名誉毀損で訴える条件とは?刑事事件・民事事件それぞれの条件を解説

名誉毀損で訴える条件とは?刑事事件・民事事件それぞれの条件を解説
弁護士 若林翔
2025年12月02日更新

「ネット上の名誉毀損で加害者を訴えるためにはどのような条件が必要?」

「名誉毀損で訴える条件は、刑事事件と民事事件で何か違う?」

「ネット上に投稿された内容が真実であっても名誉毀損で訴えることはできる?」

インターネットやSNSの普及により、個人や企業に対する誹謗中傷や根拠のない噂が瞬時に広まるようになりました。その結果、社会的評価を傷つけられ、「名誉毀損で訴えたい」と考える方も少なくありません。しかし、名誉毀損は、単に不快な発言を受けただけでは成立せず、法律上の条件を満たしてはじめて訴えることが可能となります。

名誉毀損で訴えるためには、発言が「公然性を持っていること」「具体的な事実を示していること」「社会的評価を低下させる内容であること」という3つの条件を満たす必要があります。また、公共の利害に関する事実で真実が証明される場合など、例外的に違法性が阻却されて訴えることができないケースも存在します。

さらに、刑事事件として名誉毀損罪を成立させるには告訴が必要である一方、民事事件では加害者の特定や発信者情報開示請求といった手続きを経ることが条件となります。こうした法的手続きは専門知識が不可欠であり、弁護士に相談することで適切かつ迅速な対応が可能となります。

本記事では、

・名誉毀損で訴えるために必要な3つの条件
・例外的に名誉毀損の訴えが認められないケース
・刑事事件および民事事件それぞれでの具体的な条件

などについてわかりやすく解説します。

「自分のケースで名誉毀損が成立するのか知りたい」「刑事事件と民事事件の違いを理解したい」と考えている方にとって、訴える前に確認しておくべき重要なポイントを整理した内容になっていますので、ぜひ最後までお読みください。

名誉毀損で訴えるための3つの条件

名誉毀損で訴えるための3つの条件

名誉毀損で訴えるためには、単に「嫌なことを言われた」「傷ついた」という感情だけでは不十分です。刑法230条が定める要件に照らし、以下の3つの条件を満たしている必要があります。

公然性があること

まず必要となるのは「公然性」です。これは、不特定または多数人が知り得る状態で発言や表現がされたことを意味します。

たとえば、SNSや掲示板などで特定の人物を名指しして誹謗中傷する投稿を行った場合、多くの人が閲覧可能であるため公然性が認められます。逆に、家庭内で親しい家族にだけ伝えた発言などは公然性がなく、名誉毀損罪には該当しません。

事実を摘示していること

次に重要なのが「事実を摘示していること」です。つまり、相手の社会的評価を下げるような事実を具体的に示す必要があります。単に「嫌なやつだ」「無能だ」といった抽象的な意見や価値判断は、原則として名誉毀損には当たりません。

「あの人は横領をしている」「会社で不倫をしている」といった具体的な事実を述べた場合は、たとえ真実でなくても「事実の摘示」として扱われ、名誉毀損の成立要件を満たすことになります。

人の社会的評価を低下させる内容であること

最後に、その表現が相手の「社会的評価を低下させる」ものである必要があります。社会的評価とは、社会一般の人々からその人がどう見られるかという外部的評価を指します。たとえば、「横領をした」「詐欺を働いた」といった発言は、社会生活上の信用を著しく損なうため名誉毀損にあたります。

一方で、「今日は遅刻してきた」といった事実は、たとえ本人にとって不快でも社会的評価を大きく下げるものではないため、通常は名誉毀損にはなりません。

例外的に名誉毀損で訴えることができないケースがある|違法性阻却事由の3つの条件

名誉毀損の成立条件を満たせば必ず違法となるわけではありません。刑法230条の2では、一定の条件を満たした場合には違法性が阻却されるという「違法性阻却事由」が定められています。具体的には、以下のすべての条件を満たす場合には、名誉毀損で訴えることはできません。

公共の利害に関する事実に係るものであること

発言や表現が、個人の私生活に関する単なるうわさ話ではなく、社会的に重要な事柄に関するものである必要があります。

たとえば、政治家が不正に公金を流用したという指摘や大企業の製品に重大な欠陥があるという報道は、社会全体の利害に関わるため「公共性」が認められやすいです。逆に、芸能人の私的な交際関係など、公益性の乏しい事実を暴露する行為はこの条件を満たしません。

