前の準備や閉店後の片づけなど営業時間外の業務も多いです。このような営業時間外の業務も会社から命じられている場合はもちろん、明示の指示がなくても準備や片付けをしなければ開店できないような場合には黙示の指示があるといえますので、労働時間としてカウントしなければなりません。

そのため、営業時間外の業務を労働時間から除外されている方は、その時間を含めて残業代を請求できる可能性があります。

 

見習いや研修期間中は残業代が支払われない?

飲食店によっては、見習い期間や研修期間を設け、その期間中は残業をしても残業代を支払わないという扱いをしているところもあります。

飲食店で働く方の中には、「まだ仕事のやり方もわからず迷惑をかけるから仕方ない」と考えてしまう方もいるかもしれません。しかし、見習い期間や研修期間であっても、労働者であることには変わりありませんので、残業をすれば残業代を請求する権利があります。

 

30分未満の残業は残業代の対象外?

飲食店では、残業代の計算を30分単位で行うケースが多く、30分に満たない端数が生じた場合には、その時間を切り捨てて残業代を計算しているところもあります。

しかし、労働基準法では、賃金全額払いの原則が定められています。残業時間を切り捨てて計算をすることは、本来支払われるべき残業代が支払われていないことになりますので、原則として違法となります。

このような違法な端数処理がなされている場合には、切り捨てられた残業時間を含めて残業代を請求することができます。

なお、残業時間の端数処理についての詳細は、以下の記事をご参照ください。

残業代は何分単位で計算する?正しい計算方法と違法なケースを解説

 

固定残業代が支払われていると残業代を請求できない?

固定残業代とは、一定時間分の残業代をあらかじめ基本給に含めて支払う制度をいいます。多くの飲食店で採用されている制度ですが、飲食店によっては、固定残業代が支払われていることを理由に残業代を一切支払わないという運用をしているところもあります。

しかし、実際の残業時間が固定残業代で想定されている残業時間を超えた場合には、固定残業代とは別に残業代の支払いをしなければなりません。固定残業代以外に一切残業代が支払われていない場合は、違法な運用といえますので、未払い分の残業代を請求できる可能性があります。

なお、みなし残業代(固定残業代)制度でも残業代請求ができるケースについての詳細は、以下の記事をご参照ください。

みなし残業代(固定残業代)に追加の残業代を請求できる6つのケース

 

アルバイトには残業代は支払われない?

飲食店では、アルバイトを雇って営業しているところも多いと思います。正社員に比べて人件費を低く抑えることができるというメリットがありますが、残業代を支払わなくてもよいというわけではありません。

アルバイトも労働者であることには変わりありませんので、残業時間に応じた残業代が支払われます。

なお、アルバイトの残業代についての詳細は、以下の記事をご参照ください。

アルバイトでも残業代は支払われる!残業代計算や未払いへの対処法

 

変形労働時間制だと残業代を請求できない?

変形労働時間制とは、月単位・年単位の法定労働時間に合わせて、1日の労働時間を設定することができる制度です。繁忙期と閑散期のある職場では、変形労働時間制を導入することで、残業代を削減することが可能です。

このような変形労働時間制では、1日8時間・1週40時間の法定労働時間を超えたとしても、直ちに残業代が発生するわけではありません。しかし、変形労働時間制により残業代の支払いが不要になるわけではありませんので、一定期間における労働時間が法定労働時間を超えている場合には、会社に対して残業代を請求することができます。

なお、変形労働時間制についての詳細は、以下の記事をご参照ください。

変形労働時間制とは?残業代やメリット・デメリット・注意したい点

 

飲食店で働く人の残業代の計算方法

飲食店で働く人の残業代の計算方法

飲食店で働く人の残業代は、以下のような計算式により計算をします。

残業代=1時間あたりの基礎賃金×割増賃金率×残業時間

1時間あたりの基礎賃金=月給÷1か月の平均所定労働時間

1か月の平均所定労働時間=(365日-1年間の所定休日日数)×1日の所定労働時間÷12か月

1時間あたりの基礎賃金は、労働者に支払われた月給を基準に計算しますが、以下のような手当は含まれません。

  • 家族手当
  • 通勤手当
  • 別居手当
  • 子女教育手当
  • 住居手当
  • 臨時に支払われた手当
  • 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金

割増賃金率は、残業時間の種類に応じて、以下のように定められています。

  • 時間外労働……25%以上
  • 深夜労働(午後10時から翌午前5時まで)……25%以上
  • 休日労働……35%以上
  • 月60時間を超える時間外労働……50%以上

たとえば、次のような条件で働いている労働者がいた場合、その人の残業代は、以下のように計算します。

飲食店で残業代の計算方法と具体例

  • 月給……30万円
  • 1年間の所定休日日数……125日
  • 1日の所定労働時間……8時間
  • ある月の残業時間……60時間(深夜、休日労働を含まない)

上記の労働条件で働くBさんの残業代は、以下のように計算します。

1時間あたりの基礎賃金=30万円÷{(365日-125日)×8時間÷12か月}=1875円

残業代=1875円×125%×60時間=14万625円

すなわち、Bさんの月60時間分の残業代は、14万625円ということになります。残業代請求の時効は3年ですので、過去3年分遡って請求する場合には、

14万625円×36か月=506万2500円

を請求することができます。

なお、残業代計算方法の詳細は、以下の記事もご参照ください。

【残業代を計算したい人へ】60時間超・深夜手当・休日手当までわかる

 

残業代請求は証拠が重要!飲食店で残業代請求の証拠になるもの

残業代請求の証拠になるもの

会社が残業代の支払いに応じないときは、最終的に訴訟を提起して裁判所に判断してもらうことになりますが、証拠がなければ裁判所に残業代の支払いを命じてもらうことはできません。そのため、会社に対して残業代請求をするためには、残業をしていたことを証明するための証拠が重要になります。

