年俸制も残業代が支払われる!計算方法や支払い不要なケースを解説

弁護士 若林翔
2024年04月15日更新

「年俸制だと残業代が支払われないって本当?」

「年俸制の残業代はどのように計算すればいいの?」

「そもそも年俸制とはどんな制度なの?」

年俸制は、給与額を1年単位で決定する給与体系ですので、残業代が支払われないと誤解している方も少なくありません。しかし、年俸制であっても残業代は支払われますので、会社から年俸制を理由に残業代が支払われていない場合には、しっかりと未払い残業代を請求していきましょう。

本記事では、

  • 年俸制と残業代との関係
  • 年俸制で残業代が支払われない例外的な4つのケース
  • 年俸制における残業代の計算方法

などについてわかりやすく解説します。

年俸制で働く労働者の方は、本記事を参考にして未払い残業代の有無を確認してみてください。

 

【原則】年俸制でも残業代は支払われる!

年俸制というと残業代が支払われないと誤解されている方も多いですが、年俸制でも残業代は支払われます。

 

そもそも年俸制とは

年俸制とは、労働者の給与額を1年単位で決定する給与体系のことをいいます。前年度の労働者の成績を踏まえて、翌年度の年俸額が定まりますので、成果主義型の給与体系といわれています。

年俸制というと、給与(年俸)の支払いも年1回だと誤解している方も多いですが、労働基準法では、毎月1回以上一定の期日を定めて支払わなければならないと定められていますので(労働基準法24条)、年俸制でも年俸額を分割した金額が毎月支払われます。

 

年俸制の労働者も残業代請求が可能

年俸制が採用されている労働者であっても、一般的な月給制の労働者と同様に、労働基準法が適用されます。そのため、年俸制の労働者が残業をした場合には、他の労働者と同様に会社に対して残業代を請求することができます。

「年俸制だから残業代は出ない」と会社から言われているなどの理由から、年俸制だと残業代を請求できないと考えている労働者も少なくありません。しかし、年俸制でも残業代請求は可能ですので、年俸制を理由に残業代が未払いになっている方は、しっかりと会社に対して請求していくようにしましょう。

 

【例外】年俸制で残業代が支払われない4つのケース

年俸制で残業代が支払われない4つのケース

年俸制であっても原則として残業代は支払われますが、例外的に以下の4つのケースについては、残業代が支払われません。

 

固定残業代制のケース

年俸制では、一定時間分の残業代をあらかじめ年俸額に組み込んで支払うという固定残業代制がとられていることがあります。固定残業代制がとられている場合には、一定時間分の残業代については、年俸額に既に含まれていますので、みなし残業時間内であれば、固定残業代とは別に残業代を請求することはできません。

これは、残業代が支払われないというよりも、むしろ残業代が既に支払い済みのケースといえるでしょう。

ただし、固定残業代制がとられていたとしても、みなし残業時間を超えて残業をした場合には、別途残業代を請求することができます。

 

みなし残業代(固定残業代)制度でも残業代請求ができるケースについての詳細は、以下の記事をご参照ください。

 

みなし残業代(固定残業代)に追加の残業代を請求できる6つのケース

管理監督者に該当するケース

管理監督者とは、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある人のことをいいます。年俸制の労働者が管理監督者に該当する場合、労働基準法上の労働時間、休憩、休日の規定が適用されませんので、残業代は支払われません。

ただし、管理監督者に該当するかどうかは、肩書ではなく実態に即して判断します。

  • 年俸が一般的な社員と変わらない
  • 出勤や退勤の自由がない
  • 上司の決裁がなければ取引を行うことができない
  • 経営会議などに参加させてもらえない

などの事情がある場合には、「名ばかり管理職」である可能性があります。年俸制の労働者が名ばかり管理職に該当する場合には、会社から「管理職だから残業代は支払えない」と言われていたとしても、残業代を請求することができます。

 

管理職の残業代・管理監督者該当性の詳細は、以下の記事もご参照ください。

「管理職の残業代は出ない」は間違い!違法なケースや請求方法を解説

 

裁量労働制のケース

裁量労働制とは、実際の労働時間にかかわらず、あらかじめ会社と労働者との間で合意したみなし労働時間分働いたものとみなす制度です。年俸制の労働者に裁量労働制がとられている場合には、あらかじめ定めたみなし労働時間に対応する年俸を支払えば足りますので、基本的には残業代が発生することはありません。

