デザイナーの残業代は裁量労働制でも請求可能|違法になる5つの例

デザイナーの残業代は裁量労働制でも請求可能|違法になる5つの例

デザイナーとして働いている方のなかには、「裁量労働制だから残業代は出ない」「クリエイティブ職は残業代の対象外」と会社から説明されている方もいるのではないでしょうか。

しかし、デザイナーであっても残業代は、原則として支払われるべきものです。会社が裁量労働制を採用している場合でも、制度の要件を満たしていなければ残業代を請求できる可能性があります。

実際、デザイナーの労働環境は長時間労働になりやすいといわれています。ある調査では、デザイナーの平均残業時間は月21.6時間程度とされており、一般職種と比べても決して少なくありません。

残業が多くなる背景には、次のような業界特有の事情があります。

・クライアントの修正依頼が頻繁に発生する
・納期が短くタイトなスケジュールになりやすい
・コンペやプレゼン準備による追加作業が発生する
・夜間・休日の修正対応を求められるケースがある

このような事情から、長時間労働が常態化しているデザイン業界ですが、会社が適切に制度を運用していない場合には、未払い残業代を請求できる可能性があります。

本記事では、

・デザイナーでも残業代が発生する基本ルール
・裁量労働制と残業代の関係
・裁量労働制でも残業代請求が可能なケース
・実際の裁判例や証拠の集め方

などについて、わかりやすく解説します。

残業代請求を検討しているデザイナーの方は、ぜひ参考にしてください。

目次

デザイナーでも残業代は原則支払われる

「デザイナーは裁量労働制だから残業代が出ない」と会社から説明されているケースは少なくありません。しかし、デザイナーであっても残業代は原則として支払われるべきものです。以下では、残業代が発生する基本ルールと「デザイナーだから残業代が出ない」という認識が誤解であることを説明します。

残業代が発生する基本ルール

労働基準法では、1日8時間・週40時間を超えて働かせた場合には、会社は割増賃金(残業代)を支払わなければならないと定められています。

この法定労働時間を超えて働いた場合には、次のような割増率で残業代が支払われます。

・時間外労働(1日8時間・週40時間を超える労働):25%以上の割増
・深夜労働(午後10時〜午前5時):25%以上の割増
・休日労働(法定休日):35%以上の割増

たとえば、通常の時給が2000円の場合、時間外労働では少なくとも2500円以上の賃金を支払う必要があります。

このルールは職種に関係なく適用されます。つまり、営業職や事務職だけでなく、グラフィックデザイナーやWebデザイナーなどのクリエイティブ職にも同様に適用されるのです。

そのため、会社が「デザイナーは残業代の対象外」と説明している場合でも、それだけで残業代の支払い義務がなくなるわけではありません。

「デザイナーだから残業代が出ない」は誤解

結論から言うと、「デザイナーだから残業代が出ない」というルールは法律上存在しません。

このような誤解が広がっている背景には、主に次の制度があります。

・専門業務型裁量労働制
・固定残業代(みなし残業代)制度
・管理監督者(いわゆる管理職)制度

これらの制度が適用される場合、表面上は残業代が支払われていないように見えることがあります。しかし、制度の要件を満たしていなければ違法となり、残業代を請求することができます。

特にデザイナーの残業代トラブルでは、裁量労働制が適法に適用されているかが大きな争点となります。そこで次章では、デザイナーと裁量労働制の関係について解説します。

デザイナーの残業代問題で最大の争点は「裁量労働制」の適用の有無

デザイナーの残業代トラブルでは、会社が「裁量労働制」を理由に残業代を支払っていないケースが多く見られます。もっとも、裁量労働制は、厳格な要件を満たした場合にしか認められない制度です。以下では、裁量労働制の基本的な仕組みと、デザイナーとの関係について説明します。

