「ネットの誹謗中傷があった場合、どのような犯罪が成立する?」
「ネットで誹謗中傷の犯罪被害に遭ったときに被害者がとるべき行動とは?」
「ネット誹謗中傷で刑事告訴をするとどのような流れで捜査が進むの?」
インターネット上での誹謗中傷は、近年大きな社会問題となっています。SNSや掲示板などに匿名で書き込まれた悪口や根拠のない噂が拡散し、被害者の名誉や信用の失墜、精神的苦痛、さらには生活や仕事に深刻な影響を及ぼすケースも少なくありません。
このようなネット上の誹謗中傷は、単なるマナー違反にとどまらず、内容によっては刑法上の犯罪として処罰される可能性があります。たとえば、名誉毀損罪や侮辱罪、脅迫罪、業務妨害罪、信用毀損罪などが典型例です。実際に誹謗中傷を理由に逮捕されたニュースも報じられていますので、誹謗中傷の被害に遭った方は、刑事告訴などの対応を検討すべきでしょう。
本記事では、
| ・ネット誹謗中傷で成立し得る主な犯罪の種類と判例・逮捕事例 ・ネット誹謗中傷の被害者が取るべき行動や告訴の注意点 ・ネット誹謗中傷の捜査の流れ |
などについてわかりやすく解説します。
ネット上の誹謗中傷被害に悩まれている方は、ぜひ参考にしてください。
ネット誹謗中傷で成立する主な犯罪
インターネット上の誹謗中傷は、感情的な書き込みや軽い悪ふざけのつもりでも、内容によっては刑法上の犯罪に該当します。以下では、ネット誹謗中傷に関して特に問題となる代表的な犯罪を取り上げ、実際の事例も交えながら説明します。
名誉毀損罪
名誉毀損罪は、公然と事実を摘示して他人の社会的評価を低下させる行為をした場合に成立する犯罪です(刑法230条)。
特徴としては、投稿内容が真実か虚偽か、証明可能かどうかにかかわらず、特定の個人や法人の名誉を傷つける場合に名誉毀損罪が成立し得ます。ただし、内容が真実であり公共の利益のためであると認められれば違法性が阻却されることもあります。
【実際の事例】
| 2025年6月11日、兵庫県議の増山誠氏とその家族の写真を添えて、「人殺し」「子供らも犯罪者になる」などとSNS(X)に複数回投稿し、名誉を傷つけた疑いで、神戸市東灘区在住の61歳無職の男が名誉毀損の疑いで逮捕されました。 警察によれば、投稿は2024年12月から2025年1月にかけて行われ、被害届・告訴状も提出されていたとのことです。容疑者は「逮捕事実の内容を投稿した可能性がある」とおおむね認めていると報じられています。(参考:サンテレビ「SNSで増山県議の名誉を傷つけた疑い 神戸市に住む60代の男を逮捕」) |
侮辱罪
侮辱罪は、具体的な事実の摘示を伴わずに、他人を公然と侮辱する行為をした場合に成立する犯罪です(刑法231条)。たとえば「死ね」「くそ」「バカ」「気持ち悪い」などの人格・感情を攻撃する表現が典型です。
2022年の刑法改正で、法定刑が「拘留または科料」から「1年以下の懲役・禁錮(拘禁刑)もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料」に引き上げられています。
【実際の事例】
| 侮辱罪の代表的な事例として、タレント・木村花さんへの誹謗中傷事件があります。朝日新聞によれば、SNS(X)上で複数回「死ねや、くそが」「きもい」「かす」などと投稿し、木村さんを公然と侮辱したとして、大阪府在住の20代の男が侮辱容疑で書類送検されました。このケースでは、最終的に略式起訴となり、科料9000円の処分が下されました。 (参考:朝日新聞 「木村花さんを侮辱した容疑、男を書類送検 2人目の立件」) |
脅迫罪
脅迫罪は、相手またはその親族に対して、生命・身体・自由・名誉・財産に危害を加える旨を告知して脅迫する行為をした場合に成立する犯罪です(刑法222条)。たとえば、「お前を殺す」「家族を傷つける」「過去の犯罪歴をネット上に暴露する」といったメッセージが典型例です。
ネット上でも同様に、相手に対して現実的な恐怖を抱かせるような書き込みは、脅迫罪として処罰される可能性が高く、警察が捜査に乗り出すケースがあります。
【実際の事例】
