飲食店と残業代・深夜労働手当!店長・バイトはでないの?計算方法は?

居酒屋などの飲食店では、労働時間が長くなることや、深夜まで働くことが多いです。

そんな飲食店にまつわる残業代・深夜労働手当について…

  • 「休憩時間中は業務をしても残業代が出ない」
  • 「修行や見習い期間中は残業代が出ない」
  • 「30分未満の残業では残業代が出ない」
  • 「アルバイトには残業代が出ない」
  • 「店長だから残業代は出ない」

など、あなたはこんな誤解をしていませんか?

ほかにも、開店前の仕込みの時間・閉店後の片付けの時間・買い出しの時間・メニューを考案する時間などは、お金が出ないから仕方ないと諦めていませんか?

実は、このような状況や時間についても、残業代を請求できる可能性があります。

飲食店の多くは、十分な残業代の支払いをしていません。

あなたが置かれている状況も、もしかしたら違法かもしれません。

その責任は会社にあるので、もちろんあなたが罰則を科せられることはありませんよ。

この記事では、飲食店の残業代について、よくあるケースを見た上で、実際にあなたがお店に残業代を請求できるのか、見てみましょう。

残業代請求の根拠

まず、飲食店で働いている方も、残業をすれば当然、残業代をもらう権利があります

一般の労働者と同じように、労働基準法(本記事では「労基法」と呼びます)が適用されます。

労基法上は、原則として、1日8時間、週40時間以上働かせてはならない(同法32条)と決められています。

この時間は「法定労働時間」と呼ばれています。

しかし、多くの会社で残業が認められているように、法定労働時間を超えて働かせることは、俗に言う「三六(サブロク)協定」によって、例外的に認められています。

(労働時間)
第三十二条 使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。
② 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。

(時間外及び休日の労働)
第三十六条 使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、厚生労働省令で定めるところによりこれを行政官庁に届け出た場合においては、第三十二条から第三十二条の五まで若しくは第四十条の労働時間(以下この条において「労働時間」という。)又は前条の休日(以下この条において「休日」という。)に関する規定にかかわらず、その協定で定めるところによつて労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。

労働基準法

とはいっても、労基法32条の「1日8時間・週40時間」の縛りを超えて、人を無制限に働かせることができるわけではありません。

法律上の時間外労働や休日労働には、次のような上限(同法36条3項以下)があります。

【原則(労基法36条3項4項)】

1ヶ月の時間外労働45時間まで

【例外(労基法36条5項6項)】 
複数月の時間外労働 平均80時間以内
休日労働含めて 月100時間未満
年 720時間以内

この上限にも違反した場合、会社は罰則として「6カ月以下の懲役」または「30万円以下の罰金」(同法119条)が科されることもあるのです。

また、金額についても「法定労働時間を超える労働に対する賃金は、通常の賃金より割増しした上で支給しなければならない」とされていて、割増の率は、働かせる時間・日・時間帯によって異なります(同法37条)。

これも条文が複雑なので、まとめると以下のようになります。

 

ここまで法律的な説明が多くなってしまいましたが、とても大事なことなのでしっかりお伝えしました。

残業代が支払われていなかったり、不十分な金額になっていたりするときに、会社に支払いを請求できる理由が、お分かりいただけましたでしょうか?

「正直よくわからないなぁ」と感じていても、弊所にご相談いただければ法律のプロである弁護士が担当しますので、まずは相談にいらしてみてください。

残業代がでないと「違法」!よくあるケースをチェック

飲食店勤務の方からのご相談で多い残業代・深夜労働手当についての「よくある誤解」をもとに、具体的なケースを見てみましょう。

休憩時間中は業務をしても残業代が出ない?

[例]Aさんの働く飲食店では、ランチタイムからディナータイムの間に時間が空いているため、就業規則などで2時間以上の休憩時間が設定されていた。しかし、実際には、ランチタイム終了後にも残っているお客さんがいたり、ディナータイムの仕込みをしたりしなければならなかったので、長時間の休憩を取れなかった。

このように、就業規則において長時間の休憩時間が設定されている場合であっても、その時間中に会社の指揮命令のもとに業務を行えば、それは労働時間となります。

そのため、休憩時間中であっても、業務をしていれば、その時間についての残業代を請求できる可能性が高いのです。

特に、1時間を超えるような休憩時間が設定されているような方は、休憩時間中に業務を行っていないかよく確認してみましょう。

アルバイト、修行や見習い期間中は残業代が出ない?

