【名誉毀損判例】ネット上での誹謗中傷が名誉毀損にあたるとされた裁判例まとめ

弁護士 若林翔
2020年01月17日更新

TwitterやInstagramにおいて特定の誰かを誹謗中傷するようなコメントを書き込んださいに,一体どのような書き込みが名誉毀損として民事上の責任を負うのか。その基準をこれまでに出された裁判例をもとに解説していきます。

TwitterやInstagramは一般的に知られているSNSとして有名ですが,当法律事務所が扱う案件の中にはホスラブや爆サイといった風俗関係の掲示板における誹謗中傷案件も数多く扱っています。

そのようなサイトで特定の誰かを誹謗中傷するような書き込みをしたさいには,開示するまでにかかった弁護士費用にプラスして民法上の不法行為責任として慰謝料を支払う必要性も生じます。
また,書き込みの内容が悪質と警察や検察が判断した場合には,別途刑事上の責任も問われることになります。
弁護士費用と誹謗中傷の関係については,こちらの記事で解説していますので,今回はどんな書き込みが名誉毀損に該当するのかを見ていきましょう。

目次

書き込みが名誉毀損にあたるかどうかの裁判例まとめ

ネット上での書き込みにおける名誉毀損として多いのが,民法上の不法行為責任としてのものなので,民法上における名誉毀損が成立するか,その裁判例をみていきます。
(刑法230条にいう名誉毀損罪についても問題にはなりますが,下記裁判例はあくまで民事裁判の引用となっています。)

判断基準としては,「ある記事の意味内容が他人の社会的評価を低下させるものであるかどうか(最高裁昭和29年(オ)第634号同31年7月20日第二小法廷判決)」とされています。
社会的評価が低下するさいに考慮される事項として,「一般の読者の普通の注意と読み方」を基準として検討されることになります。

(なお,名誉毀損において書き込んだ相手への損害賠償請求をするために,発信者情報開示請求訴訟という手続きを行う必要がある関係で,その裁判例が開示訴訟もしくは損害賠償請求訴訟かどうかを明記しています。
詳述すると長くなるので解説はこちらの記事を参照してください。開示訴訟において権利侵害性が認められれば,通常は損害賠償請求訴訟においても名誉毀損についての権利侵害性が認められています。)

書き込みが名誉毀損に該当すると判断された裁判例19選

 

「●●は好き者」「胸の大きくなる方法は●●に教わればいい」という記載

→社会的評価を低下させる

本件投稿1の「今や、県外でもBの女将好き者で有名人」という記載は、一般閲覧者の通常の注意と読み方を基準とした場合、原告が情事を好む者として有名であり、県外にも知れ渡っているとの事実を摘示するものといえる。また、本件投稿2の「胸の大きくなる方法は、Bの女将に教わればいいわ」という記載は、一般閲覧者の通常の注意と読み方を基準とした場合、原告が男性との情事を相当数経験しているとの事実を摘示するものといえる。
そうすると、本件投稿1及び本件投稿2のいずれも、原告が性的倫理を逸脱して情事を好む人物であるとの印象を抱かせるものであり、原告の社会的評価を低下させるものであると認められる。

引用|東京地方裁判所平成30年(ワ)第29693号【開示訴訟】

 

「整形女」「ホスト狂いの整形女キモすぎ」という記載

→「整形女」:社会的評価を低下させる
→「ホスト狂いの整形女キモすぎ」:侮辱行為に当たる

本件投稿のうち「整形女」という部分は、一般の読者の普通の注意と読み方を基準とした場合、原告が美容整形手術を受けているという事実を摘示したものであると認められるところ、現在、美容整形手術についての価値観に一定の変化が見られるものの、なお、我が国においては、美容の目的で、手術という方法を用いて自己の容姿を変化させることについて、否定的な評価が少なくないことに鑑みれば、一般の読者の普通の注意と読み方を基準とした場合、「整形女」という表現は、原告に対する否定的な印象を与えるものといえるから、原告の社会的評価を低下させるものと認めるのが相当である。また、「ホスト狂いの整形女キモすぎ」という表現は、原告がホストに見境がつかなくなるほど入れ込んでおり、美容整形手術を受けていて気持ちが悪い旨を侮蔑的に表現するものであると評価でき、社会通念上許される限度を超える侮辱行為に当たるものといえる。