| 誹謗中傷による脅迫罪の事例として、斎藤元彦兵庫県知事に対して「必ず殺すぞ」などの脅迫的な文言を、県の意見投稿フォーム(「さわやか提案箱」)に入力・送信したとして、長崎県壱岐市在住の無職の男性(66)が脅迫罪で略式起訴され、神戸簡裁が略式命令を出した事案があります。起訴状によると、投稿は5月から7月の間に行われ、県職員が確認して県警が捜査、逮捕(5日)がなされました。 (参考:共同通信 斎藤知事脅迫罪で略式起訴 兵庫県HPに「殺す」) |
業務妨害罪
業務妨害罪は、虚偽の情報や不法な手段を用いて他人の業務を妨害した場合に成立する犯罪です(刑法233条・234条)。たとえば、虚偽の口コミ投稿、大量の迷惑コメント、いたずら注文などが典型的です。
業務の円滑な遂行を妨げるこれらの行為は「偽計業務妨害罪」または「威力業務妨害罪」に該当します。
【実際の事例】
| 2025年2月、タレントの堀ちえみさん(57)のブログに対し、約1万6000回もの中傷コメントを送り続け、ブログ管理会社の業務を妨害したとして、警視庁が無職の女性(47)を偽計業務妨害の疑いで再逮捕しました。 容疑者は2023年4月から2024年7月にかけて「うそ八百」などの中傷メッセージを送り続け、コメント選別作業を困難にさせたとされています。堀さんは体調不良をブログで報告していましたが、その投稿にも執拗に誹謗的なコメントが送信され、精神的にも大きな負担となったと報じられています。また、同容疑者は過去にもインターネット掲示板で堀さんを侮辱する投稿を行い、侮辱罪や脅迫罪でも逮捕されていました。 (参考:時事通信 堀ちえみさんブログに1.6万回中傷 容疑で「元ファン」の女再逮捕―警視庁) |
信用毀損罪
信用毀損罪は、虚偽の事実を公に流布して、他人の社会的信用を害する行為を処罰するものです(刑法233条)。つまり、事実でないことを投稿・拡散し、取引先・利用者・社会一般の信頼を損なうような言動に適用されます。被害を受ける対象は、個人・企業・店舗などさまざまです。
【実際の事例】
| 佐賀県武雄市内でスナックを経営する40代男性に対し、SNSで「コロナをうつされた人が多発している」「いたずら電話をされた」などの虚偽情報を投稿して信用を傷つけたとして、32歳の男が信用毀損容疑で逮捕されました。 報道によると、投稿は2023年12月および2024年2月に行われたもので、容疑者は約6年前までその店に通っていたとされています。投稿者は、自身のSNSアカウントに店の悪口や虚偽情報を記載しており、「間違いありません」と容疑を認めているということです。 (参考:サガテレビ 「コロナうつされた人多発」スナックの悪口などSNSに投稿 32歳の男を信用毀損の疑いで逮捕 佐賀県) |
ネット誹謗中傷による犯罪被害に遭ったときに取るべき行動
ネット上で誹謗中傷を受けると精神的苦痛はもちろん、社会的信用や職場・家庭環境にも深刻な影響を与えかねません。このような場合、被害者が適切な対応をとることで、刑事責任を追及できる可能性が高まり、また被害拡大の防止にもつながります。以下では、実際に誹謗中傷の被害に遭った場合にとるべき行動を紹介します。
誹謗中傷の証拠を確保
最初に行うべきことは、誹謗中傷の証拠を保存することです。
誹謗中傷の投稿は、加害者が後から削除してしまうことが少なくありません。そのため、問題の投稿を見つけたらすぐにスクリーンショットを取り、投稿日時やコメント欄の様子を記録に残すことが大切です。その際には、投稿のURLやアカウント名も控えておくと後の手続きで役立ちます。
また、加害者の特定にはアクセスログが重要となるため、弁護士を通じてプロバイダにログの保存を要請することも検討すべきです。
さらに、誹謗中傷による影響を受けた精神的苦痛や仕事上の不利益について、日記や医師の診断書といった形で残しておけば、損害賠償請求の際に有効な資料として利用できます。
警察に被害届や告訴状の提出
誹謗中傷の内容が名誉毀損罪や侮辱罪、脅迫罪、業務妨害罪、信用毀損罪などに該当する場合は、警察に相談して被害届や告訴状を提出することができます。
被害届は、被害があった事実を知らせるものであり、警察が事案を把握する出発点となります。
一方で告訴状は、「加害者を処罰してほしい」という意思を明確に示す文書であり、特に名誉毀損罪や侮辱罪は、親告罪にあたるため、告訴がなければ処罰されません。
証拠を十分に揃えて相談すれば捜査が進みやすくなりますが、警察が消極的な態度を示すこともあります。そのような場合には、弁護士に告訴状の作成・提出をしてもらうことで、受理される可能性が高まります。
