残業代の時効は3年!時効を阻止する方法と残業代請求の流れを解説

残業代 時効

「会社が残業代を支払ってくれない」

「過去の残業代を請求したいが、時効になっているのではないか?」

「もうすぐ時効になる残業代があるけど、どうしたらよいのだろうか?」

残業をしたときに、その対価として残業代を支払ってもらうのは、労働者として当然の権利です。未払いの残業代がある場合には、会社に対して請求していくことが大切です。

ただし、残業代には時効がありますので、一定期間が経過してしまうと残業代の請求ができなくなってしまいますそのため、過去の未払い残業代がある方は、早めに請求していかなければなりません。

本記事では

  • 残業代請求の時効に関する基本的知識
  • 残業代の時効完成を阻止する5つの方法
  • 残業代に時効が適用されない例外的な3つのケース

などについて、わかりやすく解説します。

大切な権利が時効によって失われることがないようにするためにも、早めに行動していくことが大切です。

残業代請求には時効がある

残業代請求には時効があります。以下では、残業代請求の時効に関する基本事項について説明します。

そもそも時効とは?

時効とは、一定期間権利の行使がない場合に、その権利を消滅させる制度をいいます。

労働者が残業をした場合、会社に対して、残業代を請求する権利があります。このような残業代請求権も消滅時効の対象となる権利に含まれますので、残業代を請求することなく一定期間が経過すると、残業代請求権は、時効によって消滅してしまいます。

「残業代の請求は早くしなければならない」といわれるのは、このような時効制度があるからです。

残業代の時効は2年から3年に延長された

現行法では、残業代請求権の時効期間は、3年とされています。以前は、残業代請求権の時効期間は、2年とされていましたが、労働基準法の改正により、2020年4月1日から残業代の時効期間が2年から3年に変更されました。

そのため、改正後は、退職日から遡って3年分の残業代が請求できます。

まとめると以下のようになります。

2020年3月31日以前に働いた分の残業代の時効 → 2年

2020年4月1日以降に働いた分の残業代の時効 → 3年

 

残業代の時効はいつから5年になる?

残業代の時効(厚生労働省)
出典:厚生労働省「未払賃金が請求できる期間などが延長されています」

 

残業代の時効は、「当分の間」を経過したあと、5年間になります

残業代請求権の時効期間については、民法の時効期間と合わせて5年に統一すべきとの意見もありましたが、企業側からの反発が大きかったため、折衷案として3年の時効期間が採用されたという経緯があります。

そのため、3年という時効期間は、急激な変化を避けるために設けられた「当分の間」の暫定的措置ですので、今後の議論の状況によって、「当分の間」が経過したと判断されれば残業代の時効は5年になります。

法律上は、2020年4月1日の労働基準法の改正後、労働基準法115条は、残業代を含めた賃金請求権の時効は5年と定めています。

もっとも、労働基準法附則143条が「当分の間」は、残業代の時効を3年間とすると定めているので、当分の間は時効3年、その後は時効5年となります。

(時効)
第百十五条 この法律の規定による賃金の請求権はこれを行使することができる時から五年間、この法律の規定による災害補償その他の請求権(賃金の請求権を除く。)はこれを行使することができる時から二年間行わない場合においては、時効によつて消滅する。

労働基準法115条 e-gov参照

第百四十三条
③ 第百十五条の規定の適用については、当分の間、同条中「賃金の請求権はこれを行使することができる時から五年間」とあるのは、「退職手当の請求権はこれを行使することができる時から五年間、この法律の規定による賃金(退職手当を除く。)の請求権はこれを行使することができる時から三年間」とする。

労働基準法附則143条 e-gov参照

 

残業代の時効はいつからカウントする?

