名誉毀損と逮捕・刑事事件,損害賠償

名誉毀損とは?

よく聞く言葉だけど・・・
「名誉毀損」という言葉をお聞きしたことはあると思います。

SNSで人の悪口を言うと名誉毀損になることがある,ということも知ってらっしゃる方も多いでしょう。そんなネット社会では,あなたが名誉毀損の被害者となるかもしれません。

でも,名誉毀損ってされたら何ができるの?
そもそも,名誉ってなんなの?

匿名掲示板で名誉毀損された場合って,誰が言ってるかわからないけど,どうすればいいの?
名誉毀損の書き込みってネットの上でずっと残っちゃうの?

これらの質問にスラスラ答えることができる人は多くないのではないでしょうか?
本日は,そんなよく聞く言葉だけど,意外と知らない名誉毀損について説明させていただきます。

そもそも「名誉」って何?
名誉毀損と言ったときの「名誉」とは何でしょう?
誇らしいという感情でしょうか?
高い身分や偉い肩書でしょうか?
それとも人からの評価でしょうか?

法律上の名誉とは,『人の品性,徳行,名声,信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価』であるとされています(最大判昭和61年6月11日民集40巻4号872頁)。

ですから,人に対する社会的な客観的評価を下げる言動をすれば,名誉毀損に当たります。

※あくまでこれは法律上の「名誉」の定義であり,その他の「名誉」の定義が間違っているというわけではありません。

名誉毀損をされたら何ができるの?

名誉毀損された場合,何ができるのでしょう?
大きく分けて,4つのことができるとお考え下さい。

a. 名誉毀損してきた者を告訴して刑事裁判を経て有罪して罪を償ってもらう。
b. 民事事件で名誉毀損した者を訴え,損害賠償請求をする。
c. 名誉毀損の書き込みを削除してもらう。
d. 新聞等で謝罪広告を出してもらう。

a.が刑事事件

b.c.d.が民事事件ということになります。

この中のひとつだけを求めても良いですし,全部求めても構いません。
誰に対して申立てを起こすのか,どのようなことになるのかという点が全く異なりますので,名誉毀損をされた場合には,あなたが何をしたいのか考えることが大切です。

刑事事件における名誉毀損罪

名誉毀損罪の成立要件は?

名誉毀損罪は,刑法230条1項に規定されています。

刑法230条1項

公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。

細かい要件の説明は省略しますが,刑法上の名誉毀損に当たる行為とは,「人の社会的な客観的評価を害するおそれのある事実を指摘して,その事実が不特定多数に伝わる可能性がある状態にすること」をいいます。

また,名誉毀損罪は親告罪であり,被害者からの告訴がなければ,その後の刑事手続は進みません

名誉毀損罪が成立しないケースは?

A 条文上の文言
「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者」に当てはまる言動であっても、免責され名誉毀損に問われないこともあります。

刑法230条の2第1項

前条第1項の行為が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には,事実の真否を判断し,事実であることの証明があったときは,これを罰しない

B 公共の利害に関する事実公益目的があり,真実性の証明ができるケース
簡単に言うと「たくさんの人がそのニュースを知ることでみんなのためになるし、それが本当のことって証明できるよ」という意味です。
たとえば,とある寿司屋のチェーン店で食中毒が発生し,それがニュースで報道されるような場合のことを言います。

C 公共の利害に関する事実で公益目的があり,真実性の錯誤があったケース
名誉毀損の要件をすべて満たしているときに、真実性の証明ができないケースでも免責されることがあります。真実性の錯誤があったケースです。

真実性の錯誤とは,「真実だと根拠があって信じていたけれど、それが真実であると証明できなかった。または,真実ではなかった。」という意味です。

重要なのは、本人が真実と思い込んだだけでは免責されないという点です。あくまで、社会通念上信じることもやむなしと考えられるような根拠をもって、真実と誤信することが要求されます。

インターネットで見たという程度の根拠では、真実性の誤信があったとは評価されないと考えられます。

 

裁判で有罪となった場合の名誉毀損罪の刑罰の量刑相場は?

名誉毀損罪で有罪となった場合には,条文上は,「3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。」となっています。

平成以降で名誉毀損罪のみで起訴され(名誉毀損罪となる行為を2つ以上行って併合罪となったケースも含む),有罪となった裁判例を調べたところ,罰金であれば20万〜30万円,懲役8ヶ月〜1年2ヶ月で執行猶予がついているものが多いです。

ただし,横浜地裁平成5年8月4日判決(判例タイムズ831号244頁)のように,懲役1年6ヶ月の実刑判決を受けているものもありますので,上の刑罰の範囲に必ず収まるというものではありません。

 

民事事件における名誉毀損に基づく損害賠償請求

名誉毀損毀損に基づく損害賠償請求の要件は?