引用|東京地方裁判所平成29年(ワ)第11390号【開示訴訟】

この裁判例では,「整形女」という記載が,書き込まれた側の社会的評価を低下させるものとして名誉毀損に該当すると判断しています。

また,「ホスト狂い」という記載は,社会的評価を低下させるという名誉毀損の判断枠組みではなく,侮辱行為に該当するという判断がなされています。

「●●は整形」という記載

→社会的評価を低下させる

本件記事には「整形」との記載があるところ、これを一般の閲覧者の普通の注意と読み方を基準として読めば、原告が美容外科手術を受けたことがあるとの事実を摘示するものと解釈するのが自然である。そして、前記前提事実のとおり、原告が本件広告活動を業としている女性であることからすれば、上記摘示は、原告の容姿が天然のものではなく、美容外科手術により人工的に形成されたものであるとの印象を与える可能性があるため、原告の社会的評価を低下させるものといえる。

引用|東京地方裁判所平成30年(ワ)第22005号【開示訴訟】

「整形」といっても,美容整形のほかにも整形外科があるため,一概には整形=美容整形とは言いづらい部分があるのが通常です。
しかし,単に「整形」と記載したさいには,現代の日本人の感覚では美容整形における「整形」と同視できるよね,ということを裁判官が判断しています。

 

「●●は中卒」という記載

→社会的評価を低下させるおそれがある

被告は、「中卒」という表現に関し、原告の行っている本件広告活動が芸能人的であり、そのような活動をしている者が高校に進学していないか又は高校を中途退学した事実は社会的評価を低下させる事実ではない旨主張するが、上述のとおり我が国においては高等学校への進学率が非常に高いことを踏まえれば、芸能人のような活動をする者の多くが高校に進学していないという前提自体が疑わしい上、原告の活動内容に照らしても、原告の学歴が実際よりも低いことを摘示されたとすれば、商品等のPR効果にも影響が出る可能性があり、その意味でも社会的評価を低下させるおそれがあるというべきである。

引用|東京地方裁判所平成30年(ワ)第22005号【開示訴訟】

 

「●●の行為が犯罪(窃盗等)にあたる」という記載

→社会的評価を低下させる

「その上で明日の朝刊に折り込む予定になっていたチラシ類を持ち去った。これは窃盗に該当し,刑事告訴の対象になる。」という記載は,本件記載部分は,第1文と第2文があいまって,上告人会社の業務の一環として本件販売店を訪問したX2らが,本件販売店の所長が所持していた折込チラシを同人の了解なくして持ち去った旨の事実を摘示するものと理解されるのが通常であるから,本件記事は,上告人らの社会的評価を低下させることが明らかである。

引用|最高裁判所第二小法廷平成22年(受)第1529号【損害賠償請求訴訟】

この件については,差戻し後の控訴審において社会的評価が低下させると判断されました
慰謝料としては,下記引用のとおり合計100万円の損害が認められたという結論に至っています。

本件サイトに本件記事が掲載された期間が約二四日間にとどまり、その間のアクセス数が重複を含めて一日数百件であったこと、控訴人甲野らは本件記事により業務上ないし人間関係上の不利益を被った旨主張するものの、これを裏付ける証拠としては同人ら作成の陳述書しか提出されていないこと、控訴人会社についても本件記事により業務上の支障が現実に生じたとはうかがわれないこと、その他以上に説示した本件の諸事情を総合考慮すると、控訴人会社が被った無形損害についての賠償額は四〇万円であると、控訴人甲野らの慰謝料の額はそれぞれ二〇万円であると認めるのが相当である。

引用|東京高等裁判所平成24年(ネ)第2460号【損害賠償請求訴訟】

今回の当事者となる原告は,会社及びその代表取締役3名ということで損害額としては,

会社:40万円
代取:20万円✕3

という計算となります。

「●●が反社会的勢力と関係を有する」という記載

→社会的評価を低下させる

「(地名) ヤクザ被れの堅気 以下略」との記載は,ヤクザの情報を集めるスレッドにおいて,原告の名前と原告会社の名称を書き込むことで,原告が暴力団関係者であり,原告会社が暴力団関連企業であるという事実を摘示し,原告らの社会的評価を低下させるものである。