専門業務型裁量労働制とは何か

裁量労働制とは、実際の労働時間ではなく、あらかじめ定めた「みなし労働時間」を働いたものとみなす制度です。

通常の労働時間制度では、実際の労働時間に応じて賃金が支払われます。しかし裁量労働制では、たとえば「1日8時間働いたものとみなす」と定めた場合、実際の労働時間が7時間でも10時間でも、原則として8時間働いたものとして扱われます。

裁量労働制にはいくつかの種類がありますが、デザイナーに適用されることが多いのは専門業務型裁量労働制です。

専門業務型裁量労働制とは、業務の性質上、仕事の進め方や時間配分を労働者の裁量に委ねる必要がある場合に認められる制度で、労働基準法38条の3に定められています。

この制度を導入するためには、次のような手続きが必要です。

・労使協定を締結する
・協定を労働基準監督署へ届け出る
・対象業務やみなし労働時間を明確にする

これらの手続きが行われていない場合には、裁量労働制の適用が認められない可能性があります。

デザイナーは裁量労働制の対象になり得る職種

専門業務型裁量労働制は、法律で定められた特定の業務に限って適用できます。現在、対象業務は厚生労働省令および告示により20種類に限定されています。

その中には、「衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案業務」が含まれていますので、グラフィックデザイナーや広告デザイナーなどは、業務内容によっては専門業務型裁量労働制の対象になり得ます。

もっとも、すべてのデザイナーが裁量労働制の対象になるわけではありません。実際の業務内容が対象業務に該当するかどうかが重要になります。

裁量労働制が適用されるデザイナー/されないデザイナー

裁量労働制が適用されるかどうかは、職種名ではなく実際の業務内容によって判断されます。

たとえば、次のような業務は裁量労働制の対象となる可能性があります。

①裁量労働制が適用される可能性がある例

・広告デザインのコンセプトを考案する
・UI/UXデザインの設計を行う
・ブランドデザインの方向性を決定する

これらの業務は、創造性や専門的判断が求められ、労働時間の管理になじまないと考えられるためです。

②裁量労働制が認められにくい例

一方で、次のような業務は裁量労働制の対象とならない可能性があります。

・指示どおりに画像を修正する作業
・バナーやレイアウトの単純作成
・オペレーター的なデザイン作業

このように、会社から「デザイナーだから裁量労働制」と説明されていても、実際の業務内容によっては制度の適用が認められないことがあります。

その場合には、裁量労働制を前提とした残業代不払いが違法となり、未払い残業代を請求できる可能性があります。

【重要】裁量労働制でもデザイナーの残業代が請求できるケース

会社から「裁量労働制だから残業代は出ない」と説明されているデザイナーの方も多いでしょう。しかし、裁量労働制が適法に導入・運用されていない場合には、残業代を請求できる可能性があります。以下では、裁量労働制であってもデザイナーが残業代を請求できる主なケースを説明します。

