風俗嬢・AV女優などの書き込みは名誉毀損・プライバシー権侵害になるのか?

インターネット上での誹謗中傷の削除や犯人特定のための発信者情報事案では、ホスラブ、爆サイ、5ちゃんねるなどの掲示板や、TwitterなどのSNSなどで、風俗店で勤務していると投稿されたり、AV(アダルトビデオ)に出演していると投稿されたりする事例があります。

風俗嬢であるという指摘や、AV女優であるという指摘は名誉毀損に当たるのでしょうか?

名誉毀損の成立には、社会的な評価を低下させる事実を摘示することが必要です。

では、風俗業界で働くことやAV(アダルトビデオ)業界で働くことが社会的な評価を低下させるのでしょうか?

風俗業界で働くことやAV(アダルトビデオ)業界で働くことの事実の摘示が名誉毀損にあたり、社会的評価を低下させると判断することは、業界で働く人たちの職業差別することになるようにも思えるため、問題になります。

この問題について、名誉毀損の考え方や、実際の判例の判断をみつつ、解説をしていきます。

また、これらの事実はプライバシー権との関係でも問題になりますので、こちらについても解説をしていきます。

名誉毀損とは

名誉毀損とは、対象者の社会的な評価を低下させる事実の摘示のことをいいます。

そして、名誉とは、『人の品性,徳行,名声,信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価』であると解釈されています(最大判昭和61年6月11日民集40巻4号872頁)。

名誉毀損における名誉は、名誉感情侵害における名誉とは異なり、外部的名誉・社会的名誉のことをいいます。

名誉毀損や名誉感情侵害についての詳細は、以下の記事もご参照ください。

名誉毀損と逮捕・刑事事件,損害賠償

ホスラブで名誉感情侵害を認めた判例まとめ

 

名誉毀損と職業差別

風俗業界で働くことやAV(アダルトビデオ)業界で働くことの事実の摘示が、対象者の社会的評価を低下させると判断することは、その仕事事態を差別することになるとも考えられます。

名誉毀損を認めることにより、風俗やAVなどの仕事を社会的評価を低下させる仕事であると判断することにもなるように思えるからです。

このような問題について、名誉毀損ではなく、プライバシー権の侵害として捉えるべきであり、名誉毀損は成立しないという考え方もあります。

しかし、伝統的な考え方や、最近の裁判例の考え方としては、社会に偏見や差別が存在し、事実の摘示によって社会から受ける客観的な評価が低下する以上、名誉毀損は成立すると考えております。

判例が、名誉について、外部的名誉・社会的名誉、すなわち、人の品性,徳行,名声,信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価であると考えているため、このような結論は整合性が取れていると考えられます。

東京地判平成29年9月15日も、特殊な性癖について、ここでの問題は、アナルセックスをすることの当否ではなく、これに対する社会一般の受け止め方であるところ、アナルセックスは性行為の態様として一般的とはいえず、そのため、社会の中には、その有する価値観によっては、上記のような性的嗜好を有する者に対し、違和感、抵抗感あるいは嫌悪感を抱く者が存在することは、事実として否定できないところであるとして、名誉毀損を認めました。

本件Cは、原告が女性とアナルセックスをした、又はしようとしたという事実(本件事実)を摘示したものである。

被告は、アナルセックスは多くの人に認知され受け入れられた性的嗜好であるし、また、人の愛し方は多様であり、膣に陰茎を挿入して愛し合うことと肛門に陰茎を挿入して愛し合うことは同様に認められなければならないのであって、そのような性的嗜好を有することによって社会的評価が低下すると評価することは、人の愛し方の多様性を否定するものであり、性的少数者に対する差別であって、許されない旨主張する。

しかしながら、名誉とは、人がその品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的な評価、すなわち社会的名誉を指すものであるから(最高裁昭和43年(オ)第1357号同45年12月18日第二小法廷判決・民集24巻13号2151頁)、ここでの問題は、アナルセックスをすることの当否ではなく、これに対する社会一般の受け止め方であるところ、アナルセックスは性行為の態様として一般的とはいえず、そのため、社会の中には、その有する価値観によっては、上記のような性的嗜好を有する者に対し、違和感、抵抗感あるいは嫌悪感を抱く者が存在することは、事実として否定できないところである。

そうすると、本件事実の摘示によって原告の社会的評価は低下したものと認めるのが相当である。

東京地判平成29年9月15日

風俗・AVと名誉毀損の裁判例

裁判例を見ると、風俗業界やAV業界で働いているという事実の摘示について、名誉毀損を認めているものが多いです。

風俗嬢との指摘に名誉毀損・プライバシー権侵害を認めた裁判例

東京地判平成29年3月16日は、Twitterにおいて、原告になりすましたアカウントが作成され、原告の名前とともに「風俗嬢です。右太ももに鶴のタトゥーをいれてます。音楽が好きです。#風俗嬢#セックス#淫乱#エロ#エッチ#自分撮り」という文言と共に、女性の下着姿の写真が投稿されていた事例で、原告が発信者情報開示請求をし、開示が認められた裁判例です。

本件投稿は、「X 風俗嬢です。右太ももに鶴のタトゥーをいれてます。音楽が好きです。#風俗嬢#セックス#淫乱#エロ#エッチ#自分撮り」というものであり、原告が「風俗嬢」であるとする事実と異なる記載や、右太ももに鶴のタトゥーを入れているという、人に知られたくない身体上の特徴について、原告の名前で記載されているものであり、「#風俗嬢#セックス#淫乱#エロ#エッチ#自分撮り」の記載や、下着姿の女性の写真などと共に掲載されていることからすると、一般人の通常の注意と読み方を基準として、本件投稿は、原告が、太ももに鶴のタトゥーを入れた風俗嬢であることを自ら標榜するとの印象を与える内容であり、原告の社会的評価を低下させるものであり、また、原告のプライバシーを明らかに侵害するものであると認められる。

