名誉感情侵害とは?判例上の要件・基準・具体例と慰謝料相場について弁護士が解説!

ネット上での誹謗中傷被害の際に、バカ、アホ、ブス、ババァ、しね、などの心ない言葉を投げかけられることが多いです。

このような、中傷的な誹謗中傷の場合には、名誉感情の侵害が問題になることが多いです。

では、名誉感情とは何でしょうか?

名誉感情侵害が違法になり、損害賠償請求・慰謝料請求の対象となるためにはどのような要件が必要となるのでしょうか?

解説をしていきます。

名誉感情侵害を含めたネット上の誹謗中傷の境界線、どこからが違法かなどについては、以下の動画でも解説をしておりますので、こちらもご覧いただけたら嬉しいです。

 

名誉感情とは?

名誉感情とは、人が自分自身の人格的価値について有する主観的な価値のことをいいます。

主観的名誉などと表現されることもあります。

簡単にいうと、自分の価値についての意識や感情、プライド、自尊心のことといえるでしょう。

主観的な名誉や自尊心が侵害されたと言えることが必要で、不快に思ったというレベルでは足りません。

最高裁も、名誉毀損における名誉回復処分としての謝罪広告を求める民法723条における名誉の解釈の場面において、名誉感情侵害はこれに含まれないとの解釈を示すとともに、名誉感情について、人が自分自身の人格的価値について有する主観的な価値であると判示しております。

(名誉毀き損における原状回復)
第七百二十三条 他人の名誉を毀き損した者に対しては、裁判所は、被害者の請求により、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができる。

民法

民法七二三条にいう名誉とは、人がその品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的な評価、すなわち社会的名誉を指すものであつて、人が自己自身の人格的価値について有する主観的な評価、すなわち名誉感情は含まないものと解するのが相当である。

最判昭和45年12月18日

名誉毀損と名誉感情侵害の違い

名誉毀損と名誉感情侵害の違いは、侵害される名誉の種類の違いです。

名誉毀損では外部的名誉・社会的名誉が問題になり、名誉感情侵害では主観的名誉が問題になります。

名誉毀損における外部的名誉・社会的名誉とは、人がその品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的な評価のことをいいます。

理解しやすいように例を出すと、「Aは詐欺罪の前科がある」という投稿があった場合、この投稿は、Aさんが詐欺罪で有罪になったことがあるという事実を摘示しており、この投稿を見た人は、Aさんは詐欺をして有罪になった前科があるのだと思うわけで、Aさんの社会的な評価が低下するため、Aさんの外部的な名誉が侵害され、名誉毀損となります

他方で、「Aは中卒レベルのバカ」という投稿があった場合、この投稿は具体的な事実を摘示するものとはいえず、この投稿を見た人も「Aさんは知能指数の低い人なんだ」とは思わないでしょう。そうすると、この投稿により、Aさんの社会的な評価が低下するとはいえず、外部的な名誉が侵害されたとはいえないので、名誉毀損にはなりません。

しかし、「Aは中卒レベルのバカ」という投稿は、Aさんの尊厳を傷つけるものであって、Aさん自身の人格的価値について有する主観的な価値を侵害するものであるといえるので、名誉感情の侵害となります。

なお、刑事事件における名誉毀損罪や侮辱罪において問題となる名誉についても、外部的名誉であると判例・通説は考えております。

そのため、単なる名誉感情の侵害にとどまる場合には、名誉毀損罪や侮辱罪には該当しないことになります。

 

名誉感情侵害の違法性判断基準(慰謝料・損害賠償請求)

ネット上の誹謗中傷の被害にあい、名誉感情侵害を理由として削除依頼・削除の仮処分申立てをする場合、犯人特定のための発信者情報開示請求をする場合、不法行為に基づく損害賠償請求として慰謝料等を請求する場合、どの程度の書き込みであれば、名誉感情侵害として違法性が認められるのでしょうか?