【重要】裁量労働制でもデザイナーの残業代が請求できるケース

労使協定の締結・届出がない

専門業務型裁量労働制を導入するためには、労使協定を締結し、その内容を労働基準監督署へ届け出る必要があります。

労使協定とは、会社と労働者代表の間で結ばれる書面の合意のことです。この協定には、次のような内容を記載しなければなりません。

・対象となる業務・みなし労働時間
・健康・福祉確保措置・苦情処理措置など

もし会社がこれらの手続きを行っていない場合、裁量労働制は法律上成立していない可能性があります。

その場合、通常の労働時間制が適用されるため、実際の労働時間に基づいて残業代を請求することが可能です。

【2024年4月改正】労働者本人の同意を得ていない

2024年4月の制度改正により、専門業務型裁量労働制では労働者本人の同意を得ることが義務化されました。

つまり、会社が一方的に裁量労働制を適用することはできません。労働者本人が制度内容を理解したうえで、明確に同意している必要があります。

会社がこれらの手続きを行わずに裁量労働制を適用している場合、制度の適用自体が無効と判断される可能性があります。

労働者の働き方に裁量がない

裁量労働制が認められるためには、労働者が仕事の進め方や時間配分について実質的な裁量を持っていることが必要です。

しかし、実際の職場では、次のようなケースも少なくありません。

・出勤・退勤時間が厳しく管理されている
・業務の進め方が細かく指示されている
・上司の承認がないと作業を進められない

このような場合、実態として労働者に裁量がないと判断され、裁量労働制の適用が否定される可能性があります。

特にデザイン業務では、クライアントやディレクターの指示に従って作業を行うケースも多く、働き方の実態によっては裁量労働制が認められないことがあります。

みなし労働時間が実態とかけ離れている

専門業務型裁量労働制では、実際の労働時間ではなくあらかじめ定めたみなし労働時間が労働時間となります。

そのため、みなし労働時間を法定労働時間の範囲内で定めていれば、残業代は発生しません。

しかし、みなし労働時間が実際の労働時間とあまりにもかけ離れたものである場合には、専門業務型裁量労働制の適用は違法となります。

この場合は、実際の労働時間に基づいて未払い残業代を請求することができます。

みなし労働時間が法定労働時間を超えている

裁量労働制では、みなし労働時間が1日8時間(法定労働時間)を超える場合もあります。その場合には、超えた時間について残業代を支払う必要があります。

たとえば、

・みなし労働時間:10時間
・法定労働時間:8時間

この場合、2時間分は時間外労働として扱われるため、会社は割増賃金を支払わなければなりません。

しかし実務上は、みなし労働時間を長く設定しているにもかかわらず、残業代を支払っていないケースも見られます。このような場合には、未払い残業代を請求することが可能です。

裁量労働制以外でデザイナーの残業代が払われない典型例

デザイナーの残業代トラブルは、裁量労働制だけが原因とは限りません。実務では、別の制度を理由に残業代が支払われていないケースも多く見られます。しかし、これらの制度も法律の要件を満たしていなければ無効となり、未払い残業代を請求できる可能性があります。以下では、デザイナーの残業代問題でよく見られる典型的なケースを紹介します。

固定残業代(みなし残業代)が無効になるケース

固定残業代(みなし残業代)とは、あらかじめ一定時間分の残業代を給与に含めて支払う制度です。

たとえば、「月給30万円(固定残業代40時間分を含む)」といった給与体系がこれに当たります。固定残業代自体は、法律上認められている制度ですが、次の要件を満たしていなければ無効となる可能性があります。

・基本給と固定残業代が明確に区別されている
・何時間分の残業代なのかが明示されている
・固定残業時間を超えた残業について追加支払いがある

特にデザイン業界では、「給与に残業代を含む」とだけ説明されている、固定残業時間が示されていないといったケースも少なくありません。このような場合には、給与全体が基本給と判断され、別途残業代を請求できる可能性があります。

名ばかり管理職(管理監督者)として扱われているケース

労働基準法では、管理監督者に該当する場合には残業代の支払い義務がないとされています。

しかし、ここでいう管理監督者とは、単なる役職者ではなく、以下のような条件を満たしている必要があります。

・経営に近い立場で重要な権限を持っている
・労働時間の管理を受けない立場にある
・役職に見合った十分な待遇がある

そのため、単に「リーダー」「ディレクター」「マネージャー」といった肩書きが付いているだけでは、管理監督者とは認められない可能性があります。

デザイン会社では、次のようなケースが問題になることがあります。

・アートディレクターだが勤務時間は厳しく管理されている
・チームリーダーだが人事権や経営権限がない
・管理職扱いだが給与が一般社員と大きく変わらない

このような場合には、名ばかり管理職と判断され、残業代請求が認められる可能性があります。

業務委託デザイナーとして扱われているケース

デザイン業界では、社員として働いているにもかかわらず、形式上は業務委託契約として扱われているケースもあります。

業務委託契約の場合、原則として労働基準法は適用されないため、残業代は発生しませんしかし、雇用か業務委託契約かは契約の形式ではなく、実際の働き方によって判断されます。

たとえば、以下のような場合には「労働者」と判断される可能性があります。

・出勤時間や勤務場所が会社によって指定されている
・業務内容を会社から具体的に指示されている
・他社の仕事を自由に受けられない
・報酬が月給のような形で支払われている

