「SNSの誹謗中傷対策として施行された情報流通プラットフォーム対処法の概要を知りたい」
「SNSで誹謗中傷を受けたときに投稿者を特定する手段にはどのようなものがある?」
「SNSの誹謗中傷に適用される法律とは?」
SNSの普及により、誰もが気軽に情報を発信できる一方で、匿名性を悪用した誹謗中傷の被害が社会問題となっています。これまでは被害者が投稿を削除したり加害者を特定したりするには時間と労力がかかり、十分な救済が受けられないケースも少なくありませんでした。
このような状況を改善するため、「プロバイダ責任制限法」を改正した新たな法律として「情報流通プラットフォーム対処法」が2025年4月に施行されました。本改正により、削除申出の手続きや発信者情報の開示制度が大きく見直され、被害者が迅速に権利救済を図れるようになっています。
本記事では、
| ・情報流通プラットフォーム対処法の概要と改正の背景 ・情報流通プラットフォーム対処法の具体的な改正ポイント ・SNSでの誹謗中傷に適用される刑法・民法上のルール |
などについて詳しく解説します。
誹謗中傷の問題に直面している方はもちろん、SNS上のリスク管理を意識したい方もぜひ参考にしてください。
SNSの誹謗中傷対策として「情報流通プラットフォーム対処法」という法律が施行

2025年4月に「情報流通プラットフォーム対処法」が施行され、SNSや掲示板などインターネット上の情報流通に関する新しいルールが導入されました。以下では、情報流通プラットフォーム対処法の概要と法改正の背景について説明します。
情報流通プラットフォーム対処法は旧プロバイダ責任制限法の改正法
「情報流通プラットフォーム対処法」は、「プロバイダ責任制限法(正式名称:特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律)」を大幅に見直した改正法です。
旧法では、被害者が誹謗中傷の投稿を削除したり投稿者の情報を特定したりする手続きを定めていましたが、制度が十分に機能せず、被害救済が遅れるという課題がありました。特に、発信者情報を特定するためにサイト管理者・プロバイダそれぞれに対して別々の訴訟や仮処分を行う必要があり、時間的・経済的負担が大きい点が問題点として指摘されていました。
今回の改正により、従来の仕組みを抜本的に見直し、手続きの簡素化や開示制度の強化が実現しました。これによって、誹謗中傷の削除や加害者の特定がより現実的なものとなったのです。
法改正の背景
SNS誹謗中傷への対応を強化する背景には、深刻な被害事例の増加があります。芸能人や一般人を問わず、SNSでの誹謗中傷を原因として社会生活に支障をきたし、中には命を絶つまで追い込まれるケースも発生しました。
このような事件を契機に、社会的にも「被害者が救済を受けやすい制度を整えるべき」という声が高まり、国会でも議論が進められました。さらに、海外でもインターネット上のプラットフォームに一定の責任を課す法整備が進んでいたことも、日本の法改正を後押ししました。
このようにして誕生した情報流通プラットフォーム対処法は、被害者がスピーディーに権利回復できる仕組みを整えると同時に、SNS事業者などのプラットフォーム側にも適切な対応を義務付けることで、健全な情報流通環境の実現を目指しています。
法律改正によりSNS誹謗中傷対策が強化!主な改正ポイント
情報流通プラットフォーム対処法の施行により、従来の制度の不備が改善され、誹謗中傷の被害者救済がスムーズに行えるようになりました。以下では、特に重要な改正ポイントを説明します。
削除申出を受け付ける方法の公表
従来は、SNS事業者や掲示板管理者に対して削除を申し出る際、どこに連絡すればよいかが不明確な場合も多く、被害者が手続きを進めにくいという問題がありました。
今回の改正により、プラットフォーム事業者は、削除申出を受け付ける窓口や方法を明確に公表する義務を負うことになりました。たとえば、専用の問い合わせフォームやメールアドレスを公表し、誰でもわかりやすく削除を申し出られるようにする必要があります。これにより、被害者が迅速に対応を求められる環境が整えられました。
削除申出者に対する通知義務
これまで削除申出を行っても、その後どう対応されたのかが被害者に伝えられず、不安を抱えたまま待たされるケースが少なくありませんでした。
改正法では、事業者が削除申出を受けた場合、申出者に対して対応の結果を通知する義務が課されました。たとえ削除に至らなかったとしても、その理由や判断基準を説明することが求められます。この仕組みによって、被害者は手続きの進行状況を把握でき、次の対応(発信者情報開示の請求など)を検討しやすくなります。
発信者情報開示命令の手続きを新設
もっとも大きな改正点が発信者情報開示命令の新設です。従来は、サイト管理者とプロバイダそれぞれに対して別々に裁判手続きを行う必要があり、解決まで長期間を要していました。
新制度では、裁判所に1回申し立てをすることで、以下の命令をまとめて出してもらえるようになりました。
| ・サイト運営元やプロバイダに対する発信者情報開示命令 |
| ・サイト運営元に対する、プロバイダへのログ提供命令 |
| ・サイト運営元・プロバイダに対する消去禁止命令(証拠保全のため) |
これにより、被害者は、従来の二段階手続きに比べて大幅に時間とコストを削減しながら、匿名の加害者を特定できるようになったのです。
SNS誹謗中傷の投稿者を特定する2つの法律上の制度
SNSでの誹謗中傷は、匿名で行われるため、投稿者に対して民事・刑事による責任追及をするためには、投稿者を特定しなければなりません。
投稿者と特定するための法律上の制度としては、以下の2つが存在します。
①発信者情報開示命令(法改正により新設された制度)
②発信者情報開示請求(従来の手段)
プロバイダ責任制限法の改正により、「発信者情報開示命令」が新設され、従来型の制度に比べて早期に投稿者の特定が可能であることから、基本的には、発信者情報開示命令の制度を利用して投稿者の特定を行います。
ただし、X(旧Twitter)については、情報の保有の有無の回答に非常に時間がかかるため、当事務所では、アカウント情報の開示命令とログインIP・タイムスタンプ開示の仮処分を組み合わせる方法を選択しています。
SNS誹謗中傷で投稿者を特定する法律上の方法①|発信者情報開示請求(従来の手段)

