「発信者情報開示請求とはどのような手続きなの?」
「実際の発信者情報開示請求の流れを知りたい」
「どのような事案で開示請求が認められているの?」
インターネット上の誹謗中傷やプライバシー侵害は、「匿名だから泣き寝入りするしかない」と思われがちです。しかし、正しい手続きを踏めば投稿者を特定し、法的責任を追及することができます。そのための制度が「発信者情報開示請求」です。
グラディアトル法律事務所では、通算1000件以上、直近1年半だけでも200件超の発信者情報開示請求を担当してきました。発信者情報開示請求をする側だけではなく、開示請求をされた人からの依頼にも対応をしてきています。開示請求をする側についても、実際に、数多くの開示を実現してきました。
認容率も高く、全国的にも有数の実績を誇ります。さらに、成功事例だけでなく、開示が認められなかった失敗事例も蓄積しており、その経験が依頼者の案件に活かされています。
本記事では、
| ・発信者情報開示請求の流れや必要な要件、費用・期間の目安 ・注意すべき「失敗するパターン」 ・当事務所の解決事例や発信者情報開示請求に関する裁判例 |
まで、経験豊富な弁護士が実務の視点から詳しく解説します。
開示請求を検討している方が、実際に行動へ移すために必要な情報をすべてまとめていますので、ぜひ参考にしてください。
発信者情報開示請求とは?

「発信者情報開示請求」という言葉は耳慣れないかもしれませんが、ネット上での誹謗中傷やプライバシー侵害に立ち向かうためには避けて通れない重要な手続きです。匿名投稿の加害者を特定することができなければ、その後の損害賠償請求や刑事告訴に進むことは困難です。以下では、発信者情報開示請求の基本的な仕組みと実際に開示される情報の種類を説明します。
発信者情報開示請求の概要
発信者情報開示請求とは、匿名の投稿者を特定するために、裁判所を通じてサイト管理者やプロバイダに「発信者に関する情報の開示」を求める制度です。
たとえば、掲示板やSNSで誹謗中傷を受けた場合、投稿者の氏名や住所は当然わかりません。そのままでは責任追及も再発防止も不可能です。そこで被害者は、裁判所に申立てを行い、サイト管理者から投稿時のIPアドレス等を取得し、さらにそのIPアドレスを管理しているプロバイダに契約者情報を開示させる――この二段階の流れによって発信者の特定を進めていきます。
当事務所でも数多くの申立てを担当してきましたが、実務上は「明らかな権利侵害がある」と裁判所に判断してもらえるかどうかが最大のポイントです。証拠収集の精度や主張立証の仕方によって、開示が認められるかどうかが大きく変わるのが実態です。
開示される情報の種類|IPアドレス、住所・氏名など
発信者情報開示請求で開示対象となるのは、次のような情報です。
| ・氏名 ・住所 ・メールアドレス ・発信者のIPアドレス/IPアドレスとポート番号 ・携帯端末のインターネット接続サービス利用者識別番号 ・SIMカード識別番号 ・発信時間(タイムスタンプ) |
これらの情報を組み合わせることで、発信者を個人単位で特定できる可能性が高まります。特に、IPアドレスと発信時間のセットはプロバイダの契約者情報と照合するための必須データです。
発信者情報開示請求の手続きを利用すべきケース
発信者情報開示請求は、誰でも自由に使える制度ではなく、「権利侵害があると認められる場合」に限って利用できます。単なる意見の対立や不快な表現では、開示が認められないことも少なくありません。以下では、実際に発信者情報開示請求の手続きを進めるべき代表的なケースを紹介します。
誹謗中傷やプライバシー侵害などの権利侵害があるケース
もっとも多いのは、SNSや掲示板において「名誉毀損」や「プライバシー侵害」と評価される投稿が行われたケースです。
| ・事実無根の噂を拡散された |
| ・「会社をクビになった」など虚偽の内容を書き込まれた |
| ・自宅住所や電話番号といった個人情報を暴露された |
当事務所の経験では、虚偽事実の投稿+具体的な被害の発生がある場合に開示が認められる可能性が高い傾向にあります。一方、「性格が悪い」などの抽象的な悪口は「意見・論評の範囲」とされ、開示が否定されることもあります。
匿名の投稿者を特定して法的責任追及をするケース
誹謗中傷を放置すれば、被害が拡大し続ける可能性があります。そのため、投稿者を特定して損害賠償請求や刑事告訴につなげたい場合には、発信者情報開示請求を検討すべきです。
実際に当事務所が扱ったケースでも、X(旧Twitter)での名誉毀損発言について発信者情報を開示させ、その後に慰謝料請求まで至った例が多数あります。投稿者を特定すること自体がゴールではなく、特定後にどのような法的措置を取るかまで考えておくことが重要です。
