建設業の残業代請求ガイド|現場監督・一人親方・移動時間でも請求可

建設業の残業代請求ガイド|現場監督・一人親方・移動時間でも請求可
2026年05月22日更新

建設業では、長時間労働が常態化しているにもかかわらず、

「建設業は残業代が出ない」

「現場監督だから残業代は対象外」

「移動時間は労働時間ではない」

などと言われ、残業代が支払われていないケースが少なくありません。しかし、建設業で働いている場合でも、法律上は残業代を請求することが可能です。

たとえば、現場監督でも「管理監督者」に該当しなければ残業代請求が可能です。また、会社集合後の現場への移動時間や、機材の積み込み・準備時間、現場での待機時間なども、状況によっては労働時間として扱われる場合があります。さらに、業務委託や一人親方とされていても、実態として会社の指揮命令下で働いている場合には、労働者と認められて残業代請求が可能となるケースもあります。

実際に、建設業では固定残業代制度や名ばかり管理職などを理由に残業代が支払われていないトラブルが多く、裁判でも残業代請求が認められている事例が多数あります。

グラディアトル法律事務所では、これまで数多くの労働問題を取り扱い、建設業の残業代請求に関する相談・解決実績も豊富です。建設業特有の勤務実態や証拠の集め方を踏まえた対応が可能であり、タイムカードがないケースでも残業時間を立証できる場合がありますので、まずは当事務所にご相談ください。

本記事では、

・建設業の残業代請求が認められるケースや判断基準
・移動時間の扱い
・証拠の集め方
・残業代請求の流れ

などについてわかりやすく解説します。

残業代請求を検討している建設業の方は、ぜひ参考にしてください。

目次

【結論】建設業でも残業代請求は可能です

建設業では、長時間労働が当たり前のように行われているにもかかわらず、「建設業では残業代は出ない」「現場仕事だから仕方ない」と説明され、残業代が支払われていないケースが少なくありません。しかし、建設業で働いている場合でも、法律上は残業代を請求できる可能性があります。

労働基準法では、原則として1日8時間・週40時間を超えて働いた場合には、会社は労働者に対して割増賃金(残業代)を支払う義務があると定められています。このルールは特定の業種だけに適用されるものではなく、建設業を含め、原則としてすべての業種に適用されます。

そのため、建設業であっても、会社の指示で長時間働いている場合には残業代が発生する可能性があります。たとえば、現場監督として働いている場合でも管理監督者に該当しなければ残業代請求が可能ですし、会社集合後の現場への移動時間や現場での待機時間などが労働時間と評価されるケースもあります。また、業務委託や一人親方とされていても、実態として会社の指揮命令下で働いている場合には、残業代請求が認められることもあります。

このように、建設業では「残業代が出ない」と思い込んでいる方でも、法律上は未払い残業代を請求できる可能性があるケースが少なくありません。

現場監督でも残業代請求できる可能性があります|建設業における管理監督者の判断基準

建設業では、現場監督に対して「管理職だから残業代は出ない」と扱われることがあります。しかし、現場監督という肩書だけで残業代請求ができなくなるわけではありません。実際には、管理監督者に当たるかどうかは、権限や働き方、待遇などの実態に基づいて判断されます。

管理監督者の法的定義

労働基準法41条では、「監督若しくは管理の地位にある者」(管理監督者)について、労働時間や休日に関する規定が適用されないとされています。

ここでいう管理監督者とは、一般的に、企業の経営者と一体的な立場で経営に関与するような重要な地位にある労働者を指します。たとえば、経営方針の決定に関わる部長や役員クラスなどが典型例とされています。

そのため、単に「現場監督」「工事長」「主任」などの肩書が付いているだけで、管理監督者になるわけではありません。

現場監督が管理監督者にあたるかどうか判断する3つの基準

現場監督が管理監督者に該当するかどうかは、主に次のような事情を総合的に考慮して判断されます。

①経営者と一体的立場にあるか

管理監督者といえるためには、会社の経営者に近い立場で重要な判断を行う権限を持っていることが必要です。たとえば、人事権や経営判断に関与しているかどうかなどが判断要素になります。

