匿名表記による名誉毀損は成立する?同定可能性のポイントを解説

匿名表記による名誉毀損は成立する?同定可能性のポイントを解説
弁護士 若林翔
2025年12月02日更新

「ハンドルネーム・源氏名・伏字・イニシャルなどの匿名表記でも名誉毀損は成立する?」

「匿名表記でどうやって本人だとわかるの?」

「匿名表記で名誉毀損をされたときはどのように対処すればいい?」

インターネットやSNSの普及により、誰もが自由に意見を発信できるようになりました。しかしその一方で、匿名を利用した誹謗中傷やデマの拡散といったトラブルも増加しています。特に、「ハンドルネーム」「源氏名」「伏字」「イニシャル」など、実名ではない匿名表記であっても、読む人によっては特定の人物を指していると理解できる場合があり、名誉毀損が成立することがあります。

名誉毀損の成立には「同定可能性」と呼ばれる要件が大きく関わります。つまり、匿名で書かれた表現であっても、一般の人がその記述を通じて誰のことを指しているのかを認識できるかどうかがポイントとなるのです。たとえば、特定のコミュニティで広く知られているハンドルネームや店舗と組み合わせて使われる源氏名、または文脈から容易に推測できる伏字やイニシャルなどは、匿名に見えても同定可能性ありと判断される可能性があります。

本記事では、

・匿名表記でも名誉毀損が成立するケースの具体例
・同定可能性の判断のポイント
・匿名表記による誹謗中傷を受けた場合の対処法

などについて詳しく解説します。

匿名だから大丈夫だと安心してしまうと、思わぬ法的リスクや深刻な被害につながりかねません。被害を受けた方も、リスクを避けたい方も、ぜひ参考にしてください。

目次

匿名表記(ハンドルネーム・源氏名・伏字・イニシャルなど)でも名誉毀損は成立する

匿名表記による投稿だからといって、名誉毀損が成立しないとは限りません。名誉毀損罪の判断では「同定可能性」が重要なポイントとなり、匿名表記であっても特定の人物だと理解できる場合には法的責任を負う可能性があります。以下では、まず名誉毀損罪の成立要件と匿名表記が問題となる理由を説明します。

名誉毀損罪の成立要件

名誉毀損とは、他人の社会的評価を下げるような事実を公然と示す行為した場合に成立する犯罪です。刑法230条では、名誉毀損罪の成立には以下の要件が必要とされています。

公然性:不特定または多数人が知り得る状態で発言や投稿が行われること事実の摘示:相手の評価を下げる事実を示していること(「○○と不倫をしている」「薬物使用している」など)社会的評価の低下:一般人の視点から相手の社会的評価が下がる可能性があること

この3つがそろえば、匿名か実名かを問わず名誉毀損罪が成立する可能性があります。なお、公共性や公益性が認められ、かつ真実である場合には違法性が阻却されることもあります。

匿名表記では「同定可能性」が問題になる

匿名表記で名誉毀損が成立するかどうかの判断基準となるのが「同定可能性」です。これは、その発言や投稿が「誰を指しているのか」を一般の読者が理解できるかどうかという点です。名誉毀損罪は、「他人」の社会的評価を低下させる犯罪ですので、当該投稿により誰の社会的評価が低下したのかを判別できなければなりません。

たとえば、以下のような場合には匿名であっても同定可能性が認められる可能性があります。

・ハンドルネームが特定のSNSコミュニティ内で広く知られている場合
・源氏名が店舗名などと結びついており、当該人物を指していると容易に分かる場合
・伏字やイニシャルであっても、文脈や周辺の情報から誰のことか推測できる場合

このように、匿名に見える表記であっても「誰を指しているのか」がわかる状況であれば、名誉毀損が成立し得ます。したがって、「実名を出していないから大丈夫」という認識は誤りであり、匿名の投稿でも十分に法的責任を問われる可能性があるのです。

匿名表記(ハンドルネーム・源氏名・伏字・イニシャルなど)での名誉毀損が問題になるケース

匿名表記(ハンドルネーム・源氏名・伏字・イニシャルなど)での名誉毀損が問題になるケース

匿名表記といっても、その内容や使われ方次第では特定の人物を指していると受け取られ、名誉毀損が成立する可能性があります。以下では、よく見られる匿名表記ごとに具体例を挙げ、どのような状況で法的責任を問われる可能性があるのかを説明します。