このような場合、契約上は業務委託であっても、実態として労働者であると判断できるため、労働基準法が適用されて払い残業代を請求することが可能です。

デザイナーの残業代請求が認められた裁判例

デザイナーの残業代トラブルでは、会社が裁量労働制や固定残業代制度を理由に残業代の支払いを拒否するケースが少なくありません。しかし、裁判では制度の適用が否定され、残業代の支払いが命じられるケースもあります。

以下では、デザイン業務に関して残業代請求が認められた代表的な裁判例を紹介します。

専門業務型裁量労働制の適用を否定した裁判例|京都地裁平成29年4月27日判決

【事案の概要】

この事案は、絵画制作や建造物の彩色、神具・仏具の修復などに従事していた労働者らが、会社に対して未払い残業代などを請求したケースです。

会社側は、原告らの業務は専門性が高く、専門業務型裁量労働制の対象になると主張し、残業代の支払い義務はないと反論しました。

また、原告のうち1名については、会社側が「課長職なので管理監督者に当たる」とも主張していました。これに対し、労働者側は、そもそも裁量労働制の導入手続が適法に行われておらず、実際の働き方にも裁量はなかったとして、未払い残業代の支払いを求めました。

【裁判所の判断】

裁判所は、まず専門業務型裁量労働制を適法に導入するための手続が整っていたかを検討しました。

その結果、会社が労使協定を締結したと主張する一方で、過半数代表者が適法に選出されたことを裏付ける事情が認められないと判断しました。

さらに、就業規則の改訂内容についても、労働者に十分に周知されていたとはいえず、就業規則がいつでも閲覧できる状態にあったとも認められませんでした。

そのため裁判所は、専門業務型裁量労働制の採用手続は適法とはいえないと結論づけています。

そのうえで裁判所は、原告らの業務が裁量労働制の対象業務に当たるかどうかを判断するまでもなく、会社の裁量労働制の主張を退け、未払い残業代の請求を認めました。

また、会社が「課長職だから管理監督者に当たる」と主張した点についても、裁判所は、肩書きや一部の形式だけでは足りず、実際に経営上の重要な権限や十分な待遇が必要であるとしたうえで、管理監督者性も否定しました。

【弁護士からのコメント】

この判例の重要なポイントは、裁量労働制は「職種が専門的だから」という理由だけで当然に適用されるものではないという点です。

会社が裁量労働制を主張するためには、過半数代表者の適法な選出、労使協定の締結、就業規則の整備と周知など、法令上の手続をきちんと踏んでいなければなりません。

つまり、デザイナーやクリエイティブ職であっても、会社が形式的に「裁量労働制です」と説明しているだけでは足りず、導入手続や運用実態に不備があれば残業代請求が認められる可能性があるということです。

また、本判例では管理監督者性も否定されており、肩書きだけで残業代が出なくなるわけではないことも確認できます。

デザイン業界では、「裁量労働制だから」「課長だから」「クリエイティブ職だから」といった説明で残業代が支払われていないケースがありますが、実際には制度の要件を満たしていないことも少なくありません。会社の説明をうのみにせず、労働条件通知書、就業規則、労使協定の有無などを確認することが大切です。

グラフィックデザイナーの残業代が認められた裁判例|大阪地裁令和元年9月17日判決

【事案の概要】

この事案は、広告宣伝や商業デザインの企画・制作を行う会社で、グラフィックデザイン業務に従事していた労働者が、会社に対して未払い残業代などを請求したケースです。

労働者側は、平成27年7月分から平成29年6月分までの未払い時間外手当と付加金などを請求しました。これに対し会社側は、主に次のような反論をしていました。

・デザイナー職は専門性が高く、労働時間の把握が難しい
・出勤退社メールは労働時間管理のためではなく、業務報告のためのものにすぎない
・原告には朝食、昼寝、中抜け帰宅などがあり、メール記録どおりの労働時間とはいえない
・賞与の中に残業代相当額を含めて支払っていた
・体調不良後は、1週間40時間を限度として本人の裁量に任せる合意があったため、変形労働時間制が成立している