目的が専ら公益を図ることにあったと認められること

次に、その発言や報道の目的が「公益のため」であることが必要です。

たとえば、消費者の安全を守るために食品の産地偽装を告発する行為は公益目的と評価されます。

一方で、単なる個人攻撃や売名行為、私怨による暴露は公益目的とは認められず、この条件を欠くことになります。

真実であることの証明があったこと

最後に、その内容が「真実である」と証明できる必要があります。裁判において、客観的な証拠によって発言の内容が事実であると立証できれば、名誉毀損の違法性は阻却されます。

ただし、仮に真実ではない場合でも、真実と信じる相当の理由があれば違法性が否定される場合もあります。たとえば、十分な取材を行ったうえで報道した場合には、この「相当性」が認められることがあります。

【刑事事件】名誉毀損で訴えるには刑事告訴をすることが条件

【刑事事件】名誉毀損で訴えるには刑事告訴をすることが条件

名誉毀損を刑事事件として訴えるためには、被害者自身が刑事告訴を行う必要があります。刑事告訴とは、加害者の処罰を求めて警察や検察に申し出る手続きであり、これを経なければ検察官が公訴を提起できない仕組みになっています。

名誉毀損罪は親告罪であるため刑事告訴が必要

名誉毀損罪(刑法230条)は「親告罪」とされています。親告罪とは、被害者からの告訴がなければ刑事手続が進められない犯罪類型を指します。

そのため、たとえ明らかに社会的評価を傷つける発言であっても、被害者が告訴しなければ、検察は起訴できず、警察も捜査を進めることはありません。実際に、ネット上の誹謗中傷や週刊誌報道を巡る事件でも、被害者の告訴により刑事裁判に発展しています。

告訴期限と公訴時効に注意が必要

刑事告訴を行う際には、期限や時効にも注意が必要です。

まず、告訴は、「犯人を知った日から6か月以内」に行わなければなりません。ネット上の名誉毀損の事案では、投稿自体からは投稿者を特定できないため、後述する発信者情報開示請求により投稿者を特定した時点が告訴期限の起算点となります。そのため、投稿者の特定後は、速やかに刑事告訴の手続きを進めていかなければなりません。

また、名誉毀損罪には、公訴時効という期間制限もあります。公訴時効は、検察官が事件を起訴できる期限であり、名誉毀損罪の公訴時効は3年と定められています。つまり、加害者が誰か分からないまま3年が経過してしまうと、たとえ後から特定できても処罰を求めることはできません。

【民事事件】名誉毀損で訴えるには加害者を特定することが条件

【民事事件】名誉毀損で訴えるには加害者を特定することが条件

名誉毀損を民事事件として訴える場合、刑事事件と異なり告訴の手続きは不要ですが、加害者を特定することが絶対条件となります。なぜなら、民事裁判では相手方を被告として訴状に記載しなければならないため、匿名のままでは訴えを起こすことができないからです。

ネット上の名誉毀損は匿名で行われるため投稿者の特定が必要

現代の名誉毀損の多くはインターネット上で発生しています。掲示板やSNSでは匿名で発言できるため、被害者が直接加害者を知ることは難しいのが現実です。

たとえば、X(旧Twitter)で「○○は詐欺師だ」と虚偽の投稿をされた場合、そのアカウントの持ち主が誰なのかを突き止めなければ、損害賠償請求などの法的措置は取れません。

発信者情報開示請求により投稿者の特定は可能

加害者を特定するためには、「発信者情報開示請求」という法的手段を利用します。これは、SNS運営会社やプロバイダに対して、投稿者のIPアドレスや契約者情報の開示を求める手続きです。

たとえば、誹謗中傷の書き込みが行われた掲示板の運営会社にIPアドレスの開示を請求し、その後プロバイダに契約者情報の開示を求めることで、実際に誰が投稿したかを特定できます。こうした手続きを経て初めて、加害者を被告として民事裁判を起こすことが可能になります。

なお、このような発信者情報開示請求は、裁判所の仮処分や訴訟といった法的手段が必要になりますので、ネットトラブルに強い弁護士のサポートが不可欠です。

発信者情報開示請求には期限があるため早めに行動する

注意すべきなのは、プロバイダなどが保存するアクセスログには保存期限があるという点です。多くのプロバイダでは通信ログを数か月程度しか保存していないため、時間が経ってから請求しても「すでにデータが消去されている」と回答されるケースが少なくありません。