しかし、建設業の現場監督の場合、実際には会社の指示に従って現場管理を行っているだけというケースも多く、経営と一体的な立場にあるとはいえない場合も少なくありません。

②労働時間について大きな裁量があるか

管理監督者であれば、労働時間について一定の自由度があることが通常です。

しかし、現場監督の場合、工事のスケジュールや会社の指示によって勤務時間が決められていることが多く、実際には長時間労働を余儀なくされているだけで、自由に労働時間を決められるわけではないというケースもあります。

③役職に見合う待遇が与えられているか

管理監督者といえるためには、その地位に見合うだけの高い賃金や待遇が与えられている必要があります。

もし、一般の作業員とそれほど変わらない給与であったり、残業代が支払われないことによってかえって収入が低くなっていたりする場合には、管理監督者とは認められない可能性があります。

名ばかり管理職なら残業代請求ができる

このように、形式的に「管理職」や「現場監督」という肩書が付いていても、実際の権限や待遇が伴っていない場合には、いわゆる「名ばかり管理職」と判断される可能性があります。

名ばかり管理職と認められた場合には、管理監督者には該当しないため、通常の労働者と同様に残業代請求をすることが可能です。

実際の裁判でも、現場監督などの役職が付いていても、経営への関与がなく、労働時間の裁量もなく、賃金も一般社員と大きく変わらない場合には、管理監督者とは認められず、未払い残業代の支払いが命じられたケースが多数あります。

そのため、残業代が支払われていない現場監督の方は、一度弁護士に相談して、「名ばかり管理職」にあたるかどうかを判断してもらうとよいでしょう。

建設業でよくある移動時間・待機時間も残業代請求の対象となる可能性があります

建設業では、現場への移動や作業前の準備、現場での待機など、実作業以外の時間が多く発生します。これらの時間も、会社の指揮命令下にある場合には労働時間と評価され、残業代の対象となる可能性があります。

建設業でよくある移動時間・待機時間も残業代請求の対象となる可能性があります

会社集合→現場移動の扱い

建設業では、会社や資材置き場などに集合した後、社用車などで現場に移動するケースがよくあります。このような場合、会社の指示に従って移動しているのであれば、その移動時間は、労働時間とみなされる可能性があります。

たとえば、会社の車両で現場に向かうことが義務付けられている場合や移動中に作業の打ち合わせなどを行っている場合には、労働時間と認められる可能性が高くなります。

一方で、自宅から直接現場に向かう場合など、一般的な通勤時間は、原則として労働時間には含まれません。

機材運搬・準備時間

建設現場では、作業開始前に資材や工具の積み込み、機材の準備、作業の段取りなどを行うことが一般的です。

これらは作業を行うために必要な業務であり、会社の指示のもとで行われている場合には労働時間と判断される可能性があります。

具体的には、次のような時間が労働時間に該当します。

・資材置き場での工具、資材の積み込み
・現場到着後の作業準備
・作業終了後の片付けや機材整理

これらの時間が勤務時間として扱われていない場合には、未払い残業代が発生している可能性があります。

現場待機時間

建設現場では、作業の順番待ちや資材の到着待ち、天候による作業中断などにより、現場で待機する時間が発生することがあります。

このような待機時間についても、会社の指示で現場にとどまる必要があり、自由に行動できない場合には労働時間と判断される可能性があります。

建設業でよくある固定残業代・みなし残業でも残業代を請求できる可能性がある

建設業では、給与の中に「固定残業代」や「みなし残業代」が含まれていると説明されるケースがあります。しかし、固定残業代制度があるからといって、すべての残業代が支払われているとは限りません。条件によっては、追加で残業代を請求できる可能性があります。