これに対し、原告は、出勤退社メールなどから実労働時間は把握でき、変形労働時間制も無効であり、賞与を残業代の支払いとみることもできないと主張しました。

【裁判所の判断】

裁判所は、まず出勤退社メールの送信時刻を、原則として出勤時間・退勤時間として認定しました。会社代表者自身が社員に対し、会社に来た時と帰る時にメールを送るよう指示していたことや、同僚の証言などから、メール記録は労働時間認定の有力な資料になると判断したためです。

もっとも、裁判所はメール記録をそのまま全面的に採用したわけではありません。原告には、夕方の帰宅や一部の居眠りなど、在社中に労務提供をしていない時間があったと認定し、その分を控除したうえで実労働時間を認定しています。つまり、労働者側の主張を丸ごと採用したのではなく、証拠に基づいて修正しながら残業時間を算定したということです。

次に、会社が主張した1か月単位の変形労働時間制については、裁判所はこれを否定しました。理由は、就業規則上、変形期間内の各週・各日の所定労働時間が特定されておらず、勤務割表などであらかじめ具体的に定められていたとも認められないからです。裁判所は、変形労働時間制は法定労働時間規制の例外である以上、法の要件を満たさない合意は無効であると判断しました。

さらに、会社は賞与が残業代の支払いに当たると主張しましたが、これも認められませんでした。裁判所は、労働条件通知書に「基本残業代はなし」と記載されている一方で、賞与を時間外手当の代わりとして支払う旨の明確な定めはなく、賞与のうちどの部分が通常の賞与で、どの部分が残業代なのかを判別できないとしています。そのため、支払済みの賞与を未払い残業代の既払金として扱うことはできないと判断しました。

その結果、裁判所は会社に対し、未払い割増賃金合計340万4287円と、これに対する遅延損害金の支払いを命じました。また、付加金についても、未払い額や事情を踏まえ、20万2559円の支払いを命じています。

【弁護士からのコメント】

この判例の重要なポイントは、「デザイナーだから労働時間を把握できない」という会社の言い分だけでは、残業代の支払い義務を免れないと示した点にあります。

たしかにデザイナー業務には裁量的な要素がありますが、それだけで労働時間管理が不要になるわけではありません。会社が出勤退社メールを送らせていた以上、その記録は労働時間認定の有力な証拠になります。実務でも、Slack、Chatwork、メール、PCログ、AdobeやFigmaの作業履歴など、デザイナー特有のデジタル記録が残業立証の重要な証拠になることは少なくありません。

また、この判例は、賞与を残業代の代わりにするには明確なルールが必要であることも示しています。会社側が「ボーナスで補填しているつもりだった」と主張しても、労働契約や就業規則上、通常賃金部分と割増賃金部分が明確に区別されていなければ、残業代を支払ったことにはなりません。これは固定残業代の問題にも共通する考え方です。

さらに、会社が変形労働時間制を主張しても、各日・各週の労働時間が事前に特定されていなければ無効となる可能性があります。現場対応として後から「今月は変形労働時間制だった」と説明しても、それでは足りません。

デザイン業界では、「自由な働き方だから残業代は出ない」「賞与で調整している」「裁量に任せている」と説明されることがあります。しかし、この判例からわかるのは、形式的な説明ではなく、制度の要件や証拠に基づいて判断されるということです。デザイナーの方で、長時間働いているのに残業代が出ていない場合は、会社の説明だけで諦めず、勤務記録や業務ログを整理したうえで、弁護士に相談することが重要です。

デザイナーが残業代を請求するために必要な証拠

デザイナーが残業代を請求するために必要な証拠

残業代請求では、「どれだけ働いたか」を証拠で示すことが重要です。特にデザイナーは、一般的なタイムカードだけでなく、日々の制作ログやチャット履歴など、業務の性質に応じた証拠が残りやすい職種でもあります。以下では、デザイナーが残業代を請求する際に重要となる証拠を説明します。