飲食店の料理人などの修行や見習い期間中であっても、会社に雇用されているのであれば、残業代をもらう権利があります。

会社から「一人前ではないのだから残業代が出ないのは当たり前」などと言われることもあるかもしれませんが、これは誤りです。適切に会社に請求しましょう。

また、アルバイトであっても残業をすれば正社員と同様に残業代の請求をすることが可能です。

アルバイトも労働者である以上、正社員と同様、労働基準法が適用されるためです。

30分未満の残業では残業代が出ない?

残業代については、裁判実務上は1分単位で支払う必要があるとされています。

30分未満の残業については残業代を支払わなくていいと考えている会社があるとしても、少なくとも裁判実務上は、それは誤りとなります。

開店前の仕込みの時間・閉店後の片付けの時間・買い出しの時間・メニューを考案する時間などは、お金が出ない?

この列挙した時間は、会社の指揮命令下であれば、すべて労働時間に含まれます

「労働時間」とは、「使用者の指揮命令下に置かれている時間」とされています。

つまり、店長や責任者から指示を受けて業務を行った場合には、店の営業時間外であっても労働時間と認められます。

ほかにも、営業後の清掃時間や、ごみ捨てのために出勤した時間、お客さんが来ないときに適宜休憩してよいとされているに過ぎない時間などは、労働時間に当たります。

これらの労働に対して残業代が支払われなければ違法となる可能性があります。

店長(管理監督者)だから残業代は出ない?

「店長やマネージャーは管理監督者にあたるため、残業代が出ない」という説明をする会社があります。

たしかに、「管理監督者」の方は、時間外労働や休日残業をしても残業代を請求できません。

しかし、店長であっても、当然に「管理監督者」に当たるわけではありません。本当に店長やマネージャーが「管理監督者」に該当するかは慎重に判断しなくてはなりません

というのも、労働基準法における「管理監督者」とは、労働条件の決定やその他の労務管理について経営者と一体的立場にある者をいいます。

店長やマネージャーなどの管理職であるからといって、必ずしも「経営者側と一体的立場」となるわけではありません。

管理監督者に当たるか否かの判断基準は以下のとおりです。

①職務内容や責任・権限がどうか
例:採用・解雇・人事考課の権限、労働時間管理の権限があるか

②勤務態様はどうか
例:遅刻早退の取り扱い(不利益取り扱いがなされているか)、労働時間に関する裁量(店舗への常駐義務の有無・人員不足により通常の従業員と同様の労働をしなければならないことで、長時間労働を余儀なくされているか)、部下の勤務態様との相違(部下と同様の勤務をしている時間の割合)

③賃金等の待遇はどうか
例:基本給・役職手当等の優遇措置(実際の労働時間を考慮して十分な金額か)、支払われた賃金の総額(年間賃金が、一般労働者と同程度以下になっていないか)、時間単価(時給に換算した賃金が、パート・アルバイトや、最低賃金の時給以下となっていないか)

これらの要素を総合考慮して、管理監督者であるかどうかが判断されます。

これまでの裁判例では、以下のような人たちは、飲食店で管理監督者性が否定されました。

すなわち、残業代などを請求できたということですね。

  • ファミレスの店長
    大阪地判昭61・7・30労判481号51頁(レストランビュッフェ事件)
  • 喫茶店の店長
    大阪地判平3・2・26労判586号80頁(三栄珈琲事件)
  • カラオケ喫茶の店長
    大阪地判平13・3・26労判810号41頁(風月荘事件)
  • 飲食店のマネージャー
    東京地判平18・8・7労判924号50頁(アクト事件)
  • ホテルの料理長
    岡山地判平19・3・27労判941号23頁(セントラル・パーク事件)
  • ファストフード店の店長
    東京地判平20・1・28判時1998号149頁(日本マクドナルド事件)
  • 居酒屋の調理長
    山形地判平23・5・25労判1034号47頁(シーディーシー事件)
  • 居酒屋の店長
    東京地判平25・1・11LEX/DB文献番号25500201(フォロインプレンディ事件)
  • フードコートの店長
    岐阜地裁平27・10・22労判1127号29頁(穂波事件)

実際の事例からも明らかなとおり、「店長」等の肩書があっても、そのほとんどが、管理監督者にはあたらないと判断されています

管理職であることを理由に残業代が支払われていないのであれば、弁護士にご相談ください。

残業代を飲食店に請求する方法

残業代を飲食店に請求する方法としては、弁護士から内容証明を送付するなどして交渉により請求する方法、労働審判を提起して請求する方法、裁判をして請求する方法などがあります。

これまでに見てきた中で、あなたがお困りの状況と同じものや似ているものはありましたか?