引用|東京地方裁判所平成28年(ワ)第6401号【開示訴訟】

 

「●●が不倫をした」という記載

→社会的評価を低下させる

「●●(大手生命保険会社)の営業の実体解明」というスレッド内にて)「枕見て見ぬふりですから凄い!!」「今日も枕営業の朝礼頑張って」という両記事を踏まえて投稿されたもの(「Xさん今日も即ハメ?」)である上、「即ハメ」とはナンパ等で出会った女性とその日のうちにセックスまで至ることを意味するから、原告が日常的に枕営業をしている事実を摘示している。このため、本件各記事は、いずれも、原告の社会的評価を低下させるものである。

引用|東京地方裁判所平成30年(ワ)第22776号【開示訴訟】

 

「●●が不倫をした」という記載を繰り返した場合

→社会的評価を低下させる

本件掲示板において,原告が妻以外の女性と不倫関係にあることが繰り返し表示されることによって,原告が倫理性のない人間であるとして原告の社会的評価を低下させ,原告の名誉権を侵害する内容であるというべきである。
また・・・記載の内容からすると,一般人にとり,根も葉もない風聞の類であると受け止められるということはできず,原告が不倫関係にあるとの印象を与えることは明らかであり,匿名で誰でも投稿できる電子掲示板にあっても,このような記載があれば,これを直ちに信用するものではないにしろ,反復継続して記載されることによって,原告の社会的評価が確実に低下するものであるというべきである。

引用|東京地方裁判所平成28年(ワ)第2368号【開示訴訟】

 

「また顔いじりましたか」という記載

→社会的評価を低下させる

「また顔いじりましたか」との投稿は,本件スレッド上にされた原告が美容整形手術を受けたことに関する数多くの投稿と併せ読めば,一般の読者の注意と読み方を基準として,原告が美容整形手術を再度受けたとの事実を摘示するものであると認められる。そして,これら美容整形手術に関する投稿の表現方法や表現内容からも読み取れるように,我が国においては,美容整形手術について依然として否定的な印象が根強いといえることからすれば,本件投稿は,一般の読者の注意と読み方を基準として,原告の容姿について否定的な情報を記載し,その職務上の信用に係る社会的評価を低下させるものというべきである。

引用|東京地方裁判所平成27年(ワ)第37483号【開示訴訟】

 

「●●ヤリマン」・「●●は売春婦」という記載

→社会的評価を低下させる

本件記事1は、「さすが売春婦」と記述するものであるところ、その根拠は明示されていないものの、その直近の(レス)において、原告が金銭と引き換えに不特定多数の男性と性的関係を持っていることをうかがわせる内容の投稿がされる中で、これらを前提として、原告を売春婦と論評したものと解されるから、当該記事を閲読した一般の読者に対し、原告が売春行為を行っているかのような印象を与えるものと認められる。そうすると、本件記事1の投稿は、社会通念上許容される限度を超えて原告を侮辱するにとどまらず、原告の社会的評価を低下させるものと認めるのが相当である。

本件記事4において記述されている「ヤリマン」とは、不特定多数の男性と軽はずみに性的関係を持つ女性を揶揄する言葉であるところ、本件記事4は、その根拠を明示していないものの、本件サイト内の他の投稿記事をみれば、上記のとおり、原告が不特定多数の男性と性的関係を持っていることをうかがわせる内容の記事が投稿される中で、これらを前提として、原告を「ヤリマン」と論評したものと解されるものであるから、当該記事を閲読した読者において、原告が不特定多数の男性と性的関係を持つようなふしだらな女性であるかのような印象を与えるものと認められる。そうすると、本件記事4の投稿は、社会通念上許容される限度を超えて原告を侮辱するにとどまらず、原告の社会的評価を低下させるものと認めるのが相当である。

引用|東京地方裁判所平成30年(ワ)第20903号【開示訴訟】

 