ハンドルネームによる名誉毀損の例|「◯◯(ハンドルネーム)は詐欺師だ」

SNSや掲示板では、実名ではなくハンドルネームで活動している人が少なくありません。

しかし、そのハンドルネームが特定のコミュニティで広く知られている場合、「◯◯(ハンドルネーム)は詐欺師だ」などと投稿すると、現実の人物を特定できるとして名誉毀損が成立する可能性があります。

特に、YouTuber、配信者、インフルエンサーなどは、ハンドルネームが事実上の「名前」として認知されているため、匿名のつもりでも名誉毀損となり得ます。

実際に東京地裁令和5年11月27日判決では、投稿記事にハンドルネームやアカウント名が記載されていれば、一般の読者の普通の注意を基準として、そのハンドルネームを用いる者(原告)を対象とする投稿だと同定可能と判断されました。つまり、匿名のつもりであっても、ハンドルネームが社会的に認識されていれば名誉毀損が成立し得るのです。

源氏名による名誉毀損の例|「キャバクラの◯◯(源氏名)は薬物をやっている」

キャバクラやホストクラブなどで使われる源氏名も、匿名表記の一種です。たとえば「キャバクラ○○店の◯◯(源氏名)は薬物をやっている」といった投稿は、当該店舗の在籍者を知る人から見れば、実際の人物を容易に特定できます。

この場合、源氏名と店舗名、さらには周囲の文脈が組み合わさることで同定可能性が認められ、名誉毀損が成立する可能性があります。

実際に、東京地裁平成28年5月9日判決では、源氏名が社会的に一定程度定着していれば、たとえ本名と異なっていても「同定可能性が認められる」と判断されました。つまり、通称や源氏名も実名と同様に法的保護の対象となるのです。

伏字による名誉毀損の例|「某人気アイドル山〇は不倫している」

芸能人や著名人に関する書き込みでは、名前の一部を伏字にするケースがあります。

しかし、「山〇」や「佐△」などの伏字であっても、文脈や時事的背景から誰を指しているのかが容易に推測できる場合があります。たとえば「某人気アイドル山〇は不倫している」という書き込みは、ファンや一般人が誰を指しているか理解できる場合が多く、名誉毀損が成立し得ます。

実際に東京地裁令和2年9月28日判決では、掲示板において「X’」や「X’’」と伏字で記載されていたものの、勤務先や他の投稿との関連性から、特定の従業員を指していると一般人が理解できる状況にあったため、同定可能性が認められました。つまり、名前を一部伏せても、周辺事情から人物が特定できれば法的責任を免れることはできないのです。

イニシャルによる名誉毀損の例|「大阪の某病院の看護師Aさんが患者から金を奪った」

イニシャル表記は一見すると匿名性が高いように見えますが、職場や地域、肩書きといった情報が加わると個人が特定される場合があります。たとえば「大阪の某病院の看護師Aさん」という記述であれば、当該病院に勤務する看護師の中で「A」というイニシャルの人物が容易に特定され得るため、名誉毀損が成立する可能性があるのです。

実際に東京地裁令和4年8月4日判決では、「G小学校母親X’’」「神奈川県I市の病院院長(夫)」といったイニシャルと属性情報を組み合わせた投稿について、一般の閲覧者であれば特定の人物を識別できるとして同定可能性を認めました。つまり、単なるイニシャルでも、周辺事情が揃えば匿名性は失われ、法的責任を免れることはできません。

匿名表記(ハンドルネーム・源氏名・伏字・イニシャルなど)における同定可能性の判断のポイント

匿名表記による名誉毀損が成立するかどうかを分ける最大の要素が「同定可能性」です。つまり、その投稿や発言を読んだときに、一般の人が「誰のことを指しているのか」を認識できるかどうかが基準となります。以下では、同定可能性を判断する際に重視されるポイントを紹介します。

一般の読者を基準に判断する

同定可能性は、発言を受け取る一般的な読者を基準として判断されます。

被害者本人やその周囲の人がわかるかどうかではなく、一般の人が見て特定できるかが重要です。そのため、「当事者ならわかる」というレベルでは名誉毀損にあたらない場合もあります。