判例は、名誉感情侵害の違法性判断基準として、社会通念上許される限度を超える侮辱行為であると認められるかどうかを基準にしています。

「気違い」といった侮辱的な表現を含むとはいえ,被上告人の人格的価値に関し,具体的事実を摘示してその社会的評価を低下させるものではなく,被上告人の名誉感情を侵害するにとどまるものであって,これが社会通念上許される限度を超える侮辱行為であると認められる場合に初めて被上告人の人格的利益の侵害が認められ得るにすぎない。

最判平成22年4月13日参照

受忍限度論などと呼ばれることもあるもので、普通の人なら我慢できないレベルの名誉感情侵害があった場合に初めて違法になるよという考え方です。

そもそも、名誉権や名誉感情は法律上保護すべきものと考えられます。

一方で、表現の自由というものも憲法上保障されていて、誰かに対して批判的な意見を言うことも表現の自由として保護されうるのです。

議論をしたり、なんらかの主張をしていく中で、言葉が行きすぎることはままあります。もちろん、その中には不適切なものもあるでしょう。

しかし、法律が不適切な発言全てを違法だと判断すべきではなく、一定レベルを超えたもののみ違法だと考えているのです。

すなわち、表現の自由と名誉感情との調整を図るため、法律が違法だと判断し、投稿の削除・発信者情報開示、不法行為に基づく損害賠償を認めるレベルの名誉感情侵害は、社会通念上許される限度を超えるものに限ったのです。

社会生活上,事実認識とそれに基づく考え方を異にする者が話合いの機会を持つ場合,話合いの相手方から期待した応答が得られないという事態が生じることは考えられるところであるが,そのような場合であっても,自らの事実認識とそれに基づく考え方に理解を求め,相手方の事実認識とそれに基づく考え方もよく聞いた上で,穏やかに話し合うことが期待されるところである。

もっとも,そうした話合いの中で,相手方から期待した応答が得られないことに苛立って口調が感情的なものとなり,自らの事実認識とそれに基づく考え方に同調することを迫り,同調しない相手方を非難するということも,社会生活上見受けられる事態である。

そうした発言には,相手方への配慮が十分ではなく,不適切なものも含まれることがあるが,そのような事態が生じることは社会生活上見受けられることであることからすると,そのことをもって直ちに不法行為法上違法であると評価することはできないというべきである。

しかし,こうした状況の下でされた発言であっても,相手方を徒に人格的に非難し,侮辱する発言をすることまで許容されるものではなく,そうした発言は社会的相当性を逸脱するものとして不法行為法上違法の評価を免れないというべきである。このことは,自らの事実認識が客観的事実と合致し,それに基づく考え方に相当性があると見られる場合であっても同様である。

東京地判平成28年4月26日

そして、名誉感情侵害が、社会通念上許される限度(受忍限度)を超えるかどうかは、以下の要素などを総合考慮して判断されます。

  • 言動の内容
  • 前後の文脈
  • 言動の態様(手段・方法)及び状況(時期・場所)
  • 公然性の有無
  • 言動の程度(頻度・回数)
  • 言動に至る経緯とその後の状況(言動の前後にされた被害者による加害者に対する言動の状況)
  • 言動に係る当事者の関係,年齢,職業,社会的地位等
  • 言動の動機,目的,意図

 

【名誉感情の侵害について】
人が自己自身の人格的価値について有する主観的な評価である名誉感情の侵害は,これが社会通念上許される限度を超える侮辱行為であると認められる場合に初めて法律上保護されるべき人格的利益を違法に侵害するものとして,不法行為が成立すると解される(最高裁平成22年4月13日第三小法廷判決・民集64巻3号758頁参照。なお,名誉と名誉感情の意義につき,最高裁昭和45年12月18日第二小法廷判決・民集24巻13号2151頁参照)。

上記の違法性(受忍限度を超えるか否か)の判断は特定の者(被害者)に対する問題とされる言動の内容,その前後の文脈,当該言動の態様(手段・方法)及び状況,特に当該言動がされた時期・場所,公然性の有無(刑法231条参照),当該言動の程度,特にその頻度・回数,当該言動に至る経緯とその後の状況,特に当該言動の前後にされた被害者による加害者に対する言動の状況,当該言動に係る当事者の関係,年齢,職業,社会的地位等,当該言動の動機,目的,意図等の諸般の事情を総合的に考慮するのが相当である。

そして,その総合考慮による判断に当たっては,我々が社会生活を営む上で他者との間のコミュニケーションを欠くことはできず,また,表現の自由は憲法に由来する重要な権利であるから,そのコミュニケーションの中で互いに自由な表現活動をすることを萎縮させ,これを阻害するおそれを生じさせることのないように配慮するのが相当である。