「●●は女性を使い捨てることを繰り返している」という記載

→社会的評価を下げる

女性を使い捨てることを繰り返していて」との記載は、本件記事1-6以前に投稿された記事の内容を踏まえると、原告が、女性との関係を単なる性的欲求の解消手段とし、その目的を達すると一方的に関係を解消して新たな女性を求めることを繰り返しているとの事実を摘示するものであるといえる。これは、原告が、女性の人格を尊重せず、また、性的道徳心に乏しい人物であるとの印象を与えるものであるから、原告の社会的評価を下げるものであるといえ、名誉毀損になる。

引用|東京地方裁判所平成28年(ワ)第17594号【開示訴訟】

 

「●●は枕営業をしている」という記載

→社会的評価を低下させる

」という言葉は、風俗店に勤務する女性従業員が指名に繋げるために顧客と肉体関係を持つといういわゆる枕営業を指すものであり・・・原告が継続的に・・・顧客と営業のために肉体関係を持っていることを事実として摘示するものと認められる。本件記事4には「枕」という言葉は用いられていないが、本件記事3(投稿番号793)を引用した上で、「定番のおっさんになw」と記載されていることに照らせば、中年男性との間でいわゆる枕営業をしていることを指摘する趣旨であり、本件記事3に同調し・・・原告が継続的に・・・顧客と営業のために肉体関係を持っていることを事実として摘示するものと認められる。
以上によれば、本件記事は、・・・原告の高級クラブの大ママとしての地位に対して否定的な印象を与え、その社会的評価を低下させるものと認められるから、原告の人格権に対する侵害(名誉毀損)に当たる。

引用|東京地方裁判所平成30年(ワ)第13819号【開示訴訟】

 

「●●は風俗店の取立てで法外な料金を請求した」という記載

→社会的評価を低下させる

本件投稿は,原告が,風俗店の取立てで,相手方の会社に乗り込んで法外な料金を請求したという事実を摘示するものであり,一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすると,原告が,相手の立場をなくさせるような卑怯な方法で,法外な請求をする人物であるとの印象を与え,その社会的評価を低下させるものというべきである。

引用|東京地方裁判所平成28年(ワ)第6390号【開示訴訟】

 

「●●はセックスとお金が大好き」という記載

→社会的評価を低下させる

本件2ちゃんねる記事は,「やっぱりセックスとお金が大好き!」との記載を含むところ,このような記載は,原告が性的に奔放な人物であり,また,金銭に対する強い欲求があるかのような印象を与えるものであり,その社会的評価を低下させ,名誉を毀損する。
この事実は,同記事の記載の態様も考え合わせれば,原告が,程度を超えて性的な行為や金銭に対する欲求をあらわにしているという印象を与えるものということができるから,原告の社会的評価を低下させるものと認められる。

引用|東京地方裁判所平成27年(ワ)第26525号【開示訴訟】

 

「●●には多額の借り入れがある」という記載

→社会的評価を低下させる

(借金大魔王というような)記載は,原告が多額の借金を抱えている旨指摘するものであり,個人で多額の借入れがあることは,否定的評価につながるものといえ,前記本件各書き込みは,原告の社会的評価を低下させるものであると認められる。

引用|東京地方裁判所平成29年(ワ)第10605号【開示訴訟】

 

「●●は経歴詐称している」という記載

→社会的評価を低下させる

本件各投稿において用いられた「経歴詐称」という語は、通常、経歴を偽って表示する、すなわち、真実でない経歴を、真実でないことを知りながら敢えて表示することを意味するものと解されるから、「経歴詐称」との語を読んだ一般的な読者は、その者が敢えて真実ではない経歴を称したとの印象ないし認識を持つことになるのが通常であるというべきである。
そして、本件各投稿においては、原告Xが原告組合の史上最年少支店長に抜擢されたという経歴について「嘘みたいですね」と述べ、原告Xが「記憶間違いであったと言い訳し」たとか、「慌てて記憶間違いと偽って訂正した」旨の記載をした上で、「このような経歴詐称」との表記をしている。このような本件各投稿の文脈を踏まえれば、本件各投稿における「経歴詐称」の語が、原告Xにおいて真実ではないことを知りながら、敢えて真実と異なる経歴を称したことを表現しようとしたものであり、一般読者が通常の注意と読み方をした場合には、上記のような趣旨で理解されるものであることが認められる。
そうすると、本件各投稿における「経歴詐称」との表現が、原告Xの社会的評価を低下させ、原告Xの名誉権を侵害するものであることが認められる。