みなし残業時間を超える部分については別途残業代請求が可能

固定残業代制度とは、あらかじめ一定時間分の残業代を給与に含めて支払う制度です。たとえば、「月30時間分の残業代を含む」といった形で設定されることがあります。

この場合でも、実際の残業時間が固定残業時間を超えた場合には、その超過分について別途残業代を支払う必要があります。

しかし、実務では、固定残業代が支払われていることを理由に、実際の残業時間が多くても追加の残業代が支払われていないケースが少なくありません。このような場合には、超過した残業時間について未払い残業代を請求できる可能性があります。

固定残業代が無効であれば差額分以外も請求できる|固定残業代の要件

そもそも、固定残業代制度が有効と認められるためには、以下のような要件を満たす必要があります。

・基本給と固定残業代が明確に区別されていること
・何時間分の残業代なのかが明示されていること
・固定残業時間を超えた場合に追加で残業代が支払われること

これらの要件を満たしていない場合、固定残業代制度そのものが無効と判断される可能性があります。

固定残業代が無効と判断された場合には、固定残業代として支払われていた金額は残業代として認められず、すべての残業時間について改めて残業代を計算し直さなければなりません。その結果、多額の未払い残業代が発生するケースもあります。

このように、建設業でよく見られる固定残業代制度であっても、実際には未払い残業代が発生している可能性があります。

建設業の残業代請求は業務委託・一人親方でもできる可能性がある

建設業では、会社と雇用契約ではなく「業務委託」や「一人親方」として働いているケースも多くあります。そのため、「業務委託だから残業代は請求できない」と説明されることも少なくありません。しかし、契約の名称が業務委託であっても、実態として労働者といえる場合には残業代請求が認められる可能性があります。

労働者に該当するかがポイント|名称ではなく実態で判断

残業代請求ができるかどうかは、「雇用契約か業務委託契約か」という契約書の名称だけで判断されるわけではありません。

裁判では、実際の働き方の実態をもとに、その人が労働基準法上の「労働者」に該当するかどうかが判断されます。

そのため、契約上は「業務委託」や「一人親方」とされていても、実際には会社の指示に従って働いている場合には、労働者と認められる可能性があります。

労働者性の判断基準

労働者に該当するかどうかは、主に次のような事情を総合的に考慮して判断されます。

・会社の指揮命令を受けて仕事をしているか
・勤務時間や勤務場所が会社によって決められているか
・他の仕事を自由に受けられるか
・道具や資材を会社が用意しているか
・報酬の支払い方が給与に近い形になっているか

これらの事情から、実態として会社に従属して働いていると評価される場合には、労働基準法上の労働者と認められます。

残業代請求可能な業務委託・一人親方のケース

建設業では、形式上「一人親方」や「業務委託」とされていても、実態として会社に雇われているのと変わらない働き方になっているケースが少なくありません。

たとえば、次のような場合には労働者と判断される可能性があります。

・毎朝会社や資材置き場に集合するよう指示されている
・会社が現場や作業内容を決めている
・作業方法について細かい指示を受けている
・他社の仕事を自由に受けることができない
・会社の工具・車両・資材を使用している

このような働き方をしている場合には、契約上は業務委託であっても、実態としては労働者と評価され、残業代請求が認められる可能性があります。

建設業の見習い・試用期間は残業代がでないと言われた方へ|法律上は残業代請求が可能です

建設業では、「見習いだから残業代は出ない」「試用期間中は残業代の対象ではない」と説明されることがあります。しかし、見習い期間や試用期間であっても、原則として残業代は発生します。

労働基準法は、正社員かどうか、試用期間中かどうかといった雇用形態にかかわらず、労働者に広く適用される法律です。そのため、会社と雇用契約を結び、会社の指示に従って働いている以上、見習いであっても労働基準法の保護を受けることになります。

労働基準法では、1日8時間・週40時間を超えて働かせた場合、会社は労働者に対して割増賃金(残業代)を支払う義務があると定められています。このルールは試用期間中の労働者にも適用されるため、試用期間中であっても残業代を支払わないことは原則として認められません。

また、建設業では「見習いだから給料が低い」「技術を教えている期間だから残業代は出ない」といった説明がされることもありますが、これらは残業代の支払いを拒否できる適法な理由にはなりません。実際に会社の指示で働いているのであれば、その時間は労働時間に該当し、残業代が発生します。