投稿による再発防止を求めるケース
開示請求は、単に損害賠償を目的とするだけではなく、再発を防止するための抑止力としても活用されます。
たとえば、同一人物から繰り返し誹謗中傷を受けている場合、発信者を特定して内容証明郵便で警告を行うだけで投稿が止まることもあります。裁判まで進めずとも、開示請求を通じて「匿名では済まされない」というメッセージを伝えることができるのです。
| 【実務上の注意点】①開示請求が認められるには「権利侵害が明白であること」が必要で、単なる不快感では足りません。 ②投稿が削除されてもログが残っていれば請求は可能ですが、時間が経つとログが消失し特定不能になるリスクがあります。 ③「相手を懲らしめたい」という気持ちだけで動くのではなく、請求後に何をしたいのか(損害賠償/刑事告訴/警告による抑止)を明確にしておくことが大切です。 |
発信者情報開示請求の主な要件

発信者情報開示請求は、誰でも好きなタイミングで行えるわけではなく、法律上の要件を満たしていなければ認められません。実務の現場でも、要件を満たさないために開示が棄却されるケースも少なくありません。以下では、発信者情報開示請求の代表的な3つの要件と実際に注意すべきポイントを説明します。
SNSや掲示板など誰でも閲覧可能なネット上に投稿されたこと
発信者情報開示請求の対象は、基本的に「不特定多数が閲覧できる場所」に投稿された情報です。
・X(旧Twitter)やInstagramなどのSNS
・匿名掲示板(5ちゃんねる、爆サイなど)
・ブログやレビューサイト
逆に、LINEの個別メッセージやクローズドなグループチャットのように、特定のメンバーだけが閲覧できる投稿は、対象外とされることが多いです。
ネット上の投稿により権利を侵害されたことが明白であること
開示請求を通すには、単に不快に感じたというだけでは足りず、名誉権・プライバシー権・肖像権などの具体的な権利侵害が必要です。
| ・名誉権侵害:社会的評価を低下させるような事実を書き込まれた場合 ・プライバシー侵害:住所や電話番号などの個人情報が公開された場合 ・著作権侵害:無断で写真や文章を転載された場合 |
【実務での失敗例】
「〇〇は頭が悪い」といった抽象的な悪口については、「意見・論評の域を出ない」とされ、権利侵害が認められず開示が却下された事例もあります。
発信者情報開示を受ける正当な理由があること
発信者情報開示請求により投稿者を特定して、損害賠償請求や刑事告訴をするなどの正当な理由があることも要件の一つです。たとえば、投稿者を特定して嫌がらせや報復をするなどの不当な目的がある場合には、発信者情報開示請求は認められません。
実務では、この要件で請求が棄却されることはほぼありませんが、裁判所は開示請求の正当性も審査対象としていることを頭に入れておきましょう。
発信者情報開示請求に関する実際の裁判例の紹介
詳細以外に、一覧表が欲しいです。10件ずつくらい?

発信者情報開示請求が実際に認められるかどうかは、投稿の内容や状況によって大きく異なります。ここでは、裁判例を通じて「認められるケース」と「認められないケース」を具体的に見ていきましょう。実務においても、これらの事例を踏まえて戦略を立てることが成功のカギとなります。
| 開示が認められた判例 | 開示が否定された判例 |
|---|---|
| 東京地裁令和6年9月27日判決「B市雑談」「Bヤリマン〈3〉」スレで原告氏名と源氏名を挙げ「E」「F店」で勤務など | 東京地裁令和6年8月30日判決「登校班カードから個人情報漏洩があり、刑事告発を相談している保護者もいる」 |
| 東京地裁令和6年9月20日判決「ヘラヘラしてるのは覚醒剤特有の症状では?」「ヘラヘラしてるのは覚醒剤特有の症状なのだが‥頭よわそう」 | 東京地裁令和6年8月20日判決「キャバ嬢指名NGになった常務登場w」「酒飲めないのにキャバ嬢無理やりだろw」 |
| 東京地裁令和6年8月22日判決「B小 X 1年担任だけど、ブスだし仕事ナメてない!?」「細目で蛇女みたいな奴でしょ!新採用で1年担当のくせに夏休みは『生徒が居ないから暇』とか言ってたし」 | 東京地裁令和6年7月18日判決「知識のアップデートができない」「従業員の9割が50歳以上」「トイレが仮設」「分煙されていない」 |
| 東京地裁令和6年5月16日判決スレタイ「C市のヤリマン女〈2〉」/本文「X・Bであえるよ」 | 東京地裁令和6年6月27日判決「なにがD’じゃ!クソ県民が!」「しょぼい店たたんでまえ!アホ~」 |
| 東京地裁令和6年3月21日判決「EとX’がブス!」「気をつけなっ!」「僻み言われるよ!若い子たち!!!」 | 東京地裁令和6年1月31日判決「病棟看護師X’さん」「仕事をせずに話してばかり」「早退して職場の空気を悪くする」 |