東京地判平成29年3月16日

AV出演をした指摘に名誉毀損を認めた裁判例

東京地判平成29年9月26日は、インターネット上の掲示板に、アダルトビデオに出演していると投稿がなされた事例で、裁判所は、名誉毀損を認め、原告の発信者情報開示請求を認めました。

以上を前提に、本件各投稿が原告の権利を侵害するか否かについて検討する。別紙投稿記事目録記載1ないし6、8ないし10の各記事は、いずれもその記載内容から、原告がアダルトビデオに出演しているとの事実又は原告が「ヤクザかぶれ」すなわち暴力団関係者であるとの事実を摘示し、同目録記載7の記事は、原告が違法薬物であるコカインを好んでいるとの事実を摘示しているといえ、いずれも原告の社会的評価を低下させる内容のものと認められる

東京地判平成29年9月26日

AV製作に関与した指摘に名誉毀損を認めた裁判例

東京地判平成10年7月10日は、雑誌記事の内容が名誉毀損に該当するとして、謝罪広告を求めた事件です。

その中で、被告側は、アダルトビデオ製作は正当な経済活動であってこの事実の摘示は原告の社会的評価を低下させるものではないと主張しましたが、裁判所は、アダルトビデオ自体が、一般的に低俗でいかがわしいイメージを持たれていることなどから名誉毀損を認めました。

被告らは、アダルトビデオ製作は正当な経済活動であり、右の事実の摘示によって、原告山本の社会的評価が低下することはないと強弁するが、アダルトビデオ自体が、一般的に低俗でいかがわしいイメージを持たれており、仮にアダルトビデオ製作に携わっていることが真実であるとしても、通常の感覚を有する一般人であれば右事実の公表を望まないであろうことからすると(のみならず、原告山本の経営する会社がアダルトビデオを製作する会社であるとの記載については、被告野坂本人の供述によっても、業界内の噂や、会社の売上高からの推測に基づくものにすぎないというのであり、それが真実であると認めるに足りる証拠はない。)、原告山本がアダルトビデオ製作会社を経営しているとの記載がされることによって,原告山本の社会的な評価が低下することは明白である。

東京地判平成10年7月10日

風俗・AVとプライバシー権侵害

風俗業界やAV業界で働いていることの指摘は、プライバシー権侵害に該当するのでしょうか?

プライバシー権は、個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されないという権利や自己に関する情報をコントロールする権利などと定義されています。

以下の3つがプライバシー権侵害の判断要素になると考えられています。

私事性(私生活上の事実)
秘匿性(公開されたくない事実)
非公知性(公にされていない事実)

風俗やAVなどの職業は、一般的には、通常秘匿したい事実であり、センシティブなものであるとして、プライバシー権侵害が認められることが多いです。

 

東京地判平成27年6月18日は、風俗店勤務者の実名を掲示板に投稿した事例について、性風俗業は、社会通念上も、社会的偏見の強い職業であると認められるから、一般人の感受性を基準としても、当該私人の立場に立った場合、公開を欲しないものであるとして、プライバシー権侵害を認めました

そして、性風俗業は、社会通念上も、社会的偏見の強い職業であると認められるから、一般人の感受性を基準としても、当該私人の立場に立った場合、公開を欲しないものであるというべきであり、原告のプライバシー権を侵害するものと認められる。

この行為につき、原告は一般企業に勤務する私人であり(甲8)、本件記事3の内容も公共の利害に係るものともいえず、違法性阻却または故意・過失の阻却をうかがわせるような事情も認められない。

東京地判平成27年6月18日

東京地判平成27年12月8日は、風俗で働いていたという虚偽の事実の摘示について、名誉毀損とプライバシー権侵害を認めました

本件投稿は、原告が風俗店で性的サービスを行っていたとする虚偽の事実を摘示するものと認められるから、社会通念上、原告の社会的評価を低下させるものというべきであり、原告の名誉権及びプライバシー権を侵害するものとと認められる。

東京地判平成27年12月8日

東京地判平成27年7月30日は、ライブチャット嬢であることの公開について、プライバシー権侵害を認めました

そして、原告は「C」の名称を使用して、インターネットを通じて相手の映像を見ながら音声又は文字によって会話をするサービスを行っているが、上記各属性又は情報は、いずれも一般人をして通常公開を望まない内容であるということができ、本件記事で公開された内容は、まさにかかる内容の一つである。したがって、本件記事は原告のプライバシー権を侵害することが明らかであり、また発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるというべきである。

東京地判平成27年7月30日

 

まとめ

以上でみてきたように、風俗業界で働くことやAV(アダルトビデオ)業界で働くことの事実の摘示が、対象者の社会的評価を低下させると判断することは、その仕事事態を差別することになるとも考えられますが、裁判例は、名誉を社会的名誉・外部的な名誉と考え、名誉毀損を認める傾向にあります。

また、名誉毀損の他、風俗業界で働くことやAV業界で働いている事実は、一般的に公開を欲しない事実であるとして、プライバシー権侵害も認められる傾向にあります。

発信者情報開示請求や損害賠償請求等の訴訟提起等をしていく場合には、名誉毀損・プライバシー権侵害の両建てで請求していくのがよいでしょう。

弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。

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