もし見つからなかったとしても、残業代の未払い・サービス残業の強要・固定残業代制での不具合など、労働環境で「なにかおかしいな」と思ったら、その気付きを大切にして、ぜひ弁護士にご相談ください。

実際に2年分の残業・深夜割増で、300万円を会社から支払ってもうことが出来た例を、弊所へのアクセスと一緒に記したコラムがありますので、ぜひご覧ください。

未払いの残業代で300万円を勝ち取った事例【神奈川県】

残業代に関する法律相談は当事務所では無料相談として扱っているため,「とりあえずプロに相談してみるか」との軽い気持ちで、まずはご連絡いただければと思います。

いますぐあなたがすべきこと(残業代の証拠集め)

もしも、この記事を読んでいるあなたやあなたの友達で、適正な残業代が支払われているか心配になったなら、時効にかかって請求できる額が減ってしまうのを防ぐために、なるべく早く、弁護士に相談するなどの手段を講じることをお勧めします。

そして、内容証明を送って会社と交渉するだけではなく、労働審判や訴訟になった場合は特に、口頭であなたが「〇〇時間残業しました!」と言うだけでは、裁判所は認めてくれません。

裁判所は、客観的な証拠に基づいて残業代の金額等を判断しなければなりません。そこで重要になってくるのは「あなたが残業をしていたことを証明する証拠」です!

ではどんなものが残業をしていた証拠となるのか?

以下では、主要な証拠を4つ紹介していきます。

残業代の証拠① タイムカード

まず、何より一番大事な証拠はタイムカードです。

人によっては、タイムカードを実際の残業時間よりも前に・短く切らされてしまっていた場合も少なくない。しかし、タイムカードに入力されているにもかかわらず、まだ支払われていない分の残業代は、請求できるとみてほぼ間違いありません。

残業代の証拠② アプリ・メモなどによる出退勤時間の記録

タイムカードを会社に言われて早めに切らされているような場合、自衛の手段としてアプリやメモなどによる記録をすることも大切です

最近では、そのような、労働時間を自分で管理して記録しておくためのアプリが数多くあります。
無料でインストールができるものも多いので、念のため入れておいてもいいかもしれない。

自分で記載するものなので、タイムカードに比べると証拠価値は劣るが、証拠として用いることは十分可能なものです。

残業代の証拠③ 残業中のメールやFAXの送信履歴、写真

実際に業務をしていたことの証拠として、残業中に取引先に送ったFAXやメール、上司からの業務命令のメールなどの送受信履歴、残業中に商品や書類を撮った写真の履歴なども証拠として用いることができます。

出社時と退勤時に、会社にいることとその時間が分かる写真を撮るのは、簡単にできるハックですね。会社で使用しているパソコンの画面の写真などが望ましいです。

残業代の証拠④ 定期券の記録

PASMOやSuicaなどの交通系ICカードによる、会社最寄り駅の改札の出入時間の記録もそれに近い時間まで残業をしていたことを推定する大事な証拠となります。

 

この4つ以外にも、証拠となりうるものは存在します。

また、これらの証拠は多ければ多いほど、残業していたことの証明がしやすくなります。

少しでも、残業代に関して不安に思うことがあれば、日頃から上記のような証拠を残しておくことが大切です。まさにあなたが異変を感じたら、そこから始めてみてはいかがでしょうか。

飲食店と残業代のまとめ

2020年労基法の改正により、従来と異なり、残業時間の上限が定められました。

これによって、一部の会社では、その上限規制に反しないように、労働者にタイムカードを実際の労働時間よりも前に切らせるなど、かえって労働者を害する結果を引き起こしている現実があります。法律の改悪じゃないかとの批判の声も当然ありました。

もっとも、労基法は労働者を保護することを目的として改正されたものです。

そして、今まで実質的に上限がなかった残業時間に上限を設けたことは、労働者保護のための大きな一歩であることは間違いありません。

この法規制を実効化するためには、会社などの使用者側が法規制を把握した上で、それらを遵守することが欠かせません。
しかし、悲しいことに法規制を守らない使用者が数多くいるのも事実です。

だからこそ、会社が法律を守らないことによって被害を受けている労働者の方々が、きちんと法律に則って会社に責任追及することがこれからの布石としても大切になってくる。

今は、法改正直後の、いわば過渡期です。

労働者の方々一人一人が声を上げることで、時代の大きな潮流となり、それによって、はじめて本当の意味での”法改正”が実現できるのではないでしょうか。

私たちはあなたの味方です。「こんなことで」とは思わずお気軽に相談していただければと思います。

弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。

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