| 東京地裁令和6年3月7日判決「以前働いていましたが、Eって人のイジメが酷くて辞めました。副社長にも相談しましたが…何も対応してくれません。」など | 東京地裁令和6年1月25日判決「ランクル一家やばかね」「常識人て思ってるのは自分たちだけ…可哀想な奴ら」 |
| 東京地裁令和5年12月22日判決「(原告=メンズエステ勤務“X’”について)『裏オプ』『金抜いた』等」 | 東京地裁令和6年1月18日判決「33歳で…」「普通にキモい」「自分の年齢考えて!」 |
| 東京地裁令和5年11月20日判決原告(デリヘル嬢X’)が「挿入を誘導→強姦と騒ぎ示談金請求」「100万未満は相手にせず金目の物を根こそぎ」「美人局」「脅迫で回収」等を複数投稿 | 東京地裁令和5年12月14日判決「整形疑惑の市議」「親父が強姦の県議」「議会で寝る県議」→「終わってんな」 |
| 東京地裁令和5年10月16日判決「被せ物を作り直しで医療ミス」「通院ばかりでぼったくり」「費用が倍かかった」等 | 東京地裁令和5年9月7日判決「うそつけw 貴重品がなくなったと苦情になるから荷物に触るわけねーだろ」「(強姦の可能性)ナイフで脅せば…」「私は美人のコスプレイヤーで有名人だから…自惚れんなよ」「かわいくないから却下」 |
| 東京地裁令和5年9月29日判決「生活できないような給料しか出さない柏原に入社する奴が理解できない」 | 東京地裁令和5年8月31日判決「気が強いおばさん」「パネ詐欺の地雷」 |
発信者情報開示請求が認められた裁判例
【東京地裁令和7年3月7日判決】
ある配信者は、有料会員限定で配信していた動画を匿名投稿者に無断で録画され、ファイル転送サービスにアップロードされたうえ、そのダウンロードURLが掲示板に投稿されました。配信者は、著作権侵害および営業利益の侵害を理由に、接続プロバイダに対して発信者情報開示を請求しました。
裁判所は、
| ・配信動画は著作物にあたること ・掲示板に投稿されたURLがなければ動画を入手できないこと ・掲示板投稿によって不特定多数がダウンロード可能になったこと |
を認定し、発信者情報の開示を命じました。
この事例からは、有料配信動画の無断公開のように経済的利益に直結する侵害がある場合、裁判所が開示を認めやすいことがわかります。
【東京地裁令和6年10月2日判決】
バーチャルユーチューバーのマネジメント会社が、イラストの著作権侵害を理由にX(旧Twitter)の運営会社を相手取り、発信者情報の開示を求めた事案があります。
問題となったのは、キャラクターのイラストを改変した画像が無断で投稿されたケースです。
裁判所は、
| ・イラストは創作性のある著作物に該当すること ・原告が著作者から著作権を譲渡されていること ・投稿画像からイラストの本質的特徴を直接感得できるため、複製・翻案にあたること ・公衆送信権を侵害したと認められること |
を認定しました。
その結果、裁判所は「原告には損害賠償請求を行う予定があるため、発信者情報の開示を受ける正当な理由がある」と判断し、開示を命じました。
この判例は、SNS上の画像無断使用であっても、著作権侵害が明らかであれば発信者情報の開示が認められることを示しています。
【東京地裁令和6年9月18日判決】
音楽活動を行う人物が、SNS上の投稿によって名誉を傷つけられたとして、X(旧Twitter)の運営会社に発信者情報の開示を求めた事案があります。
問題となったのは、原告が婚約者のある人物と金銭を伴う性行為を行ったと摘示するツイート及びそれを拡散したリツイートでした。
裁判所は、
| ・元ツイートは「婚約者がいると知りながら金銭を受け取り性行為をした」との事実を摘示し、原告の社会的評価を低下させるものであること ・投稿は原告の私生活に関する事実であり、公共の利害に関わらず公益目的も認められないこと ・リツイートについても、単純リツイートで内容に賛同し拡散する表現行為と受け取られ、名誉権を侵害すること ・リツイート者は、投稿内容を複製・流通させたものとして「発信者」に該当すること |
を認定しました。
そのうえで裁判所は、原告が投稿者とリツイート者に対して損害賠償請求を行う予定であり、発信者情報の開示を受ける正当な理由があると判断し、開示を命じました。
この判例は、SNSにおける名誉毀損的な投稿やリツイートでも、発信者情報開示が認められることを示しています。
発信者情報開示請求が認められなかった裁判例
【東京地裁令和6年8月30日判決】
公立小学校のPTAが、口コミサイトの投稿で名誉を毀損されたとして、サイト運営会社に発信者情報(電話番号)の開示を求めた事案があります。