誹謗中傷の投稿の削除請求
被害の拡大を防ぐためには、問題となる投稿をできるだけ早く削除することが欠かせません。
まずはSNSの運営会社や掲示板の管理者に削除を依頼し、利用規約や法令違反を根拠に申請します。それでも対応が得られない場合には、裁判所に仮処分を申し立て、迅速な削除を実現する方法もあります。
削除を求めることは単に被害の拡散を防ぐだけでなく、被害者の精神的な負担を軽減する意味でも重要です。特にSNSや掲示板は拡散力が強いため、放置すれば被害が広がり続ける危険性があります。
削除請求と同時に発信者情報開示請求を進めれば、加害者の特定や損害賠償請求に結び付けやすくなるでしょう。
ネット誹謗中傷の犯罪被害で告訴をする際の注意点

ネット誹謗中傷の被害を刑事事件として解決するためには、告訴が必要となるケースがあります。しかし、告訴の仕組みや手続きについて正しく理解していないと、せっかく準備をしても受理されない、または処罰につながらないという事態も起こり得ます。以下では、告訴を検討する際に押さえておくべき注意点を説明します。
警察は告訴を受理しない?
被害を受けて警察署に相談しても、「民事で解決してください」と言われたり、「忙しいので捜査は難しい」と受理を渋られるケースがあります。
しかし、犯罪捜査規範63条では、警察などの捜査期間は告訴があると受理しなければならないと定められており、被害者が告訴状を提出すれば本来は受理されるべきものです。そのため、スムーズに受理してもらうためには、証拠を十分に揃えるとともに、弁護士に依頼して告訴状を作成し、警察に同行してもらうのが効果的です。
専門家のサポートを受ければ、警察も真剣に捜査を検討する可能性が高まります。
名誉毀損罪・侮辱罪は親告罪のため告訴がなければ処罰できない
名誉毀損罪や侮辱罪は、「親告罪」に分類されます。これは、被害者が告訴をしなければ加害者を処罰できない犯罪のことです。つまり、被害者が「処罰を望む」という意思を明確に示さなければ、刑事手続きは進みません。
インターネット上の誹謗中傷被害では、名誉を傷つけられたケースが大半を占めるため、この点を理解しておくことがとても重要です。なお、脅迫罪や業務妨害罪、信用毀損罪は非親告罪のため、必ずしも告訴は必要ありませんが、被害者の処罰意思が強いほど捜査が進みやすい傾向にありますので、非親告罪であっても告訴を検討すべきでしょう。
親告罪の告訴期間は犯人を知った日から6か月以内
親告罪にあたる罪の場合、告訴できる期間は「犯人を知った日から6か月以内」と法律で定められています。この期間を過ぎると、加害者を特定できても告訴することはできません。
インターネット上の誹謗中傷は、匿名で行われるケースがほとんどですので、発信者情報開示請求により初めて投稿者を特定することができます。すなわち、その時点から告訴期間がスタートするため、投稿者を特定した後は速やかに刑事告訴の手続きを進めるようにしてください。
ネット誹謗中傷の犯罪捜査の流れ

インターネット上の誹謗中傷が犯罪として扱われる場合、被害者が告訴を行った後、警察と検察によって正式に捜査が進められます。しかし、被害者の立場からすると捜査の流れが見えにくく、不安を抱えることも少なくありません。以下では、一般的な捜査の進行手順を整理し、被害者が知っておくべきポイントを説明します。
警察による捜査の開始
告訴状や被害届が受理されると、警察は捜査を開始します。
最初に被害者から事情を聴取し、提出された証拠を確認します。証拠の内容によっては、サイト管理者やプロバイダなどに照会を行い、投稿者の特定に向けた手続きが進められます。
警察は証拠の精査を行い、犯罪の成立可能性を判断したうえで本格的な捜査に入るため、証拠をしっかり準備しておくことが捜査開始の第一歩となります。
犯人の特定・取り調べ
警察は、投稿されたSNSや掲示板の運営会社、プロバイダなどからIPアドレスやログを入手し、発信者を割り出します。
加害者が特定されると、警察は本人に事情聴取を行い、目的や経緯などを確認します。被害者としては、自分の被害がどのように立証されているか気になるかもしれませんが、詳しい供述内容や捜査状況までは教えてもらうことはできません。