このように、見習い期間や試用期間を理由に残業代が支払われていない場合でも、未払い残業代を請求することが可能です。

建設業の残業代請求に関する裁判例の紹介

建設業では、長時間労働や名ばかり管理職、固定残業代などをめぐり、残業代請求が争われた裁判例が多数あります。以下では、建設業における残業代請求で問題になりやすいポイントに関する裁判例をいくつか紹介します。

現場監督や形式上の取締役でも管理監督者に当たらないとされた裁判例|横浜地裁令和元年6月27日判決(しんわコンビ事件)

【事案の概要】

建築工事業などを営む会社で働いていた従業員5名が、会社に対して未払い残業代や付加金の支払いを求めた事案です。

会社側は、そのうち1名については「他の従業員を管理する立場にあり、管理職手当も支給していたので管理監督者に当たる」と主張しました。また、別の1名については「取締役として登記されている以上、管理監督者に当たる」と主張し、残業代の支払い義務を争いました。

これに対し、従業員側は、現場監督のような立場にあったとしても実際には現場作業が中心であり、経営判断に関与していないこと、取締役登記も建設業許可のための形式的なものにすぎず、実際には他の従業員と同様に働いていたことなどを主張しました。

【裁判所の判断】

裁判所は、現場監督的な立場にあった従業員について、主な業務は他の従業員と共に現場作業に従事することであり、他の従業員への業務の割り振りや書類の提出をしていたとしても、経営者と一体的な立場にあったとはいえないと判断しました。

また、有給休暇などの承認権限はなく、出退勤についても他の従業員と同じように管理されていたこと、管理職手当も従前の給与の一部の名目を変更したにすぎないことから、管理監督者には当たらないと判断しました。

さらに、取締役として登記されていた従業員についても、建設業許可を受けるために形式的に登記されたにすぎず、実際には経営判断に関与しておらず、業務内容や待遇も他の従業員と変わらなかったことから、管理監督者には該当しないと判断しました。

その結果、裁判所は会社に対し、未払い残業代や付加金の支払いを命じました。

【ポイント】

この裁判例のポイントは、現場監督や取締役という肩書があるだけでは、管理監督者には当たらないと明確に示した点です。

管理監督者に該当するかどうかは、役職名ではなく、実際に経営に関与しているか、労働時間について十分な裁量があるか、地位に見合った待遇があるかといった事情をもとに判断されます。

そのため、建設業でも、現場監督や形式上の役員とされていても、実態として現場作業が中心で、出退勤管理も受けているような場合には、残業代請求が認められる可能性があります。

業務委託・個人事業主とされていても労働者性が認められた裁判例|大阪地裁令和6年7月19日判決

【事案の概要】

原告は、不動産関連業務などを行う会社で働いていた人物で、途中から店舗の店長も務めていました。もっとも、会社との間で労働契約書や業務委託契約書は作成されておらず、会社側は「業務委託契約であり、原告は労働者ではない」と主張していました。

また、報酬についても、一定時期以降は被告会社と関連会社の2社から分けて振り込まれており、会社側は、関連会社からの支払分は被告会社の賃金ではないとも主張していました。さらに、原告が持続化給付金を受給していたことを理由に、「個人事業主として行動していた以上、残業代請求は認められない」と反論していました。

これに対し、原告は、実際には会社の指示に従って働いており、勤務時間や勤務場所も事実上決まっていたこと、日々の業務報告やスケジュール報告も求められていたことなどから、実態としては労働者であるとして、未払い残業代や付加金を請求しました。

【裁判所の判断】

裁判所は、労働者に当たるかどうかは、契約書の名称ではなく、実際に使用従属関係の下で働いていたかどうかで判断すべきであるとした上で、原告について労働者性を認めました。

その理由として、裁判所は、原告が会社から割り振られた業務を行っており、これを自由に断れる立場にはなかったこと、タイムカードによる出退勤管理がされていたこと、毎日の業務スケジュール報告や週報の提出が求められていたこと、被告会社から電話やLINEで業務指示がされていたことなどを重視しました。