また、民事上の損害賠償請求には、損害および加害者を知ったときから3年という消滅時効が適用されます。加害者の特定ができたからといって安心していると、時効により請求権を失ってしまう可能性がありますので注意が必要です。

名誉毀損で訴えるときに弁護士に相談すべき理由

名誉毀損で訴えるときに弁護士に相談すべき理由

名誉毀損の被害を受けたとき、被害者が単独で刑事告訴や民事訴訟を進めることは難しいのが現実です。特に、ネット上の匿名中傷や複雑な手続きが関わる場合には、法律の専門家である弁護士に相談することが有効です。以下では、弁護士に依頼するメリットを3つ紹介します。

名誉毀損で訴える条件を満たすかどうか法的に判断できる

名誉毀損は、「嫌な発言をされたから成立する」という単純なものではなく、公然性・事実の摘示・社会的評価の低下といった条件を満たす必要があります。さらに、公共性や公益目的が認められる場合には違法性が阻却されることもあります。

弁護士に相談することで、自分のケースが名誉毀損にあたるのか、訴えた場合に勝算があるのかを法的に判断できます。

刑事告訴の手続きをサポートしてもらえる

名誉毀損罪を刑事事件として追及するには、告訴状を作成して警察や検察に提出する必要があります。告訴状には、被害の内容や証拠を法律に基づいた形で記載しなければならず、一般の方が独力で適切にまとめるのは容易ではありません。

弁護士であれば、証拠収集や告訴状の作成、警察への対応をサポートできるため、刑事手続きをスムーズに進めることができます。

発信者情報開示請求から損害賠償請求まで一括対応可能

インターネット上の名誉毀損は、まず投稿者を特定する必要があります。しかし、発信者情報開示請求は専門的な手続きであり、対応が遅れて期限を過ぎると証拠が消えてしまうリスクもあります。

弁護士に依頼すれば、開示請求から加害者の特定、損害賠償請求まで一括して対応してもらえます。被害者が心理的負担を抱えながら複雑な手続きを進める必要がなくなり、迅速かつ適切な解決が期待できます。

名誉毀損で訴えるならグラディアトル法律事務所に相談を

名誉毀損で訴えるならグラディアトル法律事務所に相談を

名誉毀損の被害に遭ったとき、「自分のケースが法律上の条件を満たすのか」「刑事告訴と民事訴訟のどちらを選ぶべきか」「匿名の加害者をどう特定すればよいのか」といった疑問や不安を抱える方は少なくありません。こうした問題を一人で抱え込むと、時間や労力がかかるだけでなく、適切な手続きを逃してしまうおそれもあります。

グラディアトル法律事務所では、名誉毀損問題に豊富な経験を持つ弁護士が在籍しており、刑事・民事の両面から依頼者をサポートしています。SNSや掲示板などインターネット上の匿名投稿に対しても、発信者情報開示請求から損害賠償請求まで一括対応が可能です。また、刑事告訴についても告訴状の作成や証拠収集を丁寧にサポートし、被害者の権利を最大限に守ります。

さらに、初回相談では依頼者の状況を詳しくヒアリングし、法的に名誉毀損が成立するかどうか、実際に訴えるべきかどうかを丁寧にアドバイスします。これにより、感情的な判断に流されることなく、冷静に最適な解決策を選ぶことができます。

名誉毀損の被害は、社会的信用の低下や精神的苦痛につながる深刻な問題です。早めに専門家へ相談することで、被害の拡大を防ぎ、適切な解決を目指すことができます。名誉毀損でお困りの方は、ぜひ一度グラディアトル法律事務所にご相談ください。

まとめ

名誉毀損で訴えるためには、「公然性があること」「事実を摘示していること」「社会的評価を低下させる内容であること」という3つの条件を満たす必要があります。ただし、公益性や真実性が認められる場合には違法性が阻却されることもあり、慎重な判断が欠かせません。

また、刑事事件として進めるには告訴が必須であり、民事事件では匿名加害者の特定や発信者情報開示請求が不可欠です。このような手続きは専門的で複雑なため、早い段階から弁護士に相談することが重要です。

グラディアトル法律事務所では、名誉毀損の被害について刑事告訴から発信者情報開示請求、損害賠償請求まで一括対応が可能です。名誉毀損でお困りの方は、ぜひ一度ご相談ください。

弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力。数多くの夜のトラブルを解決に導いてきた経験から初の著書「歌舞伎町弁護士」を小学館より出版。 youtubeやTiktokなどでもトラブルに関する解説動画を配信している。

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