タイムカードがなくても残業は立証できる

残業代請求では、タイムカードや勤怠システムの記録が有力な証拠になります。しかし、タイムカードがないからといって残業代請求ができないわけではありません。

裁判や労働審判では、会社の正式な勤怠記録以外にも、労働時間を推認できる資料があれば証拠として評価されることがあります。実際、会社が労働時間を適切に管理していない場合には、労働者側が手元の資料を積み上げて労働時間を立証することになります。

たとえば、次のような資料も労働時間の裏付けになります。

・業務開始・終了時刻がわかるメール送信履歴
・パソコンのログイン・ログアウト記録
・業務チャットの送受信履歴
・日報や業務報告書
・スケジュール帳やメモ
・会社への入退館記録

このように、残業の立証は「1つの決定的証拠」だけで行うものではなく、複数の資料を組み合わせて行うことが多いのです。

特にデザイナーの場合、制作業務の過程でデジタル上の履歴が残りやすいため、勤怠記録が不十分でも、他の証拠によって残業時間を示せるケースがあります。

デザイナー特有の有効な証拠例

デザイナー特有の有効な証拠例

デザイナーの残業代請求では、一般的な勤怠資料に加えて、制作業務の履歴そのものが証拠になることがあります。デザイン業務では、制作ツールの履歴やチャット記録などが残ることが多いためです。

以下では、デザイナーの残業立証で役立つ代表的な証拠を紹介します。

①修正指示・業務指示のチャット(Slack/Chatworkなど)SlackやChatwork、Teamsなどのチャットツールには、業務指示や修正依頼の履歴が残ります。
深夜や休日に修正依頼が届いている記録や、それに対して返信している履歴があれば、その時間帯に業務をしていた証拠になります。

②Figma・Adobe等の作業履歴Figma、Adobe Illustrator、Photoshopなどのデザインツールには、編集履歴や保存履歴が残ることがあります。
深夜の編集履歴や頻繁な更新履歴が確認できれば、実際の作業時間を示す資料になります。

③プロジェクト管理ツールのログBacklog、Notion、Trello、Asanaなどのプロジェクト管理ツールでは、タスク更新やコメント履歴が記録されています。
深夜や休日のタスク更新履歴は、その時間帯に業務を行っていたことの裏付けになります。

④納期・修正回数と勤怠の矛盾会社の勤怠記録では残業が少ないことになっていても、案件数や修正回数を見ると、その時間内で処理するのが難しい場合があります。
業務量と勤務時間の不自然なギャップは、実際には長時間労働があったことを示す事情になります。

⑤クライアント対応履歴・深夜対応の証跡クライアントとのメールや打ち合わせ記録も証拠になります。
深夜のメール返信や休日の対応履歴が残っていれば、所定労働時間外の業務を裏付ける資料になります。

このように、デザイナーの残業代請求では、制作ツールやチャットなどのデジタル履歴が重要な証拠になることが少なくありません。これらの資料を時系列で整理することで、残業時間を立証できる可能性があります。

【モデルケース】デザイナーとして働く労働者の残業代請求の具体例を弁護士が解説

ここでは、デザイナーの残業代請求がどのように進むのかをイメージしやすくするため、架空のモデルケースを紹介します。実際の案件でも、労働時間の証拠や会社の制度の問題点を整理することで、未払い残業代の請求が認められるケースがあります。

事例①|裁量労働制とされていたが、実際には裁量がなかったケース

事例①|裁量労働制とされていたが、実際には裁量がなかったケース

【事案の概要】

Aさんは広告制作会社でグラフィックデザイナーとして働いていました。
会社では「専門業務型裁量労働制」が適用されていると説明されており、残業代は支払われていませんでした。