当該投稿だけではなく前後の文脈なども踏まえて判断する

匿名表記の記述だけでなく、前後の文脈や関連する投稿も含めて判断されます。たとえば「Aさん」と書かれていても、直前に「〇〇病院で働く」と記載されていれば、特定の人物を想起させることになります。

このように、一つの投稿だけで判断されるわけではなく、文脈全体から誰を指しているかが問題となります。

肩書、居住地、勤務先などの属性を踏まえて判断する

匿名表記であっても、職業・肩書・居住地・勤務先といった属性が併せて示されると、個人の特定性が高まります。たとえば「大阪市内の〇〇高校の教師K」と書かれていれば、一般の読者であっても特定が容易であり、同定可能性が認められることになります。

掲示板の性質も判断要素の一つ

同じ表記であっても、どのような掲示板やSNSに投稿されたかによって同定可能性の判断は変わります。特定のファンコミュニティや地域掲示板では、少しの情報でも誰を指しているか理解されやすい場合があります。つまり、投稿が行われた「場」の性質も同定可能性の判断材料となるのです。

匿名表記(ハンドルネーム・源氏名・伏字・イニシャルなど)による名誉毀損への対処法

匿名表記(ハンドルネーム・源氏名・伏字・イニシャルなど)による名誉毀損への対処法

匿名表記による誹謗中傷は、放置してしまうと被害が拡大し、取り返しのつかない損害につながるおそれがあります。しかし、投稿の削除や投稿者の特定、損害賠償の請求などにより被害の拡大を防ぎ、被害回復を図ることが可能です。以下では、名誉毀損の被害を受けた場合に取り得る主な対処法を紹介します。

投稿の削除請求

名誉毀損の投稿は、インターネット上に残り続けることで、被害者の評判が長期間にわたって損なわれ、仕事や人間関係にも悪影響を及ぼします。そのため、もっとも優先すべきは、問題の投稿を早期に削除させることです。

SNSや掲示板には、利用規約に基づく削除申請の窓口があります。匿名表記であっても、名誉毀損にあたると判断されれば、管理者が削除に応じることがあります。また、任意に削除に応じてくれないときは、裁判所の削除仮処分の申立てという法的手段をとることも可能です。

被害の拡大を防ぐためには、できるだけ早い段階で削除請求を行うことが重要です。

発信者情報開示請求

ネット上での名誉毀損の事案の多くは、投稿自体からは加害者が誰かを特定できないことがほとんどです。

しかし、投稿者のIPアドレスや契約者情報を開示させる「発信者情報開示請求」という手段を取ることで匿名の投稿者を特定することが可能です。この手続は、まずサイト管理者に対して請求を行い、次に接続プロバイダに対して開示を求めるという二段階で進められます。時間との勝負となるため、早期の着手が重要です。

ログの保存期間は、数か月程度と短い場合も多く、放置すると開示請求が困難になるリスクがあります。匿名であっても、法的手続きを通じて投稿者を割り出せる可能性があるため、被害拡大を防ぐためにも迅速な対応が求められます。

損害賠償請求

投稿者が特定できた場合、民事上の責任を追及し、損害賠償を請求することが可能です。

具体的には、名誉毀損による精神的苦痛に対して慰謝料を請求できるほか、仕事上の信用を失い契約が破棄された場合や売上が減少した場合には、経済的損害の賠償を求めることもできます。

裁判においては、被害の深刻さや投稿内容の悪質性、拡散規模などが考慮され、慰謝料額が決定されます。匿名表記だからといって責任を逃れられるわけではなく、投稿者が特定されれば現実の法律上の責任を負わされるのです。

被害者としては、泣き寝入りせずに損害回復を図るため、投稿者の特定後は損害賠償請求を検討することが大切です。

刑事告訴

名誉毀損は刑法230条に定められた犯罪行為でもあります。そのため、投稿が悪質で被害が深刻な場合には、警察に刑事告訴を行うことが可能です。

刑事事件として立件されれば、加害者は罰金刑や懲役刑(拘禁刑)を科される可能性があり、社会的な制裁を与えることができます。被害が甚大な場合や、将来の被害拡大を防ぎたい場合には、刑事告訴も有力な手段となります。