また、業務で使うパソコンや工具は会社から貸与され、高速道路料金も会社が負担していたこと、原告には兼業実態がなく、会社への専属性が強かったことなどから、事業者性は希薄であると判断しました。

さらに、関連会社からの支払についても、勤務実態や業務内容に変化がなく、関連会社との契約が実体を伴わない形式的なものであったことなどから、関連会社からの支払分も実質的には被告会社の賃金であると判断しました。

加えて、原告が持続化給付金を受給していた点についても、裁判所は、給付金の受給と労働者性の判断は別問題であり、それだけで未払い残業代請求が否定されるものではないとしました。

その結果、裁判所は、未払い残業代約197万円と付加金約185万円の支払いを命じました。

【ポイント】

この裁判例のポイントは、「業務委託」「個人事業主」という扱いがされていても、実態として会社の指揮命令下で働いていれば、労働者として残業代請求が認められることを示した点です。

特に、建設業でも一人親方や業務委託という形を取っているケースは多いですが、実際には会社から仕事を割り振られ、勤務時間や働き方について報告を求められ、道具や設備も会社側に依存しているケースは少なくありません。そのような場合には、形式上の契約名にかかわらず、労働者性が認められる可能性があります。

建設業で働く労働者の残業代の計算方法

建設業で残業代請求をするには、「どのように残業代を計算するのか」を理解しておくことが重要です。残業代は、「1時間あたりの基礎賃金×割増率×残業時間」を基本として計算します。もっとも、建設業では日給制や固定残業代制、移動時間や準備時間の問題などがあるため、実際には慎重な確認が必要です。

建設業で働く労働者の残業代の計算方法

1時間あたりの基礎賃金

まず、残業代を計算するためには、1時間あたりの基礎賃金を出す必要があります。

月給制の場合は、一般的に月給÷月平均所定労働時間で計算します。

日給制の場合は、日給÷1日の所定労働時間で計算するのが基本です。

もっとも、給与のすべてが残業代計算の基礎に入るわけではありません。たとえば、次のような手当は、原則として基礎賃金から除外されます。

・通勤手当
・家族手当
・住宅手当
・臨時に支払われた賃金
・1か月を超える期間ごとに支払われる賃金

一方で、基本給のほか、職務手当や現場手当など、労働の対価として毎月固定的に支払われているものは、基礎賃金に含まれる可能性があります。建設業では各種手当が多いため、何が基礎賃金に含まれるのかを個別に確認することが大切です。

割増賃金率

次に、残業の種類に応じて割増率を掛けます。主な割増率は以下のとおりです。

・時間外労働(1日8時間・週40時間を超える労働)→25%以上
・深夜労働(午後10時から午前5時まで)→25%以上
・法定休日労働→35%以上

また、時間外労働が深夜に及んだ場合には、それぞれの割増率が加算されます。たとえば、深夜の時間外労働であれば、合計50%以上の割増賃金が必要になります。

さらに、月60時間を超える時間外労働については、その超過部分に対して50%以上の割増率が適用されます。建設業では繁忙期に長時間労働が続くことも多いため、この点も見落とさないよう注意が必要です。

残業時間

最後に、実際の残業時間を把握します。ここでいう残業時間には、単に現場で作業していた時間だけでなく、会社の指揮命令下にあった時間が含まれる可能性があります。

建設業では、次のような時間が残業時間として問題になりやすいです。

・会社や資材置き場に集合した後の現場への移動時間
・作業前の準備や積み込みの時間
・作業後の片付けや機材整理の時間
・現場での待機時間
・早朝集合や夜間対応の時間

また、会社がタイムカードを導入していない場合でも、日報、LINE、作業予定表、車両の運行記録、写真、メールなどから労働時間を立証できることがあります。

このように、建設業の残業代は、基礎賃金・割増率・残業時間の3つを正確に把握することで計算できます。もっとも、固定残業代の有効性や労働時間該当性などが争いになることも多いため、正確に残業代を請求するなら、専門家である弁護士に任せるべきでしょう。