問題となったのは、「登校班カードからの個人情報漏洩があり、刑事告発を相談している保護者もいる」とする口コミ投稿でした。
裁判所は、
| ・原告は権利能力なき社団で、会長に訴訟追行権があること ・当該記載は原告の社会的評価を低下させる表現であること ・PTAの内部事情に関する投稿は公共の利害に関する事実であり、専ら公益目的でなされたと評価できること ・学校との協議やスクールロイヤーへの確認経緯、原告側の謝罪事実等から、重要な部分の真実性の証明があること |
を認定しました。
その結果、違法性は阻却され、権利侵害が「明らか」とは言えないとして請求は棄却されました。
この判例は、公共性・公益目的が認められ、重要部分の真実性が立証された口コミについては、名誉毀損の違法性が否定され、発信者情報の開示が認められないことを示しています。
【東京地裁令和6年8月20日判決】
パチンコ店「B」を経営するグループ会社の常務取締役(原告)が、電子掲示板「C」に書き込まれた投稿により名誉を毀損されたとして、インターネット接続サービスを提供するプロバイダ(被告)に発信者情報の開示を求めた事案があります。
問題となったのは、「キャバ嬢指名NGになった常務登場w」「酒飲めないのにキャバ嬢無理やりだろw」といった投稿でした。
裁判所は、
| ・投稿には原告の氏名等が記載されていないこと ・「常務」が原告を指すと同定することは一般読者には困難であること ・「キャバ嬢指名NG」や「無理やり」との表現は抽象的で、具体的に社会的評価を低下させる程度の事実適示とはいえないこと |
を認定しました。
その結果、裁判所、原告の名誉権が侵害されたことが明らかとはいえないとして、発信者情報開示請求を棄却しました。
この判例は、投稿により人物が特定できるかどうか(同定可能性)や、社会的評価を低下させる具体的事実が示されているかが厳格に判断されることを示しています。
【東京地裁令和6年6月27日判決】
C市でキャバクラ等を紹介する店舗「D」を運営する会社(原告)が、掲示板「E」に投稿された記事により名誉を毀損されたとして、プロバイダ(被告)に発信者情報の開示を求めた事案があります。
問題となったのは「なにがD’じゃ!クソ県民が!」「しょぼい店たたんでまえ!アホ~」といった投稿でした。
裁判所は、
| ・掲示板記事は原告が運営する「D」を指すと認められること ・ただし投稿は「クソ県民」「しょぼい店」といった抽象的な意見・感想にとどまり、具体的事実の摘示がないこと ・一般読者の受け止めとしては「そのように感じる人がいる」程度にすぎず、原告の社会的評価を低下させるものとはいえないこと |
を認定しました。
その結果、裁判所は、名誉権侵害は認められず、発信者情報の開示を求める理由はないと判断し、原告の請求を棄却しました。
この判例は、掲示板やSNSでの投稿であっても、抽象的な批判や感想にとどまる場合には名誉毀損とは認められず、発信者情報の開示請求が認められないことを示しています。
発信者情報開示請求の手続きの流れ

発信者情報開示請求は、1回の申立てで完結するわけではなく、複数の段階を踏んで進んでいきます。具体的には、まずサイト管理者から投稿時の情報(IPアドレス・タイムスタンプなど)を取得し、その後にプロバイダに対して契約者情報の開示を求めるという二段階構造になっているのが大きな特徴です。実務上は、証拠保全やログ保存期間の管理などスピード感が重要なポイントとなります。以下では、従来から行われている手続きの流れを説明します。
サイト管理者に対する発信者情報開示の仮処分の申立て
最初のステップは、サイト管理者(Twitter社、匿名掲示板の運営会社など)に対して、発信者情報(IPアドレスや投稿時刻など)の開示を求める仮処分を裁判所に申立てることです。
この段階で開示されるのは「通信を行った際のプロバイダを識別できる手掛かり」であり、まだ投稿者の住所や氏名そのものは明らかにはなりません。
実務上は、この仮処分の申立てに必要な証拠(投稿画面のスクリーンショットや被害状況の資料)が不十分だと、申立てが認められないケースもあります。
IPアドレス等からプロバイダを特定
サイト管理者から開示を受けたIPアドレス・タイムスタンプをもとに、そのIPアドレスを管理しているプロバイダを特定します。
この段階で注意が必要なのが、ログ保存期間です。多くのプロバイダではログが数か月で削除されるため、サイト管理者から情報を受け取ったらすぐにプロバイダへの手続きに移らなければなりません。
プロバイダに対する発信者情報開示請求訴訟の提起
プロバイダが任意に情報を開示することは稀であるため、通常は裁判所に訴訟を提起し、発信者の住所・氏名などの契約者情報の開示を求めます。