匿名表記(ハンドルネーム・源氏名・伏字・イニシャルなど)による名誉毀損を弁護士に相談するメリット

匿名表記(ハンドルネーム・源氏名・伏字・イニシャルなど)による名誉毀損を弁護士に相談するメリット

匿名表記による名誉毀損の事案は、同定可能性の有無の判断など法律知識を前提とした専門的な判断が求められます。被害者が自力で対応するには限界があり、対応の遅れが被害拡大につながることも少なくありません。そのため、被害に気付いたときは一刻も早く弁護士に相談することが重要です。

法的観点から同定可能性の有無を判断できる

匿名表記で名誉毀損が成立するかどうかは、最終的に「同定可能性」があるかどうかで決まります。

一般人には判断が難しいケースでも、弁護士であれば過去の裁判例や法律の解釈に基づいて、対象表記が名誉毀損にあたるかを的確に判断できます。この事前判断があることで、削除請求や損害賠償請求の見通しが立ち、無駄な労力や費用を避けることができます。

被害者が安心して対応を進められるという点で、弁護士の存在は大きな支えとなります。

迅速な削除請求により被害の拡大を防げる

名誉毀損の投稿は、拡散されればされるほど被害が深刻化します。そのため、削除請求を迅速に行うことが、もっとも重要な初動対応です。

弁護士に依頼すれば、投稿の保存(証拠保全)と削除請求を同時並行で行い、確実かつ迅速に対応できます。サイト管理者やSNS運営会社に対しても、弁護士名での正式な通知が届けば、対応を重く受け止めてもらえる可能性が高まります。

被害を最小限に抑えるためには、専門家による早期対応が不可欠です。

投稿者の特定から損害賠償請求まですべての対応を任せられる

発信者情報開示請求や損害賠償請求は、法律知識と専門的な手続が必要です。被害者自身で手続を進めるのは困難であり、相手方と直接やり取りする心理的負担も大きいといえるでしょう。

弁護士に依頼すれば、証拠の収集、開示請求、加害者の特定、さらに損害賠償請求や刑事告訴まで、すべての手続きを一括して任せることができます。それにより被害者は、精神的な負担を軽減でき、安心して日常生活を送れるようになります。

つまり、弁護士の介入は、被害回復への最短ルートといえます。

匿名表記(ハンドルネーム・源氏名・伏字・イニシャルなど)による名誉毀損はグラディアトル法律事務所に相談を 

匿名表記(ハンドルネーム・源氏名・伏字・イニシャルなど)による名誉毀損はグラディアトル法律事務所に相談を

匿名表記でも名誉毀損が成立する可能性があることを理解していても、実際に被害に遭った際にどう動くべきかを一人で判断するのは難しいものです。削除請求や発信者情報開示請求、損害賠償請求、刑事告訴など取り得る選択肢は複数あり、それぞれに専門的な知識と迅速な対応が求められます。被害者が対応に迷って時間をかけてしまえば、その間に被害は拡大してしまいます。

グラディアトル法律事務所では、インターネット上の誹謗中傷や名誉毀損に関する事案を数多く取り扱っており、匿名表記に関する事案についても豊富な解決実績があります。法的に「同定可能性」が認められるかどうかの判断から、投稿の削除請求や加害者の特定、損害賠償請求に至るまで、一括した対応が可能です。

インターネット上でのトラブルは放置するほど深刻化しますので、早めに弁護士へ相談することが何より重要です。匿名による誹謗中傷でお悩みの方は、ぜひ一度グラディアトル法律事務所へご相談ください。

まとめ

匿名表記であっても、同定可能性が認められれば名誉毀損は成立します。ハンドルネームや源氏名、伏字やイニシャルであっても、状況によっては特定可能と判断され、法的責任を問われるのです。

このような匿名表記による名誉毀損被害を受けた場合は、早期に削除請求や発信者特定を行うことが大切です。グラディアトル法律事務所では、豊富な実績をもとに迅速かつ適切な対応を行っています。匿名表記による誹謗中傷でお悩みの方は、ぜひご相談ください。

弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力。数多くの夜のトラブルを解決に導いてきた経験から初の著書「歌舞伎町弁護士」を小学館より出版。 youtubeやTiktokなどでもトラブルに関する解説動画を配信している。

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