残業代の時効期間の3年は、給料日の翌日からカウントします。

たとえば、2024年3月31日が給料日で、その月の給料日に残業代の未払いがあったとすると、2027年3月31日に未払いの残業代は時効により消滅してしまいます。

そのため、過去の未払い残業代がたまっているという方だと、毎月残業代が時効により消滅している可能性もあります。大切な残業代が失われてしまう前に、できる限り早く弁護士に相談するようにしましょう。

 

残業代の時効完成を阻止する5つの方法

残業代の時効完成を阻止する5つの方法

残業代の時効完成が迫っているという場合には、以下の5つの方法により残業代の時効完成を阻止することが可能です。

内容証明郵便で未払い残業代を請求する

労働者が会社に対して、未払いの残業代を請求(催告)すると、催告時から6か月間、時効期間の進行を一旦ストップさせることができます。これを「時効の完成猶予」といいます。

時効の完成猶予は、時効期間の進行をリセットできるわけではありませんが、時効の完成が迫っているような場合には、次の手段を講じるまでの時間的猶予を確保することができます。

催告の方法には、特に法律上の決まりはありませんが、内容証明郵便を利用して行うのが一般的です。なぜなら、いつ催告をしたかが争点になった場合でも内容証明郵便を利用していれば、それを客観的に証明することができるからです。

内容証明郵便を利用する方法であれば、労働者個人でも比較的簡単に対応できます。インターネット上で、内容証明郵便の雛形などを入手することもできますので、それらを利用してみるとよいでしょう。

他方、以下の方法に関しては、専門家のサポートがなければ適切に行うことが難しいため、早めに弁護士に相談して対応してもらうとよいでしょう。

会社に未払い残業代の存在を承認してもらう

会社が未払い残業代の支払い義務を認めたり、未払い残業代の一部の支払いに応じた場合には、その時点で時効期間の進行がリセットされます。これを「時効の更新」といいます。

時効の更新があると、再びゼロから時効期間がスタートしますので、その時点から3年間は時効の完成を阻止することができます。

なお、会社に未払い残業代の存在を認めてもらう場合、口頭での合意だけでは後日争いになる可能性もありますので、必ず書面によって合意をするようにしてください。

会社と協議を行う旨の合意を書面で締結する

会社との間で未払い残業代の支払いに向けて協議を行っているものの、和解が成立する前に時効が完成するおそれがあるという場合があります。このような場合には、協議を行う旨の合意を書面によって行うことで、以下のいずれか早いときまで、時効期間がストップし時効の完成が猶予されます。

  • 合意があったときから1年
  • 合意で定めた協議期間
  • 協議の続行拒絶通知から6か月

なお、協議を行う旨の合意により時効期間がストップしている間に、再度、協議を行う旨の合意をすることで時効期間の進行をストップできる期間を延ばすことができます。ただし、この方法で期間を延長できるのは、通算して5年までとされています。

労働審判の申立てをする

未払い残業代を請求する労働審判の申立てがあった時点で、残業代の時効は、一旦ストップします。そして、その後、調停の成立または審判が確定すると時効期間がリセットされますので、時効の完成を阻止することができます。

訴訟を提起する

未払い残業代請求訴訟を提起した場合、訴訟提起時に時効の進行は、一旦ストップします。

そして、確定判決により権利が確定すると時効期間がリセットされます。

残業代の時効が迫っているという場合には、まずは、内容証明郵便により6か月間の時効完成猶予の措置をとり、その間に、訴訟提起の準備を進めていくとよいでしょう。

 

残業代に時効が適用されない例外的な3つのケース

残業代に時効が適用されない例外的な3つのケース

残業代は、一定期間権利を行使しないと時効によって、消滅してしまいます。しかし、以下の3つのケースについては、例外的に時効が適用されませんので、時効期間の3年経過後であっても残業代請求が可能です。

会社が時効の援用をしないケース

残業代は、時効期間が経過した時点で自動的に消滅するわけではありません。時効により権利を消滅させるためには、債権者(会社)が時効の援用という手続きを行う必要があります。