名誉毀損に基づく損害賠償を請求する際の根拠条文は,民法709条の不法行為になります。

この条文を名誉毀損の事件に当てはめて不法行為の要件を解釈すると,以下が損害賠償請求をするために立証しなければならない事実となります。

※AがBの名誉毀損を行ったことを前提とします。

① AがBの社会的評価を低下させる事実を流したこと
② ①により,Bの社会的評価が低下したこと
③ Aがわざと,又は,わざとではないが誤って社会的評価を下げる事実を流したこと
④ Bの社会的評価が低下したことによって生じた損害とその額

名誉毀損毀損の要件を満たすが,損害賠償が認められない場合は?

上の①〜④の要件を満たしても,損害賠償請求が認められないケースがあります。

刑事事件の場合と同じく,

○公共の利害に関する事実で公益目的があり,真実性の証明ができるケース,

○公共の利害に関する事実で公益目的があり,真実性の錯誤があったケース

は,不法行為の要件たる故意,過失が認められないので,損害賠償請求はできません。。

 

名誉毀損に基づく損害賠償事件の裁判例
インターネット掲示板やSNSなどに人のことを書き込んだことがある人は多いのではないでしょうか。

後でも述べますが,民事上の損害賠償請求は,過失で名誉毀損に当たる書き込みをしても行うことができます。

そこで,名誉毀損に基づく損害賠償請求事件,特にインターネット掲示板に名誉毀損となる書き込みをした裁判例を調べてみました。

今回は,簡単な事案及びいくらの慰謝料(精神的苦痛に対する損害賠償)を請求し,いくらの慰謝料が認容されたのかをお教えします。

※請求の認容額とは異なります。

A 大阪地判平成29年11月16日判決
在日朝鮮人のフリーライターであるXが、Yがインターネット上にXに関する投稿の内容をまとめたブログ記事を掲載したことは、Xに対する名誉毀損、侮辱、人種差別、女性差別、いじめ、脅迫及び業務妨害に当たり、これにより精神的苦痛を被った等と主張して、Yに対し慰謝料等の支払を求めた件につき、請求が一部認容された事例。
慰謝料の請求額:2000万円
慰謝料の認容額:180万円

B 東京地判平成24年01月31日判決
個人事業主であるSEの仕事先の従業員が、仕事先会社について語るウェブサイト内のスレッドに同人が特定できる態様で「女子トイレにおいて盗撮を行っている」旨の書き込みをして、前記SEの名誉を毀損した事案
慰謝料の請求額:400万円
慰謝料の認容額:100万円
弁護士費用:10万円
調査費用:63万円

C 東京地判平成29年09月15日判決
本件は、原告が、被告に対し、被告が、B(Cと呼ばれる140文字以内のメッセージが掲載される情報ネットワーク)において、原告が女性とアナルセックスをした、又はしようとしたという事実を摘示したことが、原告の名誉、プライバシー又は名誉感情を侵害すると主張し、不法行為に基づく損害賠償請求を求めた事例
慰謝料の請求額:500万円
慰謝料の認容額:10万円

D 東京地判平成29年02月14日判決
本件は、原告が、被告に対し、被告がインターネット上の電子掲示板にした19個の書き込み(「能力ないしサボリ魔」、「調査はできなかった」、「総務でも経理や数字が出来ない」、「お荷物でさ、唯一の仕事は議事録や新人イジリ、井戸端会議に飲み会セッティング」「障害者枠入社だから、遊んで給料ドロボー」等)原告の名誉を毀損し、又はプライバシー権や名誉感情を侵害されたとして、不法行為に基づく損害賠償を求めた事案
慰謝料の請求額:300万円
慰謝料の認容額:50万円

E 東京地判平成28年04月11日判決
本件は、原告が、被告がインターネット上の電子掲示板「A」に原告が勤務先で「今まで起こしてきたパワハラ・セクハラ・暴力」「Dはケータイ代・ガソリン代をはじめ、ゴルフ代とかも全部会社の経費にしてやがる」「事務員女にコクり、フラれ、次の日からパワハラ」等のの書込みをしたことにより原告の名誉を毀損し、原告の名誉感情を害したと主張して、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償を求めた事案
慰謝料の請求額:300万円
慰謝料の認容額:50万円

請求の平均額は約500万円裁判所の支払いを認めた平均額78万円になりました。

皆さんの感覚に照らして多いでしょうか?それとも少ないでしょうか?

実際の裁判になると,請求額の5分の1以下しか認められないことも珍しくないということですね。
あまり意味のある額ではありませんが,裁判になるとこのぐらいの額になるのだということです。

 

刑事事件における名誉毀損罪と民事事件における名誉毀損の要件の違い

同じ名誉毀損と言えども,刑事と民事では成立するために必要な要件は,下の表のように異なります。

これは,刑事事件における犯罪が,刑罰を加える必要がある際に成立するのに対して,民事事件の名誉毀損に基づく損害賠償請求権は,社会的評価が下落したことに対して回復させる必要がある場合に認められるからです。

特に注意してもらいたいのは,過失で人のことを悪く言ってしまったり,インターネット掲示板で書き込みした場合でも,損害賠償請求は認められるということです。

人のことを書き込みする場合は,十分に注意してくださいね!

 

弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。

お悩み別相談方法

相談内容一覧

よく読まれるキーワード