【モデルケース】建設業で働く労働者の残業代請求の具体例を弁護士が解説

建設業では、長時間労働が常態化しているにもかかわらず、残業代が十分に支払われていないケースが少なくありません。ここでは、建設業で働く方が実際に残業代請求を行った場合を想定したモデルケースに基づき、請求の流れやポイントを説明します。

事例①|現場監督として働いていたが「管理職」とされ残業代が支払われていなかったケース

事例①|現場監督として働いていたが「管理職」とされ残業代が支払われていなかったケース

【事案の概要】

Aさんは、建設会社で現場監督として働いていました。現場の工程管理や職人への指示などを担当していましたが、会社からは「現場監督は管理職だから残業代は出ない」と説明されていました。

しかし実際には、Aさんの勤務時間は毎日朝7時頃から夜20時頃まで続くことが多く、休日出勤も少なくありませんでした。給与には「管理職手当」が含まれていましたが、残業時間に応じた賃金は支払われていませんでした。

【残業代請求の経過】

Aさんは弁護士に相談し、過去の勤務実態を確認したところ、会社が主張する「管理職」は法律上の管理監督者には該当しない可能性が高いことが分かりました。

そこで、次のような証拠を収集しました。

・現場日報
・LINEでの業務連絡
・工程表や作業スケジュール
・出勤記録のメモ

これらをもとに労働時間を整理し、会社に対して内容証明郵便で未払い残業代の支払いを求めました。交渉の結果、会社側も長時間労働の実態を認め、未払い残業代の支払いに応じました。

【請求が認められたポイント】

このケースでは、以下の事情が重要なポイントとなりました。

・経営判断に関与する立場ではなかった
・勤務時間の裁量がほとんどなかった
・出退勤が実質的に管理されていた

そのため、現場監督という肩書があっても、法律上の管理監督者には該当しないと判断され、残業代請求が認められました。

【弁護士による解説】

建設業では、現場監督を「管理職」として扱い、残業代を支払わないケースがあります。しかし、管理監督者と認められるためには、経営に関与する権限や待遇などが必要です。

実際には、この事例のように現場監督でも一般の労働者と同様に長時間労働をしているケースが多く、残業代請求が認められる可能性があります。

事例②|移動時間や準備時間が労働時間と認められたケース

事例②|移動時間や準備時間が労働時間と認められたケース

【事案の概要】

Bさんは建設会社の作業員として働いており、毎朝会社の資材置き場に集合した後、社用車で現場に移動していました。

会社では、現場で作業している時間のみを労働時間として扱い、移動時間や準備時間については給与が支払われていませんでした。

しかし実際には、資材の積み込みや工具の準備、現場への移動などに毎日1〜2時間程度かかっていました。

【残業代請求の経過】

Bさんは、移動時間や準備時間も労働時間に当たる可能性があると知り、弁護士に相談しました。

その後、以下の証拠を集めました。

・会社集合の指示が記載されたLINE
・作業予定表
・現場写真の撮影時間
・車両の移動記録

これらの証拠をもとに労働時間を再計算したところ、長期間にわたり未払い残業代が発生していることが判明しました。会社と交渉した結果、未払い残業代の支払いに応じる形で解決しました。

【請求が認められたポイント】

このケースでは、以下の事情が重要視されました。

・会社の指示で集合していた
・社用車で現場へ移動していた
・移動や準備が業務の一部であった

これにより移動時間や準備時間も会社の指揮命令下にある労働時間と判断されました。

【弁護士による解説】

建設業では、現場作業以外の時間が労働時間として扱われていないケースが多くあります。しかし、会社の指示で行う移動や準備作業は、労働時間と評価される可能性があります。