引用|東京地方裁判所平成28年(ワ)第34031号【開示訴訟】

 

「●●はカラダ目当て」という記載

→社会的評価を下げる

(「ここの社長最低」,「カラダ目当て」という記載は,)●●の代表取締役社長が,「カラダ目当て」であることを摘示するものということになるが、本件記事の前に投稿された書き込みには●●内でセクハラがされていることを仄めかすものや、原告の幹部社員らが原告の従業員と性的関係を持っていることを仄めかすものがあることからすると、「カラダ目当て」という言葉が自社の従業員と性的関係を結ぶ目的を指す言葉として用いられていることは、本件スレッドを閲読する一般の読者を基準としても、十分に読みとることができる。そして、原告の代表取締役社長が自社の従業員と性的関係を結ぶ目的を有しているということが本件スレッドを閲覧する不特定多数人に真実らしく受け止められれば、●●は風紀の乱れた会社であると認知され、その社会的評価を下げることとなる。

引用|東京地方裁判所平成29年(ワ)第25196号【開示訴訟】

 

書き込みが名誉毀損に該当しないと判断された裁判例2選

 

水商売に従事する女性の年齢を揶揄した記載

→社会的評価を低下させるとは認められない

原告は,一般的に年齢の若い女性の方が顧客誘引力が高いという性風俗店での傾向を考慮し、本件店舗のホームページ上では年齢を24歳としているところ,本件投稿の「34歳だね今年で」との記載は・・・原告が年齢を偽って本件店舗のホームページ上のプロフィールにおいて24歳と公表していることを揶揄する趣旨の投稿であると解されるものの,本件スレッド内に原告の生年月日が記載された投稿は存在しない上,そもそも本件サイトが性風俗店や水商売に係る投稿掲示板であることからすれば,本件サイトにされる投稿が虚実ない交ぜであることは予め想定されるところであって,一般の読者の注意と読み方を基準として,本件投稿の記載内容をそのまま事実と受け止めるとは考えられない。
さらに,本件店舗の業態からするに,その利用者としては,本件店舗のホームページ上のプロフィールを事実として受け止めるか否かに関係なく,顔写真を含めプロフィール欄の記載内容を総合的に判断してどの女性を指名するかを決めるにすぎないと解されるのであって,一般の読者の注意と読み方を基準として,本件投稿が原告の職務上の信用を低下させるとか,サバを読むような人物であるとしてその品性に係る社会的評価を低下させるとは認められない。

引用|東京地方裁判所平成27年(ワ)第37483号【開示訴訟】

 

「●●は腹黒い」という記載

→社会的評価を低下させるとはいえない

(●●は「腹黒いという記載は,)「(●●は)腹黒い」人物であることを摘示するものということになるが、「腹黒い」という言葉にはせいぜい何らかの悪だくみをしているといった意味しかなく、前後の投稿記事によってもその意味内容を補完することができない以上、本件記事の内容は、あまりに抽象的であって、事実の摘示というよりも単なる個人的な評価を表明したものといわざるを得ない。そして、「腹黒い」という言葉は綺麗ごとだけでなく清濁併せ持っているといった意味合いでも用いられ得ることを考慮すると、匿名の個人において、具体的な根拠も示さず、●●について「腹黒い」という評価をインターネット上の掲示板で表明したからといって、それだけで原告の社会的評価が低下したり、原告の営業に具体的な支障が生じたりしたとは認めるに足りない。

引用|東京地方裁判所平成29年(ワ)第25196号【開示訴訟】

 

ネット上の誹謗中傷がなぜ名誉毀損にあたるのか(理論-民法編)