横浜地川崎支判平成29年4月27日

名誉感情侵害と同定可能性

同定可能性とは、当該投稿が、誰のことを指しているのか特定できることをいいます。

名誉権侵害や名誉感情侵害をする投稿があったとして、その投稿が被害者であるあなたについての投稿であるといえることが必要です。

インターネット上では、ハンドルネームなどの仮名で活動することも多く、この同定可能性が問題になります。

また、芸名、源氏名、VtuberやYouTuberの活動名、Twitterアカウント名などが名指しで誹謗中傷された場合に、その芸名などと中の人の同定可能性が問題になることがあります。

名誉毀損における同定可能性

名誉毀損における摘示された事実の意味内容については、一般の読者の普通の注意と読み方を基準として、判断していくと解されています。

同定可能性においても、一般読者を基準として、当該投稿が権利侵害を主張するものと同一視されるのかを判断することになります。

名誉を毀損するとは、人の社会的評価を傷つけることに外ならない。それ故、所論新聞記事がたとえ精読すれば別個の意味に解されないことはないとしても、いやしくも一般読者の普通の注意と読み方を基準として解釈した意味内容に従う場合、その記事が事実に反し名誉を毀損するものと認められる以上、これをもつて名誉毀損の記事と目すべきことは当然である。

最判昭和31年7月21日より

また、この同定可能性について、伝播性の理論の応用として、当該投稿と対象者を結びつけられる背景的な知識を持つ読者がおり、そこから不特定多数に伝播する可能性がある場合には、同定可能性が認められるとも考えられております。

そして,被上告人と面識があり,又は犯人情報あるいは被上告人の履歴情報を知る者は,その知識を手がかりに本件記事が被上告人に関する記事であると推知することが可能であり,本件記事の読者の中にこれらの者が存在した可能性を否定することはできない。そして,これらの読者の中に,本件記事を読んで初めて,被上告人についてのそれまで知っていた以上の犯人情報や履歴情報を知った者がいた可能性も否定することはできない。

最判平成15年3月14日より

名誉感情侵害における同定可能性

前述した一般読者基準や伝播性の理論の応用については、名誉毀損における同定可能性についての判断基準です。

そして、名誉毀損における名誉は、外部的名誉、社会から評価される客観的な名誉でした。

他方で、名誉感情侵害における名誉は、主観的名誉、自身のプライドや自尊心といったものでした。

この違いを踏まえて考えると、名誉毀損では、投稿によって対象者の社会的評価が低下することが重要で、同定可能性においても、一般社会の通常の読者を基準として考えることになります。

他方で、名誉感情侵害では、投稿の対象者の主観的な名誉感情が問題になっていることから、同定可能性においても、対象者がその投稿をどのように受け止めたかということが重要になってきます。

そのため、対象者が、当該投稿・表現について、これは自分自身について書かれているものと考え、自らの名誉感情・自尊心・プライドが傷つけられたのであれば、同定可能性は認められるべきでしょう。

この点について、東京地判平成28年8月30日は、名誉感情侵害においても、名誉毀損と同様に、一般読者基準により判断をしております。

他方で、福岡地判令和元年9月26日は、名誉感情については、「名誉感情侵害はその性質上,対象者が当該表現をどのように受け止めるのかが決定的に重要であることからすれば,対象者が自己に関する表現であると認識することができれば成立し得ると解するのが相当である」と名誉毀損とは別の枠組みで名誉感情侵害の同定可能性を判断しています。

また、この裁判例では、一般読者基準によって対象者が特定できるかどうかは、受忍限度を超えるかどうかの判断基準になるとしています。

確かに、当該投稿について、自分自身は、自分のことであると分かったとしても、周りから見たら誰のことかわからない投稿ではダメージが少ないですよね。他方で、周りから見ても、自分について書かれているということがわかれば、ダメージが大きくなり、その侮辱的な投稿・表現は、受忍限度を超える程度に名誉感情を侵害するものと判断されやすくなるでしょう。