特に、会社集合や社用車での移動がある場合には、残業代請求の対象となる可能性が高いといえますので、証拠を集めて早めに弁護士に相談するようにしましょう。

事例③|一人親方として働いていたが労働者と認められたケース

事例③|一人親方として働いていたが労働者と認められたケース

【事案の概要】

Cさんは建設会社と「一人親方契約」を結び、現場作業を行っていました。会社からは「個人事業主だから残業代は出ない」と説明されていました。

しかし実際には、仕事の内容や現場は会社が決めており、勤務時間も実質的に決まっていました。また、使用する工具や車両も会社のものを使用していました。

【残業代請求の経過】

Cさんは、自分の働き方が本当に個人事業主なのか疑問に思い、弁護士に相談しました。働き方を確認した結果、実態としては会社の指揮命令下で働く労働者に近い状態であることが分かりました。

そこで、次のような証拠を集めました。

・会社からの業務指示のLINE
・現場の出勤記録
・工具の貸与記録
・作業日報

これらの証拠をもとに交渉を行った結果、会社は労働者性を認め、未払い残業代の支払いに応じました。

【請求が認められたポイント】

このケースでは、以下の事情が重要視されました。

・仕事の内容や現場を会社が決めていた
・勤務時間が実質的に決まっていた
・業務に使用する工具や資材が会社のものだった

これにより契約上は一人親方であっても、実態としては労働者と判断される可能性があるとされました。

【弁護士による解悦】

建設業では、一人親方や業務委託として働いている人も多くいます。しかし、契約の名称ではなく、実際の働き方が重要です。

会社の指示に従って働いている場合には、実態として労働者と認められ、残業代請求が可能になるケースもありますので、自己判断で残業代請求を諦める前に、一度弁護士に相談することをおすすめします。

タイムカードがなくても大丈夫!建設業において残業代請求に有効な証拠

建設業では、タイムカードや勤怠管理システムが整備されていない会社も少なくありません。そのため、「タイムカードがないから残業代請求はできない」と考えてしまう方も多いですが、タイムカードがなくても残業代請求は可能です。

実際の裁判でも、さまざまな資料をもとに労働時間が認定されているケースは数多くあります。重要なのは、どのような時間に働いていたのかを客観的に示す証拠を集めることです。

タイムカードがなくても大丈夫!建設業において残業代請求に有効な証拠

日報・作業報告書

建設業では、現場ごとに作業日報や作業報告書を作成しているケースがあります。これらの資料には、作業内容や作業時間、現場の場所などが記載されていることが多く、労働時間を裏付ける重要な証拠となる可能性があります。

また、会社に提出する日報だけでなく、自分で記録していた作業メモなども証拠として利用できる場合があります。

LINE・メールなどの業務連絡

近年では、現場の連絡や指示がLINEやメールで行われることも多くなっています。たとえば、次のようなやり取りは労働時間を示す証拠になる可能性があります。

・出勤や集合時間の指示・現場への移動連絡
・作業内容の指示・業務報告のメッセージ

特に、早朝や夜間に業務連絡が行われている場合には、長時間労働の実態を示す証拠となることがあります。

現場写真や作業記録

建設業では、工事の進捗確認のために現場写真を撮影することがあります。写真データには撮影日時が記録されていることが多く、いつ現場にいたのかを示す証拠として利用できる場合があります。

また、施工管理アプリや作業記録システムのログデータなども、労働時間を裏付ける資料となる可能性があります。

車両記録・交通系ICカードの履歴

建設現場への移動では、車両や公共交通機関を利用することもあります。次のような資料は、移動時間や勤務時間を推測する材料となります。

・車両の運行記録
・高速道路のETC履歴
・ガソリンの給油記録
・交通系ICカードの利用履歴

特に、会社の車両を使用している場合には、移動時間の証拠として活用できる可能性があります。

手帳・メモなどの個人記録

日々の勤務時間を手帳やスマートフォンのメモなどに記録している場合、その記録も証拠として利用できることがあります。

もちろん、会社が作成した資料と比べると証拠価値は弱くなることもありますが、他の証拠と組み合わせることで労働時間を立証できる可能性があります。

建設業の残業代請求の流れ

建設業で未払い残業代を請求する場合、一般的にはいくつかの手続きを段階的に進めていくことになります。以下では、残業代請求の基本的な流れを説明します。

建設業の残業代請求の流れ

証拠の収集

まずは、労働時間や勤務実態を示す証拠を集めることが重要です。建設業ではタイムカードがないケースも多いため、日報、LINEのやり取り、現場写真、車両の移動記録など、勤務状況を示す資料をできるだけ集めておく必要があります。