まずは名誉毀損とはどんなものかを簡単に解説します。

民法でいうところの名誉毀損というものは,条文上には民法723条において「名誉毀損における原状回復」という規定があるのみで,どのような行為が名誉毀損にあたり,どれほどの慰謝料を請求できるのかといった明文はありません。

(名誉毀損における原状回復)
第七百二十三条 他人の名誉を毀損した者に対しては、裁判所は、被害者の請求により、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができる。

引用|民法

民法においては,名誉毀損に基づく損害賠償を請求する根拠として709条や710条が考えられます。

名誉毀損はいわば不法行為の一種として709条により請求が可能となります。また,名誉毀損がなされた場合には,名誉感情などといった「財産以外の損害」が生じているのが通常なため,誹謗中傷を書き込んだ者は誹謗中傷によって生じた「損害に対しても賠償をしなければな」りません。(民法710条)

(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

(財産以外の損害の賠償)
第七百十条 他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。

不法行為に基づく請求をするためには条文上の要件を満たさなければなりません。

【成立要件】
①権利又は法律上保護される利益の侵害
②違法性
③故意・過失
④損害
⑤因果関係

名誉毀損は不法行為の一種なため,名誉毀損行為がどのように不法行為の成立要件を充足していくのかをみていきます。

①権利又は法律上保護される利益の侵害について

まず,名誉権も「権利」として,誹謗中傷によって書き込まれた側の名誉権を「侵害」していると評価されれば①を充足します。そして,誹謗中傷によって名誉権が侵害されたかどうかの判断基準は,冒頭にも書いたとおり,「ある記事の意味内容が他人の社会的評価を低下させるものであるかどうか(最高裁昭和29年(オ)第634号同31年7月20日第二小法廷判決)」となります。
社会的評価を低下させているかどうかは,一般読者を基準にして判断されることになります。

先に挙げた裁判例もほとんどが「社会的評価を低下させるもの」か否かが問題となっていますので,名誉毀損に基づいて損害賠償請求をした場合にその請求が認められるかどうかも「社会的評価」が低下したかどうかが重要になってきます。

②違法性について

次に,名誉毀損における違法性については,主に「真実性の法理」が問題となります。
この「真実性の法理」とは,下記に記載している刑法230条の2における問題とパラレルに解説され,その誹謗中傷の行為自体に,
・公共の利害に関する事実
・誹謗中傷の目的が公益を図り
・摘示した事実が真実であるか,又は,真実と信じるについて相当の理由がある場合
があれば,「真実性の法理」が適用され,不法行為の違法性が阻却されることになります。

事実を摘示しての名誉毀損にあっては、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、摘示された事実がその重要な部分について真実であることの証明があったときには、上記行為には違法性がなく、仮に上記証明がないときにも、行為者において上記事実の重要な部分を真実と信ずるについて相当の理由があれば、その故意又は過失は否定される(最高裁昭和41年6月23日第一小法廷判決・民集20巻5号1118頁、最高裁昭和58年10月20日第一小法廷判決・裁判集民事140号177頁参照)

引用|東京地方裁判所平成22年01月18日

 

また,対抗言論を理由とする違法性阻却が主張されることもあります。

自己の表現行為が相手方の社会的評価を低下させたとしても、それが自己の正当な利益を擁護するためやむを得ず行われたものであり、かかる行為がその他人が行った言動に対比して、その方法、内容において適当と認められる限度をこえない限り違法性を欠くとすべきものである(最高裁昭和38年4月16日第3小法廷判決・民集17巻3号476頁参照)

引用|東京地方裁判所平成29年11月27日

 

③故意・過失,④損害,⑤因果関係について

ネット上の誹謗中傷においては,アカウントの乗っ取りなどない限り自ら投稿したことが明白なため,故意・過失は認められるのが通常でしょう。
また,損害と因果関係については,ネット上で誹謗中傷が行われれば通常は認められます。
損害額については,事案によって異なることも多く一概にして論じることは難しいでしょう。ただし,世間一般に知られているような有名人が主要メディアにおいて誹謗中傷されるのとは異なり,普通の人がネット上で誹謗中傷されるような事案では,損害額はあまり伸びません。

さらに,誹謗中傷した人物を特定するためには訴訟手続によって行われることが多いため,その手続にかかる弁護士費用を相手方に請求することもあるでしょう。
相手方に弁護士費用をどれほど負担させることができるかについては関連記事をご覧ください。

関連記事:なぜ誹謗中傷された相手に弁護士費用を請求できるのか?