時効の援用とは、簡単にいえば「残業代は時効になっているので支払いません」という意思表示をすることです。

そのため、会社が時効の援用を行わない態度を示している場合には、時効期間経過後であっても未払いの残業代を請求することができます。

信義則上時効の援用が制限されるケース

残業代は、会社による時効の援用によって消滅しますが、信義則上、時効の援用が制限されるケースもあります。それは、時効完成後に会社が未払い残業代の支払い義務を認めたり、未払い残業代の一部を支払った場合です。

このような行為があった場合、労働者は、「会社はもう時効を援用しないだろう」との期待を抱きますので、その期待を保護するために、会社からの時効の援用は信義則上制限されることになります。

そのため、残業代が時効になっていたとしても、そのことを知らずに会社が支払いに応じてくれる可能性もありますので、まずは時効になっている部分も含めてすべての残業代を請求してみるとよいでしょう。

時効の援用が権利濫用にあたるケース

会社による時効の援用が権利濫用にあたる場合には、時効の援用は認められず、時効期間が経過していたとしても未払いの残業代を請求することができます。

会社による時効の援用が権利濫用にあたるケースとしては、以下のようなケースが考えられます。

  • 会社がタイムカードの情報を偽装するなどして残業代請求を妨害した
  • 会社がタイムカードや賃金台帳の提出を拒否したため、時効期間が経過してしまった

実際の裁判例でも、労働者側において、複数回の団体交渉、労働委員会でのあっせん手続、催告の手続きを行っており、労働者側に給与明細のほかに時間外手当・深夜手当を算出する資料がなく、計算に相当程度の準備期間を要することを会社側も承知していたという事案において、会社側からの時効援用を権利濫用と判断したものもあります(長野地裁佐久支部平成11年7月14日判決)。

ただし、権利濫用により時効の援用が制限されるケースは、実際には稀なケースといえますしかし、このようなケースに該当する事情がある場合には、時効期間が経過していても、残業代請求が認められる可能性がありますので、諦めずに請求していくことが大切です。

 

未払い残業代を請求する方法

未払い残業代を請求する方法

会社に対して、未払い残業代を請求するには、以下のような方法で行います。

未払い残業代の証拠収集

未払い残業代を請求する場合、労働者の側で残業代が未払いであることを立証していかなければなりません。そのためには、未払い残業代を立証するための証拠が必要です。

残業代の請求は、会社を退職後であっても可能ですが、退職後だと残業代に関する証拠を集めるのが難しくなってしまいます。そのため、残業代請求をお考えの方は、会社に在籍中から未払い残業代に関する証拠を集めていくようにしましょう。

なお、未払い残業代の請求に必要となる代表的な証拠としては、以下のものが挙げられます。

  • 就業規則、労働契約書
  • 給与明細、源泉徴収票
  • タイムカード、勤怠管理システムの記録

未払い残業代の計算

未払い残業代の証拠が集まったら、その証拠に基づいて、未払い残業代の計算を行います。

具体的には、以下のような計算式によって残業代を計算します。

残業代=1時間あたりの賃金(月給÷1か月の平均所定労働時間)×残業時間×割増率

正しく残業代を計算するためには、各項目の正確な理解が必要になります。知識や経験がない方だと正確な残業代計算は難しいため、専門家である弁護士に任せた方が安心です。

会社との交渉

未払い残業代の金額が明らかになったら、会社との交渉を行い、未払い残業代の支払いを求めていきます。

残業代には時効という期間制限がありますので、交渉中に時効で残業代が消滅するのを防ぐためにも、まずは内容証明郵便を送付して、時効期間の進行をストップするとよいでしょう。