この訴訟で開示が認められれば、ようやく投稿者を特定できることになります。実務の感覚としては、ここまでで半年~1年程度かかることも珍しくないため、早めの着手が極めて重要です。
【法改正により新設】発信者情報開示命令の手続きの流れ

従来の発信者情報開示は、「仮処分申立て」と「訴訟提起」という二段階の手続きが必要で、時間や費用の負担が大きいのが課題でした。そこで2022年のプロバイダ責任制限法改正により、新たに「発信者情報開示命令」という手続きが設けられました。この制度では、サイト管理者とプロバイダに対する手続きを一度の申立てで進められるようになり、従来よりも迅速・効率的に発信者の特定が可能となっています。実務上も、最近は開示命令を選択するケースが増えており、スピード感を重視する依頼者にとって非常に有効な手段となっています。
サイト管理者への発信者情報開示命令・提供命令の申立て
まず、サイト管理者を相手方として発信者情報開示命令を申し立て、投稿時やログイン時の接続元IPアドレス・タイムスタンプ等の開示を求めます。併せてサイト管理者に「プロバイダを教えてほしい」という提供命令も同一申立書内で申し立てるのが実務上一般的です。
なお、提供命令は、書面審理のみで申立てから数日で発令されますので、これによりプロバイダの名前と住所がわかります。
プロバイダへの発信者情報開示命令・消去禁止命令の申立て
サイト管理者からプロバイダの特定情報が得られたら、プロバイダを相手方として氏名・住所などの契約者情報の開示命令を申し立てます。ログの消失を防ぐため、「消去禁止命令」を同時に申し立てるのが実務上の定石です。
サイト管理者からプロバイダへのIPアドレス等の提供
プロバイダに対して発信者情報開示命令を申し立てた場合は、その事実を必ずサイト管理者に通知しなければなりません(この通知を忘れると手続が進まないため要注意です)。
通知が届くと、サイト管理者はプロバイダへIPアドレスや発信時間などの情報を提供します。
この段階に至ると、裁判所は、サイト管理者を相手とする開示命令事件と、プロバイダを相手とする開示命令事件を併合して一つの手続に扱います。こうして両事件が一体化することで、手続全体の整合性が確保される仕組みになっています。
開示命令の発令
審理の結果、開示命令が発令されると、プロバイダから投稿者の氏名・住所といった情報が申立人に開示されます。
発信者情報開示請求にかかる費用
| 分類 | 項目 | 費用の目安 | 備考 |
| 裁判費用 | 手数料(印紙代) | 1,000円〜 | 申立て1件あたりの金額。相手が増えると加算。 |
| 予納郵券(切手代) | 数千円〜1万円程度 | 裁判所との書類送付用。 | |
| 担保金 | 原則不要 | 新制度では負担が軽減されています。 | |
| 弁護士費用 | 着手金 | 20万〜40万円程度 | 依頼時に支払う初期費用。 |
| 報酬金 | 20万〜40万円程度 | 特定に成功した場合に支払う成功報酬。 | |
| 合計 | 総額目安 | 50万〜100万円程度 | 事案や相手方の数により変動します。 |
発信者情報開示請求を検討している方にとって、もっとも気になるのが「費用はいくらかかるのか」という点ではないでしょうか。費用には大きく分けて、裁判所に納める裁判費用と、弁護士に依頼する場合の弁護士費用があります。以下では、それぞれの内訳と相場を紹介します。
裁判費用|手数料・予納郵券・担保金
発信者情報開示命令を申し立てる際には、裁判所に対して以下のような費用を納める必要があります。
| ・手数料(収入印紙):申立1件あたり1000円の手数料を納付する必要があります。 ・予納郵券(切手代):相手方が複数になる場合もあるため、数千円から1万円程度かかります。 ・担保金:旧制度の仮処分では20万円程度必要でしたが、新制度の「発信者情報開示命令」では担保を求められないことが多く、依頼者にとって負担軽減となっています。 |
なお、申立て自体の裁判所費用は比較的低額ですが、相手方が複数(例:掲示板運営会社とプロバイダ数社)になると、手数料・予納郵券の負担が膨らむ点には注意が必要です。
弁護士費用|着手金・報酬金
弁護士に依頼する場合、費用は事務所ごとに異なりますが、概ね以下のような相場となります。
| ・着手金:20万円〜40万円程度・報酬金:開示が認められた場合に20万円〜40万円程度・追加費用:発信者を特定した後に損害賠償請求や刑事告訴まで進める場合は、別途着手金や報酬が発生します。 |
【実務のポイント】
開示請求には、事案にもよりますが50~100万円程度の費用がかかります。