 

ネット上の誹謗中傷がなぜ名誉毀損にあたるのか(理論-刑法編)

次に,ネットの書き込みが刑法上の名誉毀損にあたるとされる理由をみていきましょう。

(名誉毀損)
第二百三十条 公然と事実を摘示し人の名誉を毀損した者はその事実の有無にかかわらず三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
2 死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。

引用|刑法230条

ネットの誹謗中傷が刑法230条に該当するためには,上記マーカーで引かれている要件を満たさなければなりません。
そして,その要件を満たしたと裁判所によって判断された場合には,3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金という刑罰が科されることになります。

【構成要件】
①公然性
②事実の摘示
③名誉毀損
④故意

【刑罰】
・3年以下の懲役
・3年以下の禁錮
・50万円以下の罰金

名誉毀損罪の構成要件をもう少し詳しく

①「公然」とは,摘示された事実を不特定または多数人が認識し得る状態,のことです。そうすると,特定かつ少数人に対して対象者の名誉を毀損する表現をしたとしても,「公然」とはいえないのが通常です。
しかし,判例において,事実の摘示が特定かつ少数人に対しての表現であっても,それが不特定または多数人へと広がっていくときには「公然」性が認められるとしています。これを「伝播性の理論」といいます。

②「事実の摘示」について,それ自体として人の社会的評価を低下させるような事実でなければなりません。具体的事実の摘示がない場合には名誉毀損罪の構成要件には該当しませんが,侮辱罪が成立する可能性は残されています。
たとえ,誹謗中傷する相手の名前を仮名にしたとしても,特定の実在する人物を指すと一般人が判断できるような書き込みであれば「事実の摘示」といえます。

(侮辱)
第二百三十一条 事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。

引用|刑法231条

③「名誉」とは,人の社会的評価のことです。そして「毀損した」とは,人の社会的評価を害するおそれのある状態を生じさせたことです。そうすると,「名誉を毀損した」かどうかは,人の社会的評価が低下したか否かで判断されることになります。
ネット上の誹謗中傷において,問題になるのは多くがこの③の要件についてです。

上記裁判例まとめで引用した裁判例のほとんどは,③の「名誉を毀損した」かどうかについて判断しているものになります。

違法性阻却について

ネット上の誹謗中傷が,たとえ名誉毀損罪の構成要件に該当したとしても,違法性が阻却されれば刑罰は科されないことになります。ここでは条文を引用するにとどめておきます。

(公共の利害に関する場合の特例)
第二百三十条の二 前条第一項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない
2 前項の規定の適用については、公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす。
3 前条第一項の行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。

引用|刑法230条の2

名誉毀損罪は親告罪

名誉毀損罪は親告罪となっている。親告罪においては告訴が訴訟条件となっているため,告訴のない状態で公訴が提起された場合には,「公訴提起の手続がその規定に違反」(刑事訴訟法338条4号)に該当し,「公訴は棄却」される(法338条柱書)。

(親告罪)
第二百三十二条 この章の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
2 告訴をすることができる者が天皇、皇后、太皇太后、皇太后又は皇嗣であるときは内閣総理大臣が、外国の君主又は大統領であるときはその国の代表者がそれぞれ代わって告訴を行う。

第三百三十八条 左の場合には、判決で公訴を棄却しなければならない。
一 被告人に対して裁判権を有しないとき。
二 第三百四十条の規定に違反して公訴が提起されたとき。
三 公訴の提起があつた事件について、更に同一裁判所に公訴が提起されたとき。
四 公訴提起の手続がその規定に違反したため無効であるとき。

引用|刑法

 

最後に

これまでネット上での書き込みがどのようにして裁判例で違法と認められるのかをみてきました。

もし,誹謗中傷されてしまって相手に慰謝料を請求したいという方がいればご相談ください。

弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。

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