また、給与明細や雇用契約書、業務委託契約書など、賃金の内容や契約関係が分かる資料も重要な証拠になります。これらの資料をもとに、弁護士が労働時間や未払い残業代の金額を計算します。

内容証明郵便の送付

証拠がそろったら、会社に対して未払い残業代の支払いを求める通知を送ります。通常は、内容証明郵便という方法で請求書を送付します。

内容証明郵便は、いつ、誰が、どのような内容の文書を送ったのかを郵便局が証明してくれる制度です。残業代請求では、正式な請求を行ったことを明確にするために内容証明郵便が利用されます。

会社との交渉

内容証明郵便を送付した後は、会社との交渉が行われることになります。会社が未払い残業代の支払いに応じれば、和解によって解決するケースも少なくありません。

交渉では、労働時間の認定や残業代の計算方法、支払い方法などについて話し合いが行われます。弁護士が代理人として交渉を行うことで、会社側とのやり取りを任せることができ、精神的な負担を減らすことにもつながります。

労働審判の申立て

会社との交渉で解決しない場合には、裁判所に労働審判を申し立てることがあります。労働審判は、労働トラブルを迅速に解決するための手続きで、通常は3回程度の期日で結論が出ることが多いとされています。

労働審判では、裁判官と労働審判員が双方の主張や証拠を確認し、和解による解決を目指します。

訴訟の提起

労働審判でも解決しない場合には、通常の民事訴訟に移行することがあります。訴訟では、裁判所が証拠や主張をもとに判断し、未払い残業代の支払いを命じる判決が出されることがあります。

また、会社が悪質に残業代の支払いを拒んでいた場合には、未払い残業代と同額の付加金の支払いが命じられることもあります。

建設業における残業代請求はグラディアトル法律事務所にお任せください

建設業では、長時間労働が常態化しているにもかかわらず、「現場監督だから残業代は出ない」「固定残業代に含まれている」「一人親方だから請求できない」などと言われ、未払い残業代が発生しているケースが少なくありません。しかし、これまで解説してきたとおり、実際には残業代請求が認められる可能性があるケースも多くあります。

もっとも、残業代請求を行うためには、労働時間の立証や残業代の計算、会社との交渉など、専門的な知識と経験が必要になります。特に建設業では、移動時間や準備時間の扱い、管理監督者該当性、一人親方の労働者性など、判断が難しいポイントも多くありますので、専門的な知識や経験が不可欠です。

グラディアトル法律事務所は、労働問題に関する多数の相談・解決実績を有しており、建設業を含むさまざまな業界の残業代請求案件に対応してきました。豊富な経験に基づいて、証拠の収集方法や残業代の見込み額、今後の進め方について分かりやすくご説明いたします。

建設業で働いていて残業代が支払われていない可能性がある場合には、一人で悩まず、まずはお気軽にグラディアトル法律事務所までご相談ください。専門の弁護士が、適切な解決に向けてサポートいたします。

まとめ

建設業では、長時間労働が多いにもかかわらず、残業代が十分に支払われていないケースが少なくありません。しかし、現場監督であっても管理監督者に当たらない場合や移動時間・準備時間が労働時間と認められる場合、一人親方や業務委託であっても実態として労働者と評価される場合には、残業代請求が認められる可能性があります。

また、タイムカードがない場合でも、日報やLINE、写真、車両記録などの資料を組み合わせることで労働時間を立証できることがあります。未払い残業代が発生している可能性がある場合には、早めに弁護士へ相談し、適切な対応を検討することが重要です。

弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力。数多くの夜のトラブルを解決に導いてきた経験から初の著書「歌舞伎町弁護士」を小学館より出版。 youtubeやTikTokなどでもトラブルに関する解説動画を配信している。

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