ただし、みなし労働時間が法定労働時間を超えて設定されている場合には、残業代を支払わなければなりません。

また、裁量労働制が適用される労働者の範囲は、厳格に定められていますので、誰でも裁量労働制が適用されるというわけではありません。裁量労働制が適用されないにもかかわらず、裁量労働制を理由に残業代が支払われていないときは、違法な運用となりますので、会社に対して残業代を請求することができます。

裁量労働制と残業大請求の詳細は、以下の記事もご参照ください。

裁量労働制で残業代はどうなる?未払分を請求するための必携知識

 

雇用ではなく業務委託に該当するケース

労働基準法が適用されるのは、会社に雇用されている労働者です。雇用ではなく業務委託契約を締結し、業務を行っている個人事業主に対しては、労働基準法は適用されませんので、残業代を請求することができません。

ただし、雇用であるか業務委託であるかは、契約の名称ではなく実態に即して判断します。

  • 仕事の依頼や業務指示に対する諾否の自由がない
  • 勤務場所や勤務時間が拘束されている
  • 早退や欠勤により報酬が控除される
  • 業務に必要な機械や器具が会社負担で用意されている

などの事情がある場合には、業務委託契約という名称であったとしても、残業代を請求できる可能性があります。

 

年俸制における残業代の計算方法

年俸制の人の残業代の計算方法

年俸制の残業代は、「1時間あたりの基礎賃金×割増賃金率×残業時間」という計算式によって計算します。

 

以下では、年俸制の残業代計算に必要となる各項目の意味を説明します。

 

1時間あたりの基礎賃金

年俸制における1時間あたりの基礎賃金は、以下のような計算式によって計算します。

1時間あたりの基礎賃金=年俸額÷12か月÷1年間の所定労働時間

1年間の所定労働時間=1年間の所定労働日数×1日あたりの所定労働時間

1時間あたりの基礎賃金の計算にあたっては、支払額があらかじめ確定されていない賞与については、除外して計算する必要があります。しかし、年俸制では、あらかじめ賞与の金額も含めて年俸額が決められるケースが多いです。たとえば、「年俸額のうち16分の1の額を月給とし、16分の4を2分割したものを賞与とする」といったケースです。このような場合には、賞与はあらかじめ確定していますので、賞与分も1時間あたりの基礎賃金の計算に含めて計算します。

 

割増賃金率

年俸制の残業に対しても、一定の割増率により増額された割増賃金が支払われます。具体的な割増率は、残業時間に応じて以下のように定められています。

  • 時間外労働……25%以上
  • 深夜労働……25%以上
  • 休日労働……35%以上
  • 月60時間を超える時間外労働……50%

これらの割増率は組み合わせて適用されることがあります。たとえば、「時間外労働+深夜労働」であれば、50%以上の割増率が、「休日労働+深夜労働」であれば60%以上の割増率が適用されます。

 

残業時間

年俸制であっても労働時間の管理は必要ですので、タイムカードや勤怠管理システムのデータから残業時間の集計を行います。

残業代の割増賃金は、時間外労働、深夜労働、休日労働のそれぞれについて支払われますので、残業時間の集計にあたっては、どの労働時間に該当するのかを明確に区別しておく必要があります。

 

年俸制の残業代計算の具体例

年俸制の人の残業代の計算方法

  • 年俸額600万円
  • 1日の所定労働時間:9:00~18:00の8時間(休憩1時間)
  • 1年間の所定労働日数は240日

上記の労働条件で働く年俸制の労働者がある月に時間外労働として6050時間の残業をしたとします(深夜労働・休日労働はないものとする)。この月の残業代は、以下のように計算をします。

1時間あたりの基礎賃金=600万円÷1920時間=3125円

1か月の残業代=3125円×125%×60時間=23万4375円

残業代の時効期間は、3年ですので、年俸制を理由にまったく残業代が支払われていない場合には、23万4375円×36か月=843万7500円もの残業代を請求できる可能性があります。

 

残業代計算方法の詳細は、以下の記事もご参照ください。

【残業代を計算したい人へ】60時間超・深夜手当・休日手当までわかる

 

年俸制の労働者が未払い残業代を請求する方法

残業代を請求する方法

年俸制の労働者が未払い残業代を請求する場合には、以下のような方法で行います。

 