開示請求により特定した投稿者に対して、慰謝料請求や弁護士費用の全部または一部の請求ができますが、実際には赤字になるケースも少なくありません。
ただし、赤字になったとしても投稿者を特定して、責任追及することには再発防止などの意味もあるため、決して無意味ではありません。
関連コラム:発信者情報開示請求の費用はいくら?裁判費用・弁護士費用相場を解説
発信者情報開示請求の手続きにかかる期間
発信者情報開示請求を検討する際、費用と並んで気になるのが「解決までどれくらい時間がかかるのか」という点です。新制度の導入により従来よりも期間は短縮されましたが、実務では案件ごとに大きな差が出るのも事実です。以下では、一般的な期間の目安を説明します。
発信者情報開示命令の審理期間
新制度(発信者情報開示命令事件)では、従来のような2段階の手続きが不要であるため、申立から数か月程度で決定が出るケースが多いです。
| ・早い場合:3か月前後 |
| ・平均的な場合:4〜6か月程度 |
| ・複雑な場合:半年以上 |
サイト管理者から接続プロバイダへの情報提供に要する時間
手続の中で見落とされがちなのが、サイト管理者から接続プロバイダにIPアドレス等が提供されるまでの時間です。
・目安:数週間〜1か月程度
サイトによってはさらに時間がかかることもあります。
【実務での注意点】
申立人が接続プロバイダへの申立てを行った後、サイト管理者に通知することを忘れると提供が始まらないため、弁護士がスケジュールを管理することが極めて重要です。
旧制度との比較
従来の仮処分+訴訟の二段階方式では、半年〜1年程度かかることが珍しくありませんでした。これに比べると、新制度では一体的手続により平均4〜6か月で解決できるため、依頼者の心理的・経済的負担は大幅に軽減されています。
関連コラム:発信者情報開示請求にかかる期間は3~6か月程度|ログ保存期間に注意
発信者情報開示請求をする際の注意点

発信者情報開示請求は、要件を満たせば有効な制度ですが、必ずしもすべてのケースで成功するとは限りません。特に、証拠の不備やタイミングの遅れによって失敗に終わる例も多くあります。以下では、実務上注意すべき代表的なポイントを説明します。
開示請求が認められないケースもある
開示請求は万能ではなく、次のような場合には裁判所が開示を認めないことがあります。
| ・権利侵害が明白でない場合例:単なる意見や抽象的な評価で、名誉毀損やプライバシー侵害にあたらないもの。 ・発信者の特定が困難な場合例:フリーWi-Fiや匿名化サービスを経由したアクセス。発信者の契約者情報を突き止められないことがあります。 |
【実務の印象】
「これはひどい誹謗中傷だから必ず開示されるはず」と思っていても、裁判所が「意見・論評の範囲内」と判断することは少なくありません。依頼前に専門家に権利侵害性をチェックしてもらうことが重要です。
参考コラム:発信者情報開示請求が棄却される理由とそれを防ぐ対策を弁護士が解説
証拠保全の重要性
発信者情報開示請求においては、権利侵害の証拠をしっかり残しておくことが不可欠です。
| ・スクリーンショットの取得:投稿内容・URL・投稿日時が分かる形で保存 |
| ・タイムスタンプ証明サービスの活用:後から改ざんを疑われないようにする |
| ・削除前の確保:削除される前にできる限り証拠を収集 |
【実務での注意点】
証拠が曖昧なまま申立てをすると、「侵害の存在が明白でない」とされて開示が認められないリスクがあります。そのため、早期に弁護士に相談して必要な証拠を確保するようにしましょう。
プロバイダのログ保存期間に注意
発信者の特定に必要なログ情報(接続記録)は、保存期間が非常に短いのが実務上の大きな壁です。一般的な保存期間は、3か月〜6か月程度といわれていますが、プロバイダによって保存期間が異なるため、早期に行動することが重要になります。
【実務の印象】
「しばらく様子を見てから動こう」と考えているうちにログが消去され、発信者特定が不可能になるケースが実際にあります。そのため、発信者情報開示請求はスピード勝負であり、できるだけ早く弁護士に相談することが重要です。
関連コラム:プロバイダのログ保存期間は3~6か月程度|削除前にとるべき対応を解説
発信者情報開示請求に関するグラディアトル法律事務所の解決事例
グラディアトル法律事務所では、インターネット上での誹謗中傷などの権利侵害の事案を多数取り扱っており、発信者情報開示請求についても豊富な解決実績があります。以下では、当事務所が取り扱った発信者情報開示請求に関する解決事例を紹介します。
YouTubeに無断でトラブル動画を投稿された事案|撮影・拡散された動画の開示と迅速な削除に成功