SNSでの誹謗中傷は多くの場合、匿名アカウントによって行われます。そのため、加害者を特定するには「発信者情報開示請求」という法的手続きを利用する必要があります。これは、旧プロバイダ責任制限法に基づいて運用されてきた制度で、以下のような二段階の手続きを踏むのが特徴です。
サイト管理者への開示請求|発信者情報開示仮処分の申立て
まず最初に行うのが、誹謗中傷の投稿が掲載されているサイトやSNSの運営者に対して、発信者情報の開示を求める手続きです。
ただし、運営者が任意に応じてくれるケースは少ないため、裁判所に発信者情報開示の仮処分を申し立てるのが一般的です。ここで開示されるのは、投稿時に利用されたIPアドレスやタイムスタンプといった技術的情報であり、これだけでは投稿者の身元は判明しません。
プロバイダへの開示請求|発信者情報開示請求訴訟の提起
次の段階として、サイト運営者から得たIPアドレスなどを手掛かりに、インターネット接続事業者(プロバイダ)を特定し、プロバイダに対して契約者情報を開示請求します。
しかし、プロバイダは、利用者のプライバシー保護の観点から任意の開示に応じることはほとんどなく、通常は、発信者情報開示請求訴訟を提起する必要があります。この訴訟で認められれば、最終的に加害者の氏名や住所などが判明します。
このように、従来の発信者情報開示請求は二段階での裁判手続きが必要であり、時間も費用もかかるため、被害者にとって大きな負担となっていました。こうした課題を解決するために導入されたのが、次章で解説する「発信者情報開示命令」という新しい制度です。
SNS誹謗中傷で投稿者を特定する法律上の方法②|発信者情報開示命令(新たな手段)

2025年4月に施行された「情報流通プラットフォーム対処法」により、新たに導入されたのが発信者情報開示命令です。従来の発信者情報開示請求では二段階の裁判手続きが必要でしたが、この制度では1回の裁判手続きで投稿者を特定できるようになりました。
これにより、時間や費用の負担が大幅に軽減され、被害者が迅速に権利救済を受けやすくなっています。
発信者情報開示命令で可能になった手続き
発信者情報開示命令では、裁判所が次のような命令を一括して出すことができます。
| ①サイト運営元・プロバイダに対する発信者情報開示命令SNSや掲示板の運営会社、さらにはプロバイダに対して、発信者のIPアドレス・タイムスタンプ、氏名・住所などの情報を直接開示させる命令です。 ②サイト運営元に対するプロバイダへのログ提供命令投稿時のIPアドレスやログ情報を運営元からプロバイダに提供させる命令です。これにより、プロバイダが契約者情報を正確に特定できるようになります。 ③サイト運営元・プロバイダに対する消去禁止命令発信者の情報や通信記録が削除されないよう、証拠保全のために情報を消去しないよう命じる制度です。 |
従来の方法との違い
従来の発信者情報開示請求は、サイト運営者とプロバイダに対して別々の裁判を行わなければならず、解決までに半年~1年程度かかることも珍しくありませんでした。
一方、新制度では1回の申立てで複数の命令をまとめて発令できるため、解決までの期間が大幅に短縮されます。被害者にとっては、誹謗中傷の影響が深刻化する前に投稿者を特定し、損害賠償請求など次のステップに移れる点で大きなメリットがあります。
このように発信者情報開示命令は、SNS誹謗中傷の被害救済における「迅速性」と「確実性」を強化した画期的な制度といえます。
SNSでの誹謗中傷に適用されるその他の法律
SNSでの誹謗中傷に対しては、発信者情報開示制度を利用して投稿者を特定するだけでなく、刑事・民事の両面で責任を追及することが可能です。以下では、情報流通プラットフォーム対処法以外にSNS誹謗中傷で適用される法律を紹介します。
刑法|名誉毀損罪・侮辱罪
SNS上で特定の人物を誹謗中傷する投稿は、刑法上の犯罪に該当することがあります。代表的なものは以下のとおりです。
| ①名誉毀損罪(刑法230条)公然と事実を摘示し、他人の社会的評価を低下させる行為を処罰する犯罪です。たとえ事実であっても、人の名誉を不当に傷つければ処罰対象となる可能性があります。 〈例〉「○○は不倫している」とSNSに投稿した場合 |
| ②侮辱罪(刑法231条)事実を摘示しなくても、抽象的な悪口や侮蔑的表現で他人を侮辱する行為を処罰する犯罪です。 〈例〉「バカ」「死ね」などの罵倒を繰り返し投稿する場合 |
これらは被害者からの告訴が必要な「親告罪」ですが、2022年の法改正で侮辱罪の法定刑が引き上げられ、社会的にも厳しく取り締まられるようになっています。
民法|不法行為に基づく損害賠償請求
SNS誹謗中傷は、民法上の「不法行為」(民法709条)に該当し、被害者は加害者に対して損害賠償を請求できます。
損害賠償の対象には以下が含まれます。
| ・精神的苦痛に対する慰謝料 |
| ・弁護士費用の一部 |
| ・誹謗中傷によって発生した営業上の損害(売上減少、顧客離れなど) |
加害者に対する損害賠償請求は、まずは加害者との交渉による解決を目指しますが、加害者が話し合いに応じないときは、裁判所に訴訟提起する必要があります。
SNS誹謗中傷の法律上の対応を弁護士に相談すべき理由