内容証明郵便を送る

年俸制の労働者であっても残業代を請求できますので、残業代計算の結果、未払い残業代があることが判明した場合は、会社に対して、未払い残業代の支払いを求めていきます。

未払い残業代請求の方法には、法律上の決まりがあるわけではありませんが、まずは、内容証明郵便を送付するのが一般的です。内容証明郵便は、いつ・誰が・誰に対して・どのような内容の文書を送付したのかを証明できる形式の郵便です。内容証明郵便を利用する理由は、いつ時効期間がストップしたのかを明確にする点にあります。

未払い残業代の請求は、法律上の催告にあたりますので、時効の完成猶予事由として、催告時から6か月間時効の完成が猶予されます。後日時効の完成の有無でトラブルになる可能性がありますので、必ず内容証明郵便を利用して催告をした証拠を残しておくようにしましょう。

 

残業代請求の時効と時効を阻止する方法についての詳細は、以下の記事もご参照ください。

残業代の時効は3年!時効を阻止する方法と残業代請求の流れを解説

 

会社との交渉を行う

内容証明郵便が会社に届いた後は、実際に会社と交渉を進めていくことになります。

交渉時には、労働者の側から未払い残業代の計算根拠を提示し、話し合いを進めてくようにしましょう。十分な根拠があれば会社側も労働者の請求を無視することができず、任意の支払いに応じてくれることが期待できます。

 

労働審判の申立てをする

会社との交渉では解決できないときは、労働審判の申立てを検討します。

労働審判は、話し合いによる調停と審判が組み合わさった手続きで、労働問題に詳しい労働審判員が会社と労働者との間に入って、争いを解決に導いてくれます。原則として3回以内の期日で終了することになっていますので、裁判よりも迅速な解決が期待できるという点も労働審判のメリットです。

訴訟提起前に必ず労働審判を申し立てなければならないわけではありませんが、話し合いによる解決の余地があるのであれば、労働審判の利用を検討してみてもよいでしょう。

 

訴訟を提起する

会社との交渉や労働審判でも解決できない場合は、最終的に裁判所の訴訟を提起する必要があります。

訴訟では、当事者双方からの主張立証を踏まえて、裁判所が判決という形で結論を示します。訴訟の対応にあたっては、専門的知識や経験が必要になりますので、専門家である弁護士のサポートを受けながら進めていくのがおすすめです。

 

年俸制の未払い残業代の問題はグラディアトル法律事務所にお任せください

年俸制の未払い残業代はグラディアトル法律事務所へ

年俸制の未払い残業代の問題については、グラディアトル法律事務所にご相談ください。

 

迅速かつ正確に年俸制の未払い残業代を計算できる

残業代計算は、非常に複雑な計算になりますので、一般の方では正確に残業代を計算するのは困難です。特に年俸制の労働者の場合には、一般的な月給制の残業代計算とは異なる特殊性がありますので、一人で対応するのはより困難といえるでしょう。

グラディアトル法律事務所では、年俸制をはじめとしてさまざまな給与体系の労働者から相談を受け付けておりますので、年俸制の残業代計算についても豊富な実績があります。当事務所にお任せいただければ、迅速かつ正確に年俸制の未払い残業代を計算することができます。

 

会社と対等な立場で交渉を進めることができる

労働者個人では、会社に対して未払い残業代を請求しても、まともにとりあってくれないことがあります。そのような状態だと時間をかけて交渉しても期待する結果を得ることは難しいでしょう。

しかし、弁護士が代理人として交渉をすれば、会社も真摯に対応せざるを得なくなりますので、任意の交渉で解決できる可能性が高くなります。グラディアトル法律事務所では、残業代の交渉について豊富な経験を有する弁護士が多数在籍していますので、会社と対等な立場で交渉を進め、有利な条件を獲得できる可能性があります。

 

豊富な解決実績があるから裁判になっても安心して任せられる

会社との交渉で解決できない場合には、労働審判や訴訟の手続きが必要になります。このような手続きは、法的知識のない労働者個人では適切に進めることが困難ですので、早めに弁護士に相談することがおすすめです。

グラディアトル法律事務所では、労働審判や訴訟に関しても豊富な解決実績がありますので、安心してお任せください。

 

まとめ

年俸制というと残業代が支払われないというイメージをお持ちの方も多いです。しかし、年俸制であっても残業代は支払われますので、年俸制を理由に残業代を支払わないのは違法な扱いといえます。そのような状況に該当する方は、早めに弁護士に相談して、残業代請求を進めていくようにしましょう。

会社に対する未払い残業代請求をお考えの年俸制の労働者の方は、解決実績豊富なグラディアトル法律事務所までお気軽にご相談ください。

 

弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。

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