検察官に事件の送致
警察の捜査が一定程度進むと、事件は検察官に送致されます。送致とは、捜査資料や証拠を検察に引き継ぐ手続きのことです。
検察官は、送致を受けて証拠関係をさらに精査し、起訴するかどうかを判断します。
検察官が起訴・不起訴の決定
最終的に、検察官が事件を起訴するか否かを決定します。
起訴されれば裁判が開かれ、加害者に刑事責任が問われることになります。不起訴と判断された場合でも、内容によっては被害者が「検察審査会」に申し立てて再検討を求めることが可能です。
なお、起訴・不起訴にかかわらず、民事上の損害賠償請求は別途行うことができますので、刑事と民事の両面から加害者に責任を追及することが望ましいでしょう。
ネット誹謗中傷犯罪に関して弁護士ができること
ネット誹謗中傷の被害に直面したとき、被害者が一人で対応するのは精神的に大きな負担になります。そのようなときは、専門知識を持つ弁護士に依頼することで、証拠収集から刑事告訴、さらには削除請求や損害賠償請求まで、被害回復に向けた手続きを一括で進めることが可能になります。以下では、弁護士が被害者をサポートできる具体的な内容を紹介します。
誹謗中傷の証拠収集のサポート
ネット上の投稿は、加害者が削除してしまう可能性があるため、迅速な証拠の確保が極めて重要です。
弁護士に依頼すれば、投稿のスクリーンショットやURLの保存に加え、発信者を特定するためのアクセスログ保全の要請など、専門的な観点から適切な証拠収集を行ってもらえます。また、被害状況を法的に整理し、訴訟や告訴に耐えうる形に整えることも可能です。
刑事告訴のサポート
名誉毀損罪や侮辱罪は、親告罪にあたり、告訴がなければ加害者を処罰することはできません。また、非親告罪であっても告訴がなければ積極的に警察が捜査に乗り出すことは期待できません。
弁護士は、告訴状の作成や証拠の添付資料の準備をサポートし、警察に受理されやすい形で手続きを整えます。さらに、弁護士が同行して警察に提出することで、告訴の受理率を高め、捜査を円滑に進める効果も期待できます。
迅速な削除請求から損害賠償請求まで一括対応
誹謗中傷の投稿が残り続ければ、被害は拡大し続けます。
弁護士は、SNS運営会社や掲示板管理者に対して削除を申し入れるだけでなく、裁判所への仮処分申立てによって迅速な削除を実現することができます。さらに、発信者情報開示請求を通じて加害者を特定した後には、不法行為に基づく損害賠償請求を行い、精神的苦痛に対する慰謝料を請求することも可能です。
このように、弁護士に依頼すれば刑事と民事の両面から包括的な対応を受けられます。
ネット誹謗中傷犯罪でお困りの方はグラディアトル法律事務所に相談を

ネット上での誹謗中傷は、被害者の心身に深刻な影響を及ぼすだけでなく、社会的評価や生活基盤を揺るがす重大な問題となります。被害を受けた直後は「どこに相談すればよいのか」「警察に動いてもらえるのか」と不安になる方も多いでしょう。そんなときは、ネット中傷事件に多数の対応実績を持つグラディアトル法律事務所にご相談ください。
当事務所では、インターネット誹謗中傷に精通した弁護士が、証拠の確保から発信者情報の開示請求、削除仮処分、刑事告訴のサポート、さらには損害賠償請求に至るまで一貫した対応を行っています。被害者の方が抱える精神的な負担と法的手続きの負担の両方を軽減し、迅速な解決を目指すことが可能です。
また、加害者の特定には時間制限があるため、早期に動き出すことが極めて重要です。当事務所では、迅速な対応を心がけていますので、被害が拡大する前に最適な解決策を提示できます。
ネット誹謗中傷に悩んでいる方は、一人で抱え込まず、ぜひグラディアトル法律事務所にご相談ください。
まとめ
ネットでの誹謗中傷は、名誉毀損罪や侮辱罪などの犯罪に発展し、被害者の人生を大きく揺るがす深刻な問題となります。被害を受けた際は、証拠を確保し、速やかに警察や弁護士へ相談することが大切です。特に、親告罪の告訴期限や削除請求のタイミングを逃すと、適切な救済を受けられなくなる可能性もありますので注意が必要です。
グラディアトル法律事務所では、豊富な実績をもとに証拠収集から削除請求、刑事告訴、損害賠償請求まで一括対応が可能です。ネット中傷でお困りの方は、一人で悩まず、まずは当事務所にご相談ください。