しかし実際の働き方は次のようなものでした。

・出社時間は毎日10時に固定されていた
・業務内容や進め方はディレクターの指示どおりに行う必要があった
・クライアント対応や修正作業で深夜まで働くことが多かった

Aさんは、月80時間近い残業があるにもかかわらず、残業代が一切支払われていないことに疑問を感じ、弁護士に相談しました。

【残業代請求の経過】

弁護士が調査したところ、会社には裁量労働制の労使協定が存在しないことが判明しました。

さらに、業務の進め方も上司の指示に従う形であり、労働者の裁量がほとんど認められない状況でした。

そこで、Aさんは会社に対して未払い残業代の支払いを請求しました。

交渉の結果、会社は裁量労働制の適用が適法ではないことを認め、約420万円の未払い残業代を支払うことで和解しました。

【弁護士による解説】

裁量労働制は、適用できる職種や導入手続が法律で厳格に定められています。

そのため、会社が「裁量労働制」と説明していても、労使協定がない、本人同意がない、実際には裁量がないといった場合には、制度の適用が否定される可能性があります。

デザイン業界では、形式的に裁量労働制が導入されているケースも少なくないため、制度の適法性を確認することが重要です。

事例②|固定残業代制度が無効と判断されたケース

事例②|固定残業代制度が無効と判断されたケース

【事案の概要】

BさんはWeb制作会社でUIデザイナーとして勤務していました。

雇用契約書には「月給30万円(固定残業代を含む)」とだけ記載されており、残業代は支払われていませんでした。
Bさんは毎日深夜まで作業することが多く、月60時間以上の残業が続いていました。
しかし、会社は「固定残業代を含んでいるので追加の残業代は発生しない」と説明していました。

【残業代請求の経過】

弁護士が契約書や給与明細を確認したところ、

・基本給と固定残業代の区別がない
・何時間分の残業代なのか不明
・固定残業時間を超えた場合の支払い規定がない

という問題が見つかりました。

このような場合、固定残業代制度は無効であることから、会社に対して未払い残業代の請求を行いました。会社との交渉の結果、Bさんには約310万円の未払い残業代が支払われました。

【弁護士による解説】

固定残業代制度が有効と認められるためには、次のような条件を満たす必要があります。

・基本給と残業代部分が明確に区別されている
・何時間分の残業代なのかが明示されている
・固定時間を超えた残業代の支払いが定められている

これらの条件を満たしていない場合、固定残業代制度は無効と判断されることがあります。

今回のケースでは、これらの条件を満たしていないことから、これまで支払われた固定残業代部分はすべて基本給とみなされ、最大で過去3年分の未払い残業代の請求が可能となりました。

事例③|タイムカードがなくても残業が認められたケース

事例③|タイムカードがなくても残業が認められたケース

【事案の概要】

Cさんはデザイン会社でグラフィックデザイナーとして働いていました。

会社にはタイムカードがなく、労働時間の記録もほとんど残っていませんでした。

しかし実際には、クライアントからの修正依頼が深夜に届くことも多く、納期前には夜遅くまで作業することが常態化していました。

【残業代請求の経過】

弁護士は、次のような資料を証拠として整理しました。

・Slackの修正指示履歴
・Figmaの編集履歴
・クライアントとのメール履歴
・プロジェクト管理ツールのログ

これらを時系列で整理することで、深夜まで作業していた実態を示すことができました。

その結果、労働審判で残業時間が認定され、約260万円の未払い残業代が支払われる内容で調停が成立しました。

【弁護士による解説】

残業代請求では、必ずしもタイムカードが必要というわけではありません。

メールやチャット、制作ツールの履歴などから、労働時間を推認できることがあります。

特にデザイナーの場合、制作ツールや業務チャットの履歴が残っていることが多いため、デジタルログが重要な証拠になるケースが少なくありません。

タイムカードがないからといって諦めるのではなく、手持ちの証拠を整理して一度弁護士に相談してみるとよいでしょう。

デザイナーの残業代請求の流れ

未払い残業代を請求する場合、いきなり裁判を起こすわけではありません。通常は、証拠を整理したうえで会社に請求し、交渉や労働審判などの手続きを経て解決を目指します。

以下では、デザイナーが残業代請求を行う一般的な流れを説明します。

内容証明郵便の送付

まず、会社に対して未払い残業代の支払いを求める通知を送ります。

この際に利用されることが多いのが「内容証明郵便」です。

内容証明郵便とは、

・どのような内容の文書を
・いつ
・誰から誰に送ったのか

を郵便局が証明してくれる制度です。

残業代請求では、内容証明郵便を送ることで、会社に正式な請求を行ったことを証明できます。また、弁護士名義で送付することで、会社が交渉に応じる可能性が高くなることもあります。