依頼者は、酔った相手との口論の様子を無断で撮影され、その動画が本人の許可なくYouTubeにアップロードされてしまいました。さらに、動画は切り取られたうえでTikTok・Instagramなど複数のSNSにも転載され、二次拡散による深刻な被害が広がっていました。
当事務所では、まずYouTube(Google)に対する発信者情報開示仮処分を申し立て、申立から約2か月で開示決定を獲得。仮処分決定後、1か月以内に発信者情報の開示まで至りました。
並行して行ったInstagram・TikTokへの削除申請についても迅速に対応し、いずれも申請から1か月以内に削除を実現しています。
本件は、無断撮影・無許可投稿というプライバシー侵害と名誉毀損の両面を押さえつつ、複数SNSへの連続した二次拡散に対してスピード重視で手続きを行うことが成功の決め手となった事例です。
TikTokの誤った虐待疑惑動画・コメントに対する大規模な発信者情報開示請求|多数の発信者の特定に成功
依頼者は、YouTubeチャンネルを運営し動画に出演していましたが、これらの動画をもとにした誤った虐待疑惑の動画やコメントがTikTok上に多数投稿され、深刻な社会的評価低下の被害を受けていました。投稿内容は、いずれも「子どもに暴力をふるっている」「虐待している」等、虚偽の事実を摘示する名誉毀損性の高いものでした。
当事務所では、多数の動画およびコメントを対象として発信者情報開示請求を一括受任。まず1段階目としてTikTok Pte. Ltd.に対する発信者情報開示命令・提供命令を申し立て、登録電話番号・メールアドレスの開示を獲得するとともに、接続プロバイダ(開示役務提供者)情報を取得しました。
続く2段階目では、各プロバイダに対し開示命令を申し立てました。ログ保存期間の経過や、接続元ポート番号が必要として開示に至らなかった一部例外はあったものの、多数の案件で発信者情報開示命令が決定し、氏名・住所等の情報を取得することに成功しました。
多数投稿・多数コメントの同時処理という複雑な案件でしたが、制度を正確に運用し、期限管理を徹底したことで、被害拡散の抑止につながった事例です。
家族が事件に巻き込まれ“無関係の父親”がTwitterで晒された事案|発信者の特定から130万円の和解成立まで
依頼者Aさんは、成人した息子が大事件を起こしたことで、家族ごと激しい誹謗中傷の標的となっていました。マスコミ対応に追われ、高校生・中学生の子どもたちは不登校気味に。そんな中、Twitter上でAさんの顔写真が無断使用され、「Aに天誅を!身内として死んで詫びろ」といった過激な文言や勤務先まで暴露する投稿が出回りました。家族への2次被害拡大を恐れたAさんは、当事務所に相談されました。
当事務所では、プライバシー権侵害・肖像権侵害・名誉感情侵害が明白であると判断し、Twitter運営会社に対する発信者情報開示の仮処分を申立て。約2か月後、IPアドレス・タイムスタンプの開示を獲得しました。その後、KDDIへ契約者情報の開示請求を行った結果、投稿者Cが特定され、C側弁護士から和解交渉の申し入れがありました。
交渉では、Aさんの社会生活への重大な支障を詳細に主張した結果、謝罪・将来の投稿禁止・投稿削除・慰謝料および費用を含む計130万円の支払いという内容で和解が成立。完全に被害が消えたわけではないものの、Aさん一家に対する誹謗中傷はほぼ沈静化し、平穏な生活を取り戻す大きな一歩となりました。
Instagramのなりすましアカウントによる著作権侵害事案|Meta・プロバイダ・通信会社の三段階で発信者情報を特定
依頼者は、複数のSNSで配信活動を行うクリエイターで、各プラットフォームで自身が制作した共通アイコンを使用していました。しかしInstagram上で、このアイコンを無断利用したなりすましアカウントが出現。依頼者の著作物を不正使用し、本人になり代わって活動する悪質なケースでした。
当事務所は、依頼者が創作したアイコンの著作権侵害を軸に、Meta Platforms社に対する発信者情報開示請求(仮処分および開示命令)を申し立て。知的財産権部で2事件が同日併合的に審理され、いずれも主張が認められました。仮処分決定後、MetaからIPアドレス・タイムスタンプが速やかに開示されました。
続いて、開示されたIPアドレスを管理するアクセスプロバイダに対し、発信者情報開示命令と消去禁止命令を申立て。ログ保存の継続が確認されたうえ、契約者への意見照会で開示同意が得られ、任意開示で氏名・住所等を取得できました。
さらに、別ルートとしてMetaに対する開示命令手続を進め、アカウント登録情報(電話番号・メールアドレス)の開示にも成功。得られた電話番号については弁護士法23条照会を活用し、通信会社から契約者情報を取得しました。