SNSで誹謗中傷の被害を受けたとき、法律上の対応を自分だけで進めるのは容易ではありません。証拠収集や裁判手続きには専門的な知識が必要であり、誤った対応をすると削除や投稿者特定が遅れてしまう可能性もあります。そこで重要になるのが、弁護士への相談です。以下では、SNS誹謗中傷の法律上の対応を弁護士に依頼するメリットを説明します。
誹謗中傷の投稿を迅速に削除できる
弁護士に依頼すれば、法的根拠を示した削除請求をプラットフォーム事業者に対して行うことができます。一般の利用者が個人で削除申出をしても対応されないことがありますが、弁護士からの正式な通知であれば、削除が迅速に認められる可能性が高まります。
また、裁判所に仮処分を申し立てて削除を強制できる手続きもあり、弁護士であれば適切な方法を選択して動いてくれます。
匿名の投稿であっても投稿者を特定できる
SNS誹謗中傷の多くは匿名で行われるため、加害者を特定するには発信者情報開示請求や発信者情報開示命令を利用する必要があります。これらは専門的な手続きであり、弁護士に依頼することでスムーズに進めることが可能です。
特に、新制度である発信者情報開示命令は導入されたばかりであり、最新の実務に精通した弁護士に依頼することが、投稿者特定を成功させる近道になります。
損害賠償請求の手続きを任せられる
投稿者が特定できた後は、名誉毀損や侮辱に基づく損害賠償請求を行うことができます。慰謝料や営業上の損害賠償を請求する場合、法的な根拠を整えた上で裁判所に訴える必要があり、一般の方にとっては大きな負担です。
弁護士に依頼すれば、請求のための証拠収集や訴状作成、交渉から訴訟までを任せられるため、精神的負担を軽減しつつ適正な賠償を得られる可能性が高まります。
SNSで誹謗中傷被害を受けたときの法律上の対応はグラディアトル法律事務所にお任せください

SNS上の誹謗中傷は、放置すれば被害が広がり、精神的負担や社会的信用の失墜といった深刻な結果につながります。迅速な削除や投稿者の特定が必要ですが、法的手続きは専門性が高く、被害者自身で対応するのは困難です。
グラディアトル法律事務所では、多数の誹謗中傷案件を扱ってきた経験を活かし、依頼者に最適な解決策を提案しています。経験豊富な弁護士が法的根拠を示した削除請求により速やかに投稿の拡散を防止し、新制度である発信者情報開示命令を利用することで匿名の加害者を特定する手続きもスムーズに進められます。さらに、慰謝料や営業上の損害に対する損害賠償請求まで一貫してサポートが可能です。
当事務所は全国対応・オンライン相談にも対応しており、遠方の方でも安心してご依頼いただけます。SNS誹謗中傷でお悩みの方は、決して一人で抱え込まず、まずはご相談ください。
まとめ
SNSの誹謗中傷は被害が拡大しやすく、放置すれば深刻な影響を及ぼすリスクがあります。今回施行された「情報流通プラットフォーム対処法」により、削除申出や発信者情報開示命令など、被害者が救済を受けやすい仕組みが整いました。しかし、実際の手続きには専門的な知識が必要ですので、誹謗中傷の被害に遭ったときは、すぐに弁護士に相談することが重要です。
グラディアトル法律事務所では、削除対応から投稿者特定、損害賠償請求まで一貫してサポートいたします。SNS誹謗中傷にお悩みの方は、ぜひ当事務所にご相談ください。