会社との交渉

内容証明郵便を送付した後、会社との間で任意交渉が行われることがあります。

交渉では、主に次のような点が話し合われます。

・未払い残業代の金額
・労働時間の認定
・支払方法や分割払いの可否
・和解条件

交渉で双方が合意すれば、裁判をせずに解決することも可能です。実務では、交渉段階で解決するケースも少なくありません。

労働審判の申立て

交渉で解決できない場合には、労働審判を申し立てることがあります。

労働審判とは、裁判所で行われる労働トラブル解決手続で、原則として3回以内の期日で結論を出すことを目指す制度です。通常の訴訟よりも短期間で解決できるため、残業代請求では多く利用されています。

労働審判では、裁判官と労働審判員が双方の主張や証拠を検討し、調停による解決を試みます。調停が成立すれば、その内容は裁判の判決と同じ効力を持ちます。

訴訟の提起

労働審判でも解決できない場合や、会社が争う姿勢を示している場合には、訴訟を提起することになります。

訴訟では、証拠や主張をもとに裁判所が判断を下します。

判決で未払い残業代の支払いが認められた場合には、会社に対して強制執行を行うことも可能です。

デザイナーの残業代請求はグラディアトル法律事務所にお任せください

デザイナーの残業代請求はグラディアトル法律事務所にお任せください

デザイナーの残業代問題では、「裁量労働制だから残業代は出ない」「クリエイティブ職は労働時間を管理できない」といった理由で、会社から残業代の支払いを拒まれるケースが少なくありません。しかし、裁量労働制の要件を満たしていない場合や、制度が適切に運用されていない場合には、未払い残業代を請求できる可能性があります。

グラディアトル法律事務所は、残業代請求をはじめとする労働問題の解決実績が豊富な法律事務所です。これまで多くの労働者の方からご相談をいただき、交渉・労働審判・訴訟などさまざまな手続を通じて未払い残業代の回収をサポートしてきました。

特にデザイナーの残業代請求では、チャット履歴や制作ツールのログ、プロジェクト管理ツールの記録など、一般的な勤怠資料以外の証拠が重要になることがあります。当事務所では、こうしたデザイナー特有の証拠の整理や立証方法についても適切にアドバイスし、依頼者の方の権利を守るために尽力します。

「裁量労働制だから残業代は請求できないのではないか」「タイムカードがないが請求できるのか」といった疑問がある方も、まずはお気軽にご相談ください。グラディアトル法律事務所が、状況に応じた最適な解決方法をご提案いたします。

まとめ

デザイナーであっても、原則として残業代は支払われるべきものです。「裁量労働制だから残業代は出ない」「クリエイティブ職は残業代の対象外」といった説明を受けていても、制度の要件を満たしていない場合には未払い残業代を請求できる可能性があります。

特にデザイン業界では、裁量労働制の適用の有無や固定残業代の有効性、管理監督者性などが争点になることが多くあります。また、タイムカードがなくても、チャット履歴や制作ツールのログなどから残業時間を立証できるケースも少なくありません。

長時間労働が続いているにもかかわらず残業代が支払われていない場合は、証拠を整理したうえで、早めに弁護士へ相談することが重要です。残業代請求をお考えのデザイナーの方は、経験と実績豊富なグラディアトル法律事務所までお気軽にご相談ください。

弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力。数多くの夜のトラブルを解決に導いてきた経験から初の著書「歌舞伎町弁護士」を小学館より出版。 youtubeやTikTokなどでもトラブルに関する解説動画を配信している。

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