本件は、「著作権侵害」を基軸にMeta → プロバイダ → 通信会社と段階的に開示ルートを組み立て、複数経路から発信者特定を達成した高度な成功事例です。
発信者情報開示請求を弁護士に依頼するメリット
発信者情報開示請求は、証拠の集め方や申立書の作成、ログ保存期間の管理など、専門的なノウハウが必要です。弁護士に依頼することで、開示が認められる可能性を高め、手続きをスムーズに進めることができます。以下では具体的な3つのメリットを説明します。
開示請求に必要な証拠収集のサポートができる
発信者情報開示請求では、「権利侵害が明白であること」を示すための証拠が必須です。
たとえば、
| ・投稿画面やURLを日時入りで保存する ・タイムスタンプ証明を取得する ・侵害性を立証する資料を整理する |
といった作業が必要になります。
依頼者自身で証拠を集めても「これで足りるのか」という判断は難しく、結果的に「証拠が不十分で棄却される」ケースもあります。弁護士が最初の段階から証拠の取り方を指導することで、開示請求が認められる可能性を高めることができます。
迅速な手続きによりログ保存期間の経過を回避できる
接続プロバイダのログ保存期間は一般的に3か月から6か月程度と短く、期間を過ぎてしまうと発信者の特定が不可能になります。
弁護士に依頼すれば、裁判所に提出する申立書の作成や費用の準備、サイト管理者への通知などを漏れなく進めることが可能です。これにより、限られた時間の中で手続きを迅速に行い、ログ消去による手続きの失敗を防ぐことができます。
投稿者特定後の損害賠償請求や刑事告訴も一括サポート
発信者情報開示請求は、あくまで「誰が書き込んだのか」を明らかにする手続きです。しかし実際の解決には、その後の対応が欠かせません。
| ・損害賠償請求(慰謝料や弁護士費用の一部を含む) |
| ・刑事告訴による捜査機関の関与 |
| ・示談交渉や訴訟対応 |
これらを依頼者が自力で行うのは大きな負担となります。弁護士に依頼すれば、開示請求からその後の法的手続まで一括で対応でき、精神的な負担も大幅に軽減されます。
発信者情報開示請求はグラディアトル法律事務所にお任せください

発信者情報開示請求で実際に結果を出すためには高度な専門知識と豊富な経験が欠かせません。グラディアトル法律事務所では、インターネット上の誹謗中傷や権利侵害の問題に数多く対応してきた実績があり、依頼者の方が安心して解決に向かえる環境を整えています。
豊富な実績と高い開示認容率
当事務所は、インターネット上の削除請求や発信者情報開示請求に関して、これまで1000件以上の実績を有しています。特に、開示請求については、認容率が非常に高く、複雑な案件でも粘り強く対応することで多くの成功事例を積み重ねてきました。
経験に基づいた「裁判所が重視するポイント」を踏まえた申立書作成や証拠提出により、依頼者にとって最善の結果を導き出すことを重視しています。
スピード対応でログ消去を防ぐ
発信者特定に必要なログ情報は、放置すれば短期間で消去されてしまいます。当事務所では、依頼を受けてから迅速に申立書を作成・提出し、サイト管理者や接続プロバイダへの通知も漏れなく行います。
このスピード感のある対応が、発信者特定の成功率を大きく左右します。相談から実際の申立までを最短ルートで進めることで、依頼者の不安を解消し、迅速な問題解決を目指します。
相談から解決まで一貫サポート
当事務所は、発信者情報開示請求にとどまらず、その後の損害賠償請求や刑事告訴、和解交渉まで一括でサポート可能です。
| ・発信者特定後の損害賠償請求 |
| ・刑事告訴や警察への対応 |
| ・示談・和解交渉による早期解決 |
一連の流れを弁護士に任せられるため、依頼者は、精神的負担を軽減しながら安心して解決まで手続きを進められます。
まずはお気軽にご相談ください
誹謗中傷やプライバシー侵害の被害は、時間が経つほど被害が拡大する傾向にあります。早めにご相談いただくことで、発信者特定や削除対応の可能性が高まり、被害を最小限に抑えることができます。
グラディアトル法律事務所は、これまでに培った経験とノウハウを活かし、一人ひとりに寄り添った解決策を提案いたします。まずはお気軽にご相談ください。
まとめ
本記事では、発信者開示請求の制度の概要から新しい発信者情報開示命令の流れ、費用や期間、実際の裁判例まで幅広く解説しました。実務では証拠の確保や迅速な申立が成功の鍵となり、専門知識と経験が欠かせません。豊富な実績を持つ弁護士に依頼することで、開示請求の認容率を高め、損害賠償請求や刑事告訴まで一貫して進められます。
誹謗中傷やプライバシー侵害にお悩みの方は、早めに専門家へ相談し、安心して解決に向けて一歩を踏み出してください。