飲食店での勤怠管理がタイムカードにより行われている場合には、タイムカードが残業していたことを証明するための重要な証拠になります。しかし、タイムカードがない、またはタイムカードと実際の残業時間が異なるという場合には、以下のような証拠により立証していく必要があります。

  • レジのログ履歴
  • PCのログ履歴
  • 仕入れ業者へのメール
  • オーナーへの電話履歴
  • セキュリティカードの記録
  • 店のシフト表
  • 注文伝票
  • 交通系ICカードの履歴
  • 手書きのメモやアプリによる出退勤記録

なお、残業代請求に有効な証拠についての詳細は、以下の記事をご参照ください。

タイムカードないけど残業代もらえる!あれば役に立つ証拠16選!

 

飲食店で働く人が残業代請求をする際の注意点

飲食店で働く人が残業代請求をする際の注意点

飲食店で働く人が残業代請求をする際には、以下の点に注意が必要です。

 

飲食店では深夜残業が多いため割増率もUPする

午後10時から翌午前5時までの労働を深夜労働といいます。深夜労働については、25%以上の割増賃金率が適用されますので、通常よりも多くの賃金の支払いを受けることができます。

飲食店では、閉店後の片づけなどの作業のために深夜残業が発生するケースも多いです。また、深夜営業の飲食店では、深夜労働がメインとなります。そのため、飲食店で働く人の残業代は、一般企業の労働者に比べてUPする可能性があります。深夜労働と時間外労働の割増賃金率は、重複して適用されますので、残業代計算の際には、しっかりと区別して計算するようにしましょう。

 

退職前に十分な証拠を集めておく

残業代請求には証拠が重要になりますので、事前に十分な証拠を集めておくことが大切です。

残業代請求は、会社を辞めた後でも行うことができますが、会社を辞めてからでは残業をしたことを証明する証拠の入手が困難になってしまいます。そのため、会社への残業代請求を考えているのであれば、会社を退職する前にしっかりと証拠を集めておくようにしましょう。

 

残業代請求には時効がある

残業代請求には、時効がありますので、一定期間が経過すると時効により残業代請求権は消滅してしまいます。残業代の時効期間は、残業代が発生した時期に応じて、以下のように定められています。

  • 2020年3月31日以前に発生した残業代……時効期間は2年
  • 2020年4月1日以降に発生した残業代……時効期間は3年

未払い残業代が発生した状態で長期間放置していると時効により大切な権利が消滅してしまうおそれがあります。そのため、会社への未払い残業代の請求は、早めに着手することが大切です。

時効期間が迫っている場合には、時効の完成猶予や更新によって、時効の完成を阻止することができますので、早めに弁護士に相談するようにしましょう。

なお、残業代請求の時効と時効を阻止する方法についての詳細は、以下の記事もご参照ください。

残業代の時効は3年!時効を阻止する方法と残業代請求の流れを解説

 

飲食店への残業代請求が認められた実際の事例

飲食店への残業代請求が認められた事例

当事務所で受任した飲食店への残業代請求事案の中から、約1年分の未払賃金を求める労働審判をおこし、会社と和解により、220万円の支払いを得た事例を紹介します。

 

【事案の概要】

ご依頼者は、東京都内在住の飲食店従業員だった男性です。この男性が働く飲食店では、1時間の休憩を含め12時間を拘束されるのが常であり、繁忙期には休憩なしで14時間労働をさせられることもありました。それにもかかわらず、基本給と職務手当しか支払われないため、正当な対価なく残業をさせられているのではないかと悩み、当事務所に相談に来られました。

 

【結果】

弁護士がタイムカードなどの証拠に基づき、残業代を計算したところ、最大で280万円の残業代が認められる可能性があることがわかりました。

会社との交渉では、「職務手当が固定残業代にあたり、残業代は支払い済みだ」として残業代の支払いに応じてくれなかったため、労働審判の申立てを行いました。

その結果、労働審判の手続きで和解が成立し、220万円の残業代の支払いを受けることができました。

なお、この事案の詳細については、以下の記事をご参照ください。

飲食店で職務手当は固定残業代に含まれないとして220万円獲得した事例

 

飲食店への残業代請求はグラディアトル法律事務所にお任せください

飲食店への残業代請求はグラディアトル法律事務所へ

飲食店は、一般企業に比べて残業が長くなりやすい業種ですので、残業代も高額になる傾向があります。しかし、会社によっては、本来残業代を支払うべき時間を労働時間から除外したり、店長や固定残業代を理由に残業代の支払いを拒否するケースも少なくありません。

このような違法な残業代不払いの手口に対抗するためには、法律の専門家である弁護士のサポートが不可欠となります。グラディアトル法律事務所では、飲食店で働く労働者をはじめとしたさまざまな業種の残業代問題を解決した実績と経験があります。知識や経験のない労働者個人では、会社を相手として残業代請求を行うのは困難といえますので、まずは、当事務所までご相談ください。

経験豊富な弁護士が労働者の抱える問題を解決するために、全力でサポートいたします。

 

まとめ

飲食店は、残業が多い業種である反面、人件費を削減するために適正な残業代が支払われていないケースも多いです。会社側が残業代を支払わない言い分の多くは、正当な根拠に基づくものではありませんので、実際には残業代を請求できるケースも多く存在します。

残業代請求が可能な事案であるかどうかは、専門家の判断が必要になりますので、まずはグラディアトル法律事務所までお気軽にご相談ください。

 

 

弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。

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