2 争点(1)(平成25年12月記事による名誉感情の侵害の有無)
(1) 平成25年12月記事が原告の名誉感情を侵害するものであるか否かについて,以下,一般読者の普通の注意と読み方を基準としてその意味内容を理解した場合,誰であっても名誉感情を害されることになるような,看過しがたい,明確かつ程度の甚だしい侵害行為といえるかという観点からこれを検討する。

東京地判平成28年8月30日

 

(2)同定可能性の要否について
名誉毀損は,表現行為によってその対象者の社会的評価が低下することを本質とするところ,社会的評価低下の前提として,一般の読者の普通の注意と読み方を基準として,不特定多数の者が対象者を同定することが可能であることを要すると解されるのに対し,名誉感情侵害はその性質上,対象者が当該表現をどのように受け止めるのかが決定的に重要であることからすれば,対象者が自己に関する表現であると認識することができれば成立し得ると解するのが相当である。

そして,本件でも,対象者である本件記事の男性,すなわち原告は本件記事が自己に関する記事であると認識している。

これに対し,一般の読者が普通の注意と読み方で表現に接した場合に対象者を同定できるかどうかは,表現が社会通念上許容される限度を超える侮辱行為か否かの考慮要素となるにすぎない。

福岡地判令和元年9月26日

名誉感情侵害を認めた判例・認めなかった判例

前述したように、名誉感情侵害は、社会通念上許される限度を超える場合にはじめて違法になります。

では、具体的に、どのような言葉が名誉感情侵害になるのでしょうか?

具体例を見てみましょう。

《名誉感情侵害の違法性肯定》

中卒,借金大魔王,残業地獄・パワハラ当たり前,ヤリマン,やりちん・やりにげ,ホス狂いの整形女,50過ぎのジジィ,悪臭がする,デブス,顔も不細工,枕営業,クソ(5時間で13回),底辺女

《名誉感情侵害の違法性否定》

気違い,会社・社員もブラック,ババア,加齢臭が強烈,ブス,クソ(1回),キモい

 

具体例を見ても、いまいちよく分からないですよね?

我々弁護士もいまいち明確な判断基準を見出せていませんし、おそらく、裁判官も悩んでいると思います。裁判官によっても判断が分かれるところだと思っております。

 

名誉感情侵害の慰謝料相場

名誉感情侵害の慰謝料・損害賠償請求は、不法行為に基づく損害賠償請求です。

(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う

(財産以外の損害の賠償)
第七百十条 他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。

民法

慰謝料とは,精神的な損害についての賠償金額のことをいいます。

もっとも、精神的な損害の具体的な金額を算定することは極めて困難なため、その金額について最終的には裁判所が裁量で判断をすることになります。

(損害額の認定)
第二百四十八条 損害が生じたことが認められる場合において、損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるときは、裁判所は、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定することができる。

民事訴訟法

では、名誉感情侵害の損害賠償における慰謝料額はいくらが相場なのでしょうか?

正直なところ、相場を形成できるほど判例が蓄積し、理論化されているとは言い難い状況にありますが、名誉毀損の事例に比べて、かなり低額の事例が多く、1投稿あたり10万円前後が慰謝料額の相場なのではないかというのが当法律事務所の弁護士の印象です。

名誉感情侵害の慰謝料額は、おおよそ、以下のような事情を総合考慮して判断されます。

  • 誹謗中傷内容の悪質性
  • 伝播可能性・影響
  • 被害結果の重大性
  • 被害者の属性

これらの事情によっては、10万円よりも高額の慰謝料が認められている事例もあります。

名誉感情侵害のまとめ

以上のように、名誉感情侵害は、名誉毀損に比べて、権利侵害性が高いとはいえず、受忍限度を超えるものに限って違法性が認められます。

そして、その判断基準はあいまいな部分があり、裁判官によっても判断が分かれる難しい問題といえそうです。

さらに、名誉感情侵害では慰謝料額が高額になりづらく、現状の制度のもとでは、名誉感情侵害のみで発信者情報開示請求をして犯人を特定し、損害賠償請求をしても、赤字になってしまうリスクがあります。

とはいえ、名誉感情侵害が許されるものではなく、赤字覚悟で発信者情報開示請求をして、刑事告訴・損害賠償請求をしたいという方もいらっしゃいます。

今後、発信者情報開示請求についての制度が改正されていく中で、できる限り低コストで名誉感情侵害の請求ができるようになったらよいなと思います。

弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。

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