会社との交渉の結果、合意が成立した場合には、合意内容を書面にまとめることも忘れずに行うようにしてください。

労働審判

会社との話し合いがまとまらないときは、労働審判の申立てを行うことも有効な解決方法です。

労働審判とは、労働者と会社との間で生じたトラブルについて、迅速かつ適正に解決することができる手続きです。労働審判では、まずは話し合いによる解決(調停)が試みられ、話し合いがまとまらないときに裁判所が労働審判という形で判断を下します。そのため、裁判に比べて、解決までの期間が短く、実態に即した柔軟な解決が可能という特徴があります。

ただし、労働審判に異議がある場合には、2週間以内に異議の申立てをすることで通常の訴訟手続きに移行してしまいます。

訴訟

会社との話し合いや労働審判でも解決できない問題は、最終的に裁判所に訴訟提起することで解決を図ります。

訴訟の結果、勝訴判決を得れば、強制執行により未払いの残業代を強制的に回収することができます。

 

未払い残業代の請求を弁護士に依頼する4つのメリット

未払い残業代の請求を弁護士に依頼する4つのメリット

未払い残業代の請求を弁護士に依頼することで、以下のような4つのメリットが得られます。そのため、残業代請求をお考えの方は、早めに弁護士に相談することがおすすめです。

未払い残業代の証拠収集や計算をサポートしてもらえる

未払い残業代を請求する前提として、未払い残業代の証拠収集や計算は、必要不可欠な作業になります。

しかし、一般の方では、どのような証拠が必要になるか判断することができず、正確に残業代を計算するのも難しいといえます。そのため、これらの手続きを適切に行うためには、専門家である弁護士のサポートが必要です。弁護士に依頼をすれば、証拠収集や残業代計算をサポートしてもらえますので、残業代の立証や計算が難しい事案でも、未払い残業代請求を実現できる可能性が高くなります。

残業代の時効完成前に迅速に対応してもらえる

長期間残業代が未払いになっている事案では、過去の残業代が時効により消滅してしまう可能性がありますので、まずは迅速に時効の完成猶予の措置を講じる必要があります。弁護士であれば、内容証明郵便を送付するなどして、時効の進行をストップした上で、迅速に訴訟提起の準備を進め、未払い残業代請求訴訟の提起を行うことが可能です。

また、すでに時効期間が経過してしまっている部分についても、弁護士に相談をすれば、残業代請求が可能であるかを判断してもらうことができます。例外的に時効が適用されない事案に該当するようであれば、過去の残業代についても支払ってもらえる可能性があります。

会社との交渉を任せることができる

弁護士に依頼をすれば、その後の会社との対応はすべて弁護士が対応します。

労働者自身で対応するのはストレスが大きいですが、弁護士に任せれば、そのような負担は一切ありません。また、労働者個人での交渉だと会社がまともに取り合ってくれないこともありますが、弁護士が交渉の窓口になればそのような心配はありません。

ご自身で交渉するのが少しでも負担に感じるようであれば、早めに弁護士に相談するのがおすすめです。

労働審判や訴訟になった場合も対応できる

会社との交渉で解決しない場合には、労働審判の申立てや訴訟提起が必要になります。

不慣れな方では、どのように手続きをすすめればよいかわからず、手間取っている間に時間が経過してしまい、大切な残業代が時効になってしまうおそれもあります。

弁護士であれば、交渉による解決が難しいと判断すれば、直ちに労働審判や訴訟などの手続きに切り替えて争っていくことができますので、時効により残業代が消滅してしまう心配はありません。

迅速に手続きを進めるためには、専門家である弁護士のサポートが必要になりますので、まずは弁護士にご相談ください。

 

まとめ

残業代には、3年という時効がありますので、長期間未払いのまま放置していると時効により大切な残業代がなくなってしまう可能性があります。時効の完成が迫っている場合には、時効の完成猶予や更新といった方法により、時効の完成を阻止することができますので、早めに弁護士に相談することをおすすめします。

会社に対する残業代請求をお考えの方は、グラディアトル法律事務所までお気軽にご相談ください。

弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。

お悩み別相談方法

相談内容詳細